公正証書遺言の作り方、メリットや費用について解説

相続問題

公正証書遺言の作り方、メリットや費用について解説

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

遺言書を残すのであれば公正証書遺言がよい、という話を耳にされたことがあるかもしれません。

もっとも、公正証書遺言とはどのようなものなのか、どのようなメリット・デメリットがあるのか、完成までにどのような手順を踏むのかまでご存じの方は、それほど多くないように思われます。

この記事では、公正証書遺言の仕組みから、作成の流れ、費用、注意していただきたい点まで、弁護士が順を追って解説します。遺言書の作成をお考えの方は、ぜひご参考になさってください。

公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、遺言の内容を「公正証書」という公文書の形で残す遺言書です。

公証役場において、遺言者本人、2人以上の証人、公証人が立ち会い、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口頭で伝え(口授といいます)、これを受けて公証人が公正証書を作成します(民法969条1項1号・2号)。

ご自身で全文を書く自筆証書遺言とは異なり、文面を作るのは公証人であり、完成した原本は公証役場で保管されます。
なお、令和7年10月1日からは作成手続のデジタル化が図られています。

公正証書遺言のメリット

公正証書遺言のメリットは、大きく分けて3つあります。

いずれも、遺言書が形式の不備で無効になったり、死後に見つからなかったりする事態を避けるうえで、小さくない意味を持ちます。

紛失、偽造、変造のおそれがない

公正証書遺言は、公証人が公的な証明書等によって本人確認を行ったうえで文面を作成し、その原本を公証役場が保管します。

そのため、ご本人以外の方が勝手に作り上げる偽造や、作成後に第三者が書き換える変造のおそれは、まず考えにくいといえます。

お手元の正本や謄本を紛失してしまっても、原本が残っている以上、遺言の効力に影響はなく、再交付を受けることもできます。

これに対し、自筆証書遺言は、保管の方法によっては紛失や書換えのリスクを避けにくい面があります。

遺言書開封時の検認手続きが不要

自筆証書遺言や秘密証書遺言は、保管者や発見した相続人が家庭裁判所に提出して「検認」を受けなければなりません(民法1004条1項)。

検認とは、遺言書の形状や加除訂正の状態などを確認し、その後の偽造・変造を防ぐための手続です。

これに対して、公正証書遺言にはこの規定が適用されず(同条2項)、相続開始後すみやかに預貯金の解約や不動産の名義変更に進むことができます。

この差は、決して小さくありません。

自筆できない人でも作成できる

自筆証書遺言は、財産目録を除き、全文・日付・氏名を遺言者が自書しなければならず(民法968条1項)、本文の代筆は認められていません。

そのため、ご高齢や病気で手が思うように動かない方にとっては、そもそも作成が難しいことがあります。

公正証書遺言であれば、文面を作成するのは公証人ですので、自書が難しい方でも遺言を残すことが可能です。

署名についても代わりの措置が用意されていますので、署名ができないことだけを理由に諦める必要はありません。

公正証書遺言のデメリット

もっとも、公正証書遺言にも負担となる面はあります。ここでは、実際にご相談をお受けする中で、ご負担に感じられることの多い2点を取り上げます。

いずれも、あらかじめ見込んでおけば慌てずに済むものですので、作成をご検討の段階で確認しておきましょう。

作成に時間や費用がかかる

公正証書遺言は、思い立ってすぐに作れるものではありません。

財産と相続人に関する資料をそろえ、公証人と文案のやり取りを重ね、遺言者・証人・公証人の日程を合わせる必要があるため、完成までに数週間から数か月かかることも珍しくありません。

費用面でも、財産の価額に応じた公証人手数料がかかり、財産の合計額が1億円以下の場合には1万3000円の遺言加算も生じます(公証人手数料令9条、19条)。

金額は事前にご確認ください。

2名以上の証人が必要となる

公正証書遺言の作成には、2人以上の証人の立会いが必要です(民法969条1項1号)。

しかも、誰でも証人になれるわけではなく、①未成年者、②推定相続人および受遺者ならびにこれらの配偶者・直系血族、③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記および使用人は、証人になることができません(民法974条)。

