労務

賞与査定と不当査定にならないためのポイント

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

  • 賞与

賞与の査定についてお悩みの企業の方は多いのではないでしょうか。前年同期と比べて低く査定した時、不当な査定だ等と従業員から訴えられてしまわないか、辞めてしまうのではないか等という悩みは尽きません。

そもそも、賞与査定において不当査定というものはあるのでしょうか。今回は、賞与査定と不当査定にならないためのポイントについて解説いたします。

目次

賞与の減額・不支給が違法かどうかは就業規則等の規定による

賞与を減額するとか、不支給にすることが違法となるかどうかは、結論から申し上げれば就業規則や契約書等に規定があるかどうかによります。

賞与の査定に関する法律上のルール

賞与は、それを支給するか否か、いくら支給するかが使用者(会社)の裁量にゆだねられているときは、任意的恩恵的給付であって賃金ではないと考えられています。

そのため、就業規則などに支給額が具体的に算定できる程度に算定基準が定められていないのであれば、労働者に不当査定などと申立てる権利はありません。

賞与の不当査定に該当するケースとは?

以上を前提にすると、例えば、「6月10日及び12月10日に、それぞれ月毎の基本給の1ヶ月分を支払う。」等と定められているのであれば、支給すること及びいくら支給するかが使用者の裁量にゆだねられていませんから、これに反する査定を行ったとすると、不当査定となってしまう=足りない金額について労働者に賞与支払請求権が生じることになります。

また、男女で金額が違うというように、労働者の思想、性別、所属組合などを理由として賞与の査定を変える場合には、最良の濫用として不当査定と判断されることになるでしょう。

賞与の不当査定をした場合の企業リスク

賞与の不当査定をした場合には、労働者の信頼を失うだけでなく、訴訟等で請求された場合に敗訴するリスクが高いといえます。

明確な支給基準がある場合とことなり、裁量の濫用の場合には、労働者に賞与請求権が生じていないと整理されるかもしれませんが、代わりに不法行為が成立して損害賠償請求を負うこともあり得ますので、敗訴リスクは、変わらず高いと言えるでしょう。

賞与査定と不当査定にならないためのポイント

就業規則などで1か月分等と明確に決めてしまえば不当査定となることはないでしょうが、企業の実情としては、固定化して権利化されてしまうことには不都合な面もあることから、難しいところです。少なくとも、以下の点に気を付けて査定を行うことで不当査定と言われるリスクを減らすことができるでしょう。

適切な査定方法で賞与額を決定する

恣意的な査定方法では、支給額を査定する人や時期によって不整合が生じてしまうことが考えられます。あらかじめ適切な査定方法を定めて賞与額を決定することが重要です。

賞与査定における3つの基準とは?

一般に、①業績評価、②能力評価、③行動評価という3つの基準を用いて賞与を査定することが多くなっています。

①は売り上げ目標等、目に見える数字に表れるもので、客観的な指標と言えるでしょう。
②は個人のスキルや資格などを評価するものです。
③は協調性や勤務態度などを評価するものです。

これらの基準で評価する項目を予め定めておくことで、恣意的な査定を防ぐことができます。

労働者に査定理由を説明できるようにしておく

労働者に、なぜこの金額となったのか説明できないようでは、不当な査定と言われても仕方ないというところもあります。上記したように、査定の基準をあらかじめ定めておくことで、労働者に査定の理由を説明できるようにすることが肝要です。

賞与査定について就業規則を見直す

裁量権はなくなっていくかもしれませんが、賞与の査定に関する就業規則の見直しも重要です。そもそも、使用者に支給の裁量がなければ就業規則に従わないだけで不当査定となってしまいますので、注意が必要です。

裁量を広げる方向で言えば、賞与について不支給があり得るという定め(「支給しない場合がある」とか「原則として支給しない。ただし、業績によっては支給することがある」など。)を置くことも重要ではあります。就業規則の見直しは、弁護士などの専門家に相談することをお勧めいたします。

【ケース別】賞与を減額・不支給とする際の注意点

以下では、ケース別に賞与を減額・不支給とする場合の注意点について解説していきます。

労働者の能力不足や問題行為を理由とする場合

賞与査定と支給は、労働者にとっても重大な関心を寄せる出来事ですから、能力不足や問題行動がある場合には、具体的な注意と改善に向けた指導ができるように準備しておく必要があります。

賞与が低い理由として、能力不足や問題行動を指摘されれば、次回は改善しようというモチベーションにつなげることもできます。その準備として、常に問題行動などについては、注意するたびに指導票などに記録を付けておくといった事前準備も重要です。

産休・育休の取得を理由とする場合

産休・育休の取得を理由として賞与の査定を減額することは育児介護休業法や男女雇用機会均等法に定める不利益な取扱いに該当しますので、できません。

ただ、査定期間中に産休・育休で働いていないことを考慮に入れて、出勤日数に応じた減額をすること自体はノーワークノーペイの観点からも問題はありません。

退職日予定者の賞与の減額・不支給について

賞与は任意恩恵的な給付の側面もありますが、一定期間の労務に対する対価の側面や将来の労務提供を奨励する趣旨も含まれていますので、退職予定者に対して、一定額の減額を行うこと自体は合理性があります。

ただ、あまりに大幅な減額は違法となる可能性もありますので注意が必要です。支給日在籍要件を設けるとか、賞与の支給自体に広い裁量を持たせて任意恩恵的な給付の性質のみを有するような形をとるなどして対処していくことが無難であると考えられます。

賞与査定が不当査定と判断された裁判例

賞与査定に関しては、日本圧着端子製造事件(大阪地判平成9年1月24日)があります。

事件の概要

元取締役であった従業員が、会社に対して夏季賞与について、主位的には300万円の支給について合意があったとして支給額(30万円)との差額を請求し、予備的には30万円は不当な査定であるから他の従業員と同等の基準で査定するように求めその場合は300万円の査定となるべきであるとして差額を請求した事案です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は、300万円の支給について合意した事実はないとする一方で、「被告会社において、その額を決定して初めて発生するものと解さざるを得ないが、被告会社の給与規定第三七条においては、賞与は会社の営業成績に応じ、従業員の勤務成績を考慮して支給するものとされ、賞与の支給時期及び支給対象期間も明記されているのであるから、被告会社においては、賞与を支給することが労働契約の内容となっていたというべきであり、賞与の額は、会社の営業成績及び当該従業員の勤務成績に応じた適正な査定に基く(ママ)金額であることを要すると解すべきである。」と判断しました。

そして、従業員給与月額、一般従業員の支給実績、勤務期間、役員賞与の受給状況などを総合的に考慮し、適正な賞与額を130万円と算定し、未払い分100万円の支払いを会社に命じました。

ポイント・解説

同裁判例では過去の支給実績等に照らして、一定額の賞与請求権が認められる(これに反する査定は許されず、差額の支払いをしなければならない)と判断したところがポイントです。

賞与査定に関する労使トラブルを防ぐために弁護士がアドバイスいたします。

以上に述べたように、賞与査定に関しては任意恩恵的な給付かどうかが等、就業規則や契約書の記載が重要な意味を持ってきます。もっとも、仮に支給には裁量があるとしても不当な査定は許されないというところにも注意が必要です。

就業規則や契約書の記載の相当性については、労務に精通した弁護士の事前のサポートを受けることが必要になってきます。
埼玉県内で賞与査定に関してお悩みの企業の方は労使トラブルを防ぐためにも、ぜひ一度弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

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埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
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