労務

マタニティハラスメントと事業主の義務

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

  • ハラスメント

妊娠・出産や育児休業等をめぐる職場でのトラブルは、労働者個人の問題にとどまりません。
会社が妊娠・出産等を理由に解雇、降格その他の不利益な取扱いを行えば、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法に違反する可能性があります。

また、上司や同僚による嫌がらせを防止するため、事業主には、相談窓口の設置、方針の周知、事実確認、再発防止などの措置を講じる義務があります。

本記事では、マタニティハラスメントに対して事業主が負う法的義務、具体的に講ずべき防止措置、問題となりやすい言動、法令違反があった場合のリスクについて、企業側の視点から解説します。

マタニティハラスメント(マタハラ)に対する事業主の義務とは?

マタニティハラスメント(マタハラ)とは、一般的に、妊娠、出産、産前産後休業、育児休業その他の制度の利用等に関連して行われる不利益な取扱いや、労働者の就業環境を害する言動を指します。

これに対し、事業主には、①妊娠・出産、育児休業等を理由とする不利益な取扱いの禁止、②妊娠・出産、育児休業等に関する言動によって就業環境が害されないようにするための防止措置義務が課せられています。

不利益な取扱いの禁止

妊娠・出産を理由とする不利益な取り扱いについては男女雇用機会均等法9条、育児休業理由とする不利益な取り扱いについては育児・介護休業法10条において禁止されています。

例えば解雇や雇止めのような雇用契約を終了させるものから、降格など、人事上の不利益まで、幅広く禁止されています。

妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止措置義務

企業には、男女雇用機会均等法11条の3第1項において、妊娠・出産等に関するハラスメントについて、当該女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない義務が課せられています。

また、育児・介護休業等に関するハラスメントについても育児・介護休業法25条第1項において、同様の義務が課せられています。

マタハラ防止のために事業主が講ずべき具体的な措置とは?

事業主が講ずべき措置は、大きく以下の5項目に整理できます。

  • ① 方針の明確化と周知・啓発
  • ② 相談体制の整備
  • ③ 発生後の迅速かつ適切な対応
  • ④ 原因・背景となる要因の解消
  • ⑤ プライバシー保護および不利益取扱いの禁止

マタハラに対する事業主の方針の明確化と周知・啓発

会社は、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを許さないという方針を明確にし、管理監督者を含むすべての労働者に周知・啓発しなければなりません。

例えば、マタハラの内容やマタハラが禁止されること、懲戒処分の対象となり得ること、相談窓口の連絡先および利用方法等を周知・啓発することが考えられます。

また、周知の方法としては、就業規則、ハラスメント防止規程、服務規律、社内報、社内ポータル、研修資料などに明記する方法が考えられます。

相談窓口の設置など体制の整備

事業主は、相談や苦情に対応するための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知しなければなりません。
相談窓口は人事部、コンプライアンス部門、社内委員会などに設置できるほか、外部の弁護士その他の専門機関に委託することも考えられます。

社内窓口と外部窓口を併設すれば、相談者が利用しやすい方を選べるという利点もあります。
ただし、窓口を形式的に設置するだけでは不十分です。

相談担当者が適切に対応できるよう、相談受付から調査開始までの手順や相談記録の作成・保管方法、相談者からの聴取方法のマニュアル化等、窓口の体制を整備する必要があります。

マタハラが発生した場合の迅速かつ適切な対応

また、相談を受けた場合は、迅速かつ適切な対応を求められます。

基本的には、①事実関係の確認を行い、②被害を受けた労働者への配慮、③行為者に対する措置を検討、決定していかなければなりません。また、④再発防止措置も行わなければなりません。

マタハラの発生要因や背景を解消するための措置

マタハラは、妊娠や育児休業等そのものではなく、制度に対する理解不足や、制度利用者が出た場合の業務体制が整っていないことを背景として発生する場合があります。

例えば、制度利用者の業務を他の従業員にそのまま上乗せすれば、「自分たちにしわ寄せが来た」という不満が生じやすくなります。その結果、妊娠した従業員や育児休業を取得する従業員に対する嫌味、非難、排除につながることがあります。

会社としては、代替要員の確保や業務量および業務分担の見直し等を行い、マタハラの発生要因や背景を解消するための措置を講じる必要があります。

相談者等のプライバシー保護と不利益取扱いの禁止

事業主は、相談者、行為者、事実確認に協力した者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じなければなりません。

また、相談したことや調査に協力したことを理由として、解雇、降格、減給、配置転換、嫌がらせその他の不利益な取扱いを行うことも禁止されています。

どのような言動がマタニティハラスメントに該当するのか?

