道路交通法違反とは?違反点数や罰金・反則金、違反例について

コラム

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

道路交通法違反による罰則内容、法定刑及び逮捕される場合等について以下解説します。

道路交通法違反とは

道路交通法とは、「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路の交通に起因する障害の防止に資することを目的とする」法律です(道路交通法1条)。

道路交通法に違反すると行政処分、刑事処分が科されることがあります。

道路交通法に違反した場合の処分

交通違反を犯した場合、通常、裁判により罰金刑等に処せられることになります。

しかし、軽微な違反である場合には(交通違反の違反点数が6点以下)、一定期間内に反則金を納めることで刑事罰に処されなくなる制度があり、これを交通反則通告制度といいます。

交通反則通告制度が適用され請求されるものを、反則金といいます。反則金の支払に応じなかった場合には刑事手続きに移行することになります。

他方、交通反則通告制度を適用することができない程度の重大な違反がある場合には、裁判により罰金刑等を科せられることになります。

【一覧】道路交通法違反の行為例

道路交通法において規制されている行為のうち、以下、飲酒運転、ひき逃げ、当て逃げについて解説します。

飲酒運転

飲酒運転は道路交通法65条において禁止されています。
飲酒運転は酒気帯び運転と酒酔い運転に分けられます。

酒気帯び運転とは、血液1ミリリットルにつき0.3mg以上または呼気1リットルにつき0.15mg以上のアルコールが検出された場合に成立し、3年以下の懲役又は50万円の罰金に処せられます。

酒酔い運転とはアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で運転した場合に成立し、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます。

飲酒運転をした場合には運転者本人だけではなく、運転者本人に車両を提供した者、運転者本人に酒類を提供した者等も刑事罰や行政罰の対象になることがあります。

ひき逃げ

人身事故を起こした運転者等には、救護義務がありますが、これに反して事故現場から逃走した場合には、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。

負傷人がおり、その負傷の原因が運転者の運転にある場合には、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられます。

当て逃げ

物損事故を起こした運転者等には、警察官に交通事故が発生した日時、場所等を報告する義務がありますが、これに反して事故現場から逃走した場合には、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処せられます。

刑事事件に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
刑事事件ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

自動車以外の道路交通法違反について

自動車の運転だけではなく、自転車の運転についても、道路交通法が適用され、自転車の運転につき道路交通法違反が成立し、刑事罰、行政罰が科されることがあります。

重大過失にあたる事故として逮捕されるケース

飲酒運転、ひき逃げ及び当て逃げ等には刑事罰が科されることがあり、身柄拘束の必要には、これらを被疑事実として、逮捕等される可能性があります。

道路交通法違反やそれにより逮捕された場合は弁護士にご相談ください

道路交通法違反により、捜査機関から出頭を要請されている場合等、今後の対応について、弁護士に相談された方がよろしいこともよくあります。

道路交通法違反に関してご不明点やご不安な点がある場合には、弁護士に相談されてみてはいかがでしょうか。

交通事故に遭ったとき、自身が加害者であった場合、被害者であった場合いずれであっても、相手方と交渉をする必要があります。

その交渉の際に、当事者同士の交渉では、落としどころが見つからず、交渉が決裂してしまうことがよくあります。

以下では、交通事故紛争処理センターを利用するメリット・デメリットを紹介し紛争解決の一つの選択肢をご紹介します。

交通事故紛争処理センターとは

交通事故紛争処理センターとは、自動車事故の損害賠償について、弁護士が和解のあっせんを行う公益財団法人です。

交通事故における損害賠償について知識があり、公平中立な弁護士が和解あっせん等を担当してくれることとなります。

また、和解のあっせんによる和解が成立しなかった場合、審査会による審査を受けることもできます。

交通事故紛争処理センター(ADR)でできること

和解あっせん

交通事故では、よく「示談」が成立すると表現されることがあります。この「示談」は、正式には当事者双方が主張を譲り合い合意する「和解」のことをいいます。

交通事故紛争処理センターでは、担当弁護士が当事者双方の意見を聞き、公正中立な立場から和解案を提示して和解(示談)の成立を手助けします。

審査

上記の和解あっせんを行ったとしても、合意に至らない場合(あっ旋不調)も考えられます。この場合に当事者に、あっ旋不調になった旨が通知されます。この通知を受けてから14日以内に限り不服申立てを行うことができます。これを審査の申立てといいます。

審査は、3人の審査員から成る審査会が行います。審査員は法律の専門家が選出され、公正中立な立場から再度事実や主張の聞き取りを行います。

この聞き取りをもとに審査会が裁定を行います。裁定とは、審査会による解決方法についての決定をいいます。

弁護士の無料紹介

交通事故紛争処理センターの利用を申し込むと、和解あっせんの際に、相談担当弁護士を1名紹介されます。この相談担当弁護士は、交通事故紛争処理センターから委嘱された弁護士です。

交通事故紛争処理センターを利用して相談等をするには、弁護士費用等がかかることはありません。

ただし、相談担当弁護士は、和解あっせん終了まで同じ弁護士が担当します。途中で変更をすることはできません。

交通事故の示談交渉についての無料相談

交通事故紛争処理センターは、すべて無料で利用することができます。

相談担当弁護士が、相談内容が和解あっせんに適切な事案かどうかを被害者の方の話を詳しく聞き判断していきます。

ただし、すべての事案を対象に相談を行っているわけではありません。交通事故紛争処理センターでの法律相談の対象は、示談交渉の段階に至っている事案に限られます。

交通事故紛争処理センター利用のメリット・デメリット

交通事故紛争処理センターを利用することのメリット・デメリットは様々存在します。

以下で、詳しくご説明します。

メリット

● 申立費用が無料

交通事故紛争処理センターを利用して、和解あっせん等を行う場合には申立費用等はかかりません。 相談担当弁護士への弁護士費用等もかかりません。

経済的に利用しやすく大きなメリットであるといえます。

● 期間が短い

紛争解決の手段一つとして、訴訟を選択することが考えられます。その場合には解決までに1年近くかかることも考えられます。

交通事故紛争処理センターを利用して、和解あっせん等を行う場合には、多くの場合、3回から5回程度の回数で解決することが多く、期間としても3か月から5か月程で終了することになります。

訴訟による解決を図る場合に比べて短い期間で終了することが多いといえます。

● 公平公正な機関で信頼性が高い

交通事故紛争処理センターは、公益財団法人であり、公平公正な組織です。 相談担当弁護士は、公平中立な立場から和解案を提示して和解あっせん等を行います。

また、審査に移行した場合に、担当となる審査会を構成する審査員は、弁護士に加え、法律に詳しい法学者や裁判官経験者等で構成されています。

● 弁護士基準ベースの高額の賠償額が見込める

相談担当弁護士は、当事者双方の話を聞き、和解案を提示します。この和解案はいわゆる弁護士基準と呼ばれる基準をもとに作成されます。

当事者同士での交渉の和解案よりも、比較的高額な金額での和解案が提示されるため、交通事故紛争処理センターを利用することで賠償額の増額も見込めます。

デメリット

● 依頼できるケースが限られる

交通事故紛争処理センターを利用できるのは、前述のとおり示談交渉に入っている事案に限られます。 また、加害者が自動車以外の場合には、利用することができません。

他にも、交通事故により病院に通院され、怪我の治療中である場合や、加害者が任意保険に加入していない場合には、利用することができない等、センターを利用できるケースが限られている点はデメリットといえます。

● 遅延損害金を請求できない

訴訟で損害賠償を請求した場合、事故日からの遅延損害金を請求することができます。しかし、センターを利用する場合、基本的には遅延損害金が考慮されることはありません。

そのため、訴訟での解決の場合に比べて交通事故紛争処理センターを利用する場合には遅延損害金の分だけ賠償額が低くなります。

● 弁護士を変えることができない

相談担当弁護士は、相談開始から事案の終了まで原則として変更することはできません。

また、あくまで公平中立な立場で和解案の提示等を行うため、必ずしも被害者の方に寄り添った解決方法が提示されるとは限りません。

● 何回も出向く必要がある

交通事故紛争処理センターを利用するには、当事者の方が出向いて相談担当弁護士と話をする必要があります。

交通事故紛争処理センターは全国11か所のみに設置されており、ご自宅の近くにない場合には、利用しづらいことが考えられます。

4交通事故紛争処理センターを利用した解決までの流れ

大まかな流れとしては以下の流れになります。

  1. 利用申し込み
  2. 担当弁護士による法律相談
  3. 和解あっせん案の提示
  4. 合意又は不調
  5. 審査の申立て
  6. 審査会の裁定

➀示談あっせんの申込書提出

まずは、交通事故紛争処理センターに電話で利用申し込みの電話をします。そこで、利用する日時の予約をします。その後送られてくる利用申込書を記入し、初回の相談の際に持参して提出します。

➁初回相談

初回相談では、持参した資料の提出を行い、これらをもとに相談担当弁護士が事情を聞いていきます。 その後、相談担当弁護士が和解あっせんの必要があると判断すると次回期日の設定をします。

