休業損害の計算について

交通事故

休業損害の計算について

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

交通事故に遭ってしまい仕事に行けないとき、どうしても不安になるのは収入のことです。
「休業損害」という言葉は聞いたことがあっても、言葉の意味や、請求できる金額については、あまり知らないという方が多いのではないでしょうか。
このコラムでは、仕事を休んだ場合に問題となる休業損害について解説しております。交通事故に遭って、仕事を休んでいる人、休んで通院するかを迷われている人は、ぜひこのコラムをご覧ください。

休業損害とは

交通事故に遭うと、入院や通院のために仕事を休まざるを得なくなることがあります。休業損害とは、このような場合の収入の減額に対する賠償のことを言います。
これに対して、労災保険から支払われるのが休業補償です。労災保険が関係してくるのは、交通事故が仕事中や通勤途中に発生した場合に限られます。そのため、休業損害が問題となる場合でも、休業補償は問題にならないこともあります。

休業損害の計算方法

休業損害の計算方法として、自賠責基準、任意保険基準、弁護士(裁判)基準の3つがあります。
休業損害の金額は、自賠責基準よりも任意保険基準、任意保険基準よりも弁護士基準の方が、大きくなりやすいです。また、手取り金額ではなく、税金等を控除する前の給与金額を使って計算する点に注意が必要です。
任意保険基準は、保険会社によって異なり、公表もされていません。そのため、以下では自賠責基準と弁護士基準をご紹介します。

自賠責基準での計算

自賠責基準での計算式は、「6100円×休業日数」です。一日当たりの減収額が6100円を超えることが証明できる場合には、最大で1万9000円の支払いを受けられる可能性があります。
また、有給休暇を利用して通院した場合でも、休業損害の請求が可能です。本来は有給休暇を使う必要がなかったため、損害として計算するというわけです。
ただし、自賠責保険の賠償額は、治療費、慰謝料などもあわせた上限金額が120万円と設定されています。そのため、治療費等が多額な場合には、上記の計算通りの休業損害は受けられません。

弁護士(裁判)基準での計算

弁護士基準の場合の計算式は、「一日当たりの基礎収入×休業日数」です。
弁護士基準で請求をする場合、実収入をもとに休業損害を算定します。実収入が日額6100円を超えていれば、その分だけ自賠責基準よりも休業損害は高額になります。
また、自賠責基準とは異なって上限金額は存在しません。そのため、全体の賠償額も、自賠責保険の場合よりは大きくなることが多いです。

基礎収入について

弁護士基準の計算式では、一日当たりの基礎収入の金額が休業損害の金額に直結します。そのため、一日当たりの基礎収入が重要となります。
基礎収入を計算するために、勤務先で作成してもらうのが休業損害証明書です。
休業損害証明書には、休業した日数や直近3か月分の給与及び勤務日数等が記載され、これをもとに一日当たりの基礎収入を計算することになります。

給与所得者

任意保険基準の場合、給与所得者の一日当たりの基礎収入は「事故前3か月の給与÷90日」で計算します。例えば、事故前3か月の収入が75万円の場合、75万円÷90日≒8333円となります。
給与の変動が大きい場合、事故前3か月の給与を用いて計算すると、一日当たりの基礎収入が適正な金額にならない可能性があります。その場合には、事故前1年間の給与を用いて計算をすることもあります。

自営業者

自営業者の一日当たりの基礎収入は、「事故前年の確定申告所得額÷365日」で計算します。例えば、事故前年の所得が500万円の場合、500万円÷365日≒1万3699円となります。
確定申告をしていなかったり、実際の経済状態と一致していなかったりする場合には、別途収入を証明する資料が必要となります。

専業主婦(夫)と兼業主婦

専業主婦(夫)の一日あたりの基礎収入は、「事故前年の賃金センサスの全年齢女子平均年収÷365日」で計算します。女性の平均賃金を、家事労働の賃金としてみなして、上記のように計算するのが一般的です。
兼業主婦の場合、給与所得者または自営業者として計算した一日当たりの基礎収入と、専業主婦として計算した一日当たりの基礎収入を比較し、より金額の高い方で計算することが多いです。

学歴、性別の平均賃金:厚生労働省

会社役員

会社役員の一日当たりの基礎収入は、「事故前3か月の報酬÷90日」で計算します。
ただし、休業損害の対象となるのは、報酬のうち、給与と同じように労働と対価関係に立つものに限られます。そのため、労働の対価となっている部分だけを用いて、一日当たりの基礎収入を計算することになります。

無職(失業中)

無職や失業中の場合でも、内定を得ていた場合などには休業損害が認められることがあります。
その場合の一日当たり基礎収入は、前職の収入や賃金センサスの平均年収などを参考に計算をすることになります。

休業損害の計算時に用いる稼働日数とは?

