労務

会社の指示で仕事を休ませた場合の賃金の支払い義務について

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

  • 欠勤

通常、従業員が欠勤した場合にはノーワークノーペイの原則によって賃金の支払義務はありません。

しかしながら、会社の指示で休ませた場合はどうなるのでしょうか。この場合も従業員が就労しなかったことに変わりはないことから、賃金の支払義務はなくなるのでしょうか。

会社の指示で仕事を休ませた場合の賃金の支払義務について、解説したいと思います。

会社の指示で仕事を休ませた場合、賃金の支払い義務はあるのか?

会社の指示で仕事を休ませた場合、会社都合の休業として賃金の支払義務が生じます。

まず、民法536条2項によると、「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」とされているため、債権者(会社)の責めに帰すべき事由で休業させた場合には、100%の賃金支払い義務があります。

ただ、同条は任意規定であり、合意によって適用を排除することも可能ですし、ここでいう「債権者の責めに帰すべき事由」は、「故意、過失または信義則上これと同視すべき事由」と比較的狭い要件を意味するとされています。

もっとも、適用を排除している場合や、このような事情に該当しない場合であっても、労働基準法26条には、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」の場合には、使用者(会社)は、「休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」との定めがあります。

いわゆる休業手当と呼ばれるものですが、会社の指示で休ませた場合には、同条によって60%の賃金支払い義務があるのではないかが問題となります。

「使用者の責に帰すべき事由」による休業とは?

労働基準法26条にいう「使用者の責めに帰すべき事由」とは、民法536条2項にいう「債権者の責に帰すべき事由」よりも広く適用されるとされています。

そのため、使用者(会社)は、天災事変などの不可抗力に該当しない限り、使用者側に起因する経営・管理上の障害はすべて「使用者の責めに帰すべき事由」に該当すると考えられています。

休業手当の支払いが不要になるケースもある

台風や地震などの天災事変によって休業する場合には、労働基準法26条にいう「使用者の責めに帰すべき事由」に該当しませんので、休業手当の支払いは不要となります。

また、労働者のストライキ等の争議行為に対して、会社側が作業所を閉鎖したために休業する場合や労働組合による一部ストのあおりを受けて、労働を提供し得なくなったため休業する場合についても、労働者の方で認められた権利行使であるため、使用者にとっては一種の不可抗力とみるべきとして、事案によっては休業手当の支払い義務がなくなると考えられています。

新型コロナウイルスの影響で仕事を休ませた場合は?

新型コロナウイルスの影響は、天災事変同様の不可抗力に該当するものと思いがちですが、細かく見ていく必要があります。

新型コロナに感染した労働者を休ませた場合

感染した労働者を休ませる場合も、事案によります。

厚生労働省による「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」によると、「発熱などの症状があることのみをもって一律に労働者に休んでいただく措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たり、休業手当を支払う必要があります。」とされており、休業手当の支払いが必要となる可能性が高いです。

他方で、労働者が自主的に休む場合は、通常の欠勤と同様の扱いとなります。

感染が疑われる労働者を会社の判断で休ませた場合

感染が疑われる労働者についても、感染した労働者の場合と同様で、その一事をもって会社が自主的な判断で休業させる場合には、休業手当の支払いが必要となる可能性が高いです。

休業要請を受けて会社が休業した場合

休業要請については、会社側がテレワーク等の措置によって従業員を休業させないことが可能かどうかについては問題が残りますが、そういった休業回避の措置が取り得ない場合には、やむを得ない休業として休業手当の支払い義務はないものと判断されることになるでしょう。

休業要請を受けていないが自主的に休業した場合

使用者が自主的に休業する以上、原則として休業手当の支払義務を免れることはないでしょう。

新型コロナ感染拡大によりやむを得ず休業する場合

新型コロナ感染拡大によってやむを得ず休業する場合であっても、労働者を休業させるときには、労使がよく話し合って労働者の不利益を回避するように努力することが大切であるとされています。

例えば、海外の取引先が新型コロナウイルス感染症を受け事業を休止したことに伴う事業の休止である場合には、当該取引先への依存の程度、他の代替手段の可能性、事業休止からの期間、使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し、やむを得ない休業であるかが判断されるとされています。

このように、感染拡大があるからといって、直ちに休業手当の支払義務を免れる関係にはないので、休業を開扉することができないかについて、よく検討する必要があります。

アルバイトやパートにも休業手当を支払う必要はある?

