埼玉の弁護士による刑事事件の相談

会社の交通費を不正受給すると業務上横領になる?懲戒解雇の可能性も

会社から支給される交通費を不正に受け取ると、業務上横領罪や詐欺罪に問われる可能性があります。

この記事では、交通費の不正受給が犯罪となるケースや、発覚した場合に懲戒解雇となる可能性、そして逮捕された場合の後の流れについて詳しく解説します。

目次

そもそも労働基準法等には交通費を会社が支給する規定はない

前提として、労働基準法などの法律には、会社が従業員へ交通費を支払うことを義務付ける規定は存在しません。交通費の支給は法律上の義務ではなく、あくまで会社の裁量に委ねられているのが現状です。

交通費を支給するかどうかは会社の規約による

多くの企業では通勤手当や営業交通費が支給されていますが、これは法律で定められているからではなく、福利厚生の一環として会社が独自に設けている制度です。

そのため、交通費を支給するかどうか、支給する場合の上限額や計算方法、申請ルールといった具体的な内容は、すべて会社の就業規則や賃金規程などの内部規約によって定められています。

会社の交通費を不正受給すると業務上横領罪や詐欺罪が成立する可能性がある

交通費の不正受給は、その手口によって「業務上横領罪」または「詐欺罪」に問われる可能性があります。

例えば、会社から営業交通費として現金を事前に預かり、それを使わずに自分のものにした場合、業務上横領罪が成立することがあります。
一方、プライベートな旅行で使った領収書を業務上の出張と偽って提出し、会社を騙してお金を受け取った場合は、詐欺罪が成立する可能性があるのです。

業務上横領罪とは

業務上横領罪とは、仕事上で自分が管理を任されている会社のお金などを、不法に自分のものにする犯罪です。経理担当者が会社の資金を着服するような典型的なケースのほか、交通費の着服もこの罪に問われる可能性があります。

「業務上横領」について、詳しくはこちらで解説します。

業務上横領は必ず逮捕される?横領額と刑の重さは関係あるのか

業務上横領罪は横領罪の3つのうちのひとつです

横領罪には、実は「単純横領罪」「業務上横領罪」「遺失物等横領罪」の3種類があります。業務上横領 罪は、仕事上の信頼関係を裏切る行為であるため、他の横領罪よりも重い刑罰が科されます。

3つの「横領罪」の違いについて、詳しくはこちらで解説します。

横領罪の初犯は執行猶予がつく?背任罪とのちがい

詐欺罪とは

詐欺罪は、人を欺いて財産を交付させることで成立する犯罪です。

成立するには「①欺く行為(噓をつくなど)」「②相手が錯誤に陥る」「③財産の交付」「④財産上の損害」という要件を満たす必要があります。法定刑は10年以下の懲役と定められています。

交通費の不正受給のパターン

交通費の不正受給には様々な手口が存在します。
以下に代表的なパターンを挙げますが、どの手口が業務上横領罪と詐欺罪のどちらに該当するかは、会社の規約や具体的な状況によって異なります。

通勤交通費を支給されているのに自転車や徒歩で通勤し交通費を浮かせる

会社へは電車通勤と申請し、月2万円の定期代を受け取っているAさん。しかし実際には、健康のためと称して毎日自転車で通勤していました。

会社に申請した交通手段を使わずに交通費を浮かせるこの行為は、典型的な不正受給のパターンです。

会社から「交通費」として支給された金銭を、本来の目的である通勤に使わなかったと判断されれば、横領にあたる可能性があります。

申請の際に住所を偽り通勤交通費を多く受領する

Bさんは会社の近くに引っ越したにもかかわらず、会社には届け出ず、以前住んでいた遠方の住所のまま通勤費を受け取り続けていました。また、実際は一人暮らしなのに、より遠くにある実家の住所で申請し、差額を得るという手口もあります。

