監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
- 採用
- 内定取消
企業にとって、人材の採用は避けては通れない課題です。より良い人材を採用し、自社で気持ちよく働いてもらいたいというのは、どの企業も共通した気持ちだと思います。
では、面接の結果、そのような人材に内定を出したところ、内定者から妊娠したという連絡があった場合、企業としてはどう対応すべきでしょうか。
目次
妊娠を理由に内定取消はできるのか?
妊娠自体は、非常に喜ばしいことで、これを咎める企業はないでしょう。
しかしながら、予定していた勤務開始日に勤務を行うことができなくなったり、使用期間中に産休に入ってしまうなど、企業が予定していなかった事態にもなります。
人手が欲しいから採用するわけですから、内定取り消しして、別の人を採用したいという思いもわかります。
しかしながら、妊娠を理由に内定取り消しはできません。
内定取消は法律上「解雇」と同じ扱い
内定の法的性質は、始期付解約権留保付労働契約の成立であるとされています。
つまり、内定を取り消すということは労働契約を取り消す=解雇することになります。
妊娠による内定取消は「男女雇用機会均等法」に反する
妊娠を理由とする内定取消(=解雇)は、男女雇用機会均等法第9条3項によって禁止されています。
「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」
したがって、内定者が妊娠をしたことを理由とする内定取消は、男女雇用機会均等法に反する以上、出来ません。
採用面接の段階で妊娠の有無を質問して良いか?
では、内定を取り消すことができないのであれば、内定を出す前の段階、採用面接の段階で妊娠の有無を質問して良いのでしょうか。
一般論として、労働者には採用の自由があり、その一環として調査の自由が認められています。
しかしながら、「採用面接に際して、結婚の予定の有無、子供が生まれた場合の継続就労の希望の有無等一定の事項について女性に対してのみ質問すること。」は男女雇用機会均等法第5条に反する恐れがあります(労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針参照)。
仮に、このような質問を行うとしても、男女問わず、質問するようにする方が無難です。
入社直後の妊娠でも産休・育休を与える必要はあるか?
産休とは、出産予定日の6週間前から与えられる産前休業と、出産の翌日から8週間経過するまでの間に与えられる産後休業の二つを併せたものをいいます。
産休は、全女性労働者に与えられるものですから、入社直後の妊娠でも産休は与えなければなりません(労基法第65条)。
育休とは、育児休業のことをいいます。これは、1歳に満たない子供を養育する男女労働者が、会社に申し出ることにより、子供が1歳になるまでの間で希望する期間、育児のために休業することができる制度です。
①同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること、②子どもの1歳の誕生日以降も引き続き雇用されることが見込まれること、③子どもの2歳の誕生日の前々日までに、労働契約の期間が満了しており、かつ、契約が更新されないことが明らかでないことの要件を満たした労働者に与えられます。
また、以下に述べる労使協定を結ぶことで、入社直後の社員について育休制度の対象から除外することができます。
入社1年未満の育児休業の適用除外について
労使協定を結ぶ必要がありますが、雇用された期間が1年に満たない労働者について、育休制度を適用除外とすることができます(育児介護6条1項1号)。
産休・育休の取得を理由とする不利益取扱いも違法
産休や育休の取得を理由とする不利益取り扱いは、男女雇用機会均等法や育児介護休業法によって禁止されています(男女雇用機会均等法第9条3項、育児介護休業法第10条)。
内定後の妊娠について企業が講じておくべき対策
妊娠自体は喜ばしいことですが、入社直後に産休に入る場合には、人が足りなくなることは事実であり、企業としては、事前に対策を講じておくべきです。
まず、過度な人手不足を防ぐために、余裕を持った人員を採用しておくことが考えられます。
また、採用時の認識の違いをなくすために、男女問わずに質問する前提ですが、結婚や出産等、今後のライフプランをどのように考えているのか、面接を受けに来る者にきちんと確認しておくこと等が考えられます。
企業に義務付けられるマタハラ防止措置とは?
企業は、いわゆるマタハラ防止指針において、①職場のマタハラの内容、マタハラがあってはならない旨の方針の明確化及び周知・啓発、②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場における育児休業等に関するはアスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応、④職場における育児休業等に関するハラスメント原因や背景となる要因を解消するための措置、⑤①~④までの措置と併せて講ずべき措置(プライバシー保護等)を講ずることが要求されています。
男女雇用機会均等法違反に対する罰則
男女雇用機会均等法違反に関しては、第33条に、第29条による報告をしなかった、又は虚偽の報告をしたものについては、20万円以下の過料に処すとされています。
なお、同法第29条は、「厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。」という条文です。
妊娠を理由とした内定取消に関する判例
妊娠を理由とした内定取消に関する判例で、有名なものはありません。
ただ、有名な大日本印刷事件の判旨に照らせば、妊娠を理由とする内定取消は、違法無効なものと判断されるでしょう。
事件の概要
Xは大学にあったYの求人に応募、内定を得たところ、Yは、昭和44年2月に、突然、Xに対する採用内定を取り消した。
これについてXがYに対して、解約権の濫用に該当するとして争った事案です。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
最大判昭和54年7月20日(民集33-5-582)
最高裁は、本件について、XとYの間で労働契約が成立していると解するのが相当であると判断したうえで、内定取消について、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると述べました。
そのうえで、Yは、Xの陰気な印象を内定取消事由としたが、Xの印象は当初から分かっていたものであって、これを社会通念上相当とは是認できないとして、解約権の濫用にあたり、内定取消は違法無効であると判断しました。
ポイント・解説
ポイントとしては、内定取消といえど、労働契約の解消=解雇と同様に、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当であることを有効性の要件とした点です。
男女雇用機会均等法の趣旨からも明らかですが、妊娠したことのみを理由として内定取消することは、客観的に合理的ではなく、社会通念上相当とも言えません。
したがって、同判例の趣旨からすれば、妊娠を理由とする内定取消は、違法無効と判断sれることになります。
内定後の妊娠への対応でお困りの際は、早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
以上に述べたように、内定後の妊娠については、それを理由に内定取り消しを行うことが困難であることや、産休等の対応についても、専門的な知識を要します。
出来れば、内定を出す前に、対応できる部分は対応しておく必要がありますので、内定後の妊娠で悩む前に、可能な限り早めに、弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めいたします。
埼玉県内で内定後の妊娠への対応でお困りの企業の方は、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にぜひご相談ください。
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保有資格弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
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