次回期日からは加害者側の保険会社等も出席して行われます。

➂相談担当弁護士による和解あっせん

相談担当弁護士は、当事者双方の話をもとに本件事案の争点は何かを整理し、和解案の提案をします。この和解案は過去の裁判所の判例、センターでの裁定例等を参考にして作成されます。

➃あっせん案合意

和解案に合意することができれば和解が成立します。和解が成立するとその内容を記載した書面を当事者双方で取り交わし、合意内容に応じた解決を進めていくことになります。

あっせんが不合意になった場合は審査申立

もっとも、和解は当事者双方の譲歩があって成り立つものになります。そのため、被害者の方の納得のいかない部分が和解案にあるかもしれません。提示された和解案に応じないという選択肢も考えられます。

その場合には、センターを利用しての解決を終了し訴訟等の別の手段を取るか、同センターの審査会による審査を受けるか判断することになります。

審査会による審査

審査を申し立てた場合、審査会による裁定が出されることになります。その上で、被害者である申立人は、この裁定として出された和解案に同意するかどうかを選択することとなります。

相手方である保険会社にはこの裁定について同意するかを選択する権利がなく、被害者の選択が尊重されることになります。

裁定でも決まらない場合は

このような審査会による審査によって出された裁定によっても和解を成立させることができない場合、交通事故紛争処理センターによる手続きは終了し、訴訟等による事件の解決を図ることとなります。

まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

交通事故被害者専門ダイヤル

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
交通事故の経験豊富な弁護士にお任せください

物損事故の場合にも交通事故紛争処理センター(ADR)は使えるのか?

物損事故の場合でも、交通事故紛争処理センターの利用は可能です。

物損事故のみの場合、早期解決のため、原則として初回から和解あっせんを行う取扱いがなされるなど物損についての特別なルールがあります

紛争処理センターを利用し、過失割合や賠償額共に有利にすすめられた解決事例・判例

ここで、弁護士法人ALGがご依頼を受け、紛争処理センターを活用して有利な結果へと導くことができた実際の事例をご紹介します。

依頼者は自動車で優先道路を走行していました。そこへ加害者の自動車が一時停止をせずに交差道路から進入し、依頼者の車両に衝突したという事案です。

この事故により依頼者は車両ごと横転し左手首の関節に後遺障害が残ってしまいました。

しかし、過失割合や賠償金額について保険会社との交渉が難航し、担当弁護士は紛争処理センターを利用することにしました。

当初、保険会社は依頼者に不利な過失割合を主張していました。そこで、弊所は現地調査や刑事記録の精査を重ね、各種の証拠を集めました。

これらを交通事故紛争処理センターに提出し、適切な過失割合となるように主張していきました。

結果としては、過失割合は当初「2対8」であったところ、「1対9」に修正することができました。

また、賠償金額についても相手方保険会社は争っていましたが、和解あっせんを利用することで725万円もの増額に成功しました。

交通事故紛争処理センターを利用するという選択とともに、担当弁護士による粘り強い調査や主張がこのような結果をもたらした事例です。

交通事故紛争処理センターを利用するときでも弁護士にご相談ください

これまで見てきたとおり交通事故紛争処理センターを利用する際には、相談担当弁護士が入り被害者の主張を聞き和解案を作成してくれます。

しかし、あくまで公平中立な立場で紛争解決を図る立場にあります。

そこで、交通事故紛争処理センターを利用する場合でも、被害者の立場で活動する代理人の弁護士をつけることが選択しとして考えられます。

代理人の弁護士をつけることによって、弁護士から事案の内容や当方の主張を、より正確にセンターの担当弁護士に伝えることができます。また必要な資料の用意を弁護士に任せることもできます。

これらのことはより有利な和解案を勝ち取ることにもつながるため、交通事故紛争処理センターを利用する場合にも弁護士にご相談ください。

保護観察処分とは

「保護観察処分」とは、犯罪をした人又は非行のある少年が、通常の生活を送る中で保護観察所の指導監督を受けながら更生を図る処分のことをいいます。保護観察は通常の生活(社会)を送る中で行われるものであるため、「社会内処遇」とも呼ばれています。

未成年の犯罪における扱い

成人した者が犯罪をした場合には刑法が適用され、罰則を科せられます。他方で未成年の場合には刑法ではなく、少年法が適用され、原則として罰則は科せらず、その代わりに保護処分を科せられます。
保護処分の種類として、

  • 一般保護観察・・・交通犯罪以外の罪に係る事件により、保護観察に付されること
  • 一般短期保護観察・・・交通事故以外の事件により保護処分に付された少年のうち、家庭裁判所から短期間の保護観察を行う旨の処遇勧告がなされたもの
  • 交通保護観察・・・一定交通犯罪に係る事件により、保護観察に付されること
  • 交通短期保護観察・・・交通事故により保護処分に付された少年のうち、家庭裁判所から短期間の保護観察を行う旨の処遇勧告がなされたもの

が挙げられます。

保護観察処分の対象者と対象期間

保護観察処分の対象者は、

  • 家庭裁判所から保護観察の処分を受けた少年(更生保護法48条1号)
  • 家庭裁判所から少年院送致の処分を受け、その少年院から仮退院となった少年(更生保護法48条2号)
  • 懲役又は禁固の刑に処せられていたものの、仮釈放を許され更生保護法40条の規定により保護槓子に付せられている者(更生保護法48条3項)
  • 刑の執行猶予と合わせて保護観察付の言い渡しを受けた者(更生保護法48条4号)

が挙げられます。

成人に関する保護観察の機関は、裁判官が言い渡した期間です。

他方で、少年に関する保護観察の期間は、原則として少年が20歳に達するときまでと規定されています(更生保護法66条)。

なお、少年の改善更生に資すると認められるときは、期間を定めた上で、保護観察を一時的に解除することができます(更生保護法70条)。

また、保護観察を継続する必要がなくなったと認められるときには、保護観察は解除されることになります(同法69条)。

保護観察中の遵守事項

保護観察中は全員に共通して遵守事項が定められます。これを「一般遵守事項」と言います(更生保護法第50条)。

具体的には、①再犯・再非行をしないよう健全な生活態度を保持すること、②保護観察官や保護司による指導監督を誠実にうけること、③住居を定め、その地を管轄する保護観察所の長に届け出をすること、④③に届け出た住居に居住すること、⑤転居又は7日以上の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察所の長の許可を受けることです。

他方で、それぞれの者の犯罪傾向に応じて定められた遵守事項を「特別遵守事項」といいます。

特別遵守事項は、保護観察所長が、保護観察決定をした家庭裁判所の意見を聴いた上で定めます。

以上の事項を遵守した場合には「良好措置」、違反した場合には「不良措置」を取られることがあります。

保護観察中の生活について

保護司の面接

保護観察中は、月に数回程度、保護司との面接があります。その内容は、保護観察対象者の生活状況確認、遵守事項を守っているかの確認、その他相談や指導等が行われます。

保護観察は、社会生活の中で指導等を行うものですので、保護観察となった生徒でも、他の生徒と同様に学校へ通うことができます。また、保護観察中であっても、就業や、結婚もできます。

もっとも、前述のとおり保護観察中は、保護観察官や保護司に「生活状況を報告する義務」があるので、逐一保護観察官や保護司に報告しなければなりません。

住居

保護観察中であっても、旅行をすることができます。もっとも、7日以上の旅行をする場合には、あらかじめ保護観察所の長に許可を受けなければなりません(更生保護法50条)。

また、海外旅行については、パスポートを申請する際に、「保護観察中か否か」というチェック項目があるため、当該項目にチェックをした場合、パスポートが交付されない可能性があります。

再犯・逮捕

保護観察中に再犯を犯してしまった場合、不良措置や再処分等が行われることになります。

不良措置は具体的に、仮釈放者に対する仮釈放の取り消し、保護観察付執行猶予者に対する計の執行猶予の言渡しの取り消し等が挙げられます。

刑事事件に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
刑事事件ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

子どもが逮捕された場合や厳しすぎる処分の回避は弁護士にご相談ください

少年は心身ともに未熟ということもあり、成人の刑事事件とも手続が大きく異なります。そのため、より専門的な知識や経験が必要になります。

弊所ではどのような事件に対しても迅速に行動するとともに、事件の問題点を適切に把握し、最善の弁護活動を行います。お気軽にご相談ください。

親交の深かった人から「自分が死んだら自分の財産をあげるよ」などと言われていたとします。その人が亡くなった場合にどのようにしたらその人の財産をもらうことができるのか、そもそも血のつながりのない自分が亡くなった人の財産(遺産)をもらってもいいのか、などと疑問に思うことがあると思います。

以下では、このような疑問を解消すべく、特別縁故者に対する相続財産の分与について解説していきます。

特別縁故者とは

相続人の不存在が確定した場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に清算後に残存する相続財産の全部または一部を与えることができると定められています。

なお、相続人がおらず、特別縁故者もいない場合や特別縁故者が相続財産の分与を求めなかったような場合には、被相続人の遺産は国庫に帰属することになります。

特別縁故者になるための要件は民法で定められている

特別縁故者は、上述のとおり

  1. 被相続人と生計を同じくしていた者
  2. 被相続人の療養看護に努めた者
  3. その他被相続人と特別の縁故があった者

です。

①や②は例示と理解されており、特別縁故者に該当するか否かは、個別具体的な事案に応じて判断されます。

亡くなった人と生計を同じくしていた(内縁関係など)

①被相続人と生計を同じくしていた者には、内縁の夫婦、事実上の養親子、同居の叔父・叔母、被相続人より先に死亡した子の配偶者など、家族共同体としての生活を営みながら、相続権のない者があたるとされています。

ただ、親族関係や血縁関係があったというだけでは足りず、具体的事実を考慮に入れた実質面での判断をする必要があります。

亡くなった人の介護をしていた

例えば、身寄りのない者に対して献身的な世話をした隣人、報酬以上に献身的に療養看護に努めた付添人などが挙げられます。

多くの裁判例は、被相続人を献身的に介護したなどの事情が認められる場合に、②被相続人の療養看護に努めた者として特別縁故者にあたると判断することが多いといえます。

ただし、被相続人の療養看護に努めたとしても、養護老人ホームや障害者支援施設等が療養看護等の福祉サービスに対して報酬その他の金銭的な対価を得ていた場合には、対価以上の療養看護等の福祉サービスを尽くしたと評価できるような場合を除き、原則として特別縁故者にあたらないといわれています。

亡くなった人と特別の縁故があった

③その他被相続人と特別の縁故があった者には、身寄りのない者に対して生活資金・事業資金等を援助してきた者や、事実上の遺産管理をしてきた者が含まれると理解されています

他方で、単に血縁関係があるとか、親族・近親者として通常の交際があったというだけでは足りません。

法人でも認められるケースがある

特別縁故者という名前からは個人のみに限定されているようにも思われますが、団体も特別縁故者として認められることがあります。地方公共団体、学校法人、公益法人、養護老人ホームなどが特別縁故者として認められたことがあります。

取得できる財産の割合は亡くなった人との関係によって変わる

誰が・何を・どれだけ分与されるかは、家庭裁判所の裁量によることになります。

分与すべき財産の種類、金額などを決定するにあたっては、被相続人と特別縁故者との関係性、関係の密接さ、特別縁故者の年齢・職業などのほか、相続財産の種類、数額、状況、所在など一切の事情を考慮して決定すると理解されています。

不動産は取得できる?

特別縁故者に不動産の分与が認められたような裁判例もあります。

被相続人と特別縁故者が、被相続人の生前に同居していたか否かも重要な考慮要素の一つといえますが、被相続人と特別縁故者が同居していたら必ず居住していた不動産の分与が認められるというわけではないので注意が必要です。

遺言は分与の割合に影響する?

被相続人が遺言書を作成し、誰かに財産を与える旨の内容を残していた場合には、遺贈として扱われることになります。遺贈は、特別縁故者に対する財産分与に優先します。

すなわち、被相続人が死亡し、相続人の不存在が確定し、受遺者(遺贈を受ける人のことをいいます。)に対する清算手続が終了しても、なお財産が残っている場合に、当該財産について特別縁故者に対する財産分与が検討されることになります。

特別縁故者になるために必要な手続きは?

相続財産管理人選任の申立てが必要

特別縁故者への財産の分与がなされるには相続財産の清算人が選任される必要があります。

相続人の存在が不明の場合には、利害関係人又は検察官の請求により、家庭裁判所が相続財産清算人を選任することになります。

相続財産選任の申立てがされると、家庭裁判所が相続財産清算人選任の審判を行い、相続財産清算人が選任されたことを知らせるための公告をします。

特別縁故者の申し立てができるようになるまで10ヶ月はかかる

財産清算人選任の公告(公告1)から2か月経過すると、財産清算人は、相続債権者・受遺者を確認するための公告(公告2)を行います。

公告2から2か月が経過すると、家庭裁判所は、財産清算人の申立てにより、相続人を探すために6か月以上の期間を定めて公告(公告3)を行います。期間満了までに相続人が現れないような場合には相続人の不存在が確定します。

公告3の期間が満了してから3か月以内に特別縁故者に対する相続財産分与の申立てがされることになります。

したがって、特別縁故者の申立てができるようになるまでは公告3の期間満了までの10か月が経過する必要があります

特別縁故者の申し立て方法

必要な書類

特別縁故者に対する相続財産の分与を申し立てるには、申立書や添付書類が必要となります。申立書の書式は裁判所のHPでダウンロードすることができます。添付書類は、自治体に問い合わせて取得することができます。

特別縁故者だと証明するために必要なもの

特別縁故者には、上述したとおり、①相続人と生計を同じくしていた者、②被相続人の療養看護に努めた者、③その他被相続人と特別の縁故があった者の3つの類型があるところです。

①から③の類型や具体的な事案によって①~③に該当することを主張するための様々な証拠があり得ます。具体的には、被相続人を経済的に援助していたことを示す証拠として被相続人と生活していた際の領収書を証拠として提出することもあります。

申立先

特別縁故者に対する相続財産分与の申立ては、「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」に申立書や添付書類を提出して行います。

特別縁故者の申し立て期限は?

特別縁故者の申立てには期間制限があります。

相続財産清算人の選任後、家庭裁判所は、財産清算人の選任及び相続人に権利を主張すべき旨の公告(上記公告3になります)をします。

当該公告期間6か月が満了することにより相続人不在が確定した後、3か月以内に申立をしなければなりません(民法958条の2第2項)

相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします

相続問題ご相談受付

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
相続問題の経験豊富な弁護士にお任せください

特別縁故者にかかる税金

特別縁故者への財産分与がされる場合には相続人が0人であることが前提であるため基礎控除が3000万円となります。このため、特別縁故者への財産分与が3000万円を超えるような場合には相続税が発生することになります。

また、特別縁故者は被相続人の一親等の血族でも配偶者でもないため、特別縁故者にかかる相続税は相続税の2割に相当する金額が加算されることになります。

また、特別縁故者は、財産分与を受けることができることを知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告をする必要がありますので、ご注意ください。

特別縁故者に関する裁判例

財産分与が認められた裁判例

①被相続人と生計を同じくしていた者

この類型の特別縁故者として認められた事例としては、

  • 内縁配偶者(山口家審昭和49年12月27日など)
  • 被相続人を養父として慕い、被相続人と30年にもわたり共同生活をしていた事実上の養親子(大阪家審昭和40年3月11日)

などが挙げられます。

②被相続人の療養看護に努めた者

  • 11年間にわたり被相続人を自分の子どものように看護養育し、被相続人が病気になってからも療養看護に努めた叔母(京都家審昭和42年8月18日)
  • 被相続人が経営する小売商店の従業員として住み込みで働き、店の仕事以外にも被相続人の身辺の世話や病気の看護にあたって精神的な支えになった従業員(大阪高決平成4年3月19日)

などが挙げられます。

③その他特別の縁故のあった者

  • 「知的に劣り、通常の生活能力を欠く被相続人に対し、近隣の住民が被相続人との関わりを避け、厄介者扱いをしている中で、自らの発意で被相続人の保護に努め、生活上の援助をし、唯一被相続人の療養看護にも力を貸した者」であるとして、親族関係にある者の申立てを退けて、全くの他人を特別縁故者として認めた例もあります(名古屋高決平成8年7月12日)。

特別縁故者だと認められなかった裁判例

・被相続人と親戚付き合いを含めて交流があったと主張した被相続人の従姉の養子(東京高決平成26年1月15日)

裁判所は、上記被相続人の従姉の養子が被相続人の死後に被相続人の法要をし、被相続人宅の庭木と草木の伐採、掃除等をし、そのために一定の労力と費用をかけ、今後もこれを継続する意思を有していることは認め、被相続人の生前の身分関係及び交流に、被相続人の境遇及び被相続人の死後の貢献を加えて検討しても、上記養子と被相続人との生前の交流の程度に鑑みると、上記養子を被相続人と「特別の縁故があった者」と認めることはできないと判断しています。

特別縁故者の申し立てをお考えの方は弁護士にご相談ください

特別縁故者に当たるか否かは個別具体的な事案に応じて判断が分かれるものですので、専門的な知識を有することなく主張立証を尽くすことは困難といえます。

また、特別縁故者の相続財産分与の申立等の手続自体も非常に煩雑な上、期間制限があるため権利行使のハードルも高いと言わざるを得ません。

特別縁故者に関して迷われた際にはぜひ一度ご相談ください。

配偶者から浮気・不貞をされた際には、その配偶者に対して慰謝料請求をすることが考えられます。
ただし、この慰謝料請求をするにあたっては、いくつか注意すべき点があります。その代表的な例が、「時効」です。

本記事では、浮気・不貞の慰謝料請求の時効について詳しく解説していきます。

浮気(不倫)の慰謝料請求には時効がある!

