会社の備品を横領すると業務上横領罪や窃盗罪になる可能性。懲戒処分は有効?
会社の備品を持ち帰ってしまった場合に、どのような犯罪になるのでしょうか。
会社の費用で購入した物なので、所有権は会社にあります。これを持ち帰ると刑事責任として窃盗罪または業務上横領罪に該当する可能性があります。また、民事上の責任として損害賠償請求を受けたり、懲戒解雇の対象となる可能性があります。
この場合の示談交渉の進め方について解説します。
目次
会社の備品を横領すると業務上横領や窃盗罪が成立する可能性がある
会社の商品の管理業務を任されている社員が、会社の商品を持ち帰る場合には、他人の物を持ち帰る行為として、業務上横領座または窃盗罪の成立の可能性があります。
この2つの犯罪の違いは、以下で詳しく述べますが、会社の商品に対して「管理権限」があるか否かによって変わります。
業務上横領罪とは
業務上横領罪とは、「業務上」「自己の占有する他人の物」を「横領」した場合に成立する罪です。このうち、「自己の占有する」という点が上記で述べた「管理権限」があるかという部分に関係します。また、「横領」したとは、対象となる財物の所有者がその人を信用して財物の管理を任せたにもかかわらず自分のものにしてしまうことです。最後に「業務上」とは、仕事として反復継続して物の管理を行っていることを意味します。
さらに詳しい解説はこちらをご参照ください。
窃盗罪とは
窃盗罪とは、他人の財物を窃取した場合に成立します。「窃取した」とは、他人の占有する財物を他人の意思に反して自己の占有に移転させることを意味します。具体的には、オーナーが管理している商品をオーナーの知らない間に、従業員が自分の手元に移す場合は、窃盗罪が成立します。
窃盗罪は未遂でも処罰される
業務上横領罪の場合には、備品を持ち帰らなければ成立することはありません。すなわち業務上横領罪には、未遂罪がありません。一方で、窃盗罪の場合には、会社の備品を持ち帰ろうとして、実際には持ち帰らなかった場合でも、成立することがあります。すなわち、窃盗罪の場合には未遂罪があります。
備品を一時的に私的に利用しただけでは業務上横領や窃盗罪は成立しない
会社の備品を一時的に借りた場合にも、業務上横領罪や窃盗罪に該当するのでしょうか。この場合は、業務上横領罪や窃盗罪は成立しないと考えられるのが一般的となります。
会社の備品を一時的に借りる場合には、これを自分の物にして、所有者である会社の占有を排除する意図がないと考えられるため、窃盗罪や業務上横領罪は成立しません。また、一時使用である場合には、会社の物品に対する会社の所有権の侵害の程度も軽微であるため、わざわざ刑事処分の対象として扱われないことが多いです。
業務上横領罪と窃盗罪の違いは「占有」しているかどうか
業務上横領罪と窃盗罪の違いは、財物に対する「占有」があるか否かにあります。業務上横領罪は、「自己の」占有する他人の物を対象とし、窃盗罪は、「他人の」占有する物を対象とします。例えば、会社の備品管理を担当している社員が、当該備品を自宅に持ち帰った場合には、業務上横領罪となります。一方で、備品の管理を担当していない別の社員が、倉庫から備品を持ち帰った場合には、窃盗罪となります。
「占有」とはどういう状態のことをいうのか
窃盗罪と業務上横領罪の判断を分ける「占有」の概念について解説します。
「占有」とは、物に対する事実的支配があるか否かによって判断されます。例えば、備品を実際手に持って管理していることまでは必要ありません。事実的支配が及んでいるか否かは、客観的な支配の事実と主観的に支配の意思があるかによって判断します。
例えば、会社の経理担当の方が、自分の机の後ろの金庫でお金を管理していたとします。この場合、経理担当の方が支配する領域の中で、お金を管理するという客観的支配の事実があります。また、経理担当の方も自身が机に座ることで金庫の中のお金を管理していると通常、意識することになります。これが主観的に支配の意思があるということになります。
会社が破棄する予定の備品を持ち帰った場合
「占有」には、客観的な支配の事実と主観的な支配の意思が必要であると解説しました。例えば、会社内に放置され、使用しなくなった備品については、既に主観的な支配の意思が失われ、窃盗罪または業務上横領罪が成立しない可能性が高いです。
もっとも、会社の「占有」を離れたとしても、遺失物等横領罪(刑法254条)が成立する可能性があります。「占有」を離れたとしも、「他人の物」であることには変わりがないため、備品を無断で持ち帰る場合には犯罪が成立する可能性があります。
備品の横領、窃盗のケース
会社の備品といっても様々なものがあります。以下では、備品の種類に分けて業務上横領罪が成立するのか、窃盗罪が成立するのか解説します。
ボールペン、ノート、コピー用紙などの備品
まず、ボールペンやノートなどの文房具については、社員それぞれに既に支給されているものであれば、「自己の占有する他人の物」であるとして、これを持ち帰ることになれば、業務上横領罪が成立する可能性があります。
一方で、倉庫に保管されているコピー用紙については、その管理をしていない社員が倉庫に入って持ち出した場合には、当該社員にはコピー用紙を管理する権限がないため、「他人の」占有する物を持ち帰ったことになり、窃盗罪が成立する可能性があります。
自社の商品や取引先への納品物
自社の商品や取引先への納品物については、その物への管理権限が与えられているのか否かによって、成立する犯罪が異なります。例えば、商品の開発をする部署の社員が社内で保管している自社の商品を持ち帰った場合には、「自己の占有する他人の物」を持ち帰ったとして、業務上横領罪が成立する可能性があります。
一方で、人事等担当する部署の社員が自社の商品の保管されている倉庫に入り、商品を持ち帰った場合には、「他人」占有する物を持ち帰ったとして、窃盗罪が成立する可能性があります。
自分のスマホや電子機器を会社で充電
「他人の物」とは、原則としては、物理的に存在する物と考えられています。例外的に、電気については、目に見えず、物理的に存在していないとしても、財物と扱われています。そのため、会社が供給している電源から私用のスマホ等の充電を行うと窃盗罪が成立する可能性があります。
会社内で電気の使用について、ルールを定めている場合もありますので、就業規則などで確認してから私用するようにしましょう。
社用車を私的に使用
社用車などの高価な備品は、会社から会社のために使用するために、占有することが認められたものであり、「自己の占有する他人の物」となります。これを会社の業務のために使用するのではなく、私的な旅行などのために使用することは、「自己の占有する他人の物」を占有している目的に反して使用したことになり、業務上横領罪が成立する可能性があります。
どのような責任を負うことになるの?