財産を受け取るご家族やそのご家族は②に当たってしまいますので、実際にはご友人や知人にお願いすることになりますが、遺言の内容を知られることになるため、頼みにくいと感じられる方も少なくありません。

心当たりがない場合には、公証役場に紹介を依頼することもできますが、その場合には別途費用がかかります。

公正証書遺言を作成する流れ

公正証書遺言は、①遺言に残したい内容をメモにまとめる、②必要書類を集める、③2人以上の証人を手配する、④公証人と文案のやり取りをして日程を調整する、⑤当日、証人立会いのもとで内容を確認し、公正証書を完成させる、という順序で作成します。

準備の大半は当日までのやり取りで済み、当日は内容の確認が中心になるとお考えいただくと分かりやすいでしょう。

以下、それぞれの段階で押さえておきたい点を解説します。

遺言書に書きたい内容のメモを作成する

まずは、どの財産を誰に引き継がせたいのかを整理し、メモの形にまとめましょう。

公証人はこのメモをもとに文案を作成しますので、書き漏らした財産があると、その部分には遺言の効力が及ばず、結局は相続人間の話合いが必要になってしまいます。

「自宅の土地建物は長男に相続させる」「預貯金は妻に相続させる」「遺言執行者は○○とする」といった形で、財産ごとに書き出していくのが分かりやすいでしょう。

このメモ自体は遺言書ではありませんので、書式に決まりはありません。

必要書類を集める

次に、遺言に残したい内容に応じた資料を集めます。

代表的なものは下表のとおりですが、必要書類は公証役場や事案によって異なりますので、事前に担当の公証人に確認し、漏れがないようにしてください。

特に戸籍謄本は、遺言者と相続人の続柄をたどるために複数の役所から取り寄せることになる場合があり、思いのほか時間がかかります。

不動産についても、登記事項証明書と固定資産評価証明書(または固定資産税納税通知書)の双方を求められるのが一般的です。

お仕事などの都合で平日の窓口に行きにくい方は、早めに着手されることをおすすめします。

内容 必要書類
遺言者本人を証明するもの 印鑑登録証明書と実印、または運転免許証・マイナンバーカード・パスポート等の顔写真付きの公的証明書と認印
相続人との続柄が分かるもの 遺言者と相続人の続柄が分かる戸籍謄本(相続人以外の方に遺贈する場合は、その方の住民票。法人の場合は登記事項証明書)
不動産がある場合 登記事項証明書(登記簿謄本)と、固定資産評価証明書または固定資産税納税通知書
預貯金がある場合 通帳の写しなど、金融機関名・支店名・口座番号が分かる資料(有価証券がある場合は取引残高報告書の写し等)
証人・遺言執行者に関するもの 証人および遺言執行者の氏名・住所・生年月日・職業が分かる資料(住民票、運転免許証の写し等)

2人以上の証人を探す

証人は、遺言者が自らの意思で遺言をしたことを見届け、必要があれば後日その状況を証言する立場にあります。

次項の欠格事由に当たらない方であれば、ご友人や知人でも差し支えありませんが、遺言の内容を知られることになりますので、口の堅い、信頼できる方を選ぶことが大切です。

ご自身で見つけられない場合には、公証役場に紹介を依頼することができます。ただし、必要な費用は公証役場によって異なりますので、事前に問い合わせておきましょう。

弁護士に作成をご依頼いただいた場合には、弁護士やその事務所の関係者が証人を務められることも多く、証人探しのご負担を軽くできる場合があります。

誰に頼むかは、遺言の内容を誰に知られてもよいかという観点からもご検討ください。

証人になれない人

民法974条は、①未成年者、②推定相続人および受遺者ならびにこれらの配偶者および直系血族、③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記および使用人を、遺言の証人になることができない者と定めています。

