労務

従業員が逮捕された場合の会社の適切な初動対応

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

  • 従業員逮捕

従業員が逮捕された場合、会社としては、どのような対応をとればよいでしょうか。

従業員が逮捕される理由は、私生活上の非行も含めて様々なものが考えられるため、実務上、思った以上にこの問題に直面することが多いです。

従業員と会社との雇用関係をどうするかといった問題も含めて、ご説明させていただきます。

従業員が逮捕された場合に会社がとるべき初動対応

従業員が逮捕された場合に会社が取るべき初動対応としては、以下の対応が考えられます。

①事実関係を正確に把握する

まずは、事実関係を正確に把握することが肝要です。従業員がどのような事情で逮捕されたのか、例えば痴漢等の私生活上の非行で逮捕されたのか、業務に関連する事件で逮捕されたのかといった事件の内容について、できる限り正確に把握することが重要です。

仮に、業務に関連する事件の場合、内容によっては、会社も責任を負うことがありますので、事実関係を正確に把握することは重要です。

②社内対応を行う

逮捕されている以上、その従業員が社内に出社することはありません。その結果、逮捕された従業員が担当していた業務については、業務が止まってしまいますから、他の従業員に引継ぎを行っていく必要があります。

逮捕された従業員しかわからない事柄については、接見に行って直接聴取する必要も出てきます。

従業員が逮捕・勾留される期間は?

逮捕・勾留では、最大で23日の間、従業員の身柄が拘束されます。まず、逮捕は、最大で72時間(3日間)されます。警察では、逮捕から48時間以内に被疑者を釈放するか、検察官に送致するかを決めなければなりません。

送致された検察官は、身柄を受け取ってから24時間以内、かつ、逮捕した時から72時間以内に被疑者である従業員を釈放するか、勾留請求をするか決めなければなりません。

検察官が勾留請求をして、これが認められると、最大で20日間勾留されます。仮に勾留中に起訴された場合には、身柄拘束の期間はさらに伸びることもあります。

③従業員を支援するかどうかを決める

その従業員が冤罪を訴えていたり、そもそも会社にとって必要不可欠な人材であった場合には、どのような事情で逮捕されたのかにもよりますが、会社が従業員を支援するかどうかという問題もあります。

ただ、従業員への支援として、会社の顧問弁護士を従業員の弁護人に選任する時には注意が必要です。

顧問弁護士に依頼する場合の注意点

会社の顧問弁護士は、会社から委任を受けて、会社の利益を守るために動くわけですが、会社としては従業員に対して刑事事件について懲戒処分等をしなければならないことがあります。この助言も、会社の顧問弁護士に求めるのが一般的です。

しかしながら、従業員の刑事弁護を顧問弁護士に委任していると、会社が、こういった従業員への処分についての助言を顧問弁護士に求めることは、弁護士倫理上できなくなってしまいます(利益相反)。

従業員との労働紛争に、顧問弁護士が介入できなくなる事態を避けるためには、従業員の刑事事件については会社の側に立って助言を求めるにとどめ、別の弁護士を紹介してもらうこと等で対応していくことが適切です。

④逮捕中の勤怠・賃金の取り扱いを検討する

従業員が逮捕された場合には、最大で23日間は身柄が拘束されることになりますが、その間、会社に出社することはできません。この場合の勤怠や賃金の取扱いについて、就業規則を確認し、検討していく必要もあります。

身柄拘束期間中の賃金は支払うべきか?

ノーワークノーペイの原則がありますから、出社していない場合に賃金を支払う必要はありません。ただ、従業員が有給休暇の申請をしたときは、基本的には応じる必要がありますので注意が必要です。

起訴休職制度を設けている場合

起訴休職とは、刑事事件で起訴された者をその事件が裁判所に係属する期間または判決が確定するまで休職させる制度をいいます。この制度が就業規則にある場合には、当該従業員を休職とすることも考えられます。

なお、この場合の給与の取扱いは就業規則の定めによりますが、基本的にはノーワークノーペイの原則で構いません。

⑤マスコミ・報道機関への対応

従業員の逮捕された場合、マスコミや報道機関への対応として、取材に応じたり、コメントを出すことが想定されます。特に、会社の業務に関連してなされた被疑事実である場合には、迅速な対応が求められます。

ただ、コメントの内容は、実際に罪を犯したかわからない場合には、断定的な表現は避けておくことで、後に名誉毀損等の紛争で紛糾することを避けることができるでしょう。

逮捕された従業員の懲戒処分の検討について

逮捕された従業員については、懲戒処分を検討していくことも考えられます。

プライベートでの犯罪行為も処分の対象か?