厚生労働省は、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを、主に①制度等の利用への嫌がらせ型と②状態への嫌がらせ型の2類型に分類しています。

前者は、育児休業を取るなら辞めてもらうとか、男性が育児休業を取る必要はない等といったものが典型的なマタハラとして想定されます。

後者は、こんな忙しい時期に妊娠するのは無責任だとか、妊婦はいつ休むか分からないから仕事を任せられない等といったものが典型的なマタハラとして想定されます。

もっとも、妊娠中の体調や安全に配慮して業務内容を相談すること、制度利用による業務調整について必要な範囲で確認することまで、直ちにハラスメントになるわけではありません。

業務上の必要性に基づく言動であるか、制度の利用を妨げるものではないか、言動の内容や態様により就業環境が害されていないかを、具体的に検討する必要があります。

2020年6月の改正ではマタハラ防止対策がさらに強化

令和2年6月1日、改正男女雇用機会均等法および改正育児・介護休業法等が施行され、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました。

主な改正内容は、次のとおりです。

  • 事業主および労働者の責務を明確化
  • 相談したことを理由とする不利益な取扱いの禁止を法定
  • 事実確認に協力したことを理由とする不利益な取扱いの禁止
  • 他の事業主から事実確認等への協力を求められた場合の協力努力義務
  • 自社の労働者が他社の労働者にハラスメントを行う場合も想定した対応の強化

事業主は、自社内で発生するハラスメントだけでなく、自社の従業員が取引先等の労働者にハラスメントを行った可能性がある場合にも、他社からの事実確認への協力要請に応じるよう努める必要があります。

事業主がマタハラ防止措置を講じないとどうなるのか?

事業主がマタハラ防止措置を講じない場合、行政上、民事上および経営上のリスクを負います。
厚生労働大臣は、男女雇用機会均等法の施行に関して必要があると認める場合、事業主に報告を求め、助言、指導または勧告を行うことができます。

防止措置義務違反が疑われる場合には、都道府県労働局による事情聴取や是正指導等の対象となる可能性があります。また、ハラスメント行為や会社の不適切な対応によって労働者に損害が生じれば、会社が損害賠償責任を負うことがあります。

なお、マタハラによって労働者を解雇した場合などは、解雇無効によるバックペイ支払のリスクを負う可能性もあります。

このような法的責任に加え、離職や人材採用への悪影響、社内の士気低下、企業イメージの悪化などの経営上のリスクも想定されます。

悪質な場合は企業名が公表される可能性も

男女雇用機会均等法30条は、勧告に従わなかった企業について、厚生労働大臣がその旨を公表できると定めています。また、育児・介護休業法56条の2にも、同様の企業名公表制度があります。

企業名公表は、行政から是正勧告を受けたにもかかわらず、これに従わない場合に問題となる制度ですが、企業名が公表される可能性があることも想定して、マタハラに対処していく必要があります。

職場でのマタニティハラスメントにまつわる判例

マタハラに関する重要な最高裁判例として、広島中央保健生活協同組合事件があります。

事件の概要

医療機関に勤めていた理学療法士の女性が、妊娠した際に軽易な業務への転換を請求したことを契機として副主任から降格させられたことについて、男女雇用機会均等法9条3項に違反し、無効であると争った事案です。

裁判所の判断

広島中央保健生協事件(最判平26・10・23判時2252・101)

最高裁は、「一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ,上記のような均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば,女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが,当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。」と判示しました。

ポイント・解説

同判例において、女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として同項の禁止する取扱いに当たるものとして、原則違法との判断枠組みを示しました。

その一方で、自由な意思に基づく承諾を認めるに足りる合理的理由が客観的に存在する場合や法の趣旨・目的に実質的に反しない特段の事情が認められる場合には、不利益取扱いに該当しないとの例外があり得ることを判示したところがポイントです。

この判例から、会社としては、妊娠した労働者から軽易業務への転換を求められた場合、直ちに降格や減給を結び付けるべきではありません。

まずは、役職や賃金を維持したまま業務内容を調整できないかを検討する必要があります。
やむを得ず処遇の変更を検討する場合にも、変更の必要性、期間、不利益の内容、復職後の処遇、他の選択肢について十分に説明し、労働者が理解した上で意思決定できるようにしなければなりません。

企業のマタハラ防止措置に関するご相談は、ハラスメント問題を得意とする弁護士にお任せ下さい。

以上に解説してきたように、マタニティハラスメントの対応は、マタハラ防止措置の策定から、実際に問題が起こった際のリスク対応まで、多岐にわたります。

自社のみで対応する場合、法改正や裁判例の動向を踏まえた制度整備、事実調査、処分判断等に難しさが生じることがあります。
必要に応じて、ハラスメント問題を得意とする弁護士等の専門家に相談することが重要です。

弁護士法人ALGでは、企業側の人事・労務問題について、日常的な労務相談から、ハラスメント調査、就業規則の整備、労働審判・訴訟対応まで幅広く取り扱っています。

埼玉県内でマタハラ防止措置やマタハラ問題に関してお悩みの企業の方は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&associates埼玉法律事務所にご相談ください。

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埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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