監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
近年、企業にとって、ハラスメント問題は、ますます重要な問題となってきています。 社内でハラスメントが発生した場合、会社に損害賠償責任が認められるリスクがあるだけではなく、被害者の離職といった人材の流出や職場環境の悪化による業績低下など、法的責任にとどまらないデメリットがあります。 ハラスメントを未然に防ぐこと、また万一発生してしまった場合に適切な対処をしていくことは、会社経営にとって必要不可欠です。
目次
ハラスメント問題による企業リスク
ハラスメント問題が発生した場合に、企業に生じるリスクは、法的責任だけではありません。
当然、ハラスメントによる損害賠償責任を負うことも、企業にとって重大なリスクです。
しかし、ハラスメントを行う者がいる職場では、職場環境が悪化し、業務効率が低下してしまうことも多く、経営上、業績が上がらなくなるという問題も発生します。
また、被害者は、ハラスメントされたことを理由に離職してしまうこともありますし、ハラスメントがある職場にはいられないと、周囲の労働者も、職場から離職してしまうことが多く、貴重な人材が流出する事態になることが多いです。
加えて、社会のハラスメントに対する評価は年々厳しいものになってきており、会社の事業や新規採用にも影響を及ぼしかねません。
このようにハラスメント問題による企業リスクは、法的責任にとどまらないものがあります。
企業で問題となりうる代表的なハラスメント
パワーハラスメント(パワハラ)
職場におけるパワーハラスメントとは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」であるとされます(改正労働施策総合推進法第30条の2第1項)。
したがって、①優越的な関係を背景とした言動、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、③労働者の就業環境が害されるものの三つの要件全てを満たすものが、事業主に防止措置を取ることが義務付けられた職場におけるパワーハラスメントです。
重要な点としては、①職務上の上下関係のみならず、経験豊富な部下や同僚の集団が行う行為もパワハラに該当し得るとされた点や、②業務上必要かつ相当な指示命令(遅刻などを普通の態様で注意すること等)はパワハラに該当しないとした点、③個人の感じ方ではなく、社会⼀般の労働者を基準に支障があるかが指標となる点などになります。
セクシャルハラスメント(セクハラ)
職場におけるセクシュアルハラスメントとは、「職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること」をいいます(男女雇用機会均等法11条)。
この条文からもわかるように 「職場におけるセクシュアルハラスメント」には「対価型」と「環境型」があるとされています。
対価型セクシュアルハラスメントとは、例えば、社長が社員に対し、性的な関係を要求したところ拒否されたので、その社員を解雇することや、車で移動している最中に、課長が社員の胸や腰などを触ったところ、抵抗されたので、その社員を配置転換すること等は、この対価型セクシュアルハラスメントに該当します。
環境型セクシュアルハラスメントとは、例えば、労働者が抗議しているのに、同僚が業務に使用するパソコンでアダルトサイトを閲覧しているため、それを見た労働者が苦痛に感じて業務に専念できない場合などをいいます。
セクシュアルハラスメントについては、男女の認識の違いによって生じていることもありますから、労働者の意に反する性的な言動かどうかや、就業環境が害されるかどうかについては、各被害者の性別に応じ、平均的な女性労働者の感じ方や、平均的な男性労働者の感じ方を基準とすることがポイントになってきます。
マタニティハラスメント(マタハラ)
職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(以下、「職場におけるマタニティハラスメント」といいます。)とは、「職場」において⾏われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業等の利⽤に関する言動)により、妊娠・出産した「⼥性労働者」や育児休業等を申出・取得した「男⼥労働者」の就業環境が害されることをいうとされています(男女雇用機会均等法第11条の3、育児・介護休業法第25条参照)。
職場におけるマタニティハラスメントには、制度等の利用への嫌がらせ型と状態への嫌がらせ型があるとされています。
制度等の利用への嫌がらせ型とは、例えば、男性が育児休業を取得しようと上司に相談したところ、「男が育児休業を取るなんてふざけているのか」と言われ、取得をあきらめざるを得なくなる場合など、制度の利用の請求などをしたい旨を相談したこと等に対し、解雇その他の不利益な取り扱いを示唆することなどが該当します。
状態への嫌がらせ型とは、例えば、女性が上司に妊娠を報告したら「他の⼈を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と告げられるなど、妊娠等をしたことに対して、解雇その他の不利益な取り扱いを示唆することなどが該当します。
その他問題となるハラスメント
他にも、カスタマーハラスメントなど、顧客からハラスメントを受けた従業員への対応なども問題となります。
また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴ったコロナウイルスハラスメント(感染の疑いがあるものに対し、差別的取り扱いを行うなど)や、テレワークの普及に伴うテレワークハラスメント(プライベート空間への過干渉など)も問題となってきています。
問題となりうるハラスメントの行為
ハラスメントの種類 | ハラスメント行為 |
---|---|
パワーハラスメント(パワハラ) | ・身体的攻撃 ・精神的攻撃 ・人間関係の切り離し ・過少、過大な要求 ・個の侵害 |
セクシュアルハラスメント(セクハラ) | ・対価型セクシュアルハラスメント ・環境型セクシュアルハラスメント |
マタニティーハラスメント(マタハラ) | ・制度等の利用に対する嫌がらせ ・妊婦に対するの嫌がらせ |
SOGIハラスメント(SOGIハラ) | ・望まない性別での生活の強要 ・アウティング |
