労務

テレワークで生産性が落ちた従業員の対応と出社命令の可否

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

  • テレワーク

新型コロナウイルスがまん延したことで、日本でも在宅勤務、テレワークが盛んにおこなわれるようになりました。
ただ、テレワークという新しい働き方では力を発揮できず、生産性が落ちた従業員の方もいらっしゃいます。

テレワークで生産性が落ちた従業員に出社命令を出してもよいか?

テレワーク専従で雇った従業員はともかく、一般の従業員に対して命じていたテレワークを終了させて、出社を命じることは許されます。

ただ、配置転換として命令が許されるのか、広く業務命令の一環として行うことが許されるのかは、立場が固まっているとは言えませんので、念のため、就業規則や雇用契約書上、配置転換の権限を有する形にしておくことをお勧めいたします。

新型コロナウイルスの感染リスクを理由に出社拒否されたら?

新型コロナウイルスの感染リスクについては、緊急事態宣言が出されていた頃であればともかく、令和5年12月現在においては、特段の事情の無い限り、業務命令違反が許されるとは言えないでしょう。

そのため、コロナウイルス感染リスクは逓減してきていること、出社命令に従うべきこと等を丁寧に説明して出社命令に従うように説得するのが良いでしょう。
それでも従わない場合には、懲戒処分や退職も選択肢に含めていくことになります。

基礎疾患がある従業員への出社命令は可能か?

例えば、基礎疾患があって新型コロナウイルスに罹患した場合、命の危険があるという場合には、特段の事情が認められて、出社命令に従う義務を負わないと判断されることもあり得ます。

そのため、具体的な感染リスク、使用者が安全配慮のためにどのような対策を講じているか、感染した場合の当該従業員に生じるリスクを総合考慮してから出社命令を出すかどうかを決める必要があります。

出社命令に応じない従業員を懲戒処分にできる?

出社命令も業務命令(配置転換命令又は広い業務命令)の一環ですから、不服従であった場合には懲戒処分の対象となります。

出社命令と懲戒処分に関する裁判例

出社命令というよりは、正しくは配置転換命令ですが、これに従わなかった従業員を懲戒解雇した東亜ペイント事件という著明な判例があります。

事件の概要

全国展開している塗料及び化成品の製造・販売を行っている会社の神戸営業所に勤める従業員が、名古屋営業所への転勤命令に応じなかったため、懲戒解雇したという事案です。
従業員が転勤を断った理由としては、母親や妻、娘と同居している等の家庭環境を考慮して欲しいといった事情でした。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

高裁では、転勤命令の業務上の必要性がそれほど強くないこと、従業員が名古屋に転勤した場合には、母親、妻及び長女との別居を余儀なくされ、相当の犠牲を強いられることになること等から転勤命令は無効とされ、懲戒解雇も無効と判断されました。

しかしながら、最高裁は「当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であつても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではない」として、会社に広範な転勤命令を出す権限があると判断しました。

ポイント・解説

最高裁では、就業規則等で配置転換権が認められることを前提に、広範な裁量を認めたところがポイントです。そのため、配置転換や出社命令等の業務命令に反する従業員に対しては、例外的な場合を除き、懲戒処分も有効になることを示唆しています。

そもそもテレワークで生産性が低下する理由とは?

設備・勤務環境の整備が不十分

テレワークは、自宅で行うことが想定されることが多いですが、自宅では設備や勤務環境はオフィスに比べて不十分なことが多いです。
また、自宅で子育てや介護を行っている場合、テレワーク中にも子供や要介護者から対応を求められる等して、仕事を中断せざるを得ないこともあり、自ずと生産性が下がってしまうこともあります。

コミュニケーション不足

テレワークの場合、同僚や上司とのコミュニケ―ションは、チャットツールやメール、電話になりますが、どうしても対面でのコミュニケーションに比べると、文章表現の問題で稚拙なものとなったり、うまく伝わらないこともあります。

また、オフィスで同僚や上司の状況が一目で把握できる場合と異なり、各人が何をしているか、何か問題を抱えていないか、ということも把握し難い状況にあります。
このようなコミュニケーション不足も生産性を下げる一要素であると考えられます。

労働時間の管理が難しい

また、職場で現認ができる場合と異なり、従業員がどのような仕事を行っているかどうかを直ちに確認することはできません。
そのため、社員が実際に労働しているかどうかを管理することが難しいということも、生産性を低下している要素の一つであると考えられています。

業務の進捗状況が把握しづらい

加えて、管理職が業務の進捗状況を把握しづらいこともあげられます。
適宜の声掛けや確認についても、テレワークの方がコミュニケーションコストがかかると感じる方がいるからか、億劫になってしまい、進捗管理がしがたいといったことも、生産性の低下につながっていると考えられています。

テレワークで従業員の生産性を低下させないための対策

テレワークに適した勤務環境を整備する

テレワークに適さない設備で稼働する従業員を減らすため、会社からIT機器を貸与するとかチャットツールを導入するなど、勤務環境を整備することで、生産性を高めていく工夫が考えられます。

適度なコミュニケーション機会を作る

また、コミュニケーション不足に対しては、対面やweb会議等、顔が見える形でコミュニケーションをとる機会を積極的に作っていくことが考えられます。
コミュニケーションに感じるコストを逓減していくことで、業務の円滑さを高め、生産性を高めていくことが考えられます。

勤怠管理や評価制度を見直す

労働時間管理や業務の進捗管理の難しさについては、勤怠管理の手法や評価制度を見直すことでの対応が考えられます。
例えば、クラウド型の勤怠管理システムを導入するとか、評価については成果主義を重視することで、管理の手間を減らすことや、業績の向上を図ることが考えられます。

テレワークを効率化するITツールを導入する

その他、テレワークを効率化するために、クラウドでのデータ共有を活用するとか、webミーティングツール、チャットツール等のテレワーク下でのコミュニケ―ションや業務を円滑にするITツールを導入して業務効率化を図ることも考えられます。

従業員の健康面・メンタル面にも配慮する

テレワークは、プライベートと仕事の切り替えがうまくいかずに、健康面やメンタル面を崩してしまう従業員の方もいらっしゃいます。
健康面やメンタル面を崩せば、自ずと仕事の効率も落ちてきます。
会社は、従業員が健康面、メンタル面に不調が無いかを、定期的に確認して対処していく必要があります。

テレワーク環境下の従業員対応でお困りなら、まずは弁護士にご相談下さい。

テレワーク下での業務は、今までの労務管理と様々な面で異なります。そのため、テレワーク下での従業員対応に苦慮されている企業も多いです。
また、新型コロナウイルスの影響がなくなってきたことで、いざフル出勤にもどそうとすると、思わぬ抵抗にあわれている企業もあるのではないでしょうか。

テレワーク下での従業員対応でお困りの埼玉県内の企業は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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