監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
相続財産に家が含まれている場合、相続放棄をするとその家がどうなるのか不安に感じる方は少なくありません。
相続放棄をすると、家を含む全ての財産を受け取れなくなる一方で、放棄後もすぐに責任から解放されると限られない点に注意が必要です。
場合によっては、家の保存義務や解体費用の負担といった問題が生じることもあります。
本記事では、家を相続放棄した場合に家がどうなるのか、住み続ける方法はあるのか、手続きの際の注意点について、解説いたします。
目次
相続放棄をしたら家はどうなる?
相続放棄をすると、その人は民法上「初めから相続人ではなかった」ものとみなされます(民法939条)。そのため、家を含むすべての遺産を受け取る権利を失い、代わりにその権利は次の順位の相続人へと移っていきます。
相続人全員が放棄をした場合や、そもそも相続人がいない場合には、最終的に家は国のものになります。また、空き家として残った場合には、相続財産清算人の選任が必要になるケースもあり、放棄したからと言って直ちに関係が終わるわけではありません。
以下、それぞれのケースについて詳しく見ていきましょう。
次の順位の相続人が相続する
相続放棄をすると、家をはじめとする遺産を受けとる権利は、次の順位の法定相続人に移ります。
民法では、配偶者は常に相続人となり、それ以外は第1順位が子、第2順位が父母などの直系尊属、第3順位が兄弟姉妹という順序で相続権が定められています(民法887条、889条、890条)。
たとえば、子がそろって家の相続を放棄すると、次は被相続人の父母、父母もいなければ、兄弟姉妹へと権利が移ります。
自分が放棄しても、後順位の親族が家の所有者となる可能性があるため、思わぬ形で他の親族に負担をかけないよう、事前に事情を伝えておくことが望ましいでしょう。
全員が相続放棄した場合・相続人がいない場合は国のものになる
法定相続人全員が相続放棄をした場合や、そもそも相続人が存在しない場合、家などの遺産は最終的に国庫に帰属します(民法959条)。
しかし、放棄をした時点で自動的に国に引き渡されるわけではありません。
家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申立て、清算人が財産の管理・売却・債務の弁済などの手続きを行ったうえで、残った財産が初めて国のものとなります。
この手続きには一定の時間と費用がかかるため、相続人がいなくなったからといってすぐに問題が解消するわけではない点を理解しておく必要があります。
空き家になる場合、相続財産清算人の選任が必要
相続放棄によって家が空き家として残された場合、それを国に引き継ぐためには、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります(民法952条)。
相続財産清算人は、いわば遺産の後片付け役であり、家の売却や債務の弁済、残余財産の国庫帰属といった手続きを担います。
申立ては、相続放棄をした人や被相続人の債権者、特別縁故者などの利害関係人が行うことができ、収入印紙や官報公告料に加え、清算人の報酬に充てる予納金(数十万円から百万円程度)が必要になることもあります。
清算人が選任されて財産を引き渡すまでは、家を現に占有していた相続放棄者に保存義務が残る点にも注意が必要です(民法940条)。
相続放棄をしても家に住みたい場合の対処法
相続放棄をすると、原則として家に住み続けることはできません。
家に住むことは単純承認とみなされるおそれがあるためです。
もっとも、熟慮期間である3か月や引っ越しの猶予などを含めれば、合計半年程度は住める可能性があります。
それでも家に住み続けたい場合には、次の方法を検討する必要があります。
相続放棄後に相続財産清算人から買い戻す
相続放棄をした後も家に住み続けたい場合には、相続財産清算人が選任された後に、その清算人から家を買い戻すという方法があります。
しかし、相続人全員が放棄するとは限らず、相続財産清算人の選任には高額な予納金がかかることも少なくありません。
また、家に資産価値がある場合は債権者に優先的に買い取られてしまう可能性もあるため、確実に住み続けられる保証がある方法ではない点に注意が必要です。
限定承認する
相続放棄ではなく限定承認を選ぶことで、家に住み続けられる場合があります。
限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ相続方法です(民法922条)。
限定承認をすると相続財産は競売にかけられるのが原則ですが、家に住み続けたい場合には、評価額を支払うことでその財産を優先的に取得できる「先買権」を行使することができます。
しかし、買取費用に加えて鑑定人の費用もかかるうえ、限定承認は相続人全員で行う必要があり手続きも煩雑なため、簡単に利用できる方法とはいえません。
空き家を相続放棄すべき理由
相続財産に誰も住んでいない空き家が含まれる場合、相続放棄をすべきかどうかはケースによって異なります。
判断のポイントとなるのは、空き家を含めた相続財産全体の総額、他に空き家を引き継ぐ相続人がいるか、相続財産清算人の選任にかかる費用、そのまま放置した場合のデメリットなどです。
