監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
- 採用
経営していくということは、必ず雇用=人を雇うことでもあります。もちろん、縁故採用といったものもありますが、一般的な企業では、求人募集を行うことで、労働者を募集することが一般的かと思います。では、求人募集に関する法律、法的規制にはどのようなものがあるのでしょうか。
今回は、求人募集に関する法律についてご説明させていただきます。
目次
企業の求人募集は法律で規制されるのか?
企業の求人募集は法律で規制されているのでしょうか。
そもそも、企業には、どのような従業員を採用するかどうかについて、採用の自由が認められています。そうであれば、どのような求人募集を出すことも、企業の自由といえそうです。
しかしながら、だからといって、就職を希望するものの権利を侵害するようなことが認められるわけではありませんから、広く公正な募集を行う必要があり、以下の様な法律で、募集に関して規制があります。
労働条件として明示が必要な事項(職業安定法)
職業安定法上、求人募集の際に、労働条件について、大よそ以下の事項を明示しなければならないとしています。
- 業務内容
- 契約期間
- 職業場所
- 試用期間
- 就業場所
- 労働時間
- 休憩時間
- 休日
- 時間外労働の有無
- 賃金
- 加入保険
- 募集者の氏名又は名称
- 派遣労働者として雇用する場合、その雇用形態
労働条件はどのタイミングで明示すべき?
労基法上の労働条件の明示であれば労務の提供までに明示すべきですが、求人募集については、募集時に明示しなければならないとされています。
そのため、求人募集について明示すべきとされる労働条件は、求人募集時に明示しておく必要があります。
求人募集に載せてはいけない事項・禁止されている表現
求人募集には、以下の様に載せてはいけない事項や禁止されている表現があります。
性差別となる表現(男女雇用機会均等法)
男女雇用機会均等法第5条には、性別を理由とする差別の禁止が定められています。
第五条 事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。
したがって、性差別となる表現を用いることは禁止されています。
性差別の例外となる「ポジティブアクション」とは?
例えば、「女性優遇」「女性のみ」といった募集を行う場合、形式的に言えば、男女で異なる取扱いをしているため、男女雇用機会均等法に反するとも思えます。
しかしながら、同法第8条には、女性労働者に係る措置に関する特例との条文が定められています。
同上では、過去の女性労働者に対する取扱いなどが原因で生じている、男女労働者の間の事実上の格差を解消する目的で行う 「女性のみを対象にした取組」や「女性を有利に取り扱う取組」については法に違反しない旨が明記されています。
そのため、女性優遇といった募集であれば、性差別の例外として、用いることが可能です。
年齢を制限する表現(労働施策総合推進法(雇用対策法))
雇用対策法の改正により、平成19年10月から、事業主は労働者の募集及び採用について、年齢に関わりなく均等な機会を与えなければならないこととされ、年齢制限の禁止が義務化されました。
そのため、年齢制限の表現は禁止されています。
例外的に年齢制限が認められる事由とは?
雇用対策法では、原則として年齢制限を禁止していますが、例外事由がいくつか定めれれています。
例えば、就職氷河期世代(35歳以上55歳未満)の不安定就労者・無業者に限定した募集を行うことが認められています。また、演劇の子役のように、表現の真実性が求められる場合にも、「演劇の子役のため、〇歳以下の人を募集」といった表現が認められています。
その他の例外事由については、労働施策総合推進法施行規則第1条の3第1項をご確認ください。
若年者を募集する上での注意点(若者雇用促進法)
新規学卒者等を募集する場合には、若者雇用促進法によって、注意をしなければならない点があります。
大学等卒業・終了予定者の就職・採用活動日程について配慮が求められています。
例えば、2023年度卒業・修了予定者の就職・採用活動日程では、以下の様に定められています。
広報活動開始 :卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降
採用選考活動開始 :卒業・修了年度の6月1日以降
正式な内定日 :卒業・修了年度の10月1日以降
また、職場情報についても、新卒者の募集を行う企業に対して、企業規模を問わず、幅広い情報提供を努力義務として定めています。
応募者等から求めがあった場合は、①募集・採用に関する状況、②職業能力の開発・向上に関する状況、③企業における職場定着に関する状況の3類型ごとに1つ以上の情報提供を義務としています。
特定の人を差別または優遇する表現(労働基準法)
当然のことですが、労働者の国籍、信条又は社会的身分によって特定の人を差別又は優遇する表現での求人募集も禁止されています(労基法3条)。
障害者差別となる表現(障害者雇用促進法)
求人募集の際に、障害者に対する差別はされており、障碍者差別となるような表現を用いることはできません。例えば、車椅子の利用や人工呼吸器の使用などを理由として採用を拒否するような募集はできません。
虚偽または法令に違反する労働条件(職安法など)
求人募集に際し、虚偽の広告をなし、又は虚偽の条件を提示した場合には、罰則の対象となります(職安法65条8号)。
著作権の侵害となる求人公告の掲載(著作権法)
求人募集も、創作性が認められるような文章である限り、著作物に該当し得ることから著作権が発生します。そうなりますと、他社の著作権を侵害するような態様(他社の紹介文を丸々コピーする等)で求人広告を掲載する場合には、著作権侵害となりえます。
求人募集で明示した労働条件に変更がある場合は?
職安法の改正により、求人募集で明示した条件に変更があった場合には、可能な限り速やかに、変更内容を明示しなければならなくなりました。
また、労働者から変更した理由について質問された場合には、適切に説明を行うことも必要になります。
違法な求人募集を行った企業への罰則
労基法3条及び4条に違反した場合、会社の社長などの代表者に、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金刑が科せられます(労基法119条)。
また、求人募集に際し、虚偽の公告なし、又は虚偽の条件を提示した場合にも、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑が科せられます。
求人募集や労働条件に関する裁判例
求人募集や労働条件の明示に関する裁判例としては、八州測量事件(東京高判昭和58年12月19日労判421号33頁)が有名です。
事件の概要
本件は、新卒予定の労働者が、会社の出した新入社員募集に応じて、採用内定を経て、入社したところ、会社が求人時に提示した求人票に記載していた賃金の基本給見込額と入社時に労働者に現実に支給された額との間に、5000円前後の差があったことから、労働者が、その不足額の支払いを求めた事案です。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所は、求人票や募集広告は、労働者からの契約の申し込みの誘引であって、契約時に就業規則や個別合意によって決定された内容が契約内容となるのが原則として、労働者からの請求を棄却しました。
ポイント・解説
求人票に記載された金額は、あくまで見込みに過ぎないので、実際の契約時に確定されるのであるから、求人票と異なっていても、直ちに問題がないとした点がポイントです。
ただし、労働者は、普通、求人票や募集広告に記載された条件で募集に応じ、契約の申し込みをするので、契約合意時の状況によっては、求人票や求人広告に記載された条件で契約が成立したと判断されることもあり得る点にも注意が必要です(東京地判平成29年5月19日等)。
適正な求人募集を行えるよう、法律の専門家である弁護士がサポートいたします。
以上に述べたように、求人募集には、ある程度の規制があります。
労働者に対して、適正な求人募集を行うには、法律の専門家である弁護士のサポートが有用です。
埼玉県内の企業で、適正な求人募集にお悩みの企業の方は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。
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