浮気・不貞の慰謝料請求は、いつまでもできるわけではありません。

浮気・不貞の慰謝料には、一定の期間を超えると請求できなくなるという時間的な限界が存在します。いわゆる「時効」と呼ばれるものです(より正確にいえば、「消滅時効」と呼ばれるものです)。 ただし、時効は、所定の期間が経過すると自動的に請求権が失われるという性質のものではありません。

請求される側(債務者)が、時効の完成を主張することで、はじめて時効の効果が生じ得ます。これを「時効の援用」といいます(民法145条)。

浮気相手への慰謝料請求の時効は?

浮気・不貞の慰謝料請求の法的な性質は、不法行為に基づく損害賠償請求権です。

したがって、慰謝料請求の消滅時効は、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効の規定に従って処理されます。

民法724条には、不法行為に基づく消滅時効として、3年と20年という2つのパッケージが用意されています。このように、短期と長期の消滅時効に分けられているのは、時効が進み始める時点、すなわち「時効の起算点」が異なるからです。

以下では、この「時効の起算点」について、詳しくみていきましょう。

慰謝料請求の時効はいつから起算する?

先ほども解説したとおり、慰謝料請求の時効には、3年という短期の消滅時効と、20年という2つのパッケージが存在します。両者が時効完成の期間を異にするのは、「時効の起算点」が異なるからです。

前者の起算点は、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」です。権利行使が可能であることを知った時点という、債権者側の認識を基準とするため、3年という短期間で消滅時効が完成します。

債権者が、権利行使が可能であることを知っているのであれば、通常はすぐに行動できるはずですから、短期間で時効が完成したとしても、不合理ではないからです。「主観的起算点」などと呼ばれたりします。

これに対して、後者の起算点は「不法行為の時」です。前者の場合と異なり、不法行為時には、かならずしも請求する側が、権利行使可能であることを認識しているとは限りません。

このため、短期間で消滅時効が完成してしまうと請求する側の利益を著しく害してしまうため、このような長期の時効期間が設けられているのです。

なお、後述するように、改正前民法において、後者のパッケージは、時効期間ではなく除斥期間と考えられていました。

浮気の慰謝料請求の時効を止める5つの方法

浮気・不貞の慰謝料請求の時効を止めるには、いくつかの方法があります。

本記事では、①裁判上の請求、②内容証明郵便による催告、③債務の承認、④協議を行う旨の合意、⑤仮処分・仮差押え・差押さえの5つについて解説していきます。

①裁判で請求する

時効の完成を止めるための第1の方法は、「裁判上の請求」です。

民法147条1項は、「次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から6か月を経過する)までの間は、時効は完成しない」と定めています。

そして、同条1項1号に「裁判上の請求」を挙げています。これは、「時効の完成猶予」と呼ばれるものです。

②内容証明郵便を送付する

内容証明郵便などで相手方に権利行使をすることも、「催告」として時効の完成を止めるための1つの手段です。

民法150条1項には、「催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しない」と規定されています。この催告も、時効の完成猶予事由として位置づけられています。

③債務を承認させる

相手方(債務者)に債務を承認させることも、時効の完成を遅らせるための1つの手段です。

民法152条1項には、「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める」と規定されています。

前述の場合と異なり、債務の承認は、時効完成までの期間をリセットするという意味で、時効の更新事由として位置づけられています。

④協議を行う旨の合意をする

相手方(債務者)と協議を行う旨の合意をすることも、時効の完成を止めるための1つの手段です。

民法151条には、「権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない」と定められています。

⑤仮処分・仮差押え・差押えを行う

仮処分・仮差押えを行うことも、時効の完成を止めるための1つの手段です。

民法149条には、「次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から6か月を経過するまでの間は、時効は、完成しない」と定められています。

また、差し押さえなどの強制執行を行うことも、時効の完成を止めるための手段です。
民法148条1項1号には、時効の完成猶予事由として、「強制執行」が定められています。

民法改正による慰謝料請求権の時効への影響

前でも少し触れたとおり、改正前まで、724条の20年間との規定は、除斥期間と捉えられており、完成猶予や更新(改正前でいうところの、時効の中断や停止のことを指します)ができない状態でした。

しかし、民法改正で、時効期間と定められたことで、20年間の部分についても、時効の更新や完成猶予が可能となりました。

時効が過ぎた後では慰謝料を請求できない?

時効期間が経過したと思っていても、実は完成猶予や更新事由が生じていたなどして、未だに時効が完成していない場合もあり得ます。

また、そもそも、起算点の捉え方がズレているといったケースもあります。このあたりについて、正確に把握するためにも、まずは専門家である弁護士にご相談ください。

時効で浮気の慰謝料を取り逃がさないためのポイント

時効で慰謝料を取り逃がさないためのポイントは、先ほども挙げたように、時効を完成させないための措置を定期的に講じることです。

上記5つの方法のうちでも、内容証明郵便による催告などは、比較的容易に行えるものですので、時効を完成させないための手段として重要になってきます。

あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います

離婚問題ご相談受付

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
離婚問題の経験豊富な弁護士にお任せください

浮気の慰謝料の時効に関するQ&A

5年前の浮気を最近知ったのですが、浮気相手に慰謝料を請求することは可能ですか?

不貞行為時から20年未満ですので、客観的起算点という意味では、未だに時効は完成していません。

このため、浮気を知ったことという主観的起算点から3年以内であれば、浮気相手に慰謝料を請求すること自体は可能と言えるでしょう。

ただし、15年前の不貞について、きちんとした証拠が残っているのかという、立証上の問題には注意する必要があります。

10年前の浮気が発覚したのですが、既に離婚しています。元夫に慰謝料を請求することはできますか?

仮に、10年前にはいまだ婚姻しており、夫婦関係が破綻していなかったような場合であれば、10年前の浮気についても、消滅時効が完成していない限りという留保付きではありますが、請求することが可能です。

不貞の慰謝料請求権は、あくまでも不貞時に発生しているからです。ただし、10年前の浮気時点で、両者が離婚していたなど、既に夫婦関係が破綻していたような場合には、慰謝料請求をすることはできません。

時効を止めるために裁判を起こしたいのですが、相手の居場所が分かりません。何か対処法はありますか?

裁判を起こすためには、相手の居場所(住所)を知る必要があります。

相手が請求者の親族等であれば、自身で住民票や戸籍を取り寄せることも可能ですが、そういった一部の場合を除くと、自分自身で相手の情報を調査することには限界があります。

従って、このような場合には、弁護士に裁判を依頼すべきでしょう。弁護士は、職務上請求や弁護士会照会などにより、第三者であっても、相手の住民票や戸籍等を取り寄せることができるからです。

あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います

離婚問題ご相談受付

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
離婚問題の経験豊富な弁護士にお任せください

浮気の慰謝料請求は早い段階で行う必要があります。まずは弁護士にご相談下さい。

以上で述べてきたように、時効による権利消滅のおそれがあるため、浮気の慰謝料請求はできる限り早い段階で行う必要があります。

ただし、時効期間の判断や、相手の調査など、自分自身でできることには限界がありますので、まずは、弁護士に相談することを強くおすすめします

令和5年6月16日、「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」が成立し、一部の規定を除いて、同年7月13日から施行されることになりました。性犯罪の規定についての大幅な改正になります。今回はその中でも「不同意性交等罪」について詳しく解説したいと思います。

不同意性交等罪とは

「暴行」、「脅迫」、「障害」、「アルコール」、「薬物」、「フリーズ」、「虐待」、「立場による影響力」などが原因となって、同意しない意思を形成したり、表明したり、全うすることが難しい状態で、性交等をすると「不同意性交等罪」として処罰されます。

上記の状態で、性交等ではなく、わいせつな行為をすると「不同意わいせつ罪」として処罰されることになります。

また、16歳未満の子どもに対して、性交等をすると不同意性交等罪として処罰され、わいせつな行為をすると不同意わいせつ罪として処罰されます。なお、相手が13歳以上16歳未満の場合には行為者が5歳以上年長のときでないと処罰されません。

不同意性交等罪と強制性交罪・強姦罪の違い

性犯罪の本質的な要素は、「自由な意思決定が困難な状態で行われた性的行為」であると理解されています。従来の強制性交等罪では、そのような本質的な要素を満たすかどうかを、「暴行」・「脅迫」といった要件によって判断していました。

しかし、これでは、この要件をどのように解釈するかで強制性交等罪の成否の判断にばらつきが生じ、事案によっては、その成立範囲が限定されてしまうことがあるといった問題点がありました。

そこで、不同意性交等罪では要件を改め、性犯罪の本質的な要素を「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」という表現を用いて統一的な要件を定めました。

