「接近禁止命令」でDVから身を守る|申し立ての流れや注意点
配偶者やパートナーからの暴力(DV)に苦しんでいる方の中には、恐怖で身動きが取れず、誰にも相談できないまま孤立してしまうケースが少なくありません。
しかし、法律には被害者の安全を確保するための強力な手段として「保護命令」という制度が用意されています。
本記事では、保護命令の中でも主要な「接近禁止命令」について、その仕組みや効力、申し立てを行うための具体的な手順や費用、注意点について詳しく解説します。
目次
接近禁止命令とは?
接近禁止命令とは、配偶者暴力防止法(DV防止法)に基づき、裁判所が加害者に対して、被害者の身辺につきまとったり、住居や勤務先等の付近を徘徊したりすることを禁止する命令です。
この命令が発令されると、加害者は被害者に近づくことができなくなるため、被害者は物理的な距離を確保し、身の安全を守ることが可能となります。
2024年4月の法改正により、命令の有効期間は従来の6か月から1年間へと伸長されました。
違反した場合
接近禁止命令は、裁判所による強力な命令であり、これに違反した場合には刑事罰が科されます。
具体的には、2年以下の拘禁刑(懲役)又は200万円以下の罰金という重い刑罰が規定されています(DV防止法第29条)。
警察も保護命令の発令事実を把握しているため、加害者が命令に違反して接近してきた場合、被害者が110番通報をすれば、警察は現行犯逮捕を含む迅速な対応をとることができます。
接近禁止命令が出る条件
接近禁止命令が発令されるためには、主に以下の2つの要件を満たす必要があります。
第一に、配偶者(事実婚や生活の本拠を共にする交際相手を含む)から身体に対する暴力を受けたこと、又は生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫されたことです。
第二に、今後も加害者からの暴力等により、被害者の生命又は心身に重大な危害を受けるおそれが大きいと認められることが必要です。
接近禁止命令以外の申し立てておくべき保護命令
電話等禁止命令
加害者が被害者に対して、面会を強要したり、無言電話をかけたりする行為を禁止する命令です。
電話だけでなく、メールやSNS等の連続送信、ファックスの送信、緊急時以外の深夜早朝の連絡も対象となります。
また、法改正により、GPS機器を用いて被害者の位置情報を取得する行為や、その位置情報を監視している旨を告げる行為についても禁止の対象として追加されました。期間は1年間です。
子への接近禁止命令
加害者が、被害者と同居している未成年の子どもを連れ戻すと疑わせる言動を行っている場合など、子どもを利用して被害者に面会を強要することを防ぐための命令です。
加害者に対し、子どもの身辺につきまとったり、学校や住居の付近を徘徊したりすることを禁止します。
期間は1年間ですが、子どもが15歳以上の場合は、その子ども自身の同意が必要となります。
親族等への接近禁止命令
加害者が、被害者の実家の両親や親族等の住居に押し掛け、著しく粗野な言動を行っている場合などに発令されます。
親族等を介して被害者に接触を迫ることを防ぐための命令です。
対象となるのは、被害者の親族や、被害者が社会生活を営む上で密接な関係にある者です。
この命令の発令には、対象となる親族等本人の同意が必要となります。期間は1年間です。
退去命令
被害者と加害者が同居している場合において、被害者が住居から転居する準備期間を確保するために、加害者に対して住居からの退去及び住居付近の徘徊禁止を命じるものです。
接近禁止命令とは異なり、この命令の効力は2か月間と短期間に設定されています。
被害者が安全に別居を開始するための、一時的かつ緊急的な措置として位置づけられています。
接近禁止命令の申立ての流れ
①DVセンターや警察への相談
接近禁止命令を申し立てる前には、原則として配偶者暴力相談支援センター(DVセンター)や警察署へ相談に行く必要があります。
これは、裁判所への申立ての際に、事前に公的機関へ相談した事実を記載する必要があるためです。
相談時には、暴力の内容や経緯を具体的に伝え、相談証明書を発行してもらうか、相談日時や担当者名、相談番号などを正確に控えておくようにしてください。
相談実績がない場合
DVセンターや警察への相談実績がない場合でも、接近禁止命令の申立て自体は可能です。
しかし、この場合には公証役場で「宣誓供述書」を作成し、申立書に添付しなければなりません。
宣誓供述書とは、被害事実について公証人の前で真実であることを宣誓し、書面化したものです。
作成には別途費用と手間がかかるため、緊急時を除いては、事前に公的機関へ相談しておくことが推奨されます。
②裁判所に申立てを行う
申し立てができるのは本人だけ
保護命令の申立てを行うことができるのは、DVの被害を受けている本人に限られます。
親族や友人が代理で申し立てることはできません。
ただし、弁護士を代理人として選任し、手続きを一任することは可能です。
申立先
申立てを行う裁判所は、地方裁判所です。管轄は、「相手方(加害者)の住所地」、「被害者(申立人)の住所地又は居所地」、あるいは「DV被害が発生した場所」を管轄する地方裁判所のいずれかになります。
被害者がすでに避難しており、避難先の住所を知られたくない場合は、DV被害が発生した場所や相手方の住所地を管轄する裁判所を選択することも一般的です。
必要書類
申立てには、主に以下の書類が必要です。
- 保護命令申立書:請求の趣旨や原因(暴力の事実等)を記載したもの。
- 証拠書類:医師の診断書、怪我の写真、暴力の経緯を記した陳述書、脅迫メールの写し等。
- 戸籍謄本及び住民票:当事者の関係や住所を証明するため。
