労務

職場におけるパワーハラスメント対応-パワハラ防止法施行を踏まえて-

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

  • 企業で発生するハラスメント問題について

パワーハラスメントによる弊害

一般的な会社であれば、労働者にとって会社は、1日8時間、週40時間もの長い時間を過ごす場所です。その中で、労働者は上司や部下、先輩後輩、同僚など様々な人間と関係を持ちます。それに仕事には自己実現の側面もありますから、職場とは、労働者の人生にとって非常に重要な場所の一つです。

このような場所で、パワーハラスメントによって尊厳や人格を害されてしまうと、意欲や自信を失い、場合によってはメンタル疾患等に罹患してしまうこともあり得ます。

加えて、被害者だけでなく、職場環境の悪化や、生産性の低下による企業の業績悪化、パワーハラスメントがある職場だと世間に知られることで企業のイメージダウンなども生じてしまいます。

パワーハラスメント防止法の成立と施行

このような弊害を防止するため、労働施策総合推進法が改正され、企業に措置義務等が課されました。これがいわゆるパワーハラスメント防止法と呼ばれる法律です。

この措置義務は、大企業に対しては2020年6月1日から施行されます。最も中小企業は2022年3月31日まで措置義務の対象外とされているだけですので、それ以降には適用がありますから他人事ではいられません。

職場におけるパワーハラスメントとは

同法では、パワーハラスメントとは何かについて初めて法律上に明記しました。

  • ①優越的な関係を背景とした言動であって
  • ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
  • ③労働者の就業環境が害されること

この3つの要素を満たすものが、職場におけるパワーハラスメントとされます。

この3要素については、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」によって、どのような場合が該当するかが明らかにされています。

優越的な関係を背景とした言動

優越的な関係を背景とした言動とは、「当該事業主の業務を遂行するに当たって、当該言動を受ける労働者が当該言動の行為者とされる者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるもの」をいいます。

これは、典型的な上司から部下に対するパワハラ、権力を背景にしたものだけを指すのではなく、同僚又は部下による言動であったとしても、集団による無視であるとか、ベテランの部下が、新人の管理職に対して行うものも含むということです。

職場における、何らかのパワー(優越的な関係)を背後においているならば、職場におけるパワーハラスメントには該当することを明らかにしています。

業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

業務上必要かつ相当な範囲を超えたものとは、「社会通念に照らし、当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要性がない、又はその態様が相当でないもの」をいいます。

労働者の人格を非難するような言動は、業務上到底必要な行為とは言えませんが、他方で、労働者の社会的なルールを逸脱する行い(例えば、何度注意しても遅刻を繰り返すとか。)に対し、一定程度強い口調で注意を行うことまでがパワーハラスメントとされてしまうようでは、職場秩序を守ることは出来ません。もっとも、あまりに強すぎる注意や、指示指導の方法によってはその態様は相当性を欠いてしまうこともあり得ます。

セクハラと異なり、パワーハラスメントと言われ得る行為の中には業務上合理的な理由があるものもあり得るために、職場におけるパワーハラスメントに該当するには、業務上必要性がないか、またはその態様が相当ではないことが必要とされることを明らかにしています。

労働者の就業環境が害されること

労働者の就業環境が害されることとは、「当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」をいいます。

これは、単に注意された労働者が不快になったら該当するというのではなく、平均的な労働者の感じ方を基に判断するとされています。

職場におけるパワーハラスメントの該当性判断について

以上で述べた、2.1~2.3までの要素を総合考慮して判断すべきとされています。

また、指針において、パワハラの6つの類型(身体的攻撃、精神的攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害)に該当する例、該当しない例が示されたので、これらのうちのどの類型に該当するかも踏まえて判断していくことになります。

パワハラ防止法で企業に求められること

パワハラ防止法では、以下の4つの措置義務が課せられました(望ましい取組みもあります。)。

  • ①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  • ②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • ③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
  • ④①から③での措置と併せて講ずべき措置

事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

事業主は、自社内でパワーハラスメントを許さないことを就業規則などに明記し、また例えば社内にトップメッセージを出すことで改めて周知する義務があるとされました。

加えて、パワーハラスメントが生じた場合には懲戒処分の対象となること(もし、懲戒規定がなければ、それを明記したうえで。)を労働者に周知する義務があるともされました。

また、職場におけるパワーハラスメントとは、どういった行為が該当し得るのかなどについて社内に研修を行うこと等も要求されました。

これは、自社のトップが強い姿勢でパワハラを許さないことを示し、労働者に周知・啓発することで、パワーハラスメントが生じる風土を改善していくこと等に目的があります。

相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

第三者機関に委託してもよいですが、パワーハラスメント相談窓口を、問題が生じる前に設置し、労働者に周知しておくべきことが義務付けられました。

また、単に相談窓口を設置するだけではなく、きちんとした体制を整えておく必要もあるため、相談対応者の研修を行ったり、相談にあたっての留意点を記載したマニュアルを作成すること等も必要であるとされています。

職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応

当然のことかもしれませんが、労働者が相談窓口に来た場合には、事後の対応を行う必要があるとされました。

労働者が話を聞いてほしいだけの場合の他は、事実関係の確認をしなければなりません。また、事実関係が明らかになり、職場におけるパワーハラスメントがあったと判断できる場合には、被害者である労働者及び行為者である労働者に対して、対応しなければなりません。

また、相談にきた問題が解決したとしても、再発してしまう恐れがありますので、再発防止のために、改めて研修を行うなど再発防止をしなければならないともされました。

①から③での措置と併せて講ずべき措置

これは先にも少し述べましたが、プライバシーに十分配慮すべきことと、相談や事実確認へ協力したことによって、不利益に取扱うことの禁止や不利益取扱いをしないことを周知・啓発することが義務付けられました。

改正労働施策総合推進法において明記されているところですが、労働者がパワーハラスメントの相談をしたことで不利益に取り扱うことは禁止されています(同法30条の2第2項)。当然のことかもしれませんが、労働者からすれば、会社に対してパワーハラスメントの相談をすることは、それほどまでに障壁がある行為です。

そのため、十分にプライバシーに配慮し、不利益扱いを行わないことを労働者に周知・啓発することが必要です。

終わりに

このほか、職場におけるパワーハラスメントの発生の要因を解消するために望ましい取組も指針において告示されており、企業に求められるパワーハラスメント防止措置は、多岐にわたります。

パワハラ防止法により企業には措置義務が課されましたので、例えば、相談窓口対応を怠ったことや事後の適切な対応を怠ったことなどを捉えて安全配慮義務違反の責任を負うことも、十分に考えられるところであり、罰則がないからと言って、企業にとって、パワハラ防止措置を放置することは出来ません。

もっとも、今年の6月から施行されるものであり、実際にどのような形で進めていけばいいのか、わからない企業様も数多くいらっしゃると思います。

埼玉県内で相談窓口の整備や、車内のパワハラ研修、事後の対応に関することでお悩みの企業様は、ぜひ弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所へご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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