労務

派遣の休業補償と休業手当について

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

  • 派遣契約

派遣社員が業務上のけがや病気で休むときや、派遣社員を自社の都合で休ませなければならないとき、
休業補償や休業手当の支払いは、自社の社員と同様に必要なのでしょうか。

派遣社員にも休業補償・休業手当の支払いは必要か?

派遣社員であろうと、労働者である以上、休業補償・休業手当の支払いは必要です。

休業補償と休業手当の違いとは

休業補償とは、労働者が業務上負傷し又は疾病にかかった場合に、労働することができないために賃金を受けない場合において、労働者の平均賃金の60%が使用者から支給されるものをいいます(労基法76条)。
他方で、休業手当とは、使用者の責に帰すべき事由(使用者都合)で労働者を休業させる場合に、平均賃金の60%以上の賃金が使用者から支給されるものをいいます(労基法26条)。
前者は、いわゆる労災の件で、後者は会社都合での休業命令などの際に支払われるものです。

休業補償・休業手当の対象について

休業補償も休業手当も、労基法上の労働者であれば、支払対象となります。
そのため、派遣社員であっても、休業補償や休業手当の対象となります。

支払い義務は派遣元・派遣先のどちらにあるのか

しかしながら派遣労働者の場合、派遣元企業と派遣先企業のどちらが休業補償や休業手当を支払うべきなのでしょうか。
結論からいうと、派遣元企業が支払うべきです。
派遣社員と直接の労働契約を締結しているのは、派遣元ですから、休業補償や休業手当の支払い義務は派遣元企業にあります。

派遣先は休業補償や休業手当を一切負担しなくても良いか

負担する必要はありません。派遣元と派遣社員との問題となります。
但し、以下の点に注意が必要です。

休業補償で不足する部分の支払いを求められるケースも

派遣元企業から、派遣先企業に対して金銭補償を求められるケースはありますが、結論としては労働者派遣契約の契約の内容によります。
労働者派遣契約上の規定でどうなっているかに応じて、負担すべきかどうかが決まってくることになります。

派遣先の都合で休ませた場合の休業手当は?

派遣先の都合で休ませた場合も、派遣元が休業手当を支払うことになります。
ただし、労働者派遣契約上の規定で派遣元に対する派遣料金は支払う必要があります。

派遣契約を中途解約した場合はどうなる?

労働者派遣契約を中途解約した場合、派遣料金として休業手当に相当する額以上の額について支払い義務があるとの説があります(派遣先指針)。
そのため、この場合には、派遣元に対する派遣料金として、休業手当に相当する額以上の支払いを行う必要があります。

緊急事態宣言下における派遣社員の休業手当

労働者派遣契約の期間中に派遣先の事業所が休業したこと等に伴って派遣会社が派遣労働者を休業させる場合には、派遣元は休業手当を支払う必要があります。
ただ、緊急事態宣言によって休業することが派遣先の責めに帰すべき事由とは言えないと解釈する余地もあります。派遣元と派遣先でよく話し合い、対応していく必要があります。

派遣先企業の損害賠償責任について

休業補償の原因となる災害の原因が派遣先にある場合、休業補償とは別に、派遣先の安全配慮義務違反等を原因として損害賠償請求をされる可能性があります。
この場合は、休業補償とは別の話になりますので、派遣先企業が損害賠償責任を負う可能性がございます。

休業補償・休業手当の不払いに対する罰則

休業補償の不払いの場合、六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金を受ける可能性があります(労基法119条)。
休業手当の不払いに対しても、三十万円以下の罰金を受ける可能性があります(労基法120条)。
また、休業手当の不払いについては、不払い分と同額の付加金の支払いが命じられる場合があります(労基法114条)。

派遣の休業補償・休業手当に関する判例

派遣労働者の休業手当等の支払いについて、三都企画建設事件があります。

事件の概要

派遣労働者としてYに登録されていたXが、とある会社Aに派遣されていたところ、AからXを交代するようにYへ要請されました。
その結果、YはXに対して交代を命じ、同時にXを解雇したという事案です。
主位的には派遣の残期間に受け取ることができたであろう賃金請求を行い、予備的に休業手当などを請求しました。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

大阪地判平成18年1月6日
同裁判では、派遣先からXの就労を拒絶され、YがXを交代するようにとの要請に応じたことによって、Xの就労が履行不能となった場合、特段の事情がない限り、XのYに対する賃金請求権は消滅するとして、賃金請求は棄却しました。
他方で、この交代は労働基準法第 26 条にいう使用者の責に帰すべき事由による休業に該当し、原告は被告に対し休業手当の支給を求めることができるとしました。

ポイント・解説

派遣元が派遣先から労働者派遣契約を解除されたために派遣を打ち切った場合や、派遣先の陽性に応じて派遣期間の途中で派遣労働者を交代させた場合には、派遣元と派遣労働者との間の派遣労働契約は、契約期間が残っていれば、その間は存続することになります。この場合の処理としては賃金又は休業手当の支払いが必要になるのではないか、という問題があります。先の裁判例は、休業手当を支払うようにと判断しました。

休業補償・休業手当に関して派遣社員とトラブルにならないためにも、弁護士に相談したうえで正しい対応をとることが重要です。

以上に述べてきたように、派遣社員の問題は、正社員と異なり、派遣先と派遣元という二つの企業がかかわることから、そのどちらが費用を負担すべきか問題となります。自社で対応すべきなのかどうか、判断するには専門知識が不可欠です。
埼玉県内で、派遣社員に関する休業補償・休業手当に関してお悩みの企業様は、ぜひ一度弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
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