- 相談等の事実を証明する資料:DVセンターや警察への相談記録等。これらは正本と副本(相手方送付用)の2部を用意する必要があります。
申立てに必要な費用
申立てにかかる主な費用は以下の通りです。
- 申立手数料:1,000円(収入印紙で納付)
- 予納郵便切手:数千円程度(裁判所により異なりますが、概ね2,000円~3,000円程度です)
これ以外に、戸籍謄本等の取得実費がかかります。弁護士に依頼する場合は、別途弁護士費用が必要です。
③口頭弁論・審尋
申立書が受理されると、裁判官による面接(審尋)が行われます。
通常、迅速性を期すため、申立人(被害者)への審尋が即日または数日中に行われます。
その後、相手方(加害者)への審尋も行われますが、被害者と顔を合わせることがないよう、期日をずらすなどの配慮がなされます。
裁判官は双方の言い分を聞き、証拠を確認した上で、保護命令を発令するかどうかを判断します。
④接近禁止命令の発令
要件が満たされていると判断された場合、裁判所は速やかに接近禁止命令を発令します。
命令書は、申立人と相手方の双方に送達されるとともに、管轄の警察署にも通知されます。
これにより、万が一相手方が命令に違反した場合には、警察が即座に対応できる体制が整います。申立てから発令までの期間は事案によりますが、早ければ1週間から2週間程度です。
接近禁止命令における注意点
発令されるためにはDVの証拠が必要
裁判所が命令を出すためには、客観的な証拠が極めて重要です。
単に「怖い」という主観的な訴えだけでは認められにくいのが実情です。
医師の診断書(受傷日時や原因が明記されたもの)、暴力を受けた患部の写真、暴言や脅迫が録音されたデータ、具体的な被害日時や状況を記録した日記などが有力な証拠となります。
証拠が不十分な場合は、陳述書で詳細かつ具体的に被害状況を説明する必要があります。
相手に離婚後の住所や避難先を知られないよう注意
申立書や添付書類には、申立人の現住所が記載されます。そのまま相手方に副本が送達されると、避難先が知られてしまう危険があります。
これを防ぐためには、申立てと同時に「秘匿決定」の申立てや「閲覧制限」の申立てを行う必要があります。これにより、相手方に送られる書類上の住所を黒塗りする等の措置をとることができ、居場所を隠したまま手続きを進めることが可能です。
モラハラは対象にならない
いわゆる「モラルハラスメント(モラハラ)」については注意が必要です。
無視や人格否定などの言葉の暴力は精神的に辛いものですが、法改正により精神的暴力も対象に含まれたとはいえ、そのハードルは依然として高いものです。
単なる性格の不一致や不仲、軽度の嫌がらせ程度では、保護命令の要件である「生命又は心身に重大な危害を受けるおそれ」とは認められにくい傾向にあります。
モラハラで申立てを行う場合は、それが自由を著しく制限し、恐怖を感じさせるレベルであることを立証する必要があります。
接近禁止命令に違反した場合の対処法
接近禁止命令が発令されているにもかかわらず、相手方がつきまとったり、自宅付近を徘徊したりした場合は、直ちに最寄りの警察署へ通報してください。
保護命令違反は犯罪ですので、警察は加害者を現行犯逮捕することができます。
また、通報の際には「裁判所から接近禁止命令が出ていること」を明確に伝えると、警察も事態の緊急性を把握しやすくなり、迅速な対応が期待できます。
身の安全を最優先に行動してください。
接近禁止命令に関するQ&A
接近禁止命令の期間を延長したい場合はどうしたらいいですか?
接近禁止命令の有効期間(1年間)が満了した後も、依然として加害者からの被害を受けるおそれが高い場合には、再度申立てを行うことで命令を得ることができます。
ただし、これは自動的な「延長」ではなく、あくまで「再度の申立て」という扱いになります。
そのため、前回の命令発令後にどのような事情変更があったか、現在もなお生命や身体等に重大な危害を受けるおそれが継続しているかについて、改めて主張・立証する必要があります。
接近禁止命令はどれくらいの距離が指定されるのでしょうか?
接近禁止命令では、「半径〇メートル以内」といった具体的な距離が数値で指定されることは一般的ではありません。
命令の内容は「住居、勤務先その他通常所在する場所の付近を徘徊してはならない」というものであり、この「付近」が具体的にどの範囲を指すかは、現場の状況や社会通念によって判断されます。
一般的には、相手を視認できる距離や、大声を出せば届く距離などが該当すると考えられています。
離婚後でも接近禁止命令を出してもらえますか?つきまとわれて困っています。
はい、離婚後であっても接近禁止命令を申し立てることは可能です。
DV防止法は、婚姻中の暴力だけでなく、離婚後に元配偶者から受ける暴力や脅迫についても保護の対象としています。
過去の婚姻期間中に暴力を受け、離婚後も引き続き生命や身体に危害を受けるおそれがある場合は、元配偶者を相手方として申立てを行うことができます。
DVで接近禁止命令を申し立てる際は弁護士にご相談ください
接近禁止命令は、DV被害者の命と生活を守るための非常に有効な法的手段です。
しかし、申立てには迅速な証拠収集や、裁判所を納得させるための法的な主張構成が求められます。
また、相手方に住所を知られないようにするための配慮も欠かせません。
弁護士に依頼することで、申立書の作成や証拠の整理、裁判所での面談への同行など、全面的にサポートを受けることができます。一人で抱え込まず、まずは弁護士にご相談ください。
この記事の監修

-
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。