生命保険金は相続の対象になる?

相続問題

生命保険金は相続の対象になる?

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

現在、国内で生命保険を加入されている方は非常に多くいらっしゃいます。

実際に公益財団法人生命保険文化センターの調査では、生命保険の世帯加入率が2人以上世帯では89.2%という調査結果も出ています。このような加入状況からすると、生命保険と相続との関係については、意外と身近なものとなっています。

本記事では、生命保険と相続との関係について解説します。

生命保険金は相続の対象になる?

ご存じのとおり、生命保険金は、被相続人である保険契約者が死亡することによって発生し、受取が可能となるものです。この保険金は遺産分割の対象となる相続財産に含まれるのでしょうか。

これは、生命保険金の受取人が指定されている場合と、受取人が指定されていない場合とで結論が異なります。

生命保険金を請求できるのは「受取人」として指定されている人

原則として、生命保険金を受け取ることができるのは、保険受取人(保険法2条5号)として指定された者です。

そのため、保険契約者たる被相続人が自身を被保険者とし、特定の者を、生命保険金を請求できる「受取人」として指定した場合は、指定された受取人が保険金請求権を固有の権利として取得する以上、相続の対象にはなりません。

受取人が既に亡くなっている場合

以上のように受取人が指定されている場合であっても、被相続人が死亡する前に同受取人が死亡する場合もあります。

この場合、当該受取人の法定相続人全員が生命保険金を受け取ることになります(保険法46条)。

他方、受取人にも被保険者たる被相続人にも法定相続人がいない場合は、当該生命保険金は国庫に帰属することになります。

受取人が指定なしの場合

なかには受取人の指定をされない方もいらっしゃいます。この場合、生命保険金が相続財産に含まれるか否かは、保険契約の内容によります。

保険契約者が自己を被保険者とし、保険金受取人を単に「被保険者又はその死亡の場合はその相続人」と約定し、被保険者死亡の場合の受取人を特定の氏名を挙げることなく抽象的にしている場合において、判例は、保険金請求権は保険契約の効力発生と同時に相続人の固有の財産になり相続財産にならないとしました。

他方、被相続人に生命保険金を支払う旨の保険契約になっている場合においては、判例は、生命保険金は相続財産に含まれることになるとしました。

生命保険金の請求に必要な書類

生命保険金の請求に必要な書類として、代表的なものは以下のとおりです。

  • 死亡保険金請求書(保険会社ごとに記載事項などが異なることがあります。)
  • 保険証券
  • 被保険者の死亡診断書(または死体検案書)
  • マイナンバーカードなどの確認書類
  • 被保険者の住民票
  • 受取人の戸籍抄本
  • (交通事故の場合には)交通事故証明書

生命保険金を受け取るための手続き

生命保険金を受け取るためには、まずは、受取人から当該生命保険会社に連絡をする必要があります。その後、保険会社から指定された必要書類を用意、提出します。

保険会社が保険金を支払う対象になるかを検討した後、保険金が指定の口座に入金されます。以下、詳しく解説します。

生命保険会社に連絡を取る

生命保険金を請求するためには、受取人から生命保険会社に対する連絡が必要不可欠です。連絡先は、保険証券や保険会社のウェブサイト等で確認できます。

保険会社に連絡をした際、担当者から証券番号や被保険者の氏などを尋ねられますので、保険証券や契約内容が確認できる書類を手元に置いておきましょう。

また、被保険者の死亡日や原因、受取人の氏名や連絡先も尋ねられることもありますので、これらの事項を答えられるようにしておきましょう。

請求手続をする

生命保険会社へ連絡をした場合、保険会社から、今後の手続の流れ、必要な書類等が案内されます。同案内に従って準備を進めましょう。

必要書類は上記に代表例を記載しましたが、中には保険会社から送付される書類もありますので、保険会社からの案内はメモを取る等して正確に対応をしましょう。

不明な点があれば、なんとなくで進めるのではなく、しっかりと保険会社に問い合わせましょう。

生命保険会社の審査

必要書類の提出が終わり次第、保険会社にて提出資料を基に、保険契約における保険金支払事由に該当するか等の審査を開始します。この審査を通過しなければ、保険金は一切支払われません。

生命保険金の受け取り

保険会社の審査を通過すれば、指定した口座に保険金が支払われます。その語、保険会社から指定の住所宛に明細書などが送付されますので、入金額や内容に誤りがないかどうか確認しましょう。

生命保険金は3年以内に請求しましょう

生命保険金の請求権は「行使することができる時」から3年間で時効により消滅します(保険法95条1項。なお、中にはかんぽ生命保険のように5年が時効とされている保険もあります。)。

そのため、生命保険金の請求は被保険者が死亡してからなるべく早めに手続を行いましょう。

生命保険金は相続放棄しても受け取れる

「相続放棄」とは、相続人が相続による包括承継の効果を全面的に否定する意思をいいます。つまり、「被相続人の相続財産を相続しませんよ」という意思表示のことです。

この相続放棄の手続を行った場合、相続財産を受け取ることはできません。もっとも、相続放棄しても生命保険金を受け取ることができます。

これは、上記のとおり、特定の者を、生命保険金を請求できる「受取人」として指定した場合は、生命保険金は指定された受取人の固有の財産であり、相続財産の対象にはならないからです。

生命保険金の受け取りに税金はかかる?

原則として、生命保険金を受け取った場合、相続税、贈与税、所得税等を納税する必要があります。これは保険料の負担者や受取人が誰であるかにより変わります。

契約者と被保険者が同じ人で、受取人は相続人

この場合には、相続税が課税されることになります(相続税法3条1項)。これは、相続によって生命保険金を受け取ったとみなされるためです。

なお、受取人が相続人でない場合は、遺贈により受け取ったものとみなされ(相続税法4条)、このときも相続税が課税されます。

契約者が受取人

この場合、生命保険金の受け取り方によって、一時所得又は雑所得として取り扱われ、所得税や住民税が課税されます(所得税法34条1項)。

  • 一括で保険金を受け取った場合→一時所得
  • 年金で数年にわたり毎年保険金を受けった場合→雑所得

契約者と被保険者と受取人がすべて違う人

この場合には、贈与税が課税されます(相続税法5条)。

これは、保険料の負担者が支払ってきた保険料によって発生した利益が契約者の生前に受取人に対して贈与されたと考えられるためです。

また、生命保険金を年金として受け取った場合には、当該年金を受け取る権利について贈与税が課税されることになります。

相続の手続でお困りなら、弁護士への相談がおすすめ

生命保険金を受け取る場合、生命保険金以外の財産の調査・検討が不可欠なことが多いです。

また、生命保険金の発生原因となる保険契約の内容を吟味しなければ相続の対象になるかどうかも判断できません。場合によっては、遺産分割協議が難航する場合もあるでしょう。

そこで、生命保険金の受取等でお悩みの方は、なるべく早めに弁護士に相談してみることをお勧めします。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。