寄与分とは|請求の要件と計算方法

相続問題

寄与分とは|請求の要件と計算方法

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

被相続人が死亡した場合、遺言がなければ、法定相続分に応じて相続することになります。しかしながら、相続人の中に、被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした人がいれば、寄与分として、法定相続分とは異なった分配で相続を受けることができることがあります。

寄与分とは

寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした人がいる場合に、相続財産の維持や増加分を相続財産から差し引いて、寄与した人にそれを与えるものです。被相続人の財産の維持や増加に特別の寄与をした人がいる場合に、法定相続分で遺産分割をするのは公平性に欠けることから認められた制度です。

寄与分請求の要件

寄与分が認められる要件は、①共同相続人であること、②財産が維持・増加していること、③財産の維持・増加と因果関係があること、④期待を超える貢献があること、の4つです。以下、要件を一つ一つ説明していきます。

共同相続人であること

寄与分を請求できる人は、共同相続人に限られています。共同相続人ではない人がした寄与については、原則として寄与分として評価されません。もっとも、近年の法改正によって、被相続人と一定の範囲の親族が寄与行為をした場合に、特別寄与料を請求できようになりました(民法1050条)。

財産が維持・増加していること

次に、被相続人の財産が維持・増加したことが必要となります。例えば、被相続人の死亡前に子が被相続人にマンションを購入した場合などです。マンションの購入によって被相続人の財産が増加したことになりますので、寄与分の対象として評価されることになります。

財産の維持・増加と因果関係があること

次に、被相続人の財産が維持・増加したことの理由が寄与行為にある、という因果関係が必要となります。被相続人の財産が維持・増加した場合であっても、被相続人の努力によって維持・増加した場合には、寄与行為との因果関係はなく、寄与分は認められません。

期待を超える貢献があること

寄与分が認められるための要件として、最後に、特別の寄与が必要となります。夫婦や親族関係においては扶助協力義務や、扶養義務がありますが、特別の寄与といえるためにはその履行として通常期待される範囲を超えた特別の寄与行為が必要となるのです。その判断にあたっては、専従性、無償性、継続性があるかを考慮することが必要とされています。

寄与分の種類

寄与分の種類としては、以下のように、いくつかのケースに分けられます。

家事従事型

被相続人が営む事業に従事する場合です。その寄与行為にあたっては、無償または低廉な報酬で、継続的に従事していたことなどが必要となります。個人事業が原則となるため、被相続人の経営する法人の従業員として勤務しているだけでは認められません。

金銭出資型

被相続人に対して財産を給付する場合です。例えば、被相続人に対して、金銭や不動産を贈与した場合がこれにあたります。

扶養型

被相続人に対して、継続的に無報酬又は無報酬に近い状態で扶養し、被相続人の財産の維持に貢献した場合です。単に扶養していたというだけでなく、通常期待される扶養義務の範囲を超える寄与行為であることが必要となります。

療養看護型

被相続人が病気等によって療養看護が必要となった場合に、継続的に、無報酬又は無報酬に近い状態で被相続人の療養看護を行った場合です。これによって看護師や介護士等を雇う必要がなくなっていますので、その点において、その費用の支出を免れさせることができた、という貢献があるといえるのです。

財形管理型

相続人が、無報酬又は無報酬に近い状態で、被相続人の財産を管理した場合です。これにより、財産の維持や増加に貢献しているといえます。たとえば、不動産の賃貸管理や具体的な資産運用管理を長期間かつ無償で行った場合です。

寄与分を主張する相続人が複数いる場合はどうなる?

寄与分を主張する相続人が複数いる場合、それぞれに寄与分が認められる可能性があります。複数の相続人に認められる寄与分は、複数の相続人間で優先順位があるのではなく、それぞれの相続人の寄与行為の程度に応じて、被相続人の財産の範囲で分配されることになります。もっとも、寄与分が認められるハードルは高いのが現実ですので、このようなケースはあまり多くないでしょう。

寄与分決定までの流れ

寄与分は、自動的に振り分けられるわけではなく、遺産分割協議や調停等で主張して認められるものといえます。以下でその流れを詳しく解説していきます。

遺産分割協議で寄与分を決める

遺産分割の協議において、寄与分の主張をして、相続人全員が納得すれば問題はありません。もっとも、他の相続人にしてみると、寄与分が主張されることによって自身の取得できる相続財産が減少しますから、遺産分割協議で相続人全員の納得を得られるケースはあまり多くはないでしょう。

協議で決まらない時は調停へ

遺産分割協議で話がまとまらない場合は、家庭裁判所で寄与分を認めてもらう必要があります。相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、寄与分を定める処分調停の申立てを行います。ただし、遺産分割調停がすでに係属している場合には、その係属している家庭裁判所に寄与分を定める処分調停の申立てを行います。

それでも決まらない場合は裁判(審判)・即時抗告へ

調停でも寄与分についての話合いがまとまらない場合は、調停の事件が自動的に審判手続きに移行することとなります。審判手続では、裁判官が寄与分についての判断をすることになります。裁判官が判断した審判の結果に対して不服がある場合は、即時抗告をすることができます。

