相続手続きの一覧と期限について

相続問題

相続手続きの一覧と期限について

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

初めて親や子、兄弟などの親族が亡くなった場合には、様々な手続をしなければなりませんが、どのような手続を行えばいいか分からないという方も多いかと思います。そのような方に向けて、今回は相続開始後の手続を解説していきたいと思います。以下では、亡くなった方を「被相続人」と呼んで解説していきます。

相続の手続きには期限のあるものが多い

被相続人が亡くなると、その瞬間から相続が開始します。法律では、相続人の義務として様々なものが規定されておりますが、その多くは期限があります。期限を過ぎてしまうと罰則があるものもありますので、うっかり期限を過ぎてしまわないように、以下の内容をきっちり確認しておきましょう。

7日以内に必要な手続き

死亡届の提出
被相続人が死亡した場合には、死亡を知った日から7日以内に死亡届を役所に提出する必要があります。死亡した日ではなく、死亡の事実を知った日から7日以内に届出をすれば問題ありません。届出をしなければならないのは、同居の親族、同居している親族以外の人、家主などです。これらの人が死亡の事実を知った日から7日以内に届出をしない場合には、5万円以下の過料に処せられる可能性があります。
なお、同居していない親族も届出をすることはできますが、届出義務がありません。
死亡届には死亡の日時と場所が記載された診断書又は検案書を添付して提出する必要があります。

10日以内に必要な手続き

被相続人の年金受給の停止(厚生年金)
亡くなった人が厚生年金を受給していた場合には、死亡によって厚生年金を受給する権利が消滅することになります。そこで、厚生年金の受給している人が死亡した場合には、死亡した事実を厚生労働大臣に届け出ることが義務付けられています。届出義務があるのは、死亡届の届出義務者です。つまり、同居の親族は厚生年金の受給権者が死亡した事実を厚生労働大臣に報告する義務がありますが、同居していない親族にその義務はありません。
実際には、厚生労働大臣への届出は、年金事務所を通じて行いますので、年金事務所に届けであることになります。

14日以内に必要な手続き

被相続人の年金受給の停止(国民年金)

亡くなった人が国民年金を受給していた場合には、死亡によって国民年金を受給する権利が消滅しますので、亡くなった事実を厚生労働大臣に届け出なければなりません。この届出は、年金事務所を通じて行います。
亡くなった人が国民年金を受給していない場合(若者が死亡した場合など)であっても届出をする必要があります。届け出先は被保険者によって異なりますが、1号被保険者と2号被保険者は市区町村へ、3号被保険者は年金事務所へ届け出る必要があります。

3ヶ月以内に必要な手続き

相続方法の選択

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に相続をするか相続を放棄するかを決めなければなりません。自己のために相続の開始があったことを知った時とは、簡単にいうと、①被相続人が死亡した事実を知り、かつ、②自分が相続人となることを知った時のことをいいます。

単純承認
単純承認は、一番一般的な相続の方法です。被相続人が有していた権利と義務をすべて相続することになります。被相続人が所有していた家が自分の物になったり、被相続人が負っていた借金を返さなければならなくなったりします。自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に何もしないでいると、自動的に単純承認したことになりますので、相続放棄を考えている人は注意が必要です。

限定承認
単純承認の場合は被相続人が持っていたプラスの財産を超える借金があったとしてもすべて返さなければなりませんが、限定承認の場合は被相続人が持っていたプラス財産の限度で返済すれば足ります。このように借金の返済の原資に限定を加える承認を限定承認といいます。単純承認と同じで相続の承認はするものの、債務の弁済責任を制限する制度です。
一見すると魅力的な制度に見えますが、実際には手続がかなり煩雑であることなどから、ほとんど使われていない制度です。

相続放棄
相続放棄は、被相続人の死亡によって一応生じた相続の効果を確定的に消滅させる行為をいいます。簡単にいうと、被相続人の権利と義務を一切承継しないということです。家庭裁判所で相続放棄の手続を行うと、その相続人は、初めから相続人でなかったものと扱われます。

相続財産の調査、目録の作成

相続を承認するか、放棄するかは被相続人の財産や負債がどの程度あるかを見てから決めるのが一般的だと思われます。そうすると、最初に相続財産と負債がどの程度あるかを調査しなければなりません。財産の調査は相続放棄をするかを決定する期限である3か月以内にしなければなりませんが、どうしても調査が終わらない場合などには、期限を延長することもできます。
相続財産の調査が終わったら、財産目録(財産の一覧表)を作成するのが一般的ですが、これについては義務ではありません。

4ヶ月以内に必要な手続き

準確定申告
被相続人が年の途中で死亡した場合であって、被相続人が亡くなった年の確定申告をしなければならないときは、相続人は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までに、被相続人の納税地の所轄税務署長に対し、所得税の確定申告をしなければなりません。これを準確定申告といいます。
準確定申告は相続人が行うことになります。そのため、相続を放棄した場合には、初めから相続人ではないものとして扱われますので、準確定申告を行う義務がなくなります。

10ヶ月以内に必要な手続き

相続税の申告及び納税

相続によって財産を取得した人は、相続によって財産を取得したすべての人の取得財産の合計額が基礎控除額を超えるときは、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内に、相続税の申告をしなければならないとされております。
期限までに相続税の申告をしない場合には、一年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

