業務命令に従わない労働者への処分について

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

  • 懲戒処分

成果が上がらない社員に対して改善の業務命令をだすとか、上司の指示に従わない従業員に対して改善の業務命令を出すといったことがあります。
しかしながら、そのような業務命令に従ってくれる労働者ばかりではありません。
このような業務命令に従わない労働者に対して、どのように対処していくべきなのでしょうか。

業務命令に従わない労働者への処分はどうするべきか?

業務命令に従わない労働者にたいしては、まず懲戒処分を下すかどうかが検討されます。
上司からの業務指示の違反、時間外労働(休日労働)命令、配転命令、出向命令に従わない場合には、業務命令違反という形で、懲戒事由に該当し得ることになります。

労働者が負う「誠実労働義務」とは

労働者は、労働義務を「債務の本旨に従って」履行しなければなりません(民法493条)。
この義務を、職務専念義務ないし誠実労働義務といいます。
例えば、会社から出張・外勤の業務命令が出ているにもかかわらず、労働者が勝手に内勤業務に従事したという場合では、債務の本旨に従った労働の提供とは言えず、職務専念義務ないし誠実労働義務に反するものといえます。
業務命令違反は、こういった労働者の義務に反しますので、懲戒処分が検討されることになります。

業務命令に従わないことを理由に解雇はできるか?

では、業務命令に従わないことを理由に、直ちに解雇できるのでしょうか。
もちろん、最終的には解雇ということも考えられますが、業務命令に従わなかっただけで直ちに解雇しても、無効とされるリスクが高いです。

懲戒解雇の有効性が争われた裁判例

懲戒解雇の有効性が争われた裁判例として、ユニスコープ事件判決があります。

事件の概要

翻訳業に従事していた労働者が、スケジュールや納期を守らなかったり、業務の進行状況に対する問い合わせにも答えないといった問題があり、改善命令を出したところ、2か月間タイムカードを押さずに反抗する態度を取ったため、懲戒解雇したという事案です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

東京地判平成6年3月11日
裁判所は、労働者の「勤務態度は、非協調的・独善的なものであったものと評価されてもやむをえないものということができる。」と指摘し、他方で、会社代表者は、労働者のこのような勤務態度を理由に直ちに労働者を解雇したものではなく、労働者が会社に勤務していた約一年五か月の間、労働者に対し、その勤務態度の問題点を度々指摘して注意を喚起したり、勤務体制に配慮するなどして、労働者の非協調的な勤務態度の改善を求めてきたことや、労働者は解雇されるまで、その勤務態度を改善しなかったばかりか、かえって、反抗手段としてタイムカードを押さなかったり、無断欠勤をするなどしたことを考慮して、解雇には合理的理由があると指摘しました。

ポイント・解説

ポイントとしては、労働者がどれだけひどい勤務態度であったとしても、業務命令によって、労働者に対して改善の機会をあたえたかどうかが、解雇の有効性について考慮されている点です。
解雇が最終手段であることから、裁判所は解雇の効力について非常に謙抑的に判断しています。労働者に対して改善の機会(=業務命令など)を与えずに解雇することは、まずできませんので、注意が必要です。

業務命令違反による懲戒処分が認められるための要件

では、解雇に至らずとも、業務命令違反によって懲戒処分が認められるためには、どのような点に注意すればよいでしょうか。

①業務命令が有効であるか

当然のことですが、業務命令自体が有効でなければ、これに反したことを理由として、懲戒処分を下しても無効となってしまいます。

業務命令が無効になるケースとは?

例えば、配転命令において労働者に著しい不利益があるような場合には、配点命令は無効とされることになります。そのため、配転命令に違反していたとしても、配転命令自体が無効であることから、その違反を理由とした懲戒処分も無効となります。

②業務命令違反の事実は存在するか

これも前提となりますが、業務命令に反した事実が無ければ、それを理由として懲戒処分を下すことは出来ません。
労働者が、実際に業務命令を受けたか、それに反する行動をとったかどうかについては、極力、客観的な証拠や資料で裏付けし、周囲からの聞き取り調査を行って、事実の存否を確認しておく必要があります。

③就業規則に懲戒事由として規定されているか

また、就業規則に懲戒事由として明定されているかどうかが問題となります。
裁判例は、就業規則に明らかに定められていない事由に基づく懲戒処分については否定的です。

④懲戒処分の程度は相当なものか

懲戒処分にも軽重がありますから、行為に見合わないような処分がなされた場合には、社会通念上相当でないものとして、無効となります。

⑤懲戒手続が適正に行われているか

懲戒処分は、制裁罰として刑事処罰との類似性を持ちますから、罪刑法定主義類似の諸原則を満たすものでなければならないとされています。
このため、懲戒処分を行うには、適正な手続きを踏むことが必要であるとされ、その中でも、労働者(被処分者)に対して、弁明の機会を与えることが重要とされています。
被処分者に、懲戒事由を告知し、弁明の機会を与えなければ、懲戒処分は特段の事情が無い限り(事実関係が明白で疑いの余地が無い場合等。)有効とされませんので、注意が必要です。

業務命令違反に対する懲戒処分の進め方と注意点

では、具体的な処分としてはどのように進めていけばよいでしょうか。

弁明や是正の機会を与える

まずは、懲戒事由となる業務命令違反を告知し、弁明や是正の機会を与えることが第一です。
懲戒処分は、労働者に不利益なものですから、まずは弁明や是正の機会を与えることから始めます。

段階的に処分を実施する

業務命令違反が明らかとなれば、次は処分を下すかどうか検討することになります。
これは、どの程度の懲戒処分を下すか、という量刑判断も含みます。
出来る限り、けん責などの軽い懲戒処分から始めることをお勧めします。
重い懲戒処分を直ちに下す場合には、無効となる可能性が高くなります。
軽度の懲戒処分や、形に残る注意指導を実施して、今後労働者がどうなっていくかを見守る方が、妥当なことが多いです。

合意による退職を目指す

懲戒処分を下された労働者は、その後、改善すればよいのですが、改善しないことも多いです。
また、労働者としても、会社に居づらい状況になりますし、これ以上業務命令違反が続けば、懲戒解雇を検討せざるを得なくなることもあります。
そこで、退職勧奨を行う等して、合意による退職を目指すことが、労使双方にとって良い結果をもたらすことが有ります。
労働者との合意による退職を目指すことも、ご検討ください。

最終的には懲戒解雇を検討

合意による退職は出来ず、懲戒処分後も業務命令違反も継続する場合には、最終的には懲戒解雇を検討いただくことになります。
数度の懲戒処分にもかかわらず、業務命令違反が継続するのであれば、懲戒解雇を行ったとしても有効と判断される可能性は高くなってきます。

業務命令に従わない社員の処分でお困りなら弁護士にご相談ください

業務命令に従わない社員に対しては、注意指導や軽度の懲戒処分などで改善を図ることが何より大事ですが、労働者によっては、全く改善せず、会社に対して反抗的な態度に終始することもあります。
こういった労働者が、会社に在籍しづるけることは、会社にとっても、他の従業員にとっても、良いことではありません。
もちろん、上記してきたように、懲戒解雇は簡単なものではありませんから、慎重な決断が求められます。この際に、弁護士などの専門家に相談、依頼できる環境を整えておく必要があります。
埼玉県内で業務命令に従わない社員の処分でお困りの企業の方は、ぜひ一度弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

企業側人事労務に関するご相談

初回1時間電話・来所法律相談無料

顧問契約をご検討されている方弁護士法人ALGにお任せください

※会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません

※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。

会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません