残業代請求対応、未払い賃金対応


残業代や未払い賃金請求については、年々増加傾向にあります。

経営者や人事担当の方には、漠然とした不安を持たれている方が多いですが、実際に請求が来るまでは、どのようなリスクを抱えているのかについてわかっていない方も多いです。

そのため、個別労働紛争で件数の多い残業代請求対応について、解説していきたいと思います。

未払い賃金・残業代請求のリスク

未払い賃金・残業代のリスクとしては、さまざまのものがあります。

実際に残業代を支払っていなかったとすれば労働基準法違反ですから、労基署から行政指導を受けたり、労基法違反としての刑事罰を受ける恐れもあります。また、付加金や遅延損害金などの支払いもあるため、実際の未払い以上の支払いを要求される恐れもあります。

そして、その労働者にのみ残業代を支払っていない会社はありませんから、一件の請求の対応をおろそかにすることで、同種の支払い請求が頻発するリスクもあります。

賃金の支払いに関する法律上の定め

賃金の支払いについては、①通貨で、②直接労働者に、③全額を、④毎月1回以上、⑤一定の期日を定めて支払わなければならないとされています(労基法24条。賃金支払の五原則)。

また、時間外労働、休日労働、深夜労働については、使用者に対して割増賃金の支払いが命じられています(労基法37条)。

残業代支払いの事前防止策

残業代は、割増賃金にて支払わなければなりませんから、企業としては出来る限り、その支出を抑えたいと考えています。もちろん、残業自体が生じないようにするということが、もっとも直接直接的な事前防止策ですが、その他に以下のような制度の導入が考えられます。

・変形労働時間制の導入

変形労働時間制とは、一定の要件を満たすことを条件に、法定労働時間を、一定期間平均で守ればよいとする制度です。つまり、1日あたり、1週間あたりの労働時間が法定労働時間よりも増加させることが可能となる制度です。
繁忙期と閑散期があるような会社の場合、効率的な労働時間配分が可能となるため、全体の労働時間削減=残業時間削減につながります。

・定額残業制の導入

定額残業制とは、固定残業制とも言いますが、時間外労働、休日及び深夜労働に対する各割増賃金として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額であり、このような残業代支払のシステムのことをいいます。
会社にとっては、一定額を定額で支払う制度は、残業代計算の手間を省き人件費の節減につながりますし、適切に運用がなされていれば、実際の残業時間が定められた固定の残業時間に満たなくても同一の賃金が支給されるという点で従業員にとってもメリットのある制度と言えます。
残業代を事前に一定額支払っていることにより、残業代未払のリスクを減らすことができます。

・事業場外みなし労働時間制の導入

事業場外みなし労働時間制とは、労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定時間労働したものとみなす。 これが「事業場外みなし労働時間制」です。
この場合、実際の労働時間に関わらず、就業規則等で定められた「所定労働時間」が労働時間とみなされます。そのため、残業代払いを抑制することができます。

・裁量労働制の導入

裁量労働制は、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。
厳密で複雑な要件を満たす必要がありますが、労使協定で定めた時間分労働したものとされますので、1日8時間というふうに労働時間を定めた場合には、実際の労働時間が何時間であろうと、1日8時間労働であったとみなされますので、残業代を支払う必要はなくなります。

未払い残業代の支払い義務と罰則

未払い残業代を支払わないことは出来ません。

法定時間外労働をさせた以上は、労基法37条に基づき、割増賃金を支払う義務があります。

もし、これを支払わない場合には、労基法違反となり、刑事罰が科されるリスクもあります。

残業時間の立証責任

残業時間=労働時間の立証責任は、労働者側にあります。

しかしながら、使用者には、労働者の労働時間を適正に把握する義務があるため、労働者がある程度の立証をした場合には、その時間が労働時間ではなかったことを、使用者が反証していかなければならないところがありますので注意が必要です。

未払い賃金請求の対応

未払い賃金や残業代を請求される場合の多くは、辞めた従業員から内容証明郵便が届くことから始まります。

ある日突然、会社に内容証明郵便が届くため、驚かれる方が非常に多いです。

初動対応の重要性

多くの事件に漏れず、初動対応は非常に重要です。

まずは、請求の内容を把握したうえで、事実関係を調査しなければなりません。また、この段階で弁護士に依頼することをお勧めします。

未払い賃金や残業代を請求されている以上、紛争となってしまっていますから、専門家である弁護士とともに会社にとって有利な解決を模索していくべきです。

また、会社だけで相手方に対応した結果、時効にかかっていた部分まで承認してしまうなどのリスクもあります。

請求を放置した場合のリスク

請求が来た場合は、誠実に対応するべきです。

事実関係を確認した場合には、会社が請求に対して支払う義務を負っていない場合もあり得ますが、その事実関係を確認するにも、相手方に対して、事実関係を精査するので、回答を待ってほしいと一言伝えておくべきです。

