能力・適格性が欠如する問題社員対応

公開日:2020年10月8日
  • 問題社員の解雇・雇い止め

従業員を雇用する以上、避けて通れない問題として、解雇問題があります。

整理解雇など、会社側の事情を理由として行われるものもありますが、その多くは、従業員の能力不足や適格性欠如等、従業員側の事情を理由とするものです。

ただ、能力不足や適格性欠如を理由とする解雇は、事後的に不当解雇として争われるリスクが高く、裁判で不当解雇と判断されたときには、高額な支払いを命じられるリスクもあります。

能力不足・適格性が欠如していることの問題点

従業員は、会社に対し、労働契約に基づく労務提供義務を負っているわけですから、その債務を履行できない程度に能力が不足していたり、適格性が欠如しているのであれば、債務不履行になってしまいます。

単に、指導不足であるという場合であれば、ともかくとして、労働契約上、通常想定される業務が全くできないという場合には、これを原因とした普通解雇もあり得るでしょう。

企業や他の社員に及ぼす影響

能力不足や適格性欠如の社員がいる場合、会社が通常想定した従業員としての働きをしていないということになりますから、業績悪化や、業務効率低下などのデメリットがあります。また、他の従業員からすれば、その社員が分担すべき業務の負担が自分たちに降りかかってくることで、ストレスをためてしまうことになり、最悪の場合は退職に至ることもあり得ます。

能力・適格性の欠如は解雇理由になり得るのか?

能力不足・適格性欠如は解雇理由となり得ますが、いわゆる解雇権濫用法理による制限を受けます。

解雇権濫用法理との関係

解雇権濫用法理とは、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(労契法16条)というものです。

したがって、解雇は客観的に合理的な理由があって、社会通念上相当と認められない限り、権利濫用として無効とされます。 能力不足・適格性欠如を理由とする解雇も、解雇である以上、同法理の制限をうけます。

裁判所による解雇の有効要件

裁判所による解雇の有効要件は、前記したとおり「客観的に合理的な理由」、「社会通念上相当」といった抽象的なものです。

結局のところ、実際の紛争では、従業員の債務不履行事由の有無、程度や改善の見込みなどに関する具体的事実の有無と、評価が争われることになります。また、同社における過去の事例との比較などが争われることになります。

解雇の根拠となる就業規則の規定

就業規則には、「退職に関する事項(解雇の事由を含む)」を記載することとされていることから(労基法89条3号)、就業規則上に記載のない事由による解雇が可能であるか問題とされます。

就業規則上の解雇事由は、あくまで例示列挙であるのが原則ですが、就業規則に列挙されていない事由による解雇は、解雇権濫用であるとの評価に結び付きやすいとされています。

大抵の企業の就業規則には、包括条項として「その他各号に準ずる事由」といった解雇事由が記載されていますので問題にはなりにくいですが、就業規則の解雇事由は具体的な記載とするよう心がけることをお勧めします。

企業は解雇回避のために努力する必要がある

解雇は、企業(使用者)の一方的な意思表示によって労働契約を終了させるものです。

解雇された労働者は、日々の生計の途を失うことになるため、労働者に与える打撃は極めて大きいです。

こういった事情から解雇は最終手段と位置付けられ、能力不足や適格性の欠如が見られたからと言って直ちに解雇が許されるものではなく、解雇を避ける努力をしたかどうかが、解雇権濫用法理の適用があるかどうかにおいては重視されます。

改善の機会を与える

解雇は最終手段であることから、労働契約という継続的な契約においては、将来にわたって債務不履行事由が継続することが予測されなければ、解雇を認めることは合理的ではありません。

従業員に能力不足や適格性欠如が一度見られたからと言って、それが将来にわたって継続することまで、直ちに予測することは出来ません。

そのため、従業員に改善の機会を与えることが求められます。

適切な教育指導をする

改善の機会としては、研修などの教育措置や、注意や警告などの指導が考えられます。

昨今の人材不足の現状からすれば、適切な教育指導による改善を第一に考えることが重要です。

配転や懲戒処分の検討

従業員が労働契約上、職種を限定されていないのであれば、配置転換を検討する必要があります。

従業員は会社に雇用されているのであって、現在の作業以外の作業であれば、十分に履行できるのであれば、解雇することは合理的ではありません。

また、あまりにも飛行が強いなら、軽微な懲戒処分による改善を図るということも検討されます。

退職勧奨

退職勧奨とは、労働者からの辞職の意思表示を求めること、または労働契約を合意解約することを求めることを意味しますが、いずれも解雇ではないため解雇権濫用法理の厳しい規制を避けることが出来ます。

整理解雇の有効性について特に問題となりますが、解雇は最終手段であって可能な限り避けるべきであることから、解雇とする前に、まずは退職勧奨を行うことをお勧めします。

問題社員を解雇する際の留意点

解雇は最終手段であることから、労働契約の内容を前提として、教育指導、配置転換などの手段を尽くしたことを、裁判所において主張立証できるように準備しておく必要があります。

