労務

試用期間中の社員に問題があるときの対応

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

  • 問題社員

日本の会社では、本採用の前に試用期間というお試し期間を設けて社員を雇用することが一般的です。
では、この試用期間中に、社員の問題が明らかになったとき、会社はどのように対応していくべきなのでしょうか。

今回は、試用期間中の社員に問題があった場合の対応についてご説明します。

試用期間中の社員の問題があるとき、会社はどう対応すべきか?

試用期間中の社員に問題があった時、会社としては、まずは、その問題に対して注意・指導すべきです。
そして、その社員が改善するかどうかを見極めていくことが大事です。

試用期間中の社員と会社の関係

試用期間中の社員と、会社は、解約権留保付労働契約の関係にあるといわれます。
試用期間中であったとしても、労働契約が成立していることに変わりはありません。
ただし、試用期間中に従業員としての適性が否定された場合には解約し得る解約権が、会社に大幅に留保された契約であるといわれています。

試用期間中に問題視されやすい要因とは?

試用期間中の従業員については、能力不足や勤務態度不良等が認められると、会社としては、試用期間満了、本採用拒否としたり、試用期間の延長といったことを判断せざるを得ないため、問題になりやすいです。

問題社員の試用期間を延長することは可能?

試用期間を延長することは、基本的に社員にとって不利ですから、延長するには同意が必要です。
ただ、合意が無い場合であっても、就業規則上に根拠が認められる場合には、一定の要件の下で、試用期間を延長することも認められます。

延長が認められる基準とは?

雅叙園観光事件(東京地判昭和60年11月20日)によると、「試用期間満了時に一応職務不適格と判断されたものについて、…更に職務適格性を見出すために、試用期間を引き続き一定の期間延長することも許される」としています。

このように、本採用するには適格性に疑問があってためらわれる相当な事情が認められる場合には、延長も認めてよいとされています。但し、就業規則上の根拠は原則として必要とされていることはご注意ください。

試用期間中の解雇は法的に認められるのか?

試用期間中でも、解雇を行うことは法的に認められています。
ただ、裁判所では、本採用拒否の場合と異なり、試用期間の途中での解雇については、その有効性について厳格に判断する傾向にあります。

本採用を拒否したい場合は?

本採用拒否については、一般に、解雇と同様の基準で判断されますので、客観的合理性と、社会通念上相当であることが求められます。
普通解雇と異なるところは、留保された解約権を行使する解雇になりますので、例えば従業員の能力不足や勤務態度不良といった事情については、通常の解雇よりも解雇の有効性が認められやすいことになります。

不当な処分を行うことのリスク

試用期間中に特に問題のなかった社員について、何ら理由なく本採用拒否を行った場合には、流石にその本採用拒否(解雇)は無効と判断されるリスクが高いです。
無効と判断された場合には、通常の解雇事案と同様、本採用を拒否した後も賃金を支払う義務が継続していると判断されるため、非常にリスクが高いです。

試用期間の延長・解雇を行う際の注意点

試用期間を延長する場合には、社員から同意が得られればともかく、同意を取ることができなかった場合に延長するためには、本採用を拒否しても良い程度の事情が必要となってきます。また、試用期間満了前に、延長の通知を行っておく必要があります。

解雇については、前記のとおり、試用期間途中か、本採用拒否なのかで全く異なってくることに注意が必要です。また、如何に解約権が留保されているからといって、解雇は解雇ですから、通常と同様に改善の機会を与えたかどうか(明確な注意・指導を行ったか)などが重視されることになります。
試用期間の定めをしたのであれば、その期間中に、しっかりとした指導・教育を行っていく必要があります。

どのような指導・教育が必要か

まず、会社は、社員を採用した以上、自らが求める水準に達せられるように社員に指導・教育を行っていく必要があります。この注意は、口頭でもよいですが、改善が認められ難い社員であると分かったならば、形に残る形で指導していく必要があります。

これは、社員に対し、どのようにすべきだったかを明示することで社員の更なる改善を期待できるだけでなく、事後的に法的紛争に発展した場合に会社の指導・教育を証明する証拠にもなるからです。

弁明はどの程度まで受け入れるべきか

能力不足や勤務態度不良の社員が、弁明を行ってくることはありますが、それが合理的なものであるかどうか、また時間をかければ改善できるかを見定めていく必要があります。
ただ、不安な場合は、試用期間延長によって対処することも考えてよいでしょう。

能力不足はどう判断するか

問題社員=使えない社員=能力不足な社員であるといったご相談をいただくことがありますが、この能力不足や使えないというのは、主観的なものでは不十分です。
少なくとも定量的に把握できる仕事については、自社に所属する他の従業員と比較してどのような水準にあるかを把握できていないのであれば、能力不足との判断は出来ないでしょう。

もちろん、社内の空気に合わないと社員を本採用するべきなのかという問題もあるでしょうが、この場合も、空気に合わないと判断した具体的なエピソードを思い返していけば、主観に留まらない何かを見つけることができるかと思います。

試用期間の延長・解雇に関する裁判例

試用期間中の解雇に関して、ニュース証券事件(東京地判平成21年1月30日)があります。

事件の概要

有名な証券会社に営業職として勤務していた社員が、会社に営業職として入社しました。
同社員と会社の契約によると試用期間は6か月とされていました。

しかしながら、入社後の手数料収入が振るわなかったこと等を理由に、入社から3カ月程度で「営業担当として採用したが、営業担当としての資質に欠けるので、就業規則19条2項(試用期間中に不適と認められるときの解雇)により解雇する」と通知され、解雇されました。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は、契約に6か月の試用期間を定めたのであるから、「留保解約権の趣旨・目的は、6か月の試用期間内の調査や観察に基づいて、原告の資質、性格、能力等が被告の従業員としての適格性を有するか否かについて最終的な決定を留保したものと解されるから、この趣旨、目的に照らし、本件解雇(留保解約権の行使)が、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されるか否かを検討することになる」と述べるとともに、「わずか3か月強の期間の手数料収入のみをもって原告の資質、性格、能力等が被告の従業員としての適格性を有しないとは到底認めることはできず、本件解雇(留保解約権の行使)は、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当として是認することができない」とか、契約書上の記載からも「6か月の試用期間が経過した時点で、原告の勤務態度や目標に対する業績が著しく悪い場合には報酬額の見直しを行い、試用期間内の調査や観察に基づいて従業員としての適格性が否定される場合には最終的な決定として留保解約権の行使を行う趣旨であったと解される」等と述べて、試用期間途中での解雇を無効と判断しました。

ポイント・解説

この会社は、当初6か月の試用期間として契約したのですが、中途採用であったことからか期待値が高すぎたために成績を待つことができず、解雇に至ったようです。
試用期間には解約権が留保されているとしても、会社が自由に行使できるものではないことを明示的に判示したところが、この裁判例のポイントになります。

試用期間の延長及び解雇を検討される際は弁護士にご相談下さい。適切な対応方法や注意点についてアドバイスいたします。

以上に述べてきたように、試用期間の延長や解雇については、法的に難しい問題があります。試用期間中だからと、社員に問題があったからと、安易に延長や解雇を行った場合、会社に思わぬリスク(バックペイの支払いなど)が生じる恐れがあります。

そのため、試用期間中の社員に問題があるときの対応には、自社のみで判断するのではなく、労働法務に詳しい弁護士を関与させることを強くお勧めいたします。

埼玉県内で、試用期間中の社員に問題があるときの対応でお悩みの企業の方、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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