①は遺言の内容を的確に理解することが期待しにくいため、②は遺言の結果について利害関係を持つため、③は公証の公正さを保つため、というのがその理由です。

財産を受け取る予定のお子様やその配偶者は②に当たりますので、証人にはなれません。

欠格事由のある方が証人として立ち会った場合には、遺言そのものが無効と判断されるおそれがありますので、人選にあたっては慎重にご検討ください。

判断に迷われる場合には、公証役場や弁護士にご確認いただくのが安全です。

証人と一緒に公証役場に行き、遺言書を作成する

準備が整えば、あとは遺言者と証人2人が公証役場に出向き、公証人の面前で作成するだけです。

当日は、公証人が本人確認を行ったうえで、遺言者が遺言の趣旨を口頭で伝え、公証人が作成した公正証書を読み聞かせるか閲覧させ、内容が正確であることの承認を得たうえで、列席者が署名をします(公証人法40条)。

事前のやり取りが済んでいれば、当日の所要時間は30分から1時間程度であることが一般的です。

遺言書を作成する公証役場はどこ?

公証役場はどこを選んでも構いません。
ただし、ご高齢の方が多いことを考えると、通いやすい場所を選ぶのが無難です。

公証人に出張を依頼する場合には、訪問先と同じ都道府県内の公証役場に依頼する必要があります。

公正証書遺言の作成が困難なケースと対処法

体調や障害の事情から、公正証書遺言を作ることは難しいのではないかとご心配される方がいらっしゃいます。もっとも、法律上は対応する仕組みが用意されています。

代表的な3つの場面をご説明します。

言語機能や聴覚に障害がある場合

口がきけない方であっても、公証人と証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳によって申述するか、自ら書いて示すことにより、口授に代えることができます(民法969条の2第1項)。

また、聴覚や言語機能などの障害のために音声で意思疎通を図ることが難しい場合には、公証人が通訳人に通訳をさせることとされています(公証人法29条)。

もっとも、身振りだけで作成された遺言が無効とされた裁判例もありますので、どのような方法によるかを事前に公証役場と詰めておくことが欠かせません。

署名できない場合

病気やけが、加齢などの理由で署名ができない場合であっても、そのことだけで公正証書遺言を諦める必要はありません。

公正証書の内容を承認した列席者は、署名またはこれに代わる措置を講じることとされており(公証人法40条5項)、従前から、署名ができない事情がある場合には、公証人がその事由を付記して署名に代える運用が行われてきました。

具体的な取扱いは事案によって異なりますので、当日になって慌てることのないよう、あらかじめ公証役場にご相談ください。

公証役場に行けない場合

入院中である、体調が優れないなどの理由で公証役場に行けない場合には、公証人にご自宅や病院、施設まで出張してもらうことができます。

この場合には、病床執務加算として手数料が1.5倍になるほか、日当(1日2万円、4時間までは1万円)と交通費の実費がかかります。また、公証人は他の都道府県には出張できませんので、訪問先と同じ都道府県内の公証役場に依頼する必要があります。

さらに、令和7年10月1日からは、嘱託人の申出があり公証人がこれを相当と認めるときは、映像と音声を送受信するウェブ会議の方法によって手続を行うことも可能となりました(公証人法37条2項、40条3項)。

もっとも、実際の運用は公証役場によって異なりますので、利用できるかどうかは事前にご確認ください。

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公正証書遺言の作成を弁護士に依頼するメリット

公正証書遺言の作成は、行政書士や司法書士にも依頼することができますが、弁護士にご依頼いただく場合には、次のような利点があります。

遺言の中身にまで踏み込んだ検討ができる点が、最も大きな違いといえるでしょう。

遺言内容の相談ができる

公証人は、方式の不備によって遺言が無効になることを防ぐという立場から関与しますので、「どう書けば争いを防げるか」「この分け方で遺留分は大丈夫か」といった中身の相談に応じてくれるわけではありません。

