監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
相続では寄与分という制度があります。
寄与分は、相続の際、相続財産の維持又は増加について特別の貢献をした相続人がいる場合に、その相続人が取得できる遺産を増やす制度です。
相続財産の維持又は増加について特別の貢献をした場合としてはさまざまなものがありますが、ここでは、家事従事型として「被相続人の事業に関する労務の提供」民法904条の2第1項)を行っていた場合の寄与分について解説します。
目次
- 1 家事従事型の寄与分とはどんなもの?
- 2 寄与分を認めてもらう要件
- 3 家事従事型の寄与分を主張するためのポイント
- 4 家事従事型の寄与分に関する裁判例
- 5 家事従事型の寄与分の額はどのように決めるか知りたい
- 6 家事従事型の寄与分に関するQ&A
- 6.1 夫の飲食店を無償で手伝っていたが離婚しました。寄与分は認められますか?
- 6.2 長男の妻として農業を手伝っていました。寄与分は主張できるでしょうか。
- 6.3 夫の商店を手伝いながら、ヒット商品の開発にも成功しました。寄与分を多くもらうことはできますか?
- 6.4 父の整体院を給与無しで手伝っていました。小遣いを月4万円もらっていたのですが、寄与分は請求できるのでしょうか?
- 6.5 父の会社に従業員として勤めて経営を支えていた場合、寄与分は認められますか?
- 6.6 無給で手伝っていましたが、たまの外食や旅行等に行く場合は費用を出してもらっていました。寄与分の主張はおかしいと言われましたが、もらうことはできないのでしょうか。
- 7 ご自身のケースが寄与分として認められるか、弁護士へ相談してみませんか?
家事従事型の寄与分とはどんなもの?
家事従事型の寄与分とは、「被相続人の事業に関する労務の提供」(民法904条の2第1項)によって、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合に認められる寄与分をいいます。
「事業」の内容や「労務の提供」の方法について、定まったものはありません。
家事=炊事洗濯ではない。家事従事型の具体例
では、家事従事型の具体例としてはどのようなものがあるか、ですが、たとえば、夫が農業を営み、妻が毎日無償でその手伝いを行って収穫を維持できるように貢献していた場合です。
また、父が個人で経営する店舗で長男が無償でほぼ毎日勤務した場合も家事従事型の寄与分として認められる可能性があります。
寄与分を認めてもらう要件
寄与分は、被相続人の財産形成に相続人が相当程度に高度な寄与をした場合に認められるものです。
これは「家事従事型」の寄与分においても同様です。
民法上の要件は、寄与した者が相続人であること、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により特別の寄与をしたこと、被相続人の財産が維持され又は増加があったことです(民法904条の2第1項)。
家事従事型の独自の要件
家事従事型で独自に求められる要件は以下のとおりです。
①無償性
無償又はこれに近い状態で行われていることが必要となります。
提供した労務に見合うだけの報酬が支払われていた場合は、寄与分として認められません。
②継続性
労務の提供が長期間継続していることが必要となります。
一時的ではなく、一定期間継続する必要があります。
③専従性
労務の内容がかなりの負担を要するものであることが必要となります。
専業であることまでは求められませんが、片手間ではできず、一定の負担を要する労務であると認められる必要があります。
通常の手伝いをした程度では認められない
寄与分は、その貢献が「特別の寄与」といえるかどうかがひとつの重要なポイントとなります。民法上、親族間では扶養義務があるとされていますので、親族間での通常の手伝いや身の回りの世話程度では当然行うべき行為とされ、寄与分が認められません。
先に述べましたとおり、家事従事型の場合は、無償又はこれに近い状態で労務に専念していなければ、扶養義務の範囲を超えるような貢献であると認められる可能性は低いでしょう。
家事従事型の寄与分を主張するためのポイント
家事従事型の寄与分を主張するためのポイントは、先ほど述べましたとおり、①無償性、②継続性、③専従性に加えて、寄与行為とその結果(財産の増加維持)との間に因果関係があるということを資料を示して主張する必要があります。
具体的な主張内容としては、
- 被相続人との身分関係や扶養関係
- 労務提供をするに至った事情
- 報酬の有無(無償性)
- いつからいつまで労務の提供をしていたか(継続性)
- どのような働き方で労務に従事していたのか(専従性)
- 寄与行為によって被相続人の財産が増加維持したこと
などです。
家事従事型の寄与分が認められるハードルは高いため、このような要件に沿って、説得的に事実を主張し資料を示す必要があります。
こういったものが証拠になります
特別の寄与があったことを裏付ける証拠は非常に重要になります。
②継続性の証拠としては、業務日誌(日報)、タイムカード、メール等が考えられます。
③専従性の証拠としては、被相続人の確定申告書、預金通帳、会計帳簿等が考えられます。
家事従事型の寄与分に関する裁判例
家事従事型の寄与分についての裁判例には様々なものがあります。
どの程度の寄与があれば寄与分が認められるのか、裁判例を紹介しつつ、着目すべきポイントを説明していきます。
相続人以外の寄与分が認められた裁判例
【神戸家庭裁判所豊岡支部平成4年12月28日審判】
被相続人(昭和51年7月6日死亡)は、長年農業に従事していましたが、昭和44年頃に高血圧と心臓病が悪化したため、仕事をやめ、申立人(被相続人の子)に扶養される状況となりました。
被相続人は、昭和48年末頃から高血圧と心臓病に老衰も加わり、寝たきりの状態となりました。申立人の妻が昼夜被相続人の側に付きっきりになり看護をしていました。