また、被害者が上記の状態にあったかどうかの判断を行いやすくするため、その原因となり得る行為や事由についても、具体的にあげています。

その結果、不同意性交等罪は強制性交等罪と比較して、より明確で、判断のばらつきが生じない規定となりました。

不同意性交等罪と準強制性交等罪の違い

従来の準強制性交等罪では、性犯罪の本質的な要素を満たすかどうかを、「心神喪失」・「抗拒不能」といった要件によって判断していました。

しかし、強制性交等罪と同様、その要件の解釈で成立範囲が限定され得るという問題点があったため、「アルコール」「薬物」「睡眠」などといった形で要件を具体化しています。

不同意性交等罪の構成要件

不同意性交等罪では、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」の原因となり得る行為・事由として、以下の8つの類型が例示されています。

①暴行又は脅迫

②心身の障害
「心身の障害」とは、身体障害、知的障害、発達障害及び精神障害を意味し、一時的なものも含みます。

③アルコール又は薬物の影響

④睡眠その他の意識不明瞭
「その他の意識不明瞭」とは、例えば、意識がもうろうとしているような、睡眠以外の原因で意識がはっきりしない状態をいいます。

⑤同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまの不存在
いわゆる不意打ちのような場合がこれにあたります。

⑥予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕
いわゆるフリーズの状態、すなわち、予想外の事態に直面して自身に危害が加わると考え、極度に不安になったり、強く動揺して平静を失った状態がこれにあたります。

⑦虐待に起因する心理的反応
虐待による無力感や恐怖心などがこれにあたります。

⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮
例えば祖父母と孫、上司と部下、教師と生徒などの立場ゆえの影響力によって、不利益が生じることを不安に思うことがこれにあたります。

不同意性交等罪が成立するためには、①から⑧までの行為・事由により、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」になっていることが必要になります。

改正による変更点

「性交等」とは、陰茎の膣への挿入(性交)、陰茎の肛門への挿入(肛門性交)又は陰茎の口への挿入(口腔性交)のことを意味していました。今回の改正により、上記に加えて、膣又は肛門に陰茎以外の身体の一部又は物を挿入する行為についても、「性交等」に含むとされました。

また、改正前においても、行為者と相手方の間に婚姻関係があるかどうかは、性犯罪の成立に影響しないと考える見解が一般的でしたが、今回の改正法では、配偶者間でも不同意性交等罪が成立することを、条文上明確にしています。

不同意性交等罪の法定刑

不同意性交等罪に該当する行為をした者は、5年以上の有期拘禁刑という刑罰が処せられることになります。拘禁刑は懲役受刑者に義務付けられていた刑務作業(木工や洋裁等)が義務でなくなり、立ち直りに向けた指導・教育に多くの時間をかけることを可能にする刑罰になります。

拘禁刑の導入は2025年6月1日が予定されています。

不同意性交等罪の時効

不同意性交等罪(従来の強制性交等罪)の公訴時効は10年から15年に延長されています。
そのため、犯罪が行われた後、15年が経過するまでは不同意性交等罪により犯人を処罰することができるということになります。

また、上記の期間に加えて、被害者が18歳未満の場合には、被害者が18歳に達する日までの期間に相当する期間を加算した期間が公訴時効期間となります。
例えば、12歳の者に対して、不同意性交等罪を犯した場合には、時効完成が21年(15年+6年)後となります。

不同意性交等罪で逮捕された場合の対処法

不同意性交等罪を含めて性犯罪は類型的に捜査機関による厳しい取調べがされる可能性が高いといえます。被害者とされている者との間に適法な同意が存在した等の言い分がある場合には、黙秘権の行使を含めて最初の段階で適切な対応を取らないと、後々取り返しのつかないことになりかねません。逮捕段階から弁護士に相談をし、適切なアドバイスを受ける必要があります。

また、被疑事実に間違いがない場合には、被害者と早期に示談をすることで身柄拘束の有無や起訴不起訴について、被疑者に有利に働くことも多いです。身柄を拘束されている場合には、示談をすることができるのは弁護士であり、この点でも弁護士を入れるメリットが大きいといえます。

改正後の不同意性交等罪の問題点

大きな改正がなされた不同意性交等罪ですが、その課題もいくつか残っているといえます。

不同意性交等罪は婚姻関係にかかわらず成立する犯罪ですので、性行為の相手が配偶者や交際相手、パートナーであっても性行為の後に相手から被害が捜査機関に訴えられることで成立する可能性があるといえます。

後々になって、同意の上で性行為がされたと説明することは必ずしも容易ではなく、冤罪が発生してしまう可能性も十分にあるということができます。
(従来の強制性交等罪においても、婚姻関係にある相手でも成立し得る犯罪であったことは上記のとおりになります)

また、不同意性交等罪は、従前の強制性交等罪よりも要件を条文上、明確にしています。ただ、それでも要件の不明確さはまだ残っているといえます。

強制性交等罪は、8つの例示されている事項が原因となって「同意しない意思を形成したり、表明したり、全うすることが難しい状態」で性交等をすると成立する犯罪とご説明しました。「同意しない意思を形成すること」とはNOと思うこと、「表明すること」とはNOと言うこと、「全うすること」とはNOを貫くことです。

しかし、8つの類型のうち、例えば「アルコールの影響」と一言でいっても、どの程度の飲酒量でNOと思えないのか、NOと言えないのか、NOを貫けないのかといった点が未だ不明確といえます。
そのため、要件を明確化した改正ですが、未だ要件の不明確さが残っているといえます。

刑事事件に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
刑事事件ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

不同意性交等罪で逮捕された場合はできるだけ早く弁護士に相談を!

強制性交等罪は大きな改正が施され、不同意性交等罪として生まれ変わりました。ただ、不同意性交等罪になったことでより不同意性交等罪の成立が認められやすくなる傾向が予測されます。

捜査機関から不同意性交等罪の疑いをかけられると、本当はやっていなかったとしても、なかなか人に相談しにくいといえる上、最初の対応を間違えると後々、取り返しのつかない事態に陥ることもあり得ます。

もし、不同意性交等罪についてお困りの場合には、早期に弁護士へご相談することをおすすめします。

交通事故を経験したことがない方でも、「過失割合」という言葉を耳にしたことがある方は多いでしょう。

「過失割合」とは、交通事故の責任が自分と相手にそれぞれどの程度あるのかを示す数値のことで、これは損害賠償の金額に大きく影響します。過失割合が小さければ小さいほど、相手方に請求できる損害賠償額が大きくなり、他方で、過失割合が大きければ大きいほど、相手方に請求できる損害賠償額は小さくなります。

過失割合10対0の事故とは

交通事故が生じた場合、程度や大小はどうあれ、双方に何らかの過失があることが普通です。このため、明らかな被害者であったとしても、その過失割合が0になるということは、実はそれほど多くありません。

しかし、加害者と被害者との過失割合が10対0になる場合も存在します。例えば、有名なのは、後方から走行してきた加害車両が、路上に駐停車している四輪車に追突したようなケースが挙げられるでしょう。

その他にも、被害者側が信号を遵守しているにもかかわらず、加害者側が信号無視をして衝突してきたようなケースや、被害者が歩行者で横断歩道を歩いていたところに加害車両がぶつかってきたようなケースが挙げられるでしょう。

過失割合の修正要素について

交通事故における過失割合がどのように修正させるかについては、四輪車、単車、自転車など属性の組み合わせごとに類型化されています。

例えば、四輪車同士の事故の場合、わき見運転や、無免許運転などが「著しい過失」、「重過失」として過失割合を修正する要素となります。

自動車と歩行者の事故の場合には、歩行者が集団で通行・横断していることや、歩行者が幼児、児童、老人であることなどが、自動車側の過失を加算修正する要素となります。

「動いている車同士で10対0はありえない」は本当?

結論として、絶対にありえないというわけではありません。明らかに被害者側に事故発生の責任がないようなケースでは、過失割合が10対0になる場合があります。例えば、前述したような、加害車両が信号無視して走行中の被害車両(信号遵守)に衝突した事例などでは、被害車両側の過失が0になる可能性があります。

車同士、または車とバイクの事故で過失割合10対0になる例

直進同士

直進同士のケースで、過失割合が10対0になるのは、例えば赤信号無視による追突した場合です。被害車両が青信号で走行中に、加害車両が赤信号を無視し、直進してきてきたために追突事故が生じたような事例では、被害車両と加害車両の過失割合は、10対0となります。

赤信号の直進と青信号の右折

青信号を右折しようとした被害車両に、赤信号を無視して直進してきた加害車両が衝突したようなケースも、同様に過失割合が10対0と判断され得るケースです。

信号機がある交差点での事故には、直進、右折、信号機の色などの組み合わせに応じて、過失割合がある程度類型化されていますが、上記のように、直進車両の信号無視により事故が生じたケースでは、過失割合は10対0と判断されます。

直進とセンターラインオーバー

センターラインを越えて対向車線からの進入事例も、過失割合が10対0と評価され得るケースの一つです。

例えば、対向方向を走行中の加害車両が、センターオーバーをして対向車両と追突したような事例では、センターオーバーをおこなった側の車両の過失割合が10と判断されます。これは、バイクと車の組み合わせにおいても同様です。