1年以内に必要な手続き

遺留分侵害額請求
相続人であるにもかかわらず、被相続人が作成した遺言によって財産を取得することができなかった者は、遺言によって財産を取得した人に対して最低限の取り分(これを遺留分といいます。)に相当する金銭の支払いを求めることができます。このような請求を遺留分侵害額請求といいます。
遺留分侵害額請求は、遺留分侵害額請求をする人が相続の開始と遺留分の侵害を知った時から1年以内に行う必要があります。請求の方法は、裁判で請求する場合に限らず、裁判所外で、例えば内容証明郵便などで請求する方法でも構いません。

2年以内に必要な手続き

埋葬料・葬祭費の請求
協会けんぽなどの健康保険に加入している被保険者が死亡した場合で、被保険者によって生計を維持していた人が埋葬を行ったときは、埋葬を行った人は埋葬料の支給を受けることができます。
埋葬料は、権利を行使することができる時から2年を経過すると時効によって消滅してしまいますので、それまでに支給の申請を行う必要があります。
また、被相続人が国民健康保険に加入していた場合は、埋葬料という名称ではなく、葬祭費という名称になりますが、基本的には埋葬料と同じです。支給を行うのは市町村や国民健康保険組合となります。

3年以内に必要な手続き

生命保険(死亡保険)の生命保険会社への請求

被相続人が生命保険に加入しており、生命保険金を受け取ることができる場合には、保険金受取人は、保険会社に生命保険金の支払いを請求しましょう。この請求権は、権利を行使することができる時から3年経過すると時効によって消滅してしまいますので、その前に請求をする必要があります。

5年以内に必要な手続き

相続税の還付請求
計算ミスなどの理由により、相続税を多く払いすぎてしまった場合には、相続税の還付請求をすることができます。この還付請求をすることができる期間は、法定申告期限から5年以内とされており、相続税の法定申告期限は、相続人が相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内とされております。

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期限のない相続手続き

以下では、特に期限の定めがない手続を紹介します。法律などによって期限が定められていないというだけですので、いつまでも手続をしなくてもいいというわけではありません。期限はありませんが早めに手続を行った方がいいという前提で見ていきましょう。

法定相続人の確定

遺産を確定的に取得するためには共同相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。そして、遺産分割協議は、共同相続人全員で行わなければ無効となってしまうため、早いうちから誰が相続人であるかを確定する必要があります。特に期限があるわけではありませんが、どのような手続きを行うにしても相続人が誰であるかが問題となりますので、早めに戸籍謄本等を確認して相続人が誰であるかを確定しましょう。

遺言書の有無の確認、検認

法定相続人が誰であるかを確認するのと同じくらい大切なのが、遺言書の有無の確認です。遺言書があり、遺言書の中ですべての遺産の分割方法が定められている場合には、そもそも遺産分割協議を行う必要がありませんので、遺産分割協議を行うべきなのか、行わなくてもよいのかといったその後の手続を確定するために、早めに遺言書があるかどうかを確認しましょう。確認の方法としては、家の中を探したり、公正証書の場合には公証役場に問い合わせたりします。

遺産分割協議

遺産分割協議自体には、期限は特に定められておりませんが、遺産分割協議を行わなければ遺産である不動産を誰かに売り渡すことができません。預貯金についても、遺産分割協議書が無ければ金融機関は預貯金の解約手続に応じないのが一般的です。ですので、早めに遺産分割協議を行うのがよいでしょう。
また、遺産分割協議をしない間に相続人が亡くなってしまうと、さらにその相続人の相続人が遺産分割協議を行わなければならなくなってしまいますので、相続の手続は早めに行いましょう。

預貯金などの解約、名義変更

遺産分割協議または遺言によって預貯金を取得した場合の預貯金の解約についても、特に期限はありません。しかし、放っておいても良いことはないので、早めに手続を行った方がよいでしょう。

(不動産を相続する場合)相続登記

遺産分割協議または遺言によって取得した不動産の名義変更についても、特に期限はありません。しかし、放っておいても良いことはないので、早めに手続を行った方がよいでしょう。

(車やバイクを相続する場合)名義変更

遺産分割協議または遺言によって取得した自動車などの名義変更についても、特に期限はありません。しかし、放っておいても良いことはないので、早めに手続を行った方がよいでしょう。

相続の手続きは自分でできる?

相続の手続は、戸籍謄本や不動産登記事項証明書などの資料を集めて遺産分割協議を行うこと、遺産分割協議の成立後に取得した不動産の名義変更をすること、相続税の申告手続することなど様々なものがあります。それらすべてを自分で行うことはできないわけではありません。
しかし、それぞれの手続にはかなりの時間と労力を要するほか、税金や不動産の専門的な知識が必要になることが多いので、早いうちから専門家に相談・依頼することをお勧めします。

相続手続きについてわからないことがあったら弁護士にご相談ください

相続の手続には、以上で見てきたように、様々なものがあります。何から始めればいいか分からないということも多いかと思います。そのような場合には、相続にくわしい弁護士に相談してみるのが良いかと思います。
弁護士であれば、どのような手続をどのように進めればいいかをアドバイスすることができます。また、依頼者に代わって行うことができる手続も多くあります。
相続に関してわからないことがある方や、そもそも何から始めればいいかわからないという方は、まずは弁護士にご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。