不利益変更のケース別のトラブル防止のポイント

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

  • 労働条件

日本では、長期雇用を原則とした制度のため、採用してから、辞めるまで、経営の状況や周囲の環境が変わらないことの方が珍しいです。最近も、コロナウイルスの影響でテレワークが促進されたこと等がありましたが、思いもよらないタイミングで労働条件の変更を考えなければならないことも有ります。
ただ、一度決めた労働条件を変更する際、それが労働者にとって有利であればともかく、不利益な内容も含まれている場合には、注意が必要です。

就業規則や労働条件の不利益変更の禁止について

労働者の同意もなく、就業規則や労働条件を、労働者の不利益に変更することは原則としてできません(労契法9条参照)。

不利益変更を行うことのリスク

例えば、賃金の減額を伴う不利益変更の場合、減額される労働者は、非常に不満に感じるため、労使間の激しい紛争を生じるリスクがあります。
既存労働者の大勢と労使紛争となれば、会社の生産性も低下する恐れがあります。

労働条件の不利益変更が認められる条件とは?

労働条件の不利益変更は、どうあっても認められないものではなく、使用者と個々の労働者の合意によって変更できることはもちろん、就業規則の不利益変更によっても、条件次第では認められます。

就業規則の不利益変が認められる条件

労働契約法第10条には、就業規則による不利益変更が認められる条件が規定されています。
「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。」
同条によれば、労働者の個別の同意がなくとも、合理的なものであるとされた場合には、労働条件の不利益変更は有効なものとされます。

不利益変更の「合理性」を判断する基準

合理性を判断する判断要素は、同条に定められています。
①労働者の受ける不利益の程度、
②労働条件の変更の必要性、
③変更後の就業規則の内容の相当性、
④労働組合等との交渉の状況、
⑤その他の就業規則の変更に係る事情
ただ、これらを総合的に勘案することになるため、その変更が合理的であるかどうかは非常に難しい判断になります。同じ事案であっても、地裁と高裁など、審級毎に判断が覆ることも少なくありません。

不利益変更のケース別のトラブル防止のためのポイント

労働条件といっても、賃金に関するものや労働時間に関するもの等、様々な条件があり、それぞれを変更するにあたっては、以下の点に注意しておく必要があります。
なお、どのような不利益変更の場合にも当てはまりますが、それぞれの労働者と合意を得ることを目指すことが第一であるので、個別の労働者の納得が得られるような変更にすることが肝要です。

賃金・手当に関する不利益変更の注意点

賃金・手当に関する不利益変更は、そもそも減額の前に就業規則を変更しておく必要があります。
そして、賃金・手当は労働者にとって特に重要な権利であることから、高度の必要性に基づいた合理的なものである必要があるとされます。
賃金制度をどのように設計しなおすか、またそれが長期で見ればとの程度の不利益となるか、なぜ賃金・手当を減額する必要があるのか、代償措置や経過措置を取れないか、等といったことに注意しながら、進めていくことが重要です。

時間外労働・残業代に関する不利益変更の注意点

時間外労働に対する割増賃金、いわゆる残業代について、労基法よりも高い割増率を設定している企業は少ないため、固定残業代を不利益に変更しようとする場合に問題になることが多いです。
この場合も、賃金・手当の変更同様の注意点があります。

労働時間・休日・休暇に関する不利益変更の注意点

年次有給休暇の5日間の取得が義務付けられたことに伴い、今まで休日や休暇としていたところに年休を当てようとすることがあると聞きますが、労働者にとって、休日や休暇を奪うことにほかならず、不利益変更に該当します。
実際には休む日数が変わっていなくとも、権利が奪われるような場合も、当然不利益変更となりますので、労働時間・休日・休暇に関する変更を行う際には、それが不利益であるかどうか、きちんと検討しておくことが必要です。

不利益変更でトラブルにならないために企業がすべきこと

労働条件が不利益変更される場合、労働者は既得権益を侵されたと感じ、非常に抵抗し、激しい労使紛争に発展するリスクが大きいことは、前記したとおりです。
そのため、不利益変更に伴う労使紛争を避けるため、以下の点に注意する必要があります。

従業員と合意書を取り交わしておく

個別の合意を取ることが何より大事ですので、合意を得た場合には、合意書を取り交わしましょう。
事後のトラブルの際も、従業員が合意したことを証明する書面が残っていれば、不利益変更の有効性を主張する証拠になります。

代償措置や経過措置の検討

合理性を判断する一要素でもありますが、不利益変更について、代償措置や経過措置を設けることで、従業員から合意を取りやすくなります。
即座に労働条件が変更されることにはならず、即効性は低いですが、長期的に見れば、不利益変更を実現できるため、このような措置も検討しておく必要があります。

従業員から労働審判や訴訟を起こされた場合の対応

従業員から、労働条件の不利益変更に対して、労働審判や訴訟を起こされることが有ります。
この場合は、同意が無いのであれば、従前ご説明したとおり、合理性の判断で争っていかなければなりませんが、これは評価が伴うことから非常に難しい事件となります。
自社のみで対応することは不可能ですので、専門家である弁護士に依頼することをお勧めいたします。

労働条件の不利益変更に関する裁判例

労働条件の不利益変更については、同意によるものや就業規則変更による方法がありますが、就業規則による変更に関する判例として著名なものに大曲農協事件判決があります。

事件の概要

農業協同組合の合併に伴って、労働条件を統一しようとして、新たな就業規則を作成しましたが、ある労働者との関係では、退職金算定における支給倍率が、例えば64→55.55、55→45.945、61→53.75といった具合に下げられたという事件です。
この退職金の引き下げに不満を抱いた従業員が、新規程への不利益な変更は効力を生じないから、旧規程の支給倍率を乗じた金額から実際に受領した退職金額を差し引いた金額が退職金として未払いであるとして、その差額の支払を求めた事件です。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

これに対して、最高裁は、農業協同組合の合併に伴って新たに作成された退職給与規程の退職金支給倍率の定めが一つの旧組合の支給倍率を低減するものであっても、それによる不利益は退職金額算定の基礎となる基本月俸が合併後に増額されたため軽減されていることや、合併前の農業協同組合の労働条件の格差が是正されない場合には、合併後の協同組合の人事管理の面で著しい支障が生じること、給与調整の累計額からすれば、そもそも旧規程の退職金水準に達していること、休日、休暇などの点で、有利な取り扱いを受けたこと(但し、代償措置としてではない。)などを鑑みれば、新規程への変更に合理性があると判断しました(最判昭和63年2月16日)。

ポイント・解説

裁判所は、「賃金、退職金など労働者にとつて重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである」とも述べており、特に賃金などの重要な権利についての不利益変更には厳しい立場を取っています。
もっとも、合併に伴う必要性や、退職金を減額したとしても、その他の条件での優遇なども考慮すれば、合理性があるとしており、いかなる場合でも労働条件の不利益変更が許されないものではないとしたところがポイントです。

不利益変更で無用な労使トラブルを避けるためにも、弁護士に相談することをおすすめします。

労働条件の不利益変更は、会社としては必要性があると思っていても、従業員には理解されず、労使紛争に発展する可能性が高いです。こうした場合には、個別の合意を取るための十分な説明を行うことが第一ですが、労使紛争に発展した場合には、裁判所から思いもよらず、その効力を否定されることもあり得ます。
不利益変更に関する労使紛争は非常に難しいところが多い為、不利益変更を行う前から、専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。
埼玉県内で労働条件の不利益変更でお悩みの企業は、ぜひ一度、弁護士法人ALG&Associates埼玉法律事務所にご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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