解雇を検討する段階で、会社が可能な限り手を尽くしたといえない限りは、安易に解雇をすべきではありません。

証拠の重要性

教育指導については、口頭で行われることも多いですが、労働審判等では、言った言わないの水掛け論となる可能性が高いです。

後の裁判に備えて、メール等、記録が残る方法で注意指導をすることで、注意指導をしたかどうかや、その注意指導の態様等に関する争いを予防することができます。

新卒採用・中途採用の取り扱い

以上に述べてきたように、解雇が最終手段であることから、労働契約という継続的な契約においては、将来にわたって債務不履行事由が継続することが予測されなければ、解雇を認めることは合理的ではありませんが、この債務不履行事由については、当該労働契約において求められている業務内容に応じて違いがあります。

そのため、類型的に言えば、新卒採用と中途採用の場合では、取り扱いが異なることになります。

新卒採用の場合

新卒採用の場合、日本においては長期雇用を前提とした採用であって、将来における配置転換が前提となっていることが一般的です。また、採用時には業務経験がないことも普通ですから、企業の教育や研修によって、業務遂行能力を身に着けていくことが想定されています。

そういう意味で、特定の業務に対する能力不足や適格性の欠如があったとしても、別の業務への配置転換などが想定されますから、普通解雇を有効に行うことは困難です。

その他の解雇事由が認められない限り、合意退職で辞めてもらうほかありません。

中途採用の場合

中途採用の場合は、新卒採用と異なり、業務経験があることや、一定の能力があることが前提とした採用であることが一般的です。

そのため、労働契約で求められる業務の内容が特定・限定されていることも多いです。

この場合には、新卒採用の様に、配置転換などの手を尽くさなくとも、その特定の業務を行えないことによって、労働契約の債務不履行事由が継続していくことが予測可能になります。

そのため、職種や地位を限定した中途採用の場合には、新卒採用の場合と比べて配置転換までしなくとも普通解雇を有効に行うことが可能です。

協調性の欠如による解雇の妥当性

能力不足の場合と同様ですが、その従業員に通常求められている業務が何かを検討し、それを履行できているかという観点からの検討が必要です。

単に協調性が欠如していたとしても、他の同僚に害を与えていないとか、業績が良い場合に解雇を行うことは、妥当とは言えません。

協調性の欠如によって、その従業員に通常求められている業務に支障が生じているか、改善不可能かといったことを検討しなければ、解雇は無効とされるでしょう。

能力不足である管理職への対応

中途採用であれば、そもそも労働契約の内容が限定されていることが有りますから、管理職としての能力が不足しており、向上・改善の余地もないのであれば、配置転換や降格などをしなくとも解雇が有効となる余地があります。

逆に、新卒採用から徐々に管理職にまで昇進したものについては、労働契約で業務の内容が限定されていないため、管理職としての能力が不足し、向上・改善の余地がなかったとしても、配置転換や降格などをしなければなりません。

解雇の有効性が問われた裁判例

事件の概要

能力不足の社員に対する有名な裁判例にセガ・エンタープライゼス事件という裁判例があります。

これは、直近1年間の間に実施された3回の人事考課が全て下位10%であって、3回全体で全従業員3500名のうち、下位200名以内であった従業員に対し、退職勧奨を行ったが、従業員が拒否したため解雇した事案です。

同社の就業規則には「労働能力が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」に解雇するとの解雇条項があり、この条項に該当するとした解雇でした。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は従業員が会社の従業員として平均的な水準に達していなかったことを認定しつつ、「直ちに本件解雇が有効となるわけではない。」とし、同社の就業規則にいう「能動能力が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」とは、「平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、著しく労働能力が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならない」としました(東京地決平成11年10月15日)。

ポイント・解説

能力不足を理由とする解雇が全く許容されないわけではありませんが、同裁判例で、「相対評価を前提として、一定割合の従業員に対する退職勧告を毎年繰り返すとすれば、債務者の従業員の水準が全体として向上することは明らかであるものの、相対的に一〇パーセント未満の下位の考課順位に属する者がいなくなることはありえないのである。したがって、従業員全体の水準が向上しても、債務者は、毎年一定割合の従業員を解雇することが可能となる。しかし、就業規則一九条一項二号にいう「労働能率が劣り、向上の見込みがない」というのは、右のような相対評価を前提とするものと解するのは相当でない。すでに述べたように、他の解雇事由との比較においても、右解雇事由は、極めて限定的に解されなければならないのであって、常に相対的に考課順位の低い者の解雇を許容するものと解することはできないからである。」と述べられているように、相対評価を基準とすることは不合理な結果を招来することになります。

そのため、自社の社員が、他の社員と比べて劣っているからと言って、それを理由に解雇することはできません。

問題社員への適切な対応について、企業労務に強い弁護士がアドバイスいたします。

問題社員の類型として、能力不足・協調性欠如といった社員に関するご相談は頻繁に頂きます。

しかしながら、以上に述べたように、解雇には高いハードルがあり、できる解雇は避けるべきです。

問題社員への対応は、第一に注意指導から入ることが肝要です。この注意指導や配置転換等、取りうる手段を尽くしたうえで、最終手段として解雇を検討することをお勧めします。

また、解雇は、裁判所による事後審査を受ける可能性が高いため、自社のみで決断されることも避けるべきです。

弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所では、問題社員対応に関する研修や、実際の問題社員との退職交渉や、解雇後の労働審判、訴訟での代理人等、問題社員への対応を総合的にご依頼いただいております。

埼玉県内で、問題社員への適切な対応についてお悩みの企業様は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

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