駐車・停車車両に追突

駐車車両や停車車両に対する追突事故の場合も、その基本的な過失割合は、追突車両が10、駐停車車両が0となります。

ただし、駐停車車両が、駐車禁止エリアに駐停車していたり、他の交通を妨害するような形で不適切な駐停車を行っていたりするような場合には、過失割合が修正されます。こうしたケースでは、過失割合10対0とは判断されにくくなります。

自動車と自転車で過失割合10対0になる事故事例

左折自動車と直進自転車

直進して走行中の自転車を、自動車が後方から左折して追い越そうとした結果、追突事故が発生したようなケースでは、直進する自転車と左折自動車の過失割合が10対0と判断されます。

センターラインオーバーの自動車と自転車

前述したように、センターラインオーバーの事故については、自動車と自転車との組み合わせの場合も同様です。すなわち、はみだし運転や、車線変更等でセンターラインをオーバーした側の車両の過失割合が10と判断されます。

自動車と歩行者で過失割合10対0になる事故事例

路肩を歩く歩行者と自動車

自転車が歩道上を走行し、その際に歩行者と追突してしまったようなケースでは、自転車側の過失割合が10と判断されることがほとんどです。自転車は道路交通法では原則として自動車と同じ扱いを受けるため、歩道での事故の責任は自転車側にあると考えられるからです。

歩車道の区別がない道路の右側を歩く歩行者と自動車

歩車道の区別がない道路であっても、歩行者が右側端を歩行している場合には、歩行者側の基本的な過失割合は0と判断されます。ただし、あくまでも基本的過失割合であり、個々の修正要素の存在によっては、過失割合が10対0とならないケースもあります。

自転車と歩行者の事故

青信号、または信号のない横断歩道を歩く歩行者との衝突

青信号や信号のない横断歩道を歩く歩行者との衝突事例でも、過失割合が10対0と判断される場合があります。例えば、歩行者が、横断歩道を青信号で渡っている際に、赤信号無視の自転車が追突してきたようなケースでは、歩行者と自転車の過失割合は10対0と判断されます。

歩道外・路側帯外から出てきた自転車との衝突

前述したとおり、歩道や路側帯上で自転車が歩行者と衝突した場合、その基本的な過失割合は、自転車側が10とされています。ただし、歩行者側の急な飛び出しなど、個々の修正要素の有無によっては、過失割合が修正される場合があります。

歩車道の区別がない道路の右側を歩く歩行者と自動車

歩車道の区別がない道路において、道路の右側を歩行中の歩行者と自動車とが衝突したようなケースでは、歩行者の基本的過失割合は0と判断されます。ただし、この場合も、歩行者側に急な飛び出しやふらふら歩き等の過失加算要素が存在する場合には、過失割合が修正されることになります。

過失割合10対0の場合、自身の保険会社が交渉してくれない点に注意

過失割合が10対0のケースでは、自身の保険会社に交渉を代行してもらうことはできません。なぜならば、過失割合が10対0の場合、被害者側は相手方から賠償請求を受ける関係になく、弁護士法との関係で、保険会社は示談交渉をなし得ない立場に置かれてしまうからです。

弁護士なら代わりに示談交渉できる

これに対して、弁護士は法律事務として、相手方と示談交渉を行うことができます。特に、被害者に十分な交渉能力が備わっていない場合や、交渉を行う時間的余裕がないような場合には、専門的知見を持った交渉経験豊富な弁護士に依頼することが望ましいと言えます。

保険会社の提案をその場で受け入れないでください

保険会社の提案をその場で受け入れ、示談を成立させてしまうと、本来であれば得られたはずの賠償金を十分に得られない場合があります。保険会社からの提案に対しては、一旦保留したうえで、まずは、専門家である弁護士に相談することが大切です。

過失割合を10対0に修正出来た事例

本事例は、被害車両が交差点内で左折するため停車し待機していたという状況下において、加害車両が道路外にある駐車場から逆向きに後進しながら路上に侵入し衝突されたというものです。加害車両側は、本件事故が生じた原因は、被害車両が回避措置を講じなかったことにあると主張してきました。

本件は、物損事故扱いだったため、実況見分調書等の刑事記録がなく、客観的な資料の収集が困難な事案でした。そこで、担当弁護士は、まず依頼者と相手方双方から丁寧に言い分を聴取し、事実関係の解明に努めました。

しかし、両者の言い分にそれほどの相違点は見られなかったため、担当弁護士は、関連する類似裁判例などを調査したうえで、それらを交渉材料として相手方との交渉を試みました。

それでも相手方が主張を変える様子がなかったため、担当弁護士は、調査会社に事故状況の調査を依頼し、詳細な報告書を作成するとともに、実際に相手方保険会社の担当者に事故現場に立ち会ってもらう機会を設けました。

こうした丁寧かつ執念深い調査の結果、相手方車両の後方窓ガラスがスモークガラスになっており、後方状況の確認が困難であったため、事故当時に後方確認を怠っていたという新事実を発見し、これを相手方に認めさせることに成功しました。

担当弁護士による一連の調査・交渉により、依頼者側の無過失を認めさせ、車両の修理費用等を支払ってもらう内容の示談を取り付けることができました。

まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

交通事故被害者専門ダイヤル

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
交通事故の経験豊富な弁護士にお任せください

過失0といわれても、一度は弁護士にご相談ください

過失の有無や、その程度が賠償額にどの程度反映されるのか、そもそも本件は過失0の事例なのかなどについて正しく把握するためには、専門的知見を有した弁護士に相談するのが一番の近道です。まずは、交通事故のスペシャリストである弁護士にご相談ください。

亡くなられた方(被相続人)が認知症の場合でも、遺言書に効力は認められるのでしょうか。また、効力が認められる場合があるとすれば、効力の有無はどのように判断するのでしょうか。
本記事では、遺言書の有効性の判断基準や、裁判例をご紹介しています。

これから遺言書を作成しようとされている場合や、生前認知症だった方の遺言書を発見した場合など、認知症の方の遺言書の有効性に関してお悩みの方は、本記事をご覧ください。

認知症の方が書いた遺言書に効力はあるのか

認知症の方が作成した遺言書であっても、遺言書の効力が否定されるとは限りません。
遺言書の効力との関係で、認知症の方の場合に一番問題となるのが、遺言書を作成した時点における「遺言能力」(民法第963条)の有無です。

「遺言能力」とは、遺言の内容と、遺言によって生じる法律効果を理解できる能力のことです。
この遺言能力がなければ、遺言書は被相続人の意思に基づくものといえないため、遺言書は無効となります。

遺言能力の有無は、医師の診断だけはなく、次のような事情を総合的に考慮して判断されます。

①遺言者の年齢
②心身の状況及び健康状態とその推移
③発病時と遺言時の時間的関係
④遺言時及びその前後の言動
⑤日頃の遺言についての意向
⑥遺言者と受贈者との関係、遺言の動機
⑦遺言内容の複雑性

以上のような事情を総合的に考慮した結果、認知症との診断を受けている場合でも遺言能力が認められるケースもあれば、認知症との診断を受けていなくても遺言能力が認められないケースもあります。

遺言の効力について争いがある場合、最終的には、遺言無効の裁判といった手続きを取ることになります。裁判上、裁判官は、①~⑦のような事情を総合的に考慮して、被相続人の遺言能力の有無について判断を下します。

有効と判断される場合

遺言書が有効と認められるのは、遺言能力が認められるケースです。
具体的には、認知症との診断がされていても、遺言の内容が「相続人の一人に全財産を相続させる」という単純なものであるというケースであれば、被相続人が遺言の内容と法律効果を認識していたとして、遺言能力が認められる場合もあります。

また、上記のような遺言の内容で、相続を受ける相続人が、長期間にわたって被相続人と同居して世話しており、被相続人もその相続人に相続させるという意思を以前から表明していたようなケースでも、遺言能力が認められる場合があります。

無効と判断される場合

遺言書が無効と認められるのは、遺言能力が認められないケースです。

具体的には、遺言内容が非常に複雑であったり、自分の名前や生年月日、子どもの名前や人数といった事実を答えられなかったりするケースでは、被相続人が遺言の内容と法律効果を認識していたとはいえず、遺言能力が認められない可能性が高くなります。

もっとも、遺言能力の有無は、あくまで事情を総合的に考慮して判断するため、個別の事情からは遺言能力が疑われるようなケースでも、遺言能力が認められる場合もあります。

公正証書遺言で残されていた場合の効力は?

公正証書遺言は、公証役場に出向き、公証人や証人の立ち会いのもとで作成する遺言を指します。

公正証書遺言の場合、被相続人本人が手書きで自作する自筆証書遺言と異なり、公証人が被相続人の意思を確認するというプロセスを挟みます。そのため、自筆証書遺言と比較すると、遺言書が有効となる可能性は高くなります。

しかし、公正証書遺言であっても、必ずしも遺言書が有効となるとは限りません。

過去の裁判例では、公正証書遺言を作成された方が中等度から高度のアルツハイマーとの診断を受けていたケースで、公証人が遺言内容を読み上げて本人の意思確認をしているものの、遺言内容が複雑であったことから、遺言能力を否定して、遺言書が無効であると判断されたこともあります(横浜地判平成平成18年9月15日)。

認知症の診断が出る少し前に書かれた遺言書がでてきた。有効?無効?

