空出張で出張費を不正に計上したら業務上横領になる?
空出張(カラシュッチョウ)という言葉をご存知でしょうか。軽い気持ちで空出張を行い、犯罪の加害者になってしまうことがあります。本記事では、空出張について成立する犯罪等を含めて詳しく解説していきます。
目次
出張したかのように見せかけて出張費を不正に受領する空出張
空出張とは、実際には発生していない交通費や宿泊費等を出張経費として会社に請求して不正に金銭を受領することをいいます。空出張は、社員の立場でも簡単に行いやすく、経理等の会社側が見逃しやすいことから比較的横行しやすい不正行為かと思われます。
しかし、空出張を行った場合には、具体的な事案にはよりますが、業務上横領罪や私文書偽造同行使罪、詐欺罪に該当する可能性があります。
業務上横領が成立する可能性
例えば、会社から事前に預かっていた出張経費等を別の用途に利用したような場合には、使途を限定されて、業務上、管理を任されている金銭を自らのために費消したとして、業務上横領罪が成立する可能性があります。
業務上横領罪とは
業務上横領罪は、刑法253条で以下のように規定されています。「業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。」
すなわち、仕事として(「業務上」)、会社等から管理を委ねられていて、自らが所持している物で他人が所有している物(「自己の占有する他人の物」)を、自らの所有物であるかのように使用した(「横領」)場合に、業務上横領罪が成立します。
業務上横領罪については、以下の記事で詳しく解説します。
業務上横領は必ず逮捕される?横領額と刑の重さは関係あるのかこのようなケースで業務上横領罪が成立する可能性があります
事前に預かっている経費を、出張に行く予定がないにもかかわらず、私用の旅行のために費消した場合や交通費や宿泊費用を着服するような場合には、業務上横領罪が成立する可能性があります。
また、会社の出張用に作られているカードにたまっているマイルを私用の旅行のために使った場合には業務上横領罪が成立する可能性があります。マイルを使って業務上横領罪が成立することを明らかにした判例はないのでその成否は慎重に裁判所で判断されると思いますが、控えた方が無難といえるでしょう。
業務上横領罪の刑の重さ
業務上横領罪の法定刑は10年以下の懲役です(刑法253条)。
軽い気持ちで行ったとしても、その罪は非常に重いため、重大な犯罪行為であることを十分に認識された方がよいと思います。
詐欺罪が成立する可能性
会社の業務として出張等がないにもかかわらず、私用の旅行の際に発生した費用を、会社の業務として発生したとして、その領収書を会社に提出して金銭を請求するような行為は詐欺罪に該当する可能性があります。会社を欺いて、会社から金銭を交付させるような行為ですので、会社に対する詐欺罪が成立するケースといえます。
詐欺罪とは
詐欺罪は、刑法246条で以下のように規定されています。
1項「人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。」
2項「前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。」
すなわち、他人に虚偽の事実を伝えるなどして(「人を欺いて」)、これにより他人が騙されて、財物を交付させた場合には詐欺罪が成立することになります。なお、財物以外の財産的利益(「財産上不法の利益」)、例えば、サービスなどを受けた場合には、246条2項で246条1項と同様に詐欺罪が成立することになります。
このようなケースで詐欺罪が成立する可能性があります
出張がないにもかかわらず、出張があると会社に偽って、会社から交通費や宿泊費等の出張経費を取得するような場合は詐欺罪が成立する可能性があります。
他にも、特に発生していなかったにもかかわらず、出張により生じそうな経費の領収書を偽造して、会社に金銭を請求するような行為も詐欺罪が成立する可能性があります。なお、領収書を偽造して、これを会社を欺くのに使用している点で、私文書偽造同行使罪が成立する可能性もあります。
詐欺罪の刑の重さ
詐欺罪の法定刑は、10年以下の懲役と定められています(刑法246条1項)。会社を欺いているため、十分に悪質性は高いですが、業務上横領罪と同様に非常に重大な犯罪の一つといえます。
出張費を水増し請求するのも業務上横領罪や詐欺罪が成立する可能性がある
空出張のケースだけではなく、実際に出張に行く予定はあったため、会社から事前に経費等を預けられていた場合で、実際に発生した交通費や宿泊費よりも高額な費用が発生したかのように会社に偽り、会社から事前に預けられていた経費をすべて着服したようなときは、会社を欺いていることから詐欺罪が成立する可能性があり、経費等を着服している点で業務上横領罪も成立する可能性があります。
