映画の盗撮はどんな罪になる?|映画盗撮の刑罰について
近年、映画館内での盗撮行為は後を絶たず、盗撮された映画が動画投稿サイトへアップロードされたり、海賊版DVDが作成、販売されたり等、日本の映画産業が被る損害は、毎年莫大な金額になっています。
このような現状をうけ、2007年8月30日から「映画盗撮防止法」が施行されました。本記事では、同法律が施行されるに至った経緯や刑罰の内容、過去の事例等について解説します。
目次
映画の盗撮による刑罰
著作権法
映画の盗撮は、特に著作権法で定められた例外の場合を除き、著作権侵害となります。この場合、著作権者は、行為者に対して損害賠償請求や差止請求等の民事的な措置が可能となる他、著作権法第119条等による刑事的な措置(10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、またはその両方)を求めることができます。(具体的な行為態様ごとの措置については、文化庁のホームページのPDFを参照ください。
著作権が侵害された場合の対抗措置(文化庁)もっとも、著作権法上、個人的又は家庭内等の限られた範囲内で使用するための複製については、著作権者の許諾無く行うことができます(著作権法第30条第1項)。
そのため映画の盗撮を摘発できたとしても、行為者が「私的に使用するための複製である」と主張すれば、著作権法のみでは映画の盗撮行為を直ちに著作権侵害と認めることが難しく、効果的な対応ができないとの問題がありました。
そこで、「映画盗撮防止法」が施行され、映画の盗撮が私的使用の目的によるものであったとしても、これを違法とすることで、著作権の保護をより強固にしました。
映画盗撮防止法
映画盗撮防止法は、前記のとおり、映画の盗撮が私的使用の目的によるものであっても、違法とされることとなります(映画盗撮防止法第4条1項)。そのため、著作権法に基づき、損害賠償請求、差止請求等の民事的な措置、著作権侵害の罪による処罰という刑事的な措置を求めることができるようになりました。
もっとも、最初の有料上映の日から8か月経過以降、同規定は適用されません(同法4条2項)。この規定は、同法第4条1項によって過度の規制とならないよう、映画の盗撮の防止を図るための合理的な期間(映画館で上映される期間は、たいてい8ヶ月以内です。)に限定をする趣旨で設けられました。
なお、8か月経過後は4条1項が適用されなくなるだけあり、映画の盗撮自体が適法になるわけではないことには注意が必要です。
映画盗撮による逮捕の可能性
映画盗撮は、逮捕の要件さえ満たせば、逮捕に至る可能性は十分にあります。具体的な逮捕の態様としては、以下が想定されます。
- 映画の盗撮中に、映画館の従業員や他の映画鑑賞者に盗撮行為が発覚し、現行犯逮捕されるケース(刑事訴訟法212条)
- 盗撮した映画の映像データをインターネットにアップロードしたことが捜査機関に発覚し、通常逮捕されるケース(刑事訴訟法199条)
- 他の犯罪を捜査中、盗撮した映画の映像データが捜査機関に見つかり、差押え、通常逮捕されるケース(刑事訴訟法220条、同法199条)
起訴されないためにすること
法務省の犯罪白書によれば、起訴された場合の有罪率は約99.9%となっています。 つまり、一度起訴されてしまえば、ほぼ100%に近い確率で有罪となり、前科がついてしまいます。
そのため、万が一、映画を盗撮してしまった場合には、検察官による起訴を回避する方法を検討しなければなりません。この点、映画の盗撮は著作権者を被害者とする犯罪であるため、被害者との示談を成立させることで、起訴の可能性を下げることが期待できます。
なお、被害者と加害者との間で示談交渉を行うことは、当事者の感情的な対立を生み示談が成立しなくなる可能性、法外な示談金を要求される可能性等が考えられるため、専門家である弁護士に依頼されることを強く推奨します。
映画盗撮の事例(判例)
以下では、実際に起こった映画盗撮の事例を紹介します。
【ケース1】
捜査機関がある男性をストーカー規制法違反容疑で乗用車内を捜査中、映画の画像を収めたSDカードが見つかった。これにより、映画の盗撮が発覚し、同男性は映画盗撮防止法違反等の疑いで書類送検された。
同男性は、映画館にビデオカメラを持ち込み、上映中だった「宇宙戦艦ヤマト復活編」をジャンパーで隠したビデオカメラで盗撮、複製し著作権を侵害していた。
【ケース2】
盗撮された映画などを自宅のパソコンからファイル共有ソフト「Share」のネットワーク上に無断配信し不特定多数のユーザーがダウンロードできるようにしていた男性が、著作権法違反の疑いで逮捕された。同男性は、映画や音楽、アニメなど約260作品をアップロードしていた。
映画の盗撮に関するQ&A
海賊版のディスクを作成してしまいましたが、有料上映開始から8ヶ月以上経っています。
前記のとおり、映画盗撮防止法は、最初の有料上映の日から8か月経過以降、同法4条1項は適用されないと規定しています(同法4条2項)。同規定によれば、8か月経過後は同法4条1項が適用されなくなる、すなわち私的使用目的による映画の盗撮を違法とできなくなるだけあり、映画の盗撮自体や、同撮影データを複製することが適法になるわけではありません。 よって、最初の有料上映の日から8か月が経過していたとしても、海賊版のディスクを作成する目的を有している場合には、著作権侵害に該当します。
無料の試写会を盗撮してしまった場合は、有料上映ではないので問題ありませんか?
映画盗撮防止法における「映画の盗撮」とは、映画館等において観衆から料金を受けて上映が行われる映画について、著作権者の許諾を得ずにその映像の録画又は音声の録音を行うことであると、文化庁は説明しています。そのため、試写会のように有料での上映に先立って無料で上映が行われる映画の場合も、同じく「映画の盗撮」に該当すると解されます。
音声は無く、映像のみの場合も映画の盗撮をしたことになるのでしょうか。
前記のとおり、映画盗撮防止法における「映画の盗撮」とは、映画館等において観衆から料金を受けて上映が行われる映画について、著作権者の許諾を得ずにその映像の録画又は音声の録音を行うことです。そのため、映像のみの場合も、「映画の盗撮」に該当すると解されます。 もっとも、映画の画面を静止画として撮影した場合には、著作権法上の「録画」には該当しないため、「映画の盗撮」にも該当しないと解されます。
映画を盗撮してしまった。逮捕されるか不安な時は、できるだけ早く弁護士へご相談下さい
以上のとおり、映画の盗撮は犯罪です。軽い気持ちで行ったとしても、許される行為ではありません。
万が一、映画の盗撮を行ってしまった場合には、捜査機関に発覚する前に、できるだけ早く弁護士へご相談ください。
この記事の監修
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埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。