労務

労働協約に関する企業側の重要な注意点

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

  • 労働組合

労働組合から労働協約の締結を求められた際、企業側がその法的性質や影響を正確に理解せずに応じてしまうと、将来的に人事管理や経営判断が大きく制限されるリスクがあります。

労働協約は就業規則よりも優先される強い効力を持ち、一度合意すると容易に変更できないため、慎重な対応が不可欠です。

今回は、労働協約の締結が企業経営に与える具体的な影響や、締結時の法的注意点、不利益変更のリスク、さらには重要な裁判例について、企業法務の視点から詳しく解説します。

労働協約の締結が企業に与える影響

労働協約とは、労働者が組織する労働組合と使用者との間で締結された労働条件などに関する合意のことをいいます。

労働協約は、一定の様式を満たす場合には、これに反する労働契約を無効とし、それを補う効力(労働協約の規範的効力)が認められています。

就業規則・労働契約との優先関係

企業と労働者との労働条件を決定する方法は、就業規則や労働契約等ありますが、これらの優先順位は、強行法規>労働協約>就業規則>労働契約とされています。

したがって、労働協約は、就業規則や個別の労働契約よりも、優先する関係にあります(労組法16条)。

労働協約の締結には必ず応じる必要があるのか?

企業には団体交渉に応じる義務はありますが、必ずしも労働組合の要求をすべて受け入れて労働協約を締結する義務があるわけではありません。

合理的理由のない拒否は「不当労働行為」にあたる

労働協約の締結義務はありませんが、労働組合法第7条2号は、正当な理由なく団体交渉を拒否することを、不当労働行為として禁止しています。

これには、形式的に交渉の場についても、誠実に合意を目指す姿勢がないも含まれます(誠実甲祖父義務)。合理的な理由なく労働協約の締結を拒み続けることは、不当労働行為と判断されるリスクがあるため、主張の妥当性を整理して交渉に臨む必要があります。

労働協約を締結する際の注意点

労働協約を成立させるためには、法律で定められた要件を満たす必要があります。

書面での作成と双方の署名が必要

労働協約は、口頭での合意だけでは成立しません。労働組合法第14条に基づき、以下の要件が必要です。

労働組合法第14条(労働協約の成立)
「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する交渉の結果、合意に達したときは、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによつて、労働協約としての効力を生ずる。」

したがって、書面化されていない協約や、書面化されていたも署名または記名押印がないものは、法律上の労働協約としては認められない点に注意が必要です。

非組合員には労働協約の効力が及ばない

原則として、労働協約の効力はその締結当事者である組合員にのみ及び、未加入の従業員(非組合員)には影響しません。

例外的に効力が及ぶケースとは?

ただし、労働組合法第17条に基づき、ひとつの工場等で常時使用される同種の労働者の4分の3以上の労働者が一つの労働協約の適用を受けるに至ったときには、他の同種の労働者に対しても当該労働協約が適用されます。

このほか、一定の地域で同種の労働者の大部分が一個の労働協約の適用を受けるに至ったときに、厚生労働大臣または都道府県知事の決定によって、他の同種の従業員が労働協約の適用を受蹴るという場合もあります(労組法18条)。

合意内容は十分に精査しておく

一度締結した協約は、有効期間内は一方的に変更・破棄できませんから、その合意内容を十分に精査しておくべきです。

労働協約に入れるべき条項とは?

主として、労働条件その他労使関係全般に関する事項で、法令や公序良俗に反しない限り、どういった内容であっても定めることができます。

ただ、賃金、労働時間、休日、休暇などの労働条件その他待遇に関する基準を定めた、いわゆる「規範的部分」と、団体交渉に関すること、葬儀に関すること等、もっぱら労働組合と使用者の関係を定めたいわゆる「債務部分」が入れられることが多いです。

人事同意・協議条項の効力について

例えば、労働者の配置転換や解雇の際には、労働組合との事前協議や同意を要するといった条項が定められることがあります。

れに違反した人事措置は無効とされる可能性が非常に高くなります。
同意とするのか協議にとどめるのかは、経営権の確保の観点から慎重な判断が求められます。

労働協約の不利益変更に関する注意点

経営悪化などに伴い、労働組合と従前の労働協約を不利益に変更する場合、以下の点に注意が必要です。

就業規則は労働協約に反してはならない

就業規則を先行して不利益変更しても、労働協約に有利な規定が残っている限り、労働組合法第16条により労働協約が優先されます。
したがって、まずは労働組合との間で変更の合意(新協約の締結)を行うのが原則です。

非組合員には個別の合意が必要

組合との合意で労働協約を不利益変更しても、労働組合法第17条の要件を満たさない限り、非組合員に対してはその効力は及びません。
非組合員については、個別の合意を得るか、就業規則の変更手続きを別途踏む必要があります。

労働協約の有効期間と解約に関する注意点

有効期間を定めていない場合のリスク

有効期間を定める場合は3年が上限となりますが(労働組合法第15条1項)、期間の定めがない場合は、同条3項によって、一方が90日前に予告することで解約できます。

期間を定めないと、労使関係が不安定になるリスクがあるため、期間の定めは置いておくべきでしょう。

労働協約に違反した場合の罰則は?

労働協約の規範的部分(賃金や労働時間など)に違反した場合、労働者から民事訴訟を起こされるだけでなく、一部の事項については刑事罰の対象となります。

労働組合法第32条では、賃金、労働時間、休日などの基準に違反した使用者に対し、3万円以下の過料に処する旨が定められています。金額は少額ですが、コンプライアンス上のダメージは無視できません。

労働協約に関する判例

労働協約に関する判例として、朝日火災海上保険(髙田)事件があります。

事件の概要

A社の労働者Xが、Y社に転籍した際、A社の定年は63歳であったものの、Y社の定年は55歳でした。
労働条件の統一は測れないままにありましたが、会社の経営が悪化したに際し、定年を57歳とし、退職金の支給率を大幅に引き下げる労働協約が締結されるに至りました。

ただ、Xは、調査役という役職にあり、組合との合意によって組合員から除外されていました(非組合員)。このXにも労働協約の効力が及ぶかが問題となりました。

裁判所の判断

最高裁は、労働組合法17条の適用について、「同条の適用に当たっては、右労働協約上の基準が一部の点において未組織の同種労働者の労働条件よりも不利益とみられる場合であっても、そのことだけで右の不利益部分についてはその効力を未組織の同種労働者に対して及ぼし得ないものと解するのは相当でない。」と判示しました。

ただし、「他面、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に、労働組合は、未組織労働者の労働条件を改善し、その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容・労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできないと解するのが相当である。」とも判示しました。

ポイント・解説

同裁判例は、単に非組合員に不利益であったとしても、労組法17条の適用があることを判示する一方で、特段の事情がある場合には、例外を認めるという基準を示したところにポイントがあります。

労働協約における企業側の注意事項について、企業法務に精通した弁護士がアドバイスいたします。

労働協約は一度締結すると、簡単に撤回できるものではありません。特に人事に関する同意条項や不利益変更を伴う交渉では、締結後の実務上の運用リスクを徹底的に精査しなければなりません。

団体交渉に不慣れな企業の方も多いと認識しておりますので、労働協約の締結だけでなく、団体交渉が申し入れられた時点から、弁護士などの専門家によるサポートが不可欠です。

埼玉県内で、団体交渉、労働協約の締結にお悩みの企業の方々は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&associates埼玉法律事務所にご相談ください。

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埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
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