監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
被相続人の遺言が発見されたが、遺言作成時には被相続人は認知症等の精神上の障害により有効な遺言を残せないはずであった場合などには、遺言の効力を争う必要があります。
遺言が無効であることを主張するための法的手段として遺言無効確認訴訟というものがあります。
目次
遺言無効確認訴訟(遺言無効確認の訴え)とは
遺言無効確認訴訟とは文字通り、裁判所に対して、遺言が無効であることの確認を求める訴訟のことをいいます。遺言が無効であることを確認しなければ、基本的には遺言書の内容の内容に沿って遺産分割がなされてしまいます。そこで、遺言が無効であるときには、遺言無効訴訟を提起する必要があります。
遺言無効確認訴訟にかかる期間
訴訟を提起する前に医療記録等の収集が必要になることが多いので、その準備だけで数カ月かかります。
訴訟を提起した後も、審理期間が1年を超えることも珍しくありません。
比較的多くの時間を要する訴訟類型といえます。
遺言無効確認訴訟の時効
遺言無効確認訴訟には時効がありません。
ただし、遺言の作成から期間が経過すれば、証拠も散逸し、立証が困難になっていきますから、なるべくはやく訴訟を提起することが望ましいといえます。
また、遺留分侵害額請求の時効は相続が開始したこと及び遺留分を侵害する遺言や贈与等があったことを知ったときから1年です。遺言が無効であることを信じ遺留分減殺額請求権を行使しなかったことが相当であるとし得る特段の事情がない場合には遺留分減殺額請求権についての時効は進行してしまいますから、注意が必要です。
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遺言無効確認訴訟の準備~訴訟終了までの流れ
遺言無効確認事件は家事に関する事件であり家事調停の対象ですから、訴訟を提起する前に調停手続きを経ている必要があります。
したがって本来であればまずは遺言無効確認調停を申立て、それが不成立になってから、遺言無効確認訴訟を提起できるようになります。しかし、これは、実務上、調停を経ないで遺言無効確認訴訟を提起したとしても、却下はされず、手続きが進むことが一般的になっています。
証拠を準備する
遺言無効確認訴訟は遺言の効力を争う訴訟ですから、まずは遺言が必要になってきます。
遺言作成時の意思能力の有無が争われる場合には、医療記録や医師の鑑定書等が重要な証拠になります。
遺言無効確認訴訟を提起する
遺言無効確認訴訟の相手方は遺言が有効であることを主張する他の相続人、受遺者等です。
管轄裁判所は被告の住所地または被相続人の相続開始時の住所を管轄する裁判所です。
判決の効力は当事者間にしか及びませんから、判決の効力を及ぼす必要のあるものは相手方に加えて訴訟を提起する必要があります。
勝訴した場合は、相続人で遺産分割協議
勝訴した場合には遺言が無効となります。当該訴訟で効力を争った遺言より前に有効は遺言がある場合には、その遺言に沿って遺産が分けられることになります。
有効は遺言がない場合には、相続人間で遺産分割協議を行うことになります。
遺言無効確認訴訟で敗訴した場合
敗訴した場合には、控訴しなければ、当該訴訟で効力が争われた遺言が有効であることが判決で確定され、この遺言に沿って遺産を分割していくことになります。
遺言が無効だと主張されやすいケース
ここまでは遺言無効確認訴訟を概観してきましたが、以下具体的に遺言が無効であると主張されやすいケースについて述べていきます
認知症等で遺言能力がない(遺言能力の欠如)
有効な遺言を残すためには、遺言者に遺言能力が必要です。
遺言者は高齢者であることが多く、認知症の罹患者であることがよくあります。
認知症であるからといって直ちに遺言能力が認められないというわけではなく、遺言の内容、知能検査の結果、医療記録や介護記録、その他遺言内容の合理性や筆跡等、様々な事情が考慮されて、遺言能力の有無についての判断がなされます。
遺言書の様式に違反している(方式違背)
民法で定められている方式に従って作成されていない遺言は無効となります。
例えば、押印のない自筆証書遺言や証人のいない公正証書遺言などは、遺言全体が無効となってしまいます。
相続人に強迫された、または騙されて書いた遺言書(詐欺・強迫による遺言)
遺言者が強迫されたり、だまされて遺言を書いた場合には、当該遺言は遺言者の自由な意思に基づいた遺言とはいえませんから、無効となります。
遺言者が勘違いをしていた(錯誤による無効・要素の錯誤)
遺言者が勘違いに基づいて作成した遺言についても、この遺言の効力は認められず、無効となります。
しかし、ささいな勘違いに基づいた遺言も無効となるというわけではなく、重要な事項について勘違いがある場合にのみ遺言が無効となります。
共同遺言
2人以上の者が同一の遺言を残すことは禁止されています。
2人以上で遺言を残すとなると、お互い自由に遺言を残すことができません。遺言はいつでも撤回できるものですが、共同での遺言を認めれば、自由に撤回ができなくなってしまいます。
このような理由等から共同遺言は禁止されています。
公序良俗・強行法規に反する場合
公序良俗に反するような遺言の効力も認められません。
たとえば、不貞相手にすべての財産を渡す旨の内容の遺言は効力が認めらない可能性があります。
遺言の「撤回の撤回」
遺言は自由に撤回することができます。遺言のすべてを撤回することもできますし、遺言の一部を撤回することもできます。
ここで遺言の「撤回の撤回」をして一度撤回した遺言の効力を復活させることもできるかということが問題になりますが、これは認められておらず、撤回した遺言の効力を復活させたいときには、これと同じ内容の遺言を作成することになります。
偽造の遺言書
偽造された遺言は当然無効です。
偽装されたかどうかは、遺言の内容、遺言者の状態、遺言を作成する経緯、遺言の保管状況等の事情が考慮されて判断されます。
遺言が無効だと認められた裁判例
遺言能力が無効だと認められた裁判例として、東京地裁平成28年8月25日判決を取り上げます。
本事案は、遺言作成の直前に認知症という診断を受けた被相続人作成の公正証書遺言の効力について被相続人の遺言能力を否定して、遺言は無効である判断がされたものです。
判決においては、被相続人の診断をした医師や公証人の見解を踏まえて、遺言能力の判断がなされました。判断能力が不十分になった相続人を、無効とされた遺言において被相続人の財産をすべて譲り受けることになっていた被告夫婦が誘導し、そのようない遺言を書かせた旨の事実を認めるような内容の判決になっています。
遺言無効確認訴訟に関するQ&A
遺言無効確認訴訟の弁護士費用はどれくらいかかりますか?
法律事務所や事件の難易度、獲得できる経済的利益によっても異なりますが、着手金は50万円~、成功報酬は経済的利益の10%から20%程度の費用がかかります。
遺言書を無効として争う場合の管轄裁判所はどこになりますか?
遺言無効確認訴訟管轄は、被告の住所地又は相続開始時の相続人の住所を管轄する裁判所です。
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遺言無効確認訴訟を提起し、勝訴するためには、入念に証拠を準備し、主張を組み立てる必要があります。弁護士でないと難しいといえますから、弁護士に相談することをおすすめします。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)