監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
ご自身が相続人にあたる場合に、亡くなった方(被相続人といいます。)の財産を相続したくない、または、関わりたくないという場合があると思います。そのような場合、相続放棄を検討してみてはいかがでしょうか。
このページでは、相続放棄がどのような制度であるのか、その手続方法や申述できる期限、注意点など、詳しく解説していきます。
目次
相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人のプラス財産もマイナスの財産も含めて全ての財産を相続しない、とするものです。
相続放棄をすると、相続人ではなくなることやマイナスの財産も含めて相続しないという大きな効果が生じますので、相続放棄をするには、裁判所の手続を経る必要があります。
相続放棄の手続き方法
それでは、どのようにして相続放棄をするのでしょうか。
相続放棄をするための手続方法について、以下で詳しく解説していきます。
必要書類を集める
まず、相続放棄をするためには、家庭裁判所に提出する必要書類を集める必要があります。
必要書類には、①相続放棄申述書、②被相続人の住民票の除票または戸籍の附票、③被相続人の戸籍謄本、④申述人本人の戸籍謄本などが必要になります。
②③④については、市町村役場で取得することができます。取得する戸籍の範囲は、被相続人と相続放棄をする人との関係によって異なりますので、不明点があれば弁護士に相談するとよいでしょう。
①の書式は裁判所のホームページにもありますが、弁護士に依頼すれば作成してくれるでしょう。
家庭裁判所に必要書類を提出する
必要書類が揃ったら、家庭裁判所に提出します。全国のいたるところに家庭裁判所がありますが、必要書類を提出する家庭裁判所は、被相続人の死亡時の住所地を管轄する家庭裁判所です。
管轄裁判所がどこになるかを裁判所のホームページから確認することもできます。
裁判所に申請する際には、必要書類を直接持参することもできますし、郵送することもできます。
なお、必要書類を提出する際には、収入印紙や予納郵券(切手)も提出する必要があります。
家庭裁判所から届いた書類に回答し、返送する
家庭裁判所に必要資料が届くと、家庭裁判所で内容を確認して検討します。
その際に、家庭裁判所で不明点や確認したいことがあれば、相続放棄照会書や相続放棄回答書が送付されてくることがあります。これらの内容を確認しましたら、家庭裁判所からの質問事項に回答して、期限内に返送する必要があります。
一方で、提出した書類の内容で、不明点や確認すべきものがない場合は、相続放棄照会書や相続放棄回答書の送付は省略されることもあります。
返送期限内に回答書を送れない場合
回答書を期限内に家庭裁判所に送付できない場合は、回答書を送付してきた家庭裁判所に直接連絡をして、返送期限内に回答書を送れないことを伝えましょう。理由によっては期限の延長してくれるかもしれません。連絡もなく回答書の送付期限に遅れていると、相続放棄が認められない可能性がありますので、注意が必要です。
相続放棄申述受理通知書が届いたら手続き完了
相続放棄の申述から10日前後を経過して、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届きましたら、相続放棄の手続は完了します。この通知書の再発行はできませんので、大切に保管しましょう。相続放棄を証明する資料として、家庭裁判所から相続放棄申述受理証明書を発行してもらえます。必要に応じて手数料を納付のうえで、請求しましょう。
相続放棄の期限は3ヶ月
相続放棄を申述する期限は、相続の開始を知った日から3ヵ月です。
相続の開始を知った日から3ヵ月を経過する前に、必要書類を家庭裁判所に提出しているのであれば、手続きの途中で3ヵ月を経過してしまっても問題はありません。
3ヶ月の期限を過ぎそうな場合
相続放棄をするべきか否か判断に時間がかかったり、何らかの理由で申述期限である3ヵ月を超えてしまいそうな場合は、相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立てをして、相続放棄の申述期間の延長を申請しましょう。期限の延長がどの程度認められるかですが、1~3ヵ月程度と言われています。
3ヶ月の期限を過ぎてしまった場合
相続放棄の申述期限である3ヵ月を過ぎてしまった場合は、通常は延長をすることはできません。
しかしながら、やむを得ず期限内に申述できなかった理由をしっかりと説明したうえで、相続放棄が認められたケースもあります。やむを得ず期限内に申述することができなかったという理由がどのようなものであるのかは、ケースバイケースです。申述をすることができなかった理由や申述をすることが出来そうかなど、弁護士に相談してみましょう。
相続放棄の申し立ては一度しかできない
相続放棄の申述は、一度しかできません。したがって、認められなかった場合は、やり直しができません。
相続放棄が認められなかったことに対して、2週間以内に、即時抗告という制度を利用して、不服を申し立てることができます。しかしながら、その判断を覆すことは容易ではありません。
したがって、相続放棄の申述にあたっては、専門家である弁護士に手続きを依頼して慎重に進めることをお勧めします。
相続放棄が無効・取り消しになるケースがある
相続放棄が認められた後でも、相続放棄が無効・取り消しになるケースがあります。
例えば、詐欺や脅迫によって相続放棄の意思表示をした場合や、未成年者が法定代理人の同意を得ないで相続放棄の申述をするなどの場合です。
後から財産がプラスだと分かっても撤回できない