カスタマーハラスメント(カスハラ) | ・顧客からの暴言など迷惑行為 |
各種ハラスメント問題における企業の法的義務
労働契約の付随義務としての安全配慮義務として、ハラスメント被害を認識した事業主には、その被害を防ぐ義務があります。これを怠れば、安全配慮義務違反として損害賠償責任を負うことになります。
また、各種法律によって、事業主には、パワハラやセクハラ、マタハラの各種ハラスメント防止のために雇用管理上講ずべき措置が義務付けられています。
パワハラ防止法の成立と企業の取り組み
令和2年6月から、パワハラ防止法が施行されました。これによって、はじめて職場におけるパワーハラスメントが法律上定義され、企業には、この防止のために雇用管理上講ずべき措置が義務付けられました。
パワハラ防止法が施行される前から、職場におけるパワーハラスメントが許されていたわけではありません。
しかし、今後、雇用管理上講ずべき措置義務を懈怠している企業に対しては、より損害賠償責任が認められやすくなると考えられます。
そのため、パワハラ防止措置について、パワハラ防止法が施行される前と比べて、より積極的に導入している企業が増えてきた印象があります。
企業が行うべきハラスメント防止措置
各種法律によって求められる、企業が行うべきハラスメント防止措置は、主に以下の四つのポイントにまとめられます。
ハラスメントに対する方針の明確化・社内周知
各種ハラスメントについて、会社はこれを許さないことを、トップメッセージや社内研修などで周知し、また就業規則でハラスメント行為を禁止、懲戒事由とすること等が、ここでいうハラスメントに対する方針の明確化・社内周知の一例として挙げられます。
相談窓口の設置、適切に対応するための体制整備
ハラスメントが生じる前から、相談窓口を設置し、また、相談があった場合の対応を、相談担当者への研修やマニュアルの作成によって準備しておくことが、ここでいう相談窓口の設置、適切に対応するための体制整備の一例として挙げられます。
事後の迅速かつ適切な対応
ハラスメントの相談があった場合に、事実関係を迅速かつ正確に確認し、その後、ハラスメントがあった場合には適切な被害回復と行為者への対応をすること、その事案の解決だけでなく、社内での再発防止措置を講ずることが、ここでいう事後の迅速かつ適切な対応の一例として挙げられます。
関係者のプライバシー保護・不利益取り扱い禁止
当然ですが、関係者のプライバシーを保護する必要があります。相談対応は、出来る限り個室でプライバシーが確保された場で行うなどの配慮が求められます。
また、当然ですが、会社にハラスメントの相談をしたことで、解雇等の不利益な取り扱いを受けることがあってはなりませんので、そのような不利益取り扱いを禁止するように求められます。
企業内でハラスメントが発生した場合の対応
前記したとおりですが、まずは事実関係の迅速かつ正確な確認を行うことが第一になります。
事実関係の確認
ハラスメントにおいては、被害者(相談者)としては、ただ相談したかっただけで、行為者や第三者に対する事実確認を望んでいないケースもあります。まずは、被害者から、行為者に対して事実関係の確認をしてよいかの同意を取ることから始めましょう。
その後、行為者とされる者から話を聞き、事実関係に食い違いがあった場合には、守秘義務があることを明示して、周囲の同僚などの第三者から事実関係を確認することになります。
ハラスメントの判断基準
ハラスメントの判断基準は、基本的には、平均的な(セクハラにおいては男性又は女性)労働者の感じ方が基準となります。そのため、事実確認の結果、判明した事実を前提に、平均的な労働者であれば、どう受け止めるかを考えながら判断する必要があります。
加害者・被害者への対応
被害者へのフォローアップ
パワハラやセクハラがあった場合で、被害者が労働条件に置いて不利益を受けているとすれば、これを回復する必要があります(業務量に偏りがある等。)。
また、行為者(加害者)からの謝罪の場のセッティングや、そもそも距離を話すべきであるというのであれば配置転換を検討すること等、被害の回復に努める必要があります。
メンタルヘルス不調に陥っているケースもありますから、その相談対応も実施していく必要があります。
なお、仮に事実関係からはハラスメントがあったと認定できない場合でも、フォローを行うようにお勧めします。
継続的なフォローを行うことで、ハラスメントへの発展を防いだり、従業員のメンタルヘルス不調を防ぐことが期待できます。
加害者(行為者)への処分
パワハラやセクハラがあった場合には、就業規則などの規定に基づいて、懲戒などの処分を講ずることが必要となってきます。また、被害者との関係改善を図ったり、距離を離すための配置転換などの措置も検討が必要になります。
被害者へのフォローと同様に、事実関係からは、パワハラやセクハラがあったとは認定できない場合でも、行為者(とされたもの)に対しても、継続的なミーティングなどを設けて、事態の更なる発展を防ぐことが必要になります。
弁護士へハラスメント問題を依頼するメリット
以上に述べたように、企業にとって、ハラスメントの問題はますます無視できない問題となってきています。
また、企業に課される防止措置義務を果たすためには、専門家の関与が不可欠です。特に、ハラスメント研修などは、弁護士などの専門家による研修を行った方が効果は上がりやすいです。
実際にハラスメント問題が生じた際も、自社の窓口対応では困難が生じる場合などには、弁護士に依頼することで、事態の更なる悪化を防ぐこともできます。
弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所では、ハラスメント研修や、相談窓口研修などのサービスや、就業規則整備、ハラスメントが紛争化した際の代理業務などのサービスを提供しています。
埼玉県内で、ハラスメント問題にお悩みの企業の方は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所にご相談ください。
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保有資格弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
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