監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
- 給与・賃金
最低賃金という単語を聞いたことがある方は多いと思います。
ただ、最低賃金制度の詳細については、ぼんやりとしか理解していない方が多いです。今回は、最低賃金制度の概要と、最低賃金制度に違反した場合の労基署の対応について、ご説明したいと思います。
目次
最低賃金制度の概要
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低限度を定め、会社が、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です(労基法28条、最低賃金法)。
仮に最低賃金よりも低い給与額で労働者を雇い入れたとしても、最低賃金法によって無効とされて、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされます(最低賃金法第4条2項)。
そのため、仮に会社が労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合には、最低賃金との差額を支払う必要があります。
地域別最低賃金
地域別最低賃金とは、産業や職種にかかわりなく、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金として定められるものです。
各都道府県ごとに定められているので、全部で47件の最低賃金が定められています。
特定最低賃金
特定最低賃金とは、特定の産業について定められた最低賃金です。
関係労使の申出に基づいて最低賃金審議会の調査審議を経て、同審議会が地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた産業について定められています(ただし、18歳未満又は65歳以上の方、雇入れ後一定期間未満で技能習得中の方、その他当該産業に特有の軽易な業務に従事する方などには適用されません。)。
令和2年4月1日時点で、全国で228件の最低賃金が定められています。
この228件のうち、1件だけ全国単位で定められており(全国非金属鉱業最低賃金)、その他は各都道府県内の特定の産業について定められています。
最低賃金の減額特例について
最低賃金制度は例外が定められています。
一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため、①精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者、②試の使用期間中の者、③基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める者、④軽易な業務に従事する者、⑤断続的労働に従事する者については、会社が都道府県労働局長の許可を受けることを条件として個別に最低賃金の減額の特例が認められています。
最低賃金法に違反した場合のリスク・罰則とは?
最低賃金法に違反した場合には、前記したとおり、最低賃金額との差額の支払い義務があります。
また、地域別最低賃金額以上の賃金額を支払わなかった場合、50万円以下の罰金が定められています(最低賃金法40条)。特定(産業別)最低賃金額以上の賃金額を支払わなかった場合には、30万円以下の罰金が定められています(労働基準法120条)。
それ以外にも、最低賃金を支払っていない会社として、会社の社会的信用を失うリスクもあります。
最低賃金制度に違反した場合の労基署対応
最低賃金制度に違反した場合には、労基署から以下の対応がなされます。
労働基準監督署による立ち入り調査
まず、労基署から立ち入り調査をされる可能性があります。
立ち入り調査(臨検監督)の種類
立ち入り調査には、定期監督と言われるものと、災害時監督、申告監督、再監督といったものがあります。
最低賃金違反については、定期監督か申告監督によることになりますが、予告なく行われる場合が多いです。
立ち入り調査でやってはいけない対応とは?
企業は誠実に立ち入り調査に対応しなければなりません。
間違っても、労基署からの調査を拒むことはしない方が良いです。それをきっかけに強制捜査に発展する可能性もあります。
弁護士の立ち会いを依頼すべき理由
顧問弁護士等に立ち合いを依頼することで、労基署に対し、企業の実情を踏まえた対応を行うことができます。
また、労基署に対して、顧問弁護士と共に改善に着手することを伝えることで、労基署に対して法令順守の姿勢をアピールすることもできます。
違反が認められた場合の是正勧告書の交付
仮に立ち入り調査で問題点等が発見された場合、労基署からは是正勧告書、指導票、使用停止等命令書が交付されます。
臨検監督を行い、当該事業場において法違反が発見された場合に、労働基準監督官が違反事項を説明し、期日を指定して是正を勧告します。この際に交付するのが是正勧告書です。
是正報告書の作成・提出
是正勧告書には、違反している法律の街灯条項、違反事項、是正期日が規定されていますので、企業は、是正勧告書に記載された事項の趣旨に従って是正期日までに、労働基準監督署所長に是正報告書を作成・提出することになります。
指導票を交付された場合の対応は?
指導票は、法違反には該当しないものの、改善した方が好ましい点がある場合等に交付されます。
ただ、指導票に対しても、指定された日までに是正報告書を作成・提出しなければなりません。
法違反が認定されていないので、従わなくても、そのこと自体で処罰されることはありませんが、コンプライアンス上は好ましくありません。
是正勧告に従わない場合は逮捕・送検のおそれ
是正勧告に従わない場合は、是正する意図のない悪質な事業者と判断されて、送検などの厳しい対応を受けかねません。
労基署とコミュニケーションを取りながら、是正措置を行っていくべきです。
最低賃金制度に違反しないために企業がとるべき対策
一般的に最低賃金額を下回る賃金を採用している企業は存在しません。
しかしながら、地域別最低賃金額は、毎年(10月に改訂されることが多いです。)確認しておかなければ、事後的に最低賃金を下回ってしまう恐れがあります。
企業は、毎年定められる地域別最低賃金額に十分に注意を払っておく必要があります。
最低賃金を下回っていないか確認する方法
最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。
具体的には、実際に支払われる賃金から①臨時に支払われる賃金(結婚手当など)、②1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)、③ 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)、④所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)、⑤午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)、⑥精皆勤手当、通勤手当及び家族手当を除外したものが最低賃金の対象となります。
自社の給与が最低賃金を下回っていないかを確認する方法としては、最低賃金の対象となる上記賃金額と適用される最低賃金額を以下の方法で比較することになります。
① 時間給制の場合
時間給≧最低賃金額(時間額)
② 日給制の場合
日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、
日給≧最低賃金額(日額)
③ 月給制の場合
月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
④ 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。
⑤ 上記①~④の組み合わせの場合
例えば、基本給が日給制で、各手当(職務手当など)が月給制などの場合は、それぞれ上記②、③の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。
最低賃金にまつわる裁判例
最低賃金にまつわる裁判例として帝産キャブ奈良事件(奈良地判平成25・3・26労判1076号54頁)があります。
事件の概要
固定給+歩合給のタクシー乗務員として勤務していた乗務員が、最低賃金との差額を請求してきた事案です。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所は、不就労時間及び組合活動時間を所定労働時間から控除すべきとする企業側の主張を退け、1か月の所定労働時間の実数を算定し、また、特別勤務手当は雇用契約とは別個の労務に対する報酬に該当するから、同手当を最低賃金の制限対象としての歩合給に含めるべきではないなどとして、未払賃金請求を一部認容しました。
ポイント・解説
(月額固定給÷月間所定労働時間+月額歩合給÷月間総労働時間)で、当該月の時間当たり賃金額を算出して、最低賃金(時間当たり)と比較したところがポイントです。
労働基準監督署への対応でお困りなら弁護士にご相談ください。
労働基準監督署からの立ち入り調査は、対応を間違うと強制捜査のおそれもあり、企業にとって非常に重要な問題です。
可能な限り、顧問弁護士等の専門家の協力の下、立ち入り調査などに対応していくべきです。
埼玉県内で労働基準監督署への対応でお悩みの企業の方は、ぜひ一度弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。
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保有資格弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
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