相続放棄が認められた場合、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も相続することができなくなります。したがって、マイナスの財産が多いために相続放棄をしたが、実はプラスの財産が多かったことが後から判明しても、相続放棄自体を撤回することはできません。
このように、相続放棄をするかどうかの判断は、慎重にする必要があるのです。
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相続放棄は一人でもできるがトラブルになる場合も…
相続放棄の申述は、他の相続人とは無関係に一人で手続きを進めることができます。
しかしながら、以下のようなトラブルが発生することも考えられますので、注意が必要です。
明らかに相続放棄したほうがいい場合
マイナスの財産が多く、明らかに相続放棄をした方が良い場合は、他の相続人も含め、全員で話し合いながら相続放棄の手続を進めた方が良いでしょう。なぜなら、マイナスの財産を法定相続分で負担してくれると思っていた他の相続人が、あなたが相続放棄をしたことによって、マイナスの財産を全て相続することになるからです。明らかにマイナスの財産が多い場合は、このようなことにならないよう、あらかじめ他の相続人に相続放棄をすることを伝えて、未然にこのようなトラブルを防いでいきましょう。
把握していない相続人がいる場合がある
そもそも相続人が誰であるのか不明である場合に、あなたの相続放棄によって、把握していなかった相続人に多額の財産を渡す可能性もあります。相続放棄をする前に、相続人が誰であるのか、相続財産がどれだけあるのかについて、正確に把握して相続放棄を検討した方が良いでしょう。
相続放棄後の相続財産について
相続放棄が認められた後、相続財産について、どこまで関わることができるのでしょうか。
以下で詳しく解説していきます。
墓や生命保険など、相続放棄しても受け取れるものはある
お墓は、一般的な相続財産である現金・預金や不動産とは異なり、相続放棄をしても、祭祀の承継として引き続くことができます。
また、生命保険金の受取りについては、受取人としてあなた指定されていれば、あなた固有の財産となりますから、相続財産にはあたらず、相続放棄とは無関係に受け取ることができます。
全員で相続放棄をしても家や土地の管理義務は残る
相続財産のうち、家や土地などの不動産があれば、相続人全員で相続放棄をした場合であっても、その管理についての義務を負担します。具体的には、その不動産について、相続財産管理人が選任されるまでの間、自己の財産に対するのと同一の注意をもって管理を継続しなければならないのです(民法940条1項)。相続人は、家庭裁判所に対して、相続財産管理人の選任を申立てることができますので、そのような義務を負担したくない場合には、相続財産管理人の制度を検討してみてはいかがでしょうか。
相続放棄したのに固定資産税の請求がきたら
固定資産税については、原則として、相続放棄をした方はその支払い義務を免れます。
しかしながら、相続放棄後、固定資産税の通知書が来ることがあります。固定資産税の納税義務者は、1月1日時点で固定資産税の課税台帳に登録されている人に課税されます。相続放棄が認められるまでの間に、1月1日をまたいだ場合には、相続放棄をした人に通知書が送付され、納税義務が生じます。
相続放棄手続きにおける債権者対応
生前に被相続人が借金をしていた場合、お金を貸していた人(債権者といいます。)は、相続人に対して請求することになります。相続放棄を検討している場合の、債権者からの請求に対する対応について、以下で詳しく解説していきます。
「とりあえず対応しよう」はNG
相続放棄を検討している場合に、被相続人の債権者からの請求に対して、相続人として借金の一部を返済するなど、「とりあえず対応しよう」とすることはやめましょう。なぜなら、借金を返済することによって、相続人として相続を承認(単純承認といいます。)したことになってしまうのです。
「利子だけ払っておこう」はNG
相続放棄を検討しているのであれば、「利子だけ払っておこう」というのもいけません。利子だけの支払であっても、すでに説明した単純承認として相続放棄が認められなくなってしまうからです。
サインはしないようにしましょう
債権者から相続人に対して、何らかのサインを求められることもあるかと思います。
その内容をしっかりと確認せずにサインすること自体も危険ですし、単純承認として相続放棄ができなくなることもありますから、応じないようにしましょう。
遺産に触れないようにしましょう
相続放棄をする場合には、単純承認として相続放棄が認められなくなることに気をつける必要があることは、すでに説明したとおりです。したがって、被相続人の遺産に触れないようにするということが重要です。
住宅ローンの解約をして今の家に住み続けられるようにできます等と言われ、その手続きを進めていったところ、被相続人の財産の処分行為として単純承認にあたるとされることがあります。このように、知らぬ間に単純承認をしてしまった、ということがないように注意をしなければなりません。対応に困ったら、すぐに弁護士に相談しましょう。
相続放棄に関するお悩みは弁護士にご相談下さい
相続放棄は、被相続人のマイナスの財産を引き継ぐことがないというメリットが大きい反面、単純承認をしてしまうと、相続放棄ができなくなり、引き継ぎたくなかったマイナスの財産を引き継がざるを得なくなってしまうこともあります。また、相続放棄後、遺産の管理をどこまでしていくべきなのか、その判断に戸惑うこともあるでしょう。
どのようなことが単純承認にあたるのか、申述期間が経過してそうだが申述できるかなど、相続放棄についてご不安があれば、法律の専門家である弁護士に相談してみましょう。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)