このように居住地を偽って会社を欺き、不当に多くの交通費を受け取る行為は、詐欺罪に問われる可能性が高いケースです。

最安値ではない経路で通勤交通費を申請する

多くの会社の就業規則では、通勤経路は「最も経済的かつ合理的」なルートを申請するよう定められています。Cさんは、乗り換えが一度少ないという理由で、わざと新幹線を利用する高額なルートを申請し、毎月数万円も多く交通費を受け取っていました。

会社の規程に反して意図的に高額なルートを申請する行為は、会社を欺く行為として詐欺罪に問われる可能性があります。

切符を金券ショップなどで安く購入する

出張を命じられたDさんは、会社から正規料金の新幹線代を現金で事前に受け取りました。
しかし、Dさんは金券ショップで回数券のばら売りを安く購入して出張へ行き、正規料金との差額を自分の小遣いにしていました。

このように、正規料金を申請・受給しておきながら、実際には安く購入して差額を着服する行為は、業務上横領罪にあたる可能性があります。

交通費を申請する際に定期区間を控除しない

営業職のEさんは、自宅の最寄り駅から会社の最寄り駅までの定期券を支給されています。会社の規程では、営業で外出する際の交通費は、この定期区間内の料金を差し引いて申請しなければなりません。

しかしEさんは、定期区間内の移動にもかかわらず、全額を営業交通費として二重に申請し、不正に利益を得ていました。この行為も詐欺罪や業務上横領罪に問われる可能性があります。

架空の業務や出張を装い交通費を不正受給する

実際には訪問していない取引先への訪問をでっちあげたり、行っていない出張を報告したりして(いわゆる「空出張」)、交通費や日当を不正に請求するケースです。

これは、不正受給額が大きくなりやすく、極めて悪質な行為と見なされます。会社を積極的に騙す行為であるため、詐欺罪が成立する可能性が高いでしょう。

「空出張と業務上横領」の成立の可能性については、こちらで詳しく解説します。

空出張で出張費を不正に計上したら業務上横領になる?
刑事事件に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
刑事事件ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

会社の交通費と具体的な法的な問題

【東京地方裁判所 平成25年1月25日判決の要約】

従業員が申告と異なる安価な経路で通勤し、差額の通勤手当を受給していた事案です。

裁判所は、経路変更を届け出なかった行為が就業規則の懲戒事由である「基金をいつわったとき」に該当すると認定しました。しかし、差額が比較的小額であること、基金側の管理体制が厳格でなかったことなどを踏まえ、積極的に不当な利益を得る意思があったとまでは認められないとしました。

結論として、従業員の身分を剥奪する諭旨退職処分は重すぎて社会通念上相当性を欠くとして無効と判断し、従業員の地位確認と未払賃金等の支払いを命じましたが、この裁判例は、場合によっては懲戒解雇や諭旨退職処分の対象となり得ることを示唆しています。

刑事上の責任だけではなく民事上の責任も負うことになります

交通費の不正受給が発覚した場合、業務上横領罪や詐欺罪といった刑事上の責任を問われるだけでは済みません。刑事責任とは別に、会社に対して民事上の責任も負うことになります。

これは、不正行為によって会社に与えた金銭的な損害を賠償する責任です。刑事事件として立件されなかったとしても、会社から損害賠償を請求される可能性は十分にあります。

不法行為による損害賠償請求の可能性も

従業員の交通費不正受給は、会社に対する「不法行為(民法709条)」にあたります。不法行為が成立する場合、会社(被害者)は加害者である従業員に対して、被った損害の賠償を請求することができます。

具体的には、不正に受給した交通費の全額に加え、調査費用や、遅延損害金(利息に相当するもの)を上乗せして請求される可能性があります。

会社から損害賠償請求をされた場合は、速やかに弁護士にご相談ください。

会社の交通費を不正受給すると懲戒解雇になる?

交通費の不正受給が発覚した場合の処分は、会社の就業規則の定めによります。懲戒処分には、譴責(始末書の提出)、減給、出勤停止、そして最も重い懲戒解雇など段階があります。

不正受給の期間が長く、金額も大きいなど、行為が悪質であると判断された場合には、普通解雇ではなく、退職金が支払われないこともある最も重い処分である懲戒解雇となる可能性も十分に考えられます。

交通費の横領が発覚すると逮捕される?

