監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
相続をするとき、「何を相続するのか」で争いとなることが多いですが、その前に確認すべきなのは「誰が相続するのか」という点です。誰が相続をするのか、つまり相続人が誰であるかが明らかにしておかないと、せっかく遺産分割の話し合いをしても無駄になってしまう可能性があります。後のトラブルを防止するためにも、相続人調査は必ず行う必要があります。
このコラムでは、そのような相続人調査の重要性と調査方法について解説していきます。
目次
相続人調査の重要性
遺産がどの相続人に帰属するかを決定するためには、相続人同士で遺産分割協議をすることが必要となります。この遺産分割協議は、全ての相続人によって行われることで有効なものとなります。
しかし、相続人調査が不十分だと、遺産分割協議後に新たな相続人が判明することがあります。そうなれば、遺産分割協議をやり直さざるを得ません。
そのため、遺産分割協議を有効に行い遺産を取得するためには、相続人調査を適切に行うことが重要となります。
相続人調査の方法
相続人調査は、被相続人や相続人の戸籍取得から始まります。取得した戸籍をチェックして、相続相関図を作成していきます。相続相関図に欠けている部分があれば、新たに戸籍を取得して、チェック、相続相関図の修正を繰り返していきます。こうすることで、相続相関図が徐々に詳細なものとなり、誰が相続人となるかが明らかになります。
相続人調査に必要になる戸籍の種類
戸籍には次のような種類があり、相続人調査を行う上ではそれぞれ必要となることがあります。ここでは戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍のそれぞれについて、具体的にどのようなもので、どのような場合に必要となるかを解説します。
戸籍謄本
戸籍謄本は、戸籍内容の全てを写した書面です。
多くの場合では、まずは被相続人の戸籍謄本を取ることになります。また、相続人についても、生存していることを確認するために戸籍謄本の取得が必要となります。
戸籍内容の全てを写した戸籍謄本に対して、一部のみを写した場合は戸籍抄本と呼ばれます。相続人調査の場面では、記載内容が限定されている戸籍抄本では必要な情報が得られないため、戸籍謄本が用いられます。
除籍謄本
除籍謄本とは、戸籍に入っていた者が抜け、誰も戸籍に居ないことを証明する書面です。
被相続人と同一の戸籍に入っている者がいなかった場合には、除籍謄本を取得することになります。例えば、被相続人の配偶者がすでに亡くなっており、子どもたちも婚姻して新たな戸籍に入っているような場合には、戸籍謄本ではなく除籍謄本を取得する必要があります。
また、相続人となるべき人がすでに亡くなっているような場合にも、代襲相続人の有無を確認するために、除籍謄本の取得が必要となります。
改製原戸籍
戸籍法が改正される場合、戸籍の様式が変更されて戸籍が書き換えられることがあります。改製原戸籍とは、このように書き換えられる前の戸籍のことです。
取得した戸籍謄本や除籍謄本が、戸籍が書き換えられたことで作成されていた場合には、書き換え前の改製原戸籍も取得する必要があります。
相続人調査に必要な戸籍は1つだけではない
相続人を調査する場合、被相続人の現在の戸籍謄本だけを取得するだけでは不十分です。相続人の有無を確認するためには、次のような戸籍が必要となります。
生まれてから死亡するまでの戸籍すべてが必要
まず、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍が必要となります。
生まれた時の戸籍が必要となるのは、被相続人の両親や兄弟姉妹を特定する必要があるためです。被相続人が婚姻等によって、生まれたときの戸籍から除籍されている場合には、生まれたときの戸籍を取らなければ両親や兄弟姉妹の有無は確認できません。
生まれた時と死亡した時の戸籍のみだと、例えば再婚後に亡くなられたような場合、初婚時の子どもの有無等が分からない可能性があります。そのため、生まれた時と死亡した時の戸籍だけではなく、その間の全ての戸籍が必要となるのです。
亡くなった人に子がいた場合
被相続人に子どもがいた場合には、子どもの戸籍謄本(または除籍謄本)を取得する必要があります。子どもの戸籍謄本(または除籍謄本)を取得することで、その子どもが生存しているかが明らかになります。
子どもが死亡している場合には、代襲相続が生じる可能性があるので、子どもの子ども(被相続人から見て孫)の戸籍謄本を取得する必要があります。
亡くなった人に子がいなかった場合
子どもがいない場合には、被相続人配偶者や両親に相続が発生するため、それらの者の戸籍謄本(または除籍謄本)が必要路なります。
さらに被相続人の両親や祖父母などの直系尊属が死亡している場合には、被相続人の兄弟姉妹が相続人となるため、兄弟姉妹について戸籍謄本(または除籍謄本)を集める必要があります。
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抜け漏れなく戸籍を取得する方法
戸籍謄本の取得に抜けや漏れが生じないようにするためには、以下の順序で戸籍謄本等を取得することが有効です。
①:被相続人の死亡したときの戸籍謄本(除籍謄本)を取得する
②:①の戸籍の中から「1つ前の本籍地」が記載されている箇所を見つける
③:見つけ出した「1つ前の本籍地」の戸籍謄本を取得する
④:②と③を繰り返す
戸籍を取得出来たら記載内容を確認する
戸籍を取得したら、他に取得すべき戸籍がないかを明らかにするため、戸籍の記載内容を確認する必要があります。特に、戸籍が作成された原因、日付は確認することが重要ですまた、除籍の記載がある場合には、除籍された理由、日付も確認しておきましょう。
古い戸籍は確認が困難なことも
古い戸籍の場合、毛筆で手書きされているため読みづらく、記載内容が判読できないことがあります。そのような戸籍に出会った場合、後のトラブルを防止するという視点からは専門家に任せることも検討すべきでしょう。
相続関係相関図を作