これも業務上横領?その他のケース
空出張の場合だけではなく、空出張と類似する以下のケースでも業務上横領罪が成立する可能性があります。
交通費を不正受給したケース
会社から事前に預かっている交通費を、実際の最寄り駅はA駅であるにもかかわらず、実家に居住しているなどとして実家の最寄り駅であるB駅からの交通費相当額を着服したような場合、すなわち、交通費を不正受給したケースは以下の記事で詳しく解説しています。
不正な接待交際費を計上したケース
会社から事前に預かっている交際費を、自らの私的な飲食代などにより費消してその金額を会社の経費として計上した場合、すなわち、交際費を不正に計上したケースは以下の記事で詳しく解説しています。
業務上横領が発覚したらどうなるのか
会社の経理等がチェックをしていたら、実際には出張に行っておらず、不正に金銭を取得していることが会社に発覚した場合、どうなってしまうのでしょうか。以下で詳しく解説していきます。
懲戒解雇などの処分がくだる可能性
空出張が会社に発覚した場合、会社としては、空出張を行った社員に対して、懲戒処分を検討することが予想されます。懲戒処分には、会社の就業規則上の定めにもよりますが、注意である戒告や給料の減額である減給、地位を下げる減給等があります。しかし、空出張は犯罪ですので、懲戒処分の中でも最も重い懲戒解雇、すなわち会社をクビにされる可能性も非常に高いといえます。
業務上横領罪や詐欺罪が成立したら刑事罰が
空出張は犯罪行為ですので、空出張が発覚して、会社が警察に届け出るなどして警察に逮捕される可能性があります。警察に逮捕された後、検察により起訴され、裁判所にて業務上横領罪や詐欺罪が成立すると、上で述べたように10年以下の懲役という重い刑罰が予定されています。
不法行為による損害賠償請求の可能性も
空出張が発覚すると刑事上の責任を問われる可能性があることは説明しましたが、民事上の責任を負うこともあります。会社は、空出張により、実際には生じていない費用等の支出を強いられていますので、不法行為が成立するとして、空出張を行った会社員に対して、損害賠償請求をすることが考えられます。
業務上横領は相手からの被害申告がないと逮捕されないケースが多い
業務上横領罪は被害者がいる犯罪ですので、被害者からの被害届や刑事告訴等の被害申告がないと事件化しないことが多いといえます。もちろん、被害者ではない第三者からの通報等により事件化することもありますが、基本的には被害者以外の方が通報するようなことはあまり多くありません。
事件化させないためにも弁護士のサポートが必要です
空出張をしないことが重要なことですが、実際に空出張をしてしまい、会社に発覚したような場合には、事件化させないためにも早期に会社側と交渉する必要があります。
特に、会社には実際に被害が生じているわけですから、示談交渉が必要になりますが、これは法的な観点から気を付けるべきことも多くありますので、弁護士によるサポートを受けた方が良いでしょう。
事件化した場合も弁護士が減刑にむけてサポートします
実際に、空出張により事件化してしまった場合でも、検察による起訴を回避したり、裁判での実刑を免れ、減刑させるためには、弁護士のサポートがより必要となります。上で述べたような示談交渉が成立することで検察の起訴自体を回避することができることもあります。
業務上横領の量刑に影響を与える要素
務上横領罪が成立する場合には、10年以下の懲役という重大な刑罰が予定されていますが、横領した金額や横領の動機など様々な要素を総合的に考慮して実際の刑罰が定められます。
ただ、空出張をしてしまった後の行動、例えば、深く反省していることや会社との示談が成立していることといった事情も十分に考慮されますので、空出張をした後の適切な対応も重要であり、これらの要素も考慮されて執行猶予が認められる可能性もあります。
まずは弁護士にご相談ください
空出張をしてしまいそのことが会社に発覚して会社から警察に通報すると言われている、既に会社から警察に通報されて取調べをされることになったといった場合には、今後の生活がどうなってしまうのだろう、懲役刑が先刻されてしまうんだろうかなどと様々な不安がよぎると思います。
弁護士と相談して、早期の適切な対応により、事件化することなく解決することができるかもしれません。お困りの際には、是非弁護士にご相談ください。
この記事の監修
-
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。