特に空き家を適切に管理する時間や費用がない場合、多額の固定資産税、保険料がかかる場合、老朽化や衛生上の問題から自治体に「特定空家」に指定されているような場合は、相続放棄を検討すべきケースといえます。
なお、相続放棄をしなくても、空き家を売却したり自治体などに寄付したりして手放す選択肢もあるため、総合的に比較して判断することが大切です。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
相続放棄する場合の注意点
相続放棄をしたいと考えていた場合には、以下の点を注意しておくことが大切です。
家の片づけや遺品整理はNG
相続財産の処分に当たる行為をすると、単純承認をしたものとみなされ、相続放棄ができなくなるおそれがあります(民法921条)。これを法定単純承認といいます。
具体的には遺品を売却したり形見分けをしたりすること、相続財産から家の管理費用を支払うこと、家の売却・解体・リフォームなど所有者にしかできない行為をすること、賃貸借契約の解約など法律上の権限が必要な手続きを行うことは避けなければなりません。
相続放棄を確実に行うためにはこうした行為に着手する前に、弁護士に相談しておくことをおすすめします。
他の相続人に相続放棄することを連絡する
相続放棄をすると、その権利は次の順位の相続人に移ります。
しかし、家庭裁判所からは他の相続人に対して自動的に通知が行われるわけではないため、連絡をしなければ後順位の相続人が知らないうちに借金などの負債を負ってしまう可能性があります。
特に、空き家の保存義務や固定資産税の負担が絡む場合、連絡が遅れることでトラブルに発展するケースも少なくありません。
相続放棄をする際は、後順位の相続人に対して事前に事情を説明し、必要な対応を取ってもらえるよう配慮することが大切です。
家の相続放棄に関するQ&A
家だけ相続放棄できますか?
相続放棄は、預貯金や不動産などの財産を個別に選んで放棄することはできません。家だけを放棄して、他のプラスの財産だけを受け取るということは認められておらず、相続放棄をする場合はすべての財産を放棄することになります。
そのため、家を手放したいものの他の財産は受け取りたいという場合には、相続放棄ではなく、遺産分割協議によって家を取得しない形にする、あるいは家を取得した上で売却するといった方法を検討する必要があります。
亡くなった父は賃貸に住んでいました。家の鍵を返すよう言われているのですが、返しても大丈夫でしょうか。それとも次順位の父の兄弟に渡すべきでしょうか。
賃貸物件の鍵を貸主に返却する行為自体は、通常、相続財産の処分(単純承認)には該当しないと考えられていますが、解約手続きなど賃貸借契約に関する法律上の権限を伴う行為を行ってしまうと、単純承認とみなされるリスクがあります。
まずは相続放棄の手続きが完了しているかを確認し、次順位の相続人が決まっていない段階で安易に契約解除の意思表示をしないように注意しましょう。
鍵の返却先や賃貸借契約の処理方法については、個別の事情によって判断が分かれるため、弁護士に相談したうえで対応することをおすすめします。
相続放棄した家が倒壊したら誰の責任になりますか?
相続放棄をした時点で家を現に占有していた場合、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまでは保存義務が残ります(民法940条)。
この保存義務を怠り、老朽化した家が倒壊して第三者に損害を与えた場合、占有者としての責任(土地工作物責任)を問われる可能性があります。
一方、放棄した時点で家に関与していなかった場合は保存義務を負わないため、原則として責任を問われることはありません。
ご自身が保存義務を負う立場にあるかどうかを見極めることが重要になります。
相続放棄した家の解体費用は誰が払うべきですか?
相続放棄をした人が、解体費用を必ず負担しなければならないわけではありません。
しかし、相続財産清算人の選任を申し立てる際に予納金が必要になったり、行政が空き家を「特定空家」に指定して行政代執行により解体した場合には、その費用を請求されたりする可能性があります。
特に行政代執行による解体費用は高額になりやすく、数百万円に達することもあるため注意が必要です。
解体費用の負担を避けたい場合は、保存義務を負う前提となる占有の有無や、相続財産清算人の選任手続きについて、早めに弁護士に相談しておくと望ましいです。
家の相続放棄についてお困りなら、弁護士へご相談ください
相続財産に家が含まれている場合、相続放棄をすると所有権や保存義務の問題が絡み合い、判断が複雑になりがちです。
安易に相続放棄を選択すると、預貯金などの他の財産まで失ったり、そうていしていなかった保存義務や費用負担が発生したりすることもあります。
相続放棄が本当に適切な選択なのか、また放棄後にどのような義務やリスクが残るのかについては、相続問題に詳しい弁護士に相談した上で判断することをおすすめします。
煩雑な相続放棄の手続きも含めて任せることができますので、家の相続放棄についてお困りの方は、お気軽に弁護士にご相談ください。

-
- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