アルバイトやパートであっても、労働者であることに変わりはありません。そのため、使用者は、アルバイトやパートに対しても、労働基準法26条に従って休業手当を支払う必要があります。

会社の指示で休ませた場合の休業手当の計算方法

休業手当は、平均賃金の100分の60以上の手当を、休業期間中支払わなければなりません。

ここでいう平均賃金とは、算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいうとされています(労働基準法12条)。

また、休業期間とされていますが、労働協約、就業規則又は労働契約により休日と定められている日については休業手当を支給する義務はないとされています(昭和24・3・22基収第4077号)。

したがって、平均賃金×60%×休業日数で休業手当を支払うこととなります。

業績悪化に伴う休業には「雇用調整助成金」の活用も

雇用調整助成金は、経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業、教育訓練、出向に要した費用を助成する制度です。

雇用調整助成金を受給するためには、雇用保険の適用事業主であること等、5つの受給要件を満たす必要がありますが、業績悪化に伴う休業についてはこのような制度の活用もご検討いただくとよいかと考えます。

労使トラブルを回避するための実務上の注意点

以上のように、企業には休業手当の支払義務がありますが、労使トラブルを回避するためには、以下のような注意点があります。

就業規則への規定

労働基準法では、平均賃金の100分の60「以上」の支払いが求められます。その意味で、100分の60以上の支払いを行えばよいのですが、就業規則で休業手当は100分の60と定めておくことで、無駄な紛争を避けることが可能です。

また、民法536条2項の任意規定の排除も定めておく必要もあります。

休業手当の支払い日について

休業手当も、賃金ですから、労働基準法第24条が適用されて、休業期間の属する賃金算定期間について定められた支払日に支払わなければなりません。

ですから、給与支払日に同時に支払わなければなりません。

休業手当の支払い義務に違反した場合の罰則

30万円以下の罰金に処せられます(労基法120条第1号)。また、これ以外にも、労働者の請求によって裁判所から付加金の支払いが命じられることもあります(労働基準法124条)

休業手当と混同されやすい「休業補償」について

休業補償とは、労災保険における給付であって、休業手当と混同してはいけません。

休業中の賃金について争われた裁判例

新型コロナウイルス蔓延中の賃金について争われた裁判例(東京地判令和3年11月29日)があります。

事件の概要

コロナ禍におけるホテルでの事案で、客室清掃係の従業員について、会社が売上減少に対応するため、人件費抑制策として労働者の勤務日数や勤務時間を調整していたというものです。

なお、これについて従業員の個別的な同意や就業規則の変更は存在しないものでした。

裁判所の判断

裁判所は、会社の売上の減収があったことを認定しながらも、「被告は,事業を停止していたものではなく,毎月変動する売上の状況やその予測を踏まえつつ,人件費すなわち従業員の勤務日数や勤務時間数を調整していたのであるから,これはまさに使用者がその裁量をもった判断により従業員に休業を行わせていたものにほかならない。」と判断し、休業手当の支払いを命じました。

ポイント・解説

コロナ禍という未曽有の危機においても、労働基準法26条における帰責事由の判断については、休業回避のための最大限の努力義務を果たしていることの判断について、裁判所は厳格であったことにポイントがあります。営業を続けられている以上、売上減少に対応して決定された人件費の削減は使用者側の事情に起因するものであると判断されてしまうことがありますので、ご注意ください。

賃金に関するトラブルを防ぐために、労働問題に強い弁護士がサポートいたします

賃金に関するトラブルは幅広く、今回の休業手当の支払いだけをみても、様々な専門的判断が必要となってきます。

自社のみで判断することは、事後的な休業手当の支払い請求によって大きなキャッシュアウトを招く恐れもあり、お勧めできません。弁護士等、労働問題の専門家のサポートが必要不可欠です。

埼玉県内で賃金に関するトラブルでお悩みの企業の方は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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