会社の備品を横領することは、以上のとおり、犯罪行為に該当し、刑事上の責任が問われることになります。他方で、会社の備品を横領することで会社に損害を与えたとして、不法行為に基づく損害賠償請求がされ、民事上の責任を負う可能性もあります。
民事上の責任
不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)とは、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」ことをいいます。
不法行為に基づく損害賠償責任が成立するためには、①故意又は過失によること②他人の権利又は法律上保護された利益に対する侵害であること③損害が生じていること④侵害と損害との間に因果関係があることが必要となります。
会社の備品を持ち帰る場合には、当該社員は、備品が自身の物でないことを知っているか、知ろうと思えば知ることができ、持ち帰らずに済んだといえるので、「故意又は過失」があります。持ち帰ってしまった備品は会社の物なので、「他人の」所有権を侵害することになります(②)。社員が備品を持ち帰ることで備品が減ることになり、会社に損害が生じます(③)。そして、会社への損害は、社員が備品を持ち帰ったことによるものなので、侵害と損害との間の因果関係も認められます(④)。
したがって、備品を持ち帰ると、会社から不法行為に基づく損害賠償請求を受ける可能性があります。
刑事上の責任
会社の備品を持ち帰り、窃盗罪が成立する場合には、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金となります。一方で、業務上横領罪が成立する場合には、10年以下の懲役となります。業務上横領罪の方が、当該物に対する「占有」があったことを利用して損害を発生させた点を捉えて、法定刑が重くなっています。
備品の横領は会社に発覚する?
当初少量の備品の横領を行った場合には、会社に発覚することは多くありません。しかし、少量の持ち帰りだとしても、長期間に及ぶことで在庫管理等の際に個数等が合わず会社側が不審に思うことがあります。少量の持ち帰りだからばれないだろうと考えたとしても、会社側には既に発覚している可能性も十分に考えられます。会社に発覚する経緯は様々なので、少量だからバレないだろうと考えることなく、持ち帰ることは止めるようにしましょう。
会社が社員の所持品検査をすることはある?
会社は備品の持ち出しを防ぐための処置を講じることがあります。その一つとして、所持品検査を行うことがあります。ただし、所持品検査を行うとしても社員のプライバシーに配慮するため、一定の限界があります。以下の条件を満たした場合でなければ所持品検査を実施することはできません。
- 検査を行うことについて合理的な理由があること
- 検査の方法が妥当なものであること
- 検査の実施が画一的なものであること
- 所持品検査を行うことが就業規則などで事前に周知されていること
備品を持ち帰ってしまった際の対応方法
会社の備品を転売する目的で持ち帰ってしまった場合、会社に対する重大な背信行為となりますので、懲戒解雇の可能性も十分考えられます。
備品を持ち帰ってしまった場合には、上記のように隠し通せるとは限りません。そのため、持ち帰ってしまった場合には、会社に返還する等の適切な対応をとり、まずは被害の回復に努めることが優先です。
高価な備品、横領した額が大きい場合は弁護士が示談交渉します
備品の持ち帰りをしてしまってすぐに返還するなどの対応した場合には、スムーズに示談交渉が進むことが多いです。しかし、長期間に渡り備品の持ち帰りを行ってしまった場合など、被害額が大きくなっているケースでは、単に会社に返還するだけでは被害の回復ができない可能性があります。
その場合には、当事者間での話し合いでは解決することが困難となります。第三者である弁護士が介入することで、被害金額の分割払いの交渉等の解決策を提示し、示談交渉をスムーズに進めることが可能になります。
弁護士に示談交渉を依頼するメリット
社内の備品を横領した場合、会社と交渉することが不可欠です。特に刑事事件になる前に会社との示談を進める必要があります。会社との示談交渉の際は、被害弁償のみならず刑事事件となった場合に備えて、証拠をどのように揃えるかなどの対応も必要となります。
その点、弁護士は、横領罪に該当するケースについて、把握しており対応の仕方について事前にアドバイスすることができますのでその点がメリットになると思われます。
会社の備品を横領してしまったらお早めに弁護士にご相談ください
以上のご説明のとおり、会社の備品を持ち出してしまった場合には、会社との関係で損害賠償請求がされるだけではなく、横領罪又は窃盗罪などの刑事上の責任を問われる可能性があります。備品の持ち出しが長期化すればするほど、早期解決は難しくなります。
軽い気持ちで持ち出してしまった場合には、早めに弁護士に相談いただき、示談交渉等を開始することをお勧めします。お困りの際は、弊所までご相談ください。
この記事の監修
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埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。