このような申立人の妻の被相続人に対する献身的看護は、親族間の通常の扶助の範囲を超えるものがあり、そのため、被相続人は、医療費の負担を免れ、遺産を維持することができたと考えられることから、遺産の維持に特別の寄与貢献があったものと評価するのが相当であり、遺産分割にあたって申立人の寄与分として考慮すべきである、とされました。
申立人の被相続人に対する妻の貢献について、申立人の補助者または代行者として遺産の維持に特別の寄与がなされたものであると認め、これを申立人の寄与分として考慮して遺産分割をした事例でした。
家事従事型の寄与分が認められなかった裁判例
【札幌高等裁判所平成27年7月28日決定】
相続人は、被相続人の求めに応じて勤めていた会社を退職し、被相続人が経営していた簡易郵便局に夫婦で勤めることになりました。
簡易郵便局で、夫婦は2人で月25万円から35万円の給与を得ていましたが、この金額は、当時の賃金センサスによると、大卒46歳時の平均給与の半分にも満たない金額でした。
しかし、被相続人が郵便局を引退するまでの間、業務主体は被相続人であったこと、月25万円から35万円という相応の収入を得ていたこと、相続人夫婦は被相続人と共に住んで家賃や食費は被相続人が支払っていたことをも考慮すると、相続人は当該事業への従事で相応の給与を得ていたというべきであるとして、寄与分は認められませんでした。
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家事従事型の寄与分の額はどのように決めるか知りたい
家事従事型の寄与分の額は、以下のような計算式で算出します。
寄与した者が通常得られたであろう年間の給付額×(1-生活費控除割合)×寄与年数-現実に得た給付
「寄与者が通常得られたであろう年間の給付額」は、相続開始時(被相続人が亡くなった時)における、家業と同種同規模の事業に従事する、寄与者と同年齢層の年間給与額が基準になります。
実際には、相続開始時の賃金センサスを使用し、同種同規模同年齢の年間給与額を参考にすることが多いです。
また、家事従事型の場合は、寄与した者が被相続人と同居していることが多く、寄与した者の住居や生活費等が家業収入の中から支出されていることが多いため、「生活費控除割合」に換算されて控除されます。
さらに、少額でも現実に給付を得ていたようであれば、「現実に得た給付」として控除されます。寄与分を決める際には、寄与の時期や方法、程度、相続財産の額といった一切の事情が考慮されるため、これらの計算式によって算出された額からさらに調整される可能性があります。
家事従事型の寄与分に関するQ&A
夫の飲食店を無償で手伝っていたが離婚しました。寄与分は認められますか?
寄与分が認められるのは、法定相続人(民法で定められた相続人)に限られます。すでに離婚していた場合には夫の相続人ではありませんので、寄与分が認められないという結論になります。
長男の妻として農業を手伝っていました。寄与分は主張できるでしょうか。
先に述べましたとおり、寄与分が認められるのは法定相続人に限られますから、長男の妻が相続人ではない限り、寄与分が認められることはないでしょう。
ただ、被相続人の親族(相続人以外)が特別の寄与をした場合には、特別寄与料として、相続人に対して寄与に応じた金銭を請求することができます。
夫の商店を手伝いながら、ヒット商品の開発にも成功しました。寄与分を多くもらうことはできますか?
認められる可能性はあると思います。夫の商店を手伝いつつも、ヒット商品の開発に成功しているということは、夫の財産の増加に寄与したと言いやすいからです。
ただ、寄与行為にかかった金額がそのまま算定されるのではなく、寄与行為の貢献度を割合に置き換えて算定することもあるため、遺産が少ない場合には貢献に見合っただけの金額の寄与分が得られない可能性があることに留意する必要があります。
父の整体院を給与無しで手伝っていました。小遣いを月4万円もらっていたのですが、寄与分は請求できるのでしょうか?
認められる可能性はあると思います。
受け取っていた4万円という報酬が、整体院での勤務内容(時間、職務等)からみて著しく低額であった場合は無償性を満たす可能性がありますし、整体院での勤務期間や専従性も考慮したうえで寄与分が認められる可能性があるからです。
父の会社に従業員として勤めて経営を支えていた場合、寄与分は認められますか?
認められることは難しいと思います。
理由は、法律が法人と個人(自然人)を別の主体と考えているため、寄与した方の貢献は法人に対してされたものと考えられるからです。
ただし、法人が一人会社の場合のように、実質的に個人と同視しうるような場合には、個人に対する貢献として寄与分が認められる可能性があるでしょう。
無給で手伝っていましたが、たまの外食や旅行等に行く場合は費用を出してもらっていました。寄与分の主張はおかしいと言われましたが、もらうことはできないのでしょうか。
寄与分が認められる可能性はあると思います。
たまの外食や旅行等であれば社会通念上相当の範囲にとどまるかぎり、寄与分額の算定で控除すべき対象とみなされる可能性は低いでしょう。
ただし、被相続人と同居して家賃や食費をほぼ被相続人が負担しているような場合は、寄与した者の利益とみなされて控除の対象となる可能性があります。
ご自身のケースが寄与分として認められるか、弁護士へ相談してみませんか?
被相続人に対してしたご自身の行為が寄与分として認められるかどうかの判断はなかなか難しいかと思います。
寄与分の主張によって他の相続人の理解を得られない等、遺産分割協議が紛糾し、相続手続が前に進まないということも考えられます。
寄与分が認められるのか、認められるとしてどの程度認められるものなのか等、不明点があれば遺産相続問題を早期に解決させるためにも、早めに弁護士に相談することを強くお勧めします。

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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