請求を放置した場合には、紛争が会社と相手方の二当事者間のみで終了せず労働審判などに発展する恐れが高く、付加金のリスクなどが増加していく恐れがあります。

会社側が主張すべき反論

会社が主張すべき反論として主だったものは、以下の5つです。

未払い賃金・残業代は発生していない

そもそも、未払賃金や残業代が発生していない=従業員が主張する労働時間が誤りであるという主張です。

実務上、従業員が主張する労働時間は、会社の指揮命令下にない時間であったとか、そもそも過大な請求であるという場合があります。

そのため、労働時間を精査したところ、未払賃金や残業代は発生していないという反論が考えられます。

会社の許可なく残業をしていた

また、就業規則上、「従業員が、時間外労働、深夜労働及び休日労働をする場合、あらかじめ所属長に申請してその許可を受けなければならない。」などとして残業の許可制を採用している会社であれば、当該従業員が残業の許可を得ていないという反論が考えられます。

会社の指揮命令に反した労働であるとして、労働時間制を否定するというものです。

注意が必要な点としては、残業の許可制を採用していたとしても、残業の許可を得ないことが恒常化しており、それを会社も把握しているため、黙示の指揮命令が認定されてしまうケース等では、残業許可制を採用し、許可を出していないからと言って労働時間制が否定されるわけではありません。

残業許可制を採用した場合、制度運用にも気を付けておく必要があります。

管理監督者からの請求である

労基法上、時間外労働などに関する割増賃金等を支払う必要がないものとして、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者…」(労基法41条2号)、いわゆる管理監督者がいます。

管理監督者からの請求であれば、残業代を支払う必要はありませんので、当該労働者が管理監督者であるということが、請求に対する反論(抗弁)となります。

もっとも、管理監督者とは「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体の立場にある者」を言うとされており、厳しい要件の下で認定されるものなので、当該労働者が管理監督者であるかどうかは精査しておく必要があります。

定額残業代として支払い済みである

定額残業代とは、固定残業代とも言いますが、時間外労働、休日及び深夜労働に対する各割増賃金として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額であり、このような残業代支払のシステムを定額残業代制(固定残業代制)といいます。

そのため、その従業員の主張する労働時間に対応する残業代は、既に支払い済みであるという主張になります。

注意すべき点としては、定額残業代が有効であるためには、いわゆる対価性要件、明確区分性要件が必要とされています。仮に「基本給25万円に固定残業代を含む」という漠然とした定めでは、無効とされてしまい、定額残業代の支払いとしては認められず、基礎単価も高額になりかねません。

定額残業代制を採用する場合には、弁護士など専門家のアドバイスが必須です。

消滅時効が成立している

未払い賃金や残業代の時効は、令和2年3月までの支払い分については、2年です(令和2年4月1日以後に賃金支払期日到来のものは、当分の間「3年」です。)。

そのため、これよりも遡った期間の請求がなされている場合には、消滅時効の援用をしなければなりません。

未払い賃金請求の和解と注意点

和解する際には、他の労働者への波及を防ぐ観点から、金銭支払いの名目は「解決金」としておくことをお勧めします。また、出来ることならば、和解内容に関して口外禁止条項を入れておくことも重要です。

また、会社のみならず、役員や他の労働者に損害賠償請求を行わないという条項が盛り込めるようであれば、一挙解決のために盛り込むこともお勧めします。

付加金・遅延損害金の発生

残業代に関する割増賃金の支払いについては、訴訟において請求された場合には、「使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。」(労基法114条)とされています。そのため、倍額の支払いを命じられるリスクがあります。

また、賃金を支払っていないということは、債務不履行ですから遅延損害金の支払義務を負うことになります。従業員が退職した後は年14.6%での請求が可能(賃確法6条1項、同施行令1条)とされていますので、遅延損害金も、残業代などの支払いをしなかった場合のリスクとして、会社に重くのしかかってきます。

弁護士に依頼すべき理由

残業代請求事件は、近年増加傾向にある紛争事件です。

仮に弁護士に依頼せず、労働時間の反証が認められないとか、消滅時効の援用を失敗してしまった場合には金銭的に重い負担を負いかねませんし、他の労働者に波及しない解決を目指すには、紛争解決の専門家である弁護士の関与が必要不可欠です。

弁護士に依頼することで、最良の解決に導くことができますので、残業代を請求された会社の方は、ぜひ弁護士にご依頼ください。

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