弁護士であれば、ご希望を伺ったうえで、遺留分への配慮や、後日争いの種になりやすい財産の扱いについて助言し、必要な条項を盛り込んだ文案をご提案できます。

もっとも、どのような遺言であっても争いを完全に防げるわけではない点は、あらかじめご理解ください。

書類準備などの手間が省ける

公正証書遺言の作成には、戸籍謄本や不動産の登記事項証明書など、複数の役所から取り寄せる書類が必要になります。

弁護士であれば、これらの取得をまとめて進めることができますので、ご本人のお手間を相当程度省くことができます。

もっとも、預貯金の通帳の写しのように、ご本人でなければご用意いただけない資料もありますので、その部分についてはご協力をお願いすることになります。

遺言執行者として選任できる

遺言者は、遺言によって遺言執行者を指定することができます(民法1006条1項)。

遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権利義務を有しますので(民法1012条1項)、相続人の協力が得られない場面でも、名義変更や預貯金の解約を進めることができます。

文案を検討した弁護士をそのまま遺言執行者に指定しておけば、遺言の趣旨を踏まえた手続が期待でき、ご家族のご負担も軽くなります。

指定がない場合には、家庭裁判所に選任を求めることになります。

任意後見契約を結ぶことができる

遺言は亡くなった後のことを定めるものですので、ご存命中に判断能力が低下した場合の備えにはなりません。そこで併せてご検討いただきたいのが任意後見契約です。

これは、判断能力が十分なうちに、将来の財産管理や生活・療養看護に関する事務を任せる方をあらかじめ決めておく契約であり、公正証書によらなければならないとされています(任意後見契約に関する法律3条)。

遺言書と同じ機会に作成しておけば、手続のご負担を抑えることができます。

公正証書遺言に関するQ&A

最後に、公正証書遺言について、ご相談の際によくいただくご質問にお答えします。

いずれも、作成前に押さえておいていただきたい点ですので、ご参考になさってください。

公正証書遺言にすれば確実に効力がありますか?

方式の不備を理由として無効となることは考えにくく、その意味では自筆証書遺言よりも確実といえます。もっとも、「絶対に有効」と言い切ることはできません。

公証人が確認するのはあくまで方式であり、遺言をした時に遺言者に遺言能力があったか(民法963条)、口授が実質的にあったといえるか、内容が公序良俗に反しないかといった点は、別途問題になり得るからです。

実際にも、認知症が疑われる状況で作成された遺言について、後日その効力が争われる例は少なくありません。

ご心配な事情がある場合には、作成時に医師の診断書を残しておくなど、あらかじめ備えておくことをおすすめします。

一度作成した公正証書遺言の内容を変更することはできますか?

変更できます。

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その全部または一部を撤回することができ(民法1022条)、新しい遺言が前の遺言と抵触する場合には、その部分は後の遺言によって撤回したものとみなされます(民法1023条1項)。

もっとも、公正証書の原本は公証役場にありますので、お手元の正本を破棄しても撤回にはなりません。作り直す際には、最初のときと同様に、書類・証人・手数料が必要になります。

公正証書遺言があることは死亡後通知されますか?

通知されません。

公証役場が遺言者の死亡を把握する仕組みはなく、公証役場から相続人に対して遺言の存在が知らされることはありません。

そのため、せっかく作成しても、気づかれないまま遺産分割の話合いが進んでしまうおそれがあります。

遺言書を作成したことと、正本や謄本の保管場所については、信頼できるご家族や遺言執行者に伝えておくことをおすすめします。

内容までお伝えするかどうかは、ご家族の状況を踏まえてご判断ください。

遺言書を見せてもらえません。公証役場で開示請求はできますか?

遺言者が亡くなった後であれば、相続人など法律上の利害関係のある方は、公証役場に遺言の有無を照会し、謄本の交付を請求することができます。

遺言検索システムは全国どの公証役場からでも利用できますので、どこで作成されたか分からない場合でも確認が可能です。

請求には、遺言者の死亡が分かる除籍謄本、ご自身が相続人であることが分かる戸籍謄本、顔写真付きの本人確認書類などが必要です。

なお、ご存命中は、原則としてご本人と代理人しか照会できません。

公正証書遺言に関する不安、不明点は弁護士にご相談ください

公正証書遺言は、方式の不備による無効を避けられる点で優れた方法ですが、作成すれば必ず争いを防げるというものではなく、内容の検討と事前の準備が欠かせません。

どのような遺言を残すべきかお迷いの段階でも構いませんので、お気軽にご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。