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寄与分の計算方法

以下では、各類型ごとに寄与分の計算方法について説明していきます。

家事従事型(事業従事型)の計算方法

家事従事型の場合は、本来受け取るべきであった給与等を算出して生活費控除割合を控除し、無償で従事した期間を乗じる方法で計算します。
【計算式】
本来受け取るべきであった給与等の金額×(1-生活費控除割合)×無償で従事した期間

金銭出資型の計算方法

金銭出資型の場合は、給付した財産の種類によってやや異なりますが、給付した財産を、相続開始時の価額に裁量的な割合を乗じる方法によって計算するのが一般的です。

【計算式】
・金銭の贈与の場合
贈与額×貨幣価値変動率×裁量的割合

・不動産の場合
相続開始時の価額×裁量的割合

扶養型の計算方法

扶養型の場合は、負担した扶養額にその期間を乗じて、法定相続分の割合で控除します。
【計算式】
扶養額×期間×(1-法定相続分割合)

療養看護型の計算方法

療養看護型の場合は、介護士等を雇っていた場合の報酬を算出する必要がありますので、介護保険の介護報酬基準などに基づく報酬相当額に、療養看護をした日数を乗じて、これに裁量的な割合を乗じる方法によって計算されるのが一般的です。
【計算式】
報酬単価×療養看護をした日数×裁量的割合

財産管理型の計算方法

財産管理型の場合は、財産管理等をすることができる者に委託をした場合に発生する費用を目安に、一定の裁量的な割合を乗じる方法によって計算するのが一般的です。
【計算式】
財産管理費用×裁量的割合

寄与分が認められるケース

寄与分が認められる可能性が高いケースとして以下を紹介します。

夫の会社でヒット商品の開発に貢献した場合

夫の会社でヒット商品の開発に貢献した場合は、夫の財産の増加に大きく貢献したといえるでしょう。その場合は、被相続人の財産の増加に大きく貢献したといえ、寄与分が認められる可能性があります。具体的な寄与分の算定としては、単純な売り上げの増加ではなく、夫の財産の増加に貢献した割合によって、寄与分が認められることになるでしょう。

兄弟で出資をしていた場合

兄弟で出資していた場合にも、その出資が子として期待される程度を超えるものであれば、寄与分として認められる可能性があります。出資の割合によって被相続人の財産の増加に貢献することになりますので、寄与分は、兄弟のそれぞれが出資した割合によって算定されることになるでしょう。

貸したお金が返済されないまま亡くなった場合

被相続人に贈与したのではなく、貸したお金が返済されないまま亡くなった場合は、その貸したお金を金銭出資型として寄与分を主張することはできません。この場合は、貸金を返還する債務が他の相続人に相続されますので、他の相続人に対して貸金返還請求を行うこととなります。

介護費用を全額出した場合

介護費用を全額出した場合でも、子として期待される程度を超える貢献をした場合には、寄与分として認められる可能性があります。介護費用の金額は受けるサービス等によって変動しますので、実際に支出した金額が、寄与分を認めるかどうかの重要な判断要素となるでしょう。

寄与分が認められないケース

寄与分が認められないケースについて、以下で解説していきます。

夫の仕事を無償で手伝っていたが離婚した場合

離婚後に夫が死亡した場合、妻は相続人とはなりません。
寄与分が認められる要件として、共同相続人であることは上述しました。
したがいまして、妻に寄与分は認められないということになります。

父の会社に従業員として勤めて経営を支えていた場合

父の会社に従業員として勤めていた場合は、会社という法人に対する貢献として考えるのが一般的です。父とその経営する会社は分けて考えるということです。したがって、原則として父の会社に従業員として勤務していたからといって、寄与分は認められません。仮に、父とその経営する会社が実質的に同一のものと評価できるものであっても、給与を得ていれば、無報酬又は無報酬に近い状態ではないと判断され、寄与分は認められない可能性が高いといえます。基本的には被相続人の個人事業への貢献ということを念頭におかなければなりません。

義両親を介護していた場合

上述しました通り、寄与分が認められるためには、相続人である必要があります。義理の両親が死亡しても、養子でもないかぎり相続人にはなれませんので、寄与分も認められない、ということになります。もっとも、上述した民法の改正によって、相続人ではない被相続人の親族にも特別寄与料の請求が認められる可能性があります。

仕送りをしていた場合

被相続人に対して仕送りをしていた場合でも、親族間の扶養義務として通常期待される程度のものであれば、特別の寄与とはいえず、寄与分は認められないことになります。一方で、親族間の扶養義務として通常期待される程度のものではなく、特別の寄与と呼べるような程度のものであれば、寄与分が認められる可能性があります。

介護施設の月額費用を支払っていた場合

介護施設の月額費用を支払っていた場合であっても、一般的に妥当な範囲の金額であれば、基本的には寄与分は認められないでしょう。

寄与分を認めてもらうのは難しいため、弁護士にご相談ください

他の相続人の取得できる遺産の範囲が変わることもあり、遺産分割協議で話合いがまとまらないケースがほとんどです。このような場合は、上述のとおり、調停や審判手続きで認めてもらう必要がありますので、裁判所に対しては、寄与分を法的に主張し立証していく必要があります。寄与分自体を認めてもらうためのハードルは高く、法的な知識も必要になります。
寄与分を主張したいと考えた場合は、まずは法律の専門家である弁護士にご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。