監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
- 採用
一般的な日本企業では、新たに雇入れた従業員について、試用期間を定めて、その期間中の仕事を見て本採用するかどうかを決定しています。
ただ、会社が本採用を取り消すとしても、そう簡単にはいきません。今回は、本採用を取り消す場合の留意点について、解説します。
目次
本採用を取り消すことは認められるのか?
まず、本採用を取り消す、拒否すること自体は、法的に認められます。
一旦採用した労働者を会社が解約することは非常に困難です。
他方で、採用手続きにおける短期間の観察では、労働者の適性を正確に把握・評価することは困難なことが少なくありません。
そのため、採用後の一定期間を評価期間として評価期間として労働者に就業させることで、その労働者に本当に適性があるか否かを企業が判断できるようにすることが必要な場合があり、これが試用期間です。
もっとも、会社が自由に取り消せるかと言われればそうではありません。
試用期間中でも労働契約が締結される
試用期間中であっても、労働契約が締結されており、試用期間中に従業員としての適性が否定された場合には解約し得る解約権が大幅に留保されている契約(解約権留保付労働契約説)であると解されています。
労働契約が締結されている以上、本採用取消(拒否)も、解雇に類似するものとなりますので、一定の制約を受けるものとなります。もちろん、前記したとおり、解約権が大幅に留保されていることから、通常の解雇と比べれば、拒否は認められやすいことになります。
本採用を取り消すタイミングとは?
試用期間の本質は、従業員としての適正を評価する期間ですから、この期間中は、労働者の適性を判断する期間ですから、基本的にはその期間満了まで、労働者の適性を判断すべきとされるため、試用期間満了前に本採用を取り消した(解雇した)場合には、厳格な判断をされる傾向にあります。
そのため、本採用を取り消すタイミングは、基本的に試用期間満了時というふうに考えていただければと思います。
本採用の取り消しはどのような場合に認められるのか?
本採用取り消しの有効性について
本採用の取消も、前記したとおり、解雇に類似することから、解雇と同様に、客観的に合理的な理由があって、社会通念上相当として是認される場合に有効と判断されます。
そのため、通常の解雇と同様に、注意・指導を行って、改善がみられるかどうか、といったこと等が重要になってきます。
業績悪化は本採用取り消しの理由になる?
業績悪化も、本採用拒否の理由となります。
しかしながら、業績悪化は、企業側の事情であり、これを理由とした本採用拒否は、いわゆる整理解雇と類似するため、整理解雇4要件(①人員削減の経営上の必要性、②整理解雇回避努力義務(希望退職等)の実行、③合理的な整理解雇基準の設定とその公正な適用、④労使間での協議義務の実行等を行っていく必要があります。
もちろん、本採用後に比べれば、取消ししやすいですが、容易に取り消せるということはありません。
能力不足を理由とした本採用取り消しについて
通常の解雇に比べれば、より広い範囲で本採用取消が認められているものの、そもそも基準が客観的にわかりにくい場合もあり、恣意的な本採用拒否と判断されないように、注意が必要です。
中途採用者の能力不足が判明した場合
ところで、新卒社員と、中途採用者の場合では、能力不足が判明した場合では、本採用拒否の容易さが異なる場合があります。
中途採用の場合、特に高い専門的能力や知識、経験を評価して管理職待遇で迎え入れることもあり、このような者について、期待された能力がない場合には、本採用拒否が認められやすい傾向にあります。
本採用を取り消す場合の留意点とは
本採用について予め規定しておく
本採用拒否については、解雇と類似するため、本採用拒否の事由については、就業規則上、改めて規定しておく必要があります。
十分な教育・指導をしなければならない
また、試用期間満了時までに会社の求める水準に達する可能性があったこと等を理由として、本採用拒否が無効とされることもありますから、十分な教育・指導を行っておく必要があります。
解雇予告・解雇予告手当が必要となる
本採用拒否の場合であっても、労働契約が成立していますから、解雇予告及び解雇予告手当の支払いが必要となります。
本採用取り消しの違法性について
本採用取消が、不当な解雇にあたると判断された場合、違法性が認められ、民法上の不法行為と判断される可能性もあります。この場合には、高額の損害賠償を請求される可能性もありますから、なるべく前記した事項を遵守して、本採用取消の是非を検討いただくとよろしいかと思います。
試用期間中に解雇したい場合は?
本採用拒否とは、一般に試用期間満了に伴う解雇を指しますが、試用期間中の解雇とは、試用期間満了すら待たずに本採用を拒否し、解雇するものを指します。
この場合、本採用取消しするタイミングでも述べましたが、満了時に比べて、厳格な判断をされる傾向にあります。
本採用の取り消しに関する判例
本採用を拒否を有効と判断した裁判例に、ブレーンベース事件判決(東京地判平13・12・25)があります。
事件の概要
公共職業安定所から紹介された労働者について、パソコンの使用に精通しているなどといった労働者の発言や職務経歴書の記載から、労働者がパソコン操作及び営業活動の経験と能力を有するものと判断して、入社後3か月間は試用期間であることを条件に雇入れたという事案で、本採用拒否した事案です。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所は、試用期間中の労働者が、緊急の業務指示に対し応じない態度でいたこと、採用面接時にはパソコンに精通していると申告していたにもかかわらず採用後には満足に使用できなかったこと、重要な商品発表会の翌日には重要な業務があり、社員は必ず出勤する慣行になっていたにもかかわらず、2回休暇をとったこと等の事由から、本採用拒否を適法としました。
ポイント・解説
通常の解雇と比べれば、広い範囲で本採用拒否の有効性を認めた裁判例というべきもので、企業にとって試用期間の重要性を改めて自覚させたところにポイントがあります。
企業法務に詳しい弁護士のサポートを受けることで、本採用取り消しについて適切に対応することが可能となります。
以上のとおり、本採用取り消しに関しては、通常の解雇と比べれば、広い解雇の自由が認められる一方で、どのような理由であったとしても本採用取り消しができるというわけではありません。
試用期間であったとしても、労働者との間に雇用契約は成立していますから、企業としては、試用期間中に適切な対応を行ったうえで、本採用取り消しの判断をすべきです。
こういった企業法務、労働法務については、自社のみで判断した場合、事後的な裁判のリスクがありますから、できる限り、労働法務に詳しい弁護士のサポートを受けながら判断していくべきです。
埼玉県内で、本採用取り消しなど、労務問題でお悩みの企業がありましたら、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。
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