もし、交通費の不正受給が会社に発覚してしまったら、一体どうなるのでしょうか。最も心配なのは「逮捕されてしまうのではないか」ということでしょう。

不正受給の額が少額であれば、内規による処分や返金で済むこともありますが、金額が大きい場合や手口が悪質な場合には、警察が介入し、逮捕に至るケースも少なくありません。

業務上横領は被害者(会社の)被害申告により事件化するケースが多い

業務上横領罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない「親告罪」ではありません。

そのため、理論上は第三者からの告発で事件化することもありますが、実態としては、被害者である会社からの告訴や被害届の提出といった被害申告がきっかけとなって警察が捜査を開始し、事件化するケースがほとんどです。

逆に言えば、会社が被害申告をしなければ、事件化を避けられる可能性も残されています。

事件化を回避するために弁護士ができること

事件化を回避するためには、会社が警察に被害申告をする前に、迅速に示談を成立させることが極めて重要です。

弁護士は、ご本人に代わって会社の窓口と交渉を行います。不正に受給した金額の全額を弁済し、誠心誠意謝罪することで、会社から許し(宥恕(ゆうじょ))を得られれば、被害届の提出を思いとどまってもらえる可能性が高まります。

まずは弁護士にご相談ください。

事件化した場合も弁護士のサポートが必要です

万が一、会社が被害届を提出し事件化してしまった場合でも、決して諦めてはいけません。早期に弁護士に依頼すれば、逮捕・勾留からの解放や、最終的な処分を軽くするための弁護活動が可能です。

具体的には、以下のような弁護活動を行います。

減刑に向けて活動します

弁護士は、まず被害者である会社との示談成立を目指します。被害額を弁償し、示談が成立しているという事実は、検察官や裁判官が処分を決定する上で非常に有利な事情となります。

また、本人が深く反省していること、家族による監督が期待できること、再発防止策が具体的に講じられていることなどを客観的な証拠と共に主張し、不起訴処分や執行猶予付き判決の獲得など、減刑に向けて尽力します。

返済の意思はあるけど一括で支払うのは難しい。分割払いはできるの?

不正受給した交通費を返済する意思はあるものの、長年の着服で金額が膨らんでしまい、一括での返済が難しいというケースも少なくありません。
そのような場合、会社との間で分割払いの交渉が必要になります。しかし、当事者同士では感情的な対立も生まれがちです。

弁護士が間に入ることで、冷静かつ現実的な返済計画を提示し、円滑に交渉を進めることが可能です。

まずは弁護士にご相談ください

交通費の不正受給が会社に発覚しそう、あるいはすでに発覚してしまったという方は、一人で悩まず、できるだけ早く弁護士にご相談ください。
早期の対応が、事件化の回避や、懲戒解雇といった最悪の事態を防ぐための鍵となります。

会社への返済や示談交渉、そして万が一逮捕された場合の弁護活動まで、専門家として全面的にサポートいたします。まずは勇気を出して、お気軽にお問い合わせください。

この記事の監修

弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長弁護士 辻 正裕
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

逮捕されたらすぐにご相談ください

72時間以内の
弁護活動が勝負です!

我々は、ご依頼者様との接見や打合せ、証拠の収集、捜査機関に対する申入れ、裁判所に対する申立て、
法廷における主張・立証、再犯防止に向けた専門機関との連携などを通じて、刑事事件の適正妥当な解決を図ります。

  • 無料
    法律相談
  • 24時間
    予約受付
  • 迅速対応
メール相談予約受付

※無料法律相談が可能なご家族は、法律上の夫、妻、子、父母、祖父 母、兄弟姉妹です。
※ご相談内容により有料相談となる場合がございますのでご了承ください。 
※無料法律相談の時間は1時間です。
※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。

緊急で無料法律相談受付

60分無料法律相談(24時間予約受付)