
監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
労働審判が申立てられた。会社に労働審判の申立書とともに期日の呼出状が届いたとき、会社はどのように対応すべきでしょうか。
労働審判は、交渉や訴訟と異なり、迅速な手続きで進むことからその初動対応は非常に重要です。
目次
労働審判で初動対応が重要視される理由
労働審判で初動対応が重要視される理由としては、原則として3回以内の期日で審理を終えることとなっていることから、第2回期日までにすべての主張及び証拠の提出を終えることが予定されています(労働審判規則27条)。
また、実務上、第1回目の期日において、労働者や会社担当者に対して、労働審判委員会等から事案に対して証人尋問のように質問がなされることから、第1回期日で、ある程度事案の帰趨が決まってしまうということもあります。
このような事情から、第1回期日までの初動対応によって、結果が左右されてしまう可能性が高いため、初動対応が最も重要視されるのです。
労働審判は準備できる期間が短い
しかも、労働審判は準備できる期間が訴訟よりも短いです。訴訟であれば1年程度かけて必要な主張立証を行うことが可能ですが、労働審判では、原則として申立から40日以内に第1回期日を指定することとされています(労働審判規則13条)。
会社が申立を知るのは、当然、申立後になりますから、実質的には2~3週間しか準備の期間がないということもあります。そのような短い期間内に、必要な主張立証を準備しなければなりません。
第1回期日を変更することは可能か?
結論から言えば、第1回期日を変更することは難しいです。
ただ、裁判所によっては、会社側(担当者や社長などの決裁権者)の都合がつかない日程であれば、柔軟に変更を認めてくれることもあります。指定された期日に都合がつかない場合は、依頼した弁護士に、相談してみるのがよろしいかと考えます。
労働審判はどのような流れで行われるのか?
労働審判手続きは、申立てから始まります。第1回期日までの間に、会社は答弁書の作成や主張を裏付ける証拠を準備しておく必要があります。第1回期日では、労働審判委員会から、申立書や答弁書の記載についての質問や、事案の実情について踏み込んだ質問がされることが多いです。
また、第1回期日で、おおよその事案の帰趨が決まることが多く、事案によっては、第1回期日で和解(調停)が成立することもあります。
第1回期日で主張立証が足りない場合には、第2回期日までに、当事者に対して主張立証を補充するように指示が出されます。他方で、主張立証はある程度なされている場合は、和解に向けて、双方和解できるラインを考えてくるように指示されることもあります。
多くの労働審判では、遅くとも第2回期日までに労働審判委員会の心証が形成されますから、第2回期日で和解が成立しますが、それでも成立しない場合、第3回期日が指定されます。第3回期日によっても、和解成立の見込みがない場合には、労働審判が下されることになります。
これに対しては、2週間以内に異議を申し立てることが可能で(労働審判法21条1項)、異議が申しだされた場合は、訴訟に移行します(労働審判法22条1項)。
異議が出されない場合は、そのまま確定し、裁判上の和解と同一の効力を有することになります(労働審判法21条4項)。
労働審判に対応するうえでの初動対応
労働審判に対応するうえでの初動対応は、まず事案の正確な把握と、会社が主張できる反論を確定することにあります。それ以外にも、期間に制限があることから、以下の事項も頭に入れておく必要があります。
第1回労働審判期日の確認
第1回労働審判期日に間に合うように対処する必要がありますから、まずは第1回労働審判期日がいつと指定されたかの確認をしなければなりません。その期日を変更できるかどうかも含めて、スケジュールを調整する必要があります。
第1回期日を欠席するデメリット
第1回期日を欠席した場合は、会社にとって自身の言い分を主張、立証する機会が1回失われます。労働審判は原則3回しか開かれませんから、会社の主張を裁判所に伝える貴重な機会を失う以上、デメリットしかありません。
どうしても出席できない場合には、裁判所に近い日程に変更できないか、担当の弁護士に交渉してもらうことをお勧めいたします。
労働審判が行われる裁判所の確認
労働審判が行われる裁判所は、「相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所、個別労働関係民事紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて当該労働者が現に就業し若しくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所」です(労働審判法2条)。
必ずしも会社の本店所在地ではありませんから、労働審判がどの裁判所で行われているか、申立書や呼出し状によって確認しておく必要があります。
会社側が労働審判を行う裁判所を選べるか?
基本的に、会社側は労働者から労働審判を申立てられた相手方として対応することがほとんどです。例外的な場合を除き、労働者が管轄のない裁判所に申し立てを行うことは考えられませんから、この裁判所を選ぶことはできません。
もちろん、移送の申立てを行うことで、会社側に都合の良い管轄裁判所で審理すべきであると争うことはできますが、かなり例外的な事案に限られるとお考えいただいた方がよろしいです。
答弁書の作成
これが最も重要となりますが、答弁書の作成が事前準備の中で一番重要です。労働者の申立てに対する会社側の主張や証拠を取りまとめて、作成します。これを事前に裁判所に提出し、第1回期日を迎えることになります。
指定された期限までに提出できない場合
指定された期限までに提出できない場合、裁判所に会社の主張を伝えることができませんから、会社側にとって不利な調停案や審判に結び付くようなことになりかねません。期限は、できる限り遵守して対応するべきです。
反論のための証拠書類を収集
反論の答弁書には、証拠を添付しておくことも重要です。
言った言わないの話になると、どうしても人によって判断が変わってきてしまうこともありますし、会社側が記録をつけていなかったことを責められて、労働者の有利なように進んでしまう恐れもあります。
反論のための証拠書類を収集し、第1回期日までに裁判所に提出することも重要です。
会社側の出席者を決定
会社側の出席者を決定することも重要です。労働審判は、迅速な手続きで進む関係から、期日における審理では、必要に応じて労働者や会社の担当者や社長から直接事情を聴取する必要が出てきます。
それに対応できる会社側の出席者を決めなければ、第1回期日で適切な反論ができない恐れもありますので、第1回期日に出席する担当者を決定していくことが必要です。
社長や取締役などの出席は必須か?
会社規模にもよりますが、社長や取締役などの出席は必須ではありません。もちろん、事情をよく知っているのが社長や取締役であれば出席した方が会社のためになることもありますが、必ずしも必要ではありません。
ただ、決裁権を有しない担当を連れていくことは、あまりお勧めできません。労働審判では迅速に手続きが進む関係上、その場で和解(調停)が成立することもありますから、決裁権を有する担当者を出席させる必要はあるでしょう。
和解による解決を望む場合に準備すべきこと
労働審判手続きにおいて、和解による解決(調停成立)を望む場合には、会社側の反論だけでなく、落としどころを決めておく必要があります。
解雇無効や残業代未払い等において、会社に主張したいことがあったとしても、労働者側にも酌むべき事情がある場合には、それも踏まえて、解決金の支払いや復職和解の調整等、労働問題を解決に向けた落としどころを決めておく必要があります。
労働審判を申立てられた場合、いかに迅速に対応できるかが重要となります。まずは弁護士にご相談下さい。
労働審判が申立てられた場合、第1回期日までの期間が短く、迅速な対応が求められます。
事案の把握や証拠の収集、裁判所との調整、答弁書の作成などは、専門家である弁護士の関与が必須ですし、できれば顧問弁護士を設けるなどして普段から会社の実情に詳しい弁護士とのつながりを作っておくことも重要です。
労働審判を申立てられてお困りの埼玉県内の企業の方は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。
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保有資格弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
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