認知症との診断後に遺言書が作成されたケースに比べると、遺言書が有効であると判断される可能性は高くなります。

もっとも、作成時点で認知症と診断されていなかったからといって、遺言書が有効であるとは限りません。
例えば、遺言書の作成から期間を空けずに、認知症の診断がなされている場合、遺言書を作成した時点での遺言能力がなかったのではないかと疑われるため、遺言が無効と判断される可能性はあります。

診断書は無いけど認知症と思しき症状があった…遺言書は有効?無効?

医師が作成する診断書は、認知症などの直截の裏付けとなり、遺言能力の判断にあたって重要な証拠となります。しかし、診断書が存在しないからといって、必ずしも認知症でなかったとは限りません。

遺言能力の判断にあたっては、診断書以外の証拠、例えば、病院のカルテ(診療録)、介護事業者のサービス提供記録、遺言者本人や同居人の日記などから、認知症の症状の有無や、遺言能力が認められるかを判断することになります。

これらの事情を総合して、診断書は存在しないものの認知症の存在が認められる場合は、遺言能力は否定されます。

まだら認知症の方が書いた遺言書は有効?

まだら認知症とは、認知症の症状が偏ってあらわれる場合をいいます。例えば、直前の食事を覚えていないとなど記憶能力に問題があるものの、会話は問題なくできるなど判断能力には問題がないようなケースがあります。

まだら認知症の方が書いた遺言書の有効性が認められるかは、症状の内容や程度、遺言内容の複雑性、遺言書作成時や前後の言動から、総合的に判断することになります。
まだら認知症の方の場合は、特に遺言書作成当時の症状の内容や程度が問題となることが多いため、作成時にはそれらの症状がきちんと記録に残るようにしておくことが重要です。

認知症の方が書いた遺言書に関する裁判例

遺言書が有効と判断された裁判例

認知症の方が作成された遺言書が有効と判断された裁判例として、東京地判平成30年11月20日があります。

この裁判例は、81歳の遺言者Aが、平成22年9月28日に認知症と診断後、平成26年3月20日に公正証書遺言を作成した事案です。遺言の内容は「土地建物はBに相続させる。祭祀承継者もBにする」というものでした。

この裁判例では、遺言自体が平易な内容のものであること、BがAと同居し身の回りの世話をしたという状況から当該内容の遺言をすることが不自然不合理ではあるといえないこと、公正証書作成時に公証人からの質問に受け答えをしていたことから、認知症の診断がされていたものの、遺言能力があったと判断しました。

遺言書が無効と判断された裁判例

認知症の方が作成された遺言書が無効と判断された裁判例として、東京地判平成26年1月30日があります。

この裁判例は、86歳の遺言者Cが、平成17年5月に認知症を発症後、同年6月18日に自筆証書遺言を作成した事案です。遺言の内容は「財産を全てDに相続させる」というものでした。

この裁判例では、判断要素として遺言内容の難易性に着目し、遺言内容自体は全財産を全てDに相続させるという単純なものであり、その内容を理解することは客観的に容易であったとしています。

その一方で、遺言書作成当時のCとDとの人的関係が円満であったと認め難いことや、遺言作成前後の診断書によると認知症の症状が高度に進行していたことを指摘し、遺言能力がなかったと判断しました。

相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします

相続問題ご相談受付

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
相続問題の経験豊富な弁護士にお任せください

認知症の方の遺言書については弁護士にご相談ください

認知症の方の作成された遺言書については、医師による診断の有無が重要になる一方、単純に診断の有無によって遺言書の有効性が決まるわけではないという特徴があります。
そのため、生前に遺言書を作成する場合や、死後に遺言書が発覚した場合のいずれでも、他の事情も考慮して、遺言書の有効性が認められるのかを検討することが重要となります。

このような総合的な考慮は、他の事案との比較が必要となりますので、どうしてもご本人では難しい部分があるのではないのでしょうか。せっかくの遺言書が無駄になることがないよう、認知症の方の作成された遺言書の件でお悩みの際は、まずは一度、弁護士にご相談ください。

夫婦は、婚姻生活をするうえで、互いに扶養義務を負っています。この扶養義務の一内容として生活保持義務があります。具体的には、自分の生活を保持するのと同程度の生活を相手方にも保持させる義務のことを言います。

夫婦の一方のみが働き、他方が専業主婦/主夫である場合には、収入を得ている方が生活費を支出することは容易に想定できます。しかし、夫婦共働きの場合にはどのように負担するのでしょうか。

以下では、夫婦が共働きの場合の婚姻費用(生活費)の取り扱いについて解説します。

共働きでも婚姻費用の分担義務はある

共働きの場合には、互いに収入があり生活費をそれぞれが負担しているとも考えられます。そのため、一見すると婚姻費用の分担義務は負わないように思えます。

しかし、婚姻費用の分担義務は、自分の生活を保持するのと同程度の生活を相手方にも保持させる義務です。例えば、夫婦の一方が他方よりも高収入の場合には、相手方にも同程度の生活を保持させるために婚姻費用を支払う義務を負うことになります。

また、夫婦双方の収入が同程度であり、夫婦の間に子供がいて、子を監護している親が生活費をすべて負担している場合では、子供の監護をしていない一方が他方に対して婚姻費用を支払う義務を負うことになります。

そもそも婚姻費用とは?

夫婦が分担義務を負うことになる婚姻費用とはそもそも、どのようなものなのでしょうか。

婚姻費用とは正式には「婚姻から生ずる費用」(民法760条)といいます。具体的には、夫婦の衣食住の費用のほか、子の監護に要する費用、教育費等の婚姻生活を送る上で必要な様々な種類の費用が含まれます。

夫婦は互いに、以上のような費用を双方の収入に応じて分担することになります。

共働きの場合の婚姻費用の相場はどれくらい?

婚姻費用は、夫婦それぞれが得ている収入及びそれぞれが生活するにあたり必要な費用を計算し、これらに基づいて算定する改正標準算定方式を用いて算出されます。この複雑な計算式に基づいて算出される婚姻費用を収入及び子供の数に応じて表にまとめたものが裁判所のホームページ上に公表されています。

個別具体的な事情に応じてこの表を確認することで、婚姻費用の相場を知ることができます。

婚姻費用を払ってくれない場合の対処法

婚姻費用を支払ってくれない場合としては、①婚姻費用の金額等に折り合いがついていない場合と②金額等に合意したけれど支払いがなされない場合が考えられます。

まず、①の場合には相手方に算定表を用いて金額を提示し、任意の支払を求めることが考えられます。しかし、当事者同士の話し合いでは任意の支払いに応じない場合が想定されます。その場合には家庭裁判所に婚姻費用分担調停を申立てます。

調停では当事者の間に第三者が入り、話し合いで合意を目指すものになります。もっとも、当事者同士の話し合いで合意できない場合には審判に移行します。審判では裁判所が当事者の収入資料等から婚姻費用の金額を判断します。

次に、②の場合には、調停や審判で確定した内容が債務名義となり、裁判所に強制執行の申立てを行い、未払いの婚姻費用を回収することになります。

共働き夫婦の婚姻費用に関するQ&A

共働きの妻が生活費を出さないのですが、払わせることはできますか?

婚姻費用の分担額は、夫婦それぞれの収入や子供の人数、監護状況等を考慮して決まります。そのため、共働きの妻の収入や個別の事情によっては、婚姻費用を請求することが可能です。
婚姻費用を支払わせる方法としては任意の交渉を経て、折り合いがつかない場合に家庭裁判所に調停の申立てをする。調停がまとまらなかった場合は審判に移行することになります。また、まとまった内容どおりの支払がなされない場合には調停等の内容に基づいて強制執行の手続きを用いることになります。

共働きですが、育休中です。婚姻費用は収入0の欄を見ればよいのでしょうか?