一日当たりの基礎収入の計算にあたって、任意保険基準では暦上の日数(歴日数)を用います。これに対して、弁護士基準では実際に勤務した日数(稼働日数)を用いて、一日当たりの基礎収入を計算します。収入は労働の対価として得ているため、歴日数ではなく稼働日数を用いることが実態に即しているためです。また、歴日数を用いるよりも稼働日数を用いる方が、一日当たりの基礎収入は大きくなります。
有給休暇や早退・遅刻については、本来は労働する予定であったことから、基本的には稼働日数として計算に入れます。

休業日数の算定

休業日数とは、入院や通院などで仕事を休んだ日数をいいます。正確な休業日数を把握するためには、次のポイントに注意する必要があります。

休業日数を証明するためには

給与所得者の場合、勤務先で休業損害証明書を作成してもらうことで、休業した日付と日数を証明することができます。
自営業者の場合、入通院日数が休業日数と扱われることが多いです。もっとも、入通院していない場合にも仕事を休まざるを得ない場合もあるでしょう。そのような場合には、医師の診断書や意見書に、就労できない旨を記入してもらうなどして、休業日数を証明する必要があります。

土日に通院した場合

土日に通院した場合には、通常は休業日数に含まれません。
特に、弁護士基準の場合、稼働日数を用いて一日当たり基礎収入を計算していることとの関係で、土日に通院した場合は休業日数に含まれることはありません。もっとも、勤務先が土日を出勤日としているような場合には、本来は労働日であったといえるので、休業日数に含まれることになります。

有給を使用した場合

有給を使用した場合には、休業日数に含まれます。
本来、有給休暇は自由に使用できるものです。それにもかかわらず、交通事故に遭ったことで、入通院に充てざるを得なくなったという点で、損害が発生していると考えられるためです。
ただし、労災保険の休業補償を受けている場合には、有給休暇を休業日数に含めることができませんので、注意が必要です。

まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

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休業損害の計算例

これまで解説してきた内容を踏まえて、以下では具体的な計算例をご紹介します。

給与所得者

例① 給料の変動がない場合
(事故前3か月の給料総額120万円、稼働日数60日、休業日数30日)

自賠責基準
休業損害:6100円×30日=18万3000円

弁護士基準
一日当たりの基礎収入:120万円÷60日=2万円
休業損害:2万円×30日=60万円

例② 給料の変動がある場合
(事故1か月前の給料総額25万円、2か月前20万円、3か月前23万5000円、稼働日数60日、休業日数45日)

自賠責基準
休業損害:6100円×45日=27万4500円

弁護士基準
一日当たりの基礎収入:(25万円+20万円+23万5000円)÷60日≒1万1417円
休業損害:1万1417円×45日=51万3765円

自営業者の休業損害の計算例

家賃、人件費などの固定費については、事業の継続に必要不可欠な場合には、所得額に合算して基礎収入を計算することになります。

例①
(前年度所得400万円、固定費15万円、休業日数50日)

自賠責基準
休業損害:6100円×50日=30万5000円

弁護士基準
一日当たりの基礎収入:(400万円+15万円)÷365日≒1万1370円
休業損害:1万1370円×50日=56万8500円

例②
(前年度所得(固定費込み)1500万円、休業日数90日、税金対策のため1000万円で過少申告)

自賠責基準
休業損害:6100円×90日=54万9000円

弁護士基準
一日当たりの基礎収入:1500万円÷365日≒4万1096円
休業損害:4万1096円×90日=369万8640円

確定申告した金額ではなく、実収入を用いて基礎収入を計算するためには、帳簿や領収証、通帳の写しなどの資料が必要となります。また、資料がある場合でも、実収入を用いることが認められないときもあります。

主婦の休業損害の計算例

主婦の場合、休業日数としては通院日数を採用することが一般的です。

例①
(パート収入月8万円、週4日勤務、賃金センサス388万円(学歴計、全年齢、令和元年)、 通院日数50日)

自賠責基準
休業損害:6100円×50日=30万5000円

弁護士基準
一日当たりの基礎収入(主婦):388万円÷365日≒1万630円
一日当たりの基礎収入(パート):(8万円×3か月)÷(4日×13週)≒4615円
休業損害:1万630円×50日=53万1500円
パートでの基礎収入よりも主婦としての基礎収入が大きいため、後者を用いて計算します。

例②
(賃金センサス488万8100円(大学卒、年齢35歳、令和元年)、通院日数60日)

自賠責基準
休業損害:6100円×60日=36万6000円

弁護士基準
一日当たりの基礎収入:488万8100円÷365日≒1万3392円
休業損害:1万3392円×60日=80万3520円

アルバイトの休業損害の計算例


(事故前3か月分の収入36万円、稼働日数60日、休業日数20日)

自賠責基準
休業損害:6100円×20日=12万2000円

弁護士基準
一日当たりの基礎収入:36万円÷60日=6000円
休業損害:6000円×20日=12万円
アルバイトで基礎収入が低額の場合には、弁護士基準よりも自賠責基準での休業損害の方が大きくなることもあります。

休業損害の計算についてわからないことがあれば弁護士にご相談ください

休業損害には細かい計算が必要となる部分もあり、個人で対応するには難しいことも少なくありません。また、弁護士を立てない場合、保険会社は自賠責基準や任意保険基準を用いた休業損害を計算します。そうすると、弁護士基準を用いた休業損害よりも低額となる可能性が高いです。
休業損害の計算についてお困りの際は、まず一度弁護士にご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
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