懲戒処分については、就業規則の定めに従うことになります。プライベートな行為を懲戒事由とできるのか、という問題はありますが、多くの会社の就業規則では、私生活上の非行であっても、会社の名誉や風評等を損なうとか、重大な悪影響を及ぼす行為をした場合には、懲戒処分の対象としています。

判例上も、上記のような会社の社会的評価に重大な悪影響を与える場合には、懲戒処分の対象とすることは当然認められなければならないとしています(最判昭和49年 3月15日)。

従業員の逮捕を理由に懲戒解雇できるのか?

懲戒処分にも様々なものがありますが、従業員の逮捕を理由に懲戒解雇することはできるのでしょうか。これについては、事案によっては可能ということになります。

会社のお金を横領したとか、会社に対して詐欺を行ったといった会社への重大な背信的行為であれば、懲戒解雇を持って臨むことになるでしょうが、逆に、私生活上の非行で軽微なものであった場合には、逮捕されたからといって、直ちに懲戒解雇とするのはリスクがあります。

懲戒には、減給、戒告、降格など、懲戒解雇よりも軽度の処分もあるため、会社の過去の事例とも比較しながら、顧問弁護士とともに検討していくのが良いでしょう。

有罪判決が出る前に解雇することのリスク

また、逮捕された従業員を解雇しようという場合、有罪判決が出る前に解雇するにはリスクもあります。逮捕されたというだけで、本人がその罪を犯したと確定したわけではありません。

実際に、逮捕された後に、嫌疑不十分として釈放されることもありますし、刑事裁判で無罪になることもあり得ます。有罪判決がでる前に解雇する場合は、従業員の認否も含めて事実関係を十分に調査することが重要です。

逮捕された従業員の退職金の支給について

退職金の支給・不支給については、会社の退職金規程に従うことになります。ただ、会社に退職金規程がある場合でも、従業員が犯罪をおこしたことをきっかけに退職したという場合であったとしても退職金を全く支給しないとか、減額することは認められないとする裁判例が存在します。

これは退職金には、賃金の後払いとしての意味合いが含まれていることから、従業員の非違行為が、当該従業員の過去の功労をすべて抹消するほど重大な場合でなければ、退職金を全額不支給とすることは認めないという考え方があることによります。

やはり、顧問弁護士とよく協議のうえ、退職金の支給について判断していくことが必要でしょう。

不起訴・無罪になった場合の対応

無罪となった場合は、犯罪を行ったと証明されなかった以上、会社としては就労を拒む理由はありません。起訴休職をしていた場合には、休職事由がなくなったものとして復職させなければならないでしょう。

他方で、従業員が不起訴となった場合には、色々なケースが考えられます。不起訴になる理由は、嫌疑がなくなったという場合だけでなく、犯罪を行ったこと自体は事実であるが、被害者と示談したとか、起訴が猶予されただけの場合もあります。

こういった場合には、被疑事実次第ですが、上記した場合と変わらず、懲戒処分等の対応を検討していくことになります。

従業員の逮捕と解雇に関する裁判例

従業員の逮捕と解雇に関する裁判例として、犯罪行為をして有罪判決を受けた従業員の懲戒解雇を無効と判断した事例について解説します。

事件の概要

信用金庫の業務推進部に所属する調査役が、顧客から集金した金員の一部(1万円)を着服したため、懲戒解雇したという事案です(前橋信用金庫事件 東京高判平成元年3月16日)。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

「控訴人が被控訴人には金員着服行為があるものと認定し、右は就業規則四九条一号、三号及び四号(証拠略)に該当するとして被控訴人を解雇処分に付したことについては、その原因があり、かつ信用に立脚する金融機関の性格上やむを得ないもので、もとより有効といわなければならない。」として、懲戒解雇を有効と判断しました。

ポイント・解説

1万円という金額は、多額とまではいえないため、懲戒解雇までは相当ではないと判断されることも考えられます。しかしながら、金融機関の性格を考慮し、1万円であったとしても、信用のために解雇を持って臨むのは有効であると判断したところがポイントです。

従業員が逮捕された場合は初動対応が重要です。まずは弁護士にご相談下さい。

従業員が逮捕された場合、初動対応は重要です。社内での業務引継ぎだけでなく、会社が従業員に対してどのような態度を採るのかは、事案によっては社会的関心が強く、企業の信用問題にまで発展しかねません。

また、従業員との間の雇用契約を解消するのかどうかについても、検討していかなければなりませんが、日本の厳しい解雇規制から考えれば、自社のみで検討することは困難でしょう。顧問弁護士等、労務の専門家に相談しながら進めるべきでしょう。

埼玉県内で、従業員が逮捕されたとしてお悩みの企業は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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