収入欄のいずれを見るのかは、就業先等から得ている手当等があるかどうかにより異なります。 育休中であったとしても、それに応じた手当等を就業先から支給されている場合はその金額を基準に判断することになります。
例えば、雇用保険の被保険者は、要件を満たせば育児休業給付金の支給を受けることができます。この給付金の支給を受けている場合には育休中であったとしても収入があるものとして取り扱われます。

あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います

離婚問題ご相談受付

0120-979-039

24時間予約受付・年中無休・通話無料

メール相談受付
離婚問題の経験豊富な弁護士にお任せください

共働き夫婦の婚姻費用でお悩みなら弁護士にご相談ください

婚姻費用は、改正標準算定方式や算定表が用いられており、一般の方でも容易に婚姻費用の相場を知ることができるようになりました。しかし、これらの算定表等により算出される金額はあくまで目安となります。適切な婚姻費用を請求するには、個別具体的な事情の考慮や実務の運用方法等を理解する必要があります。

弁護士は専門的知識と経験により適切な解決を目指します。婚姻費用でお困りの際は、一度弁護士に相談することをご検討ください。

本記事では、脅迫罪・恐喝罪・強要罪のそれぞれの意義や違いについて解説します。
一般の方々にとっても、比較的身近な犯罪ですので、ぜひ最後までお目通しください。

脅迫・恐喝・強要罪の刑罰

脅迫罪の刑罰

脅迫罪を犯した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(刑法222条)。

恐喝罪の刑罰

恐喝罪を犯した者は、10年以下の懲役に処せられます(刑法249条)。
脅迫罪と比較して重めの処罰を設けられています。

強要罪の刑罰

強要罪を犯した者は、3年以下の懲役に処せられます(刑法223条)。脅迫罪とは異なり、罰金刑が設けられていない点が特徴です。

脅迫・恐喝・強要罪の違い

「脅迫罪」は、人の生命や身体等に害を加える旨の告知をすることで成立する犯罪であり、未遂(実行行為に着手したが、結果が発生しなかったこと。)の場合の処罰はありません。

他方、「恐喝罪」は、人を恐喝して財物を交付させること、「強要罪」は、脅迫や暴行によって、人に義務のないことを行わせる等することで既遂となり、未遂の場合の処罰があります。

このように、脅迫・恐喝・強要罪は、それぞれ行為態様や結果に違いがあります。
以下、犯罪ごとに詳述します。

脅迫罪について

脅迫罪は、意思決定の自由を保護法益(刑法によって保護する利益のこと。)とする罪であり、「生命、身体、自由、名誉又は財産」に対して、「害を加える旨を告知」して「人を脅迫」した場合に成立します。

例えば、「殺すぞ。」、「痛い目に遭わせてやる。」等と発言、怒号するような場合が典型的ですが、その他、刑事告訴の意思がないのに畏怖させる目的で「刑事告訴するぞ」と告げるような場合も脅迫罪が成立する場合があります。

脅迫罪の時効

脅迫罪の時効は3年とされています(刑事訴訟法250条)。
刑事事件における時効を過ぎると、検察官が公訴(検察官が犯罪の被疑者に対して有罪の判決を求める訴えのこと。)を提起することができなくなります。

もっとも、刑事事件としての時効が成立した場合でも、民事事件としての時効が完成しておらず損害賠償を請求される場合もあるので注意が必要です。

害悪の告知

脅迫罪における「害悪の告知」は、不快感や漠然とした不安案を感じさせるものでは足りず、他人を畏怖させるに足りる程度のものが必要となります。

「他人を畏怖させるに足りる程度の害悪の告知」があったかどうかは、被害者の年齢、性別、職業などの被害者側の事情や、加害者と被害者との人間関係等具体的な諸事情を考慮して、客観的に判断されます。

例えば、口頭の発言や、SNS、メール、殴る素振り等でも、他人を畏怖させるに足りる程度のものと客観的にいえれば、脅迫罪の構成要件に該当する可能性があります。

脅迫の対象

害を加える旨を告知する対象は、告知された者だけでなく、その親族も含みます。
しかし、恋人や被害者と親しい友人等、親族にあたらない者への害悪の告知がなされた場合には、原則として本罪は成立しません。

恐喝罪について

恐喝罪は、個人の財産を保護法益とする罪で、「人を恐喝して」「財物を交付」させた場合に成立します。

例えば、「金を出せ、出さなかったら殴るぞ。」と脅して、相手が恐怖心から金銭を差し出し、受け取ったような場合が典型例です。なお、恐喝をされた者が財物を交付しなかった場合(未遂)でも処罰されます。

恐喝罪の時効

恐喝罪の時効は、7年とされています(刑事訴訟法250条)。
もっとも、脅迫罪と同様、刑事事件としての時効が成立した場合でも、民事事件としての時効が完成しておらず損害賠償を請求される場合もあるので注意が必要です。

親族間の場合の特例

恐喝罪には、「親族相盗例」という例外が規定されています(刑法251条、244条)。親族相盗例とは、親族間の犯罪については、たとえ犯罪が成立したとしても刑が免除されるという例外です。

親族相盗例は、配偶者、直系血族又は同居の親族の間で恐喝罪を犯した場合に適用されます。なお、ここでいう「親族」とは、六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族のことをいいます(民法725条等)。
「配偶者、直系血族又は同居の親族」以外の親族との間の恐喝罪については、親告罪であるため、被害者が告訴をした場合のみ処罰の対象となります。

権利の行使と恐喝罪

恐喝罪は、自己の権利を実現するために恐喝的手段を用いた場合でも成立する場合があります。例えば、お金を貸している人が、お金を借りている人に対し、「金返せ。痛い目にあいたいのか。」等と伝え、金銭の返還を受けた場合等です。

判例は、権利行使自体が、権利の範囲内であり、かつ、その方法が社会通念上一般に受容すべきものと認められる限度を超えない限りは、違法の問題が生じないが、その範囲程度を逸脱するときには、恐喝罪が成立することがあるとしています。

強要罪について

強要罪は、意思決定の基づく意思活動(行動)の自由を保護法益とする罪であり、「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して」「脅迫」または「暴行を用いて」「人に義務のないことを行わせ」または「権利の行使妨害した」場合に成立します。

例えば、脅迫や暴行によって、理由なく謝罪文を書かせる行為や、大会への出場を辞めさせる行為等がこれに該当し、未遂でも処罰されます。

強要罪の時効

脅迫罪の時効は3年とされています(刑事訴訟法250条)。
もっとも、脅迫罪と同様、刑事事件としての時効が成立した場合でも、民事事件としての時効が完成しておらず損害賠償を請求される場合もあるので注意が必要です。

関連する犯罪

強盗罪

強盗罪は、「暴行または脅迫を用いて」「他人の財物」を「強取した」場合に成立します。恐喝罪との違いは、暴行又は脅迫の程度の大きさにあります。強盗罪における暴行又は脅迫は、「犯行を抑圧するに足りる程度の不法な有形力の行使又は害悪の告知」であるのに対し、恐喝罪における暴行又は脅迫は、「犯行を抑圧するに至らない程度の不法な有形力の行使又は害悪の告知」で足ります。

なお、強盗罪が成立しなかった場合に無罪となるのではなく、恐喝罪が成立する可能性はあります。

名誉毀損罪

名誉棄損罪は、「公然と事実を適示」し、「人の名誉を」「毀損した」場合に成立します。
例えば、不倫関係にあることを公衆の面前で、大声で暴露するような場合にあたります。事実の有無にかかわらずに成立しますので、不倫関係が事実であったとしても成立することになります。

威力業務妨害罪

威力業務妨害罪は、「威力を用いて」「人の業務を妨害した」場合に成立します。ここでいう「業務」とは、職業その他の社会生活上の地位に基づいて継続して従事する事務のことをいいます。

例えば、弁護士を困らせる目的で、その弁護士が所持していた訴訟記録等が入った鞄を奪取して持ち帰り、自宅に隠していたような場合があたります。

人質による強要行為罪

人質による強要行為罪は、「人を逮捕し、又は監禁」し、「人質にして」「義務のない行為をすること又は権利を行わないことを要求」した場合に成立します。

例えば、人質をとって、第三者に対して、「1億円もってこい」という場合があたります。これは未遂でも処罰がされます。

脅迫・恐喝・強要罪で逮捕される場合

脅迫や恐喝・強要をしているところを、通報され、その場で逮捕されるような場合には現行犯逮捕となります。
他方、当事者しかいない空間で、脅迫等が行われる場合には、後に被害者が被害届を出すことで発覚し、逮捕に至ることがあります。

脅迫等が、面と向かって、第三者がいる場で行われない限り、現行犯逮捕に至ることは少ないと考えられるため、大半の場合、被害者が被害届を提出し、後日逮捕されることの方が多いといえます。

逮捕後の流れについて詳しく見る

脅迫・恐喝・強要を行ってしまった際の対応

脅迫や恐喝、強要を行ってしまった場合、被害者への謝罪が重要になります。被害者が宥恕し、示談の成立を行うことができれば、不起訴処分となる可能性が高まります。
しかし、被害者に直接接触すると、被害者の感情を害するおそれや、罪証隠滅が疑われる危険もあるため、早期の段階で弁護士へ相談することをお勧めします。

刑事事件に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
刑事事件ご相談受付 24時間予約受付・年中無休・通話無料

脅迫・恐喝・強要の罪に問われた場合は弁護士へ相談を

脅迫や恐喝、強要を行ってしまった場合、被害者の宥恕と、示談の成立が、不起訴処分を目指すうえで、重要です。被害者に対して、迅速に謝罪・示談の対応を行うことで、被害者の気持ちも和らぐ可能性もあります。

どのように対応していけばよいのか等、不安に思われている方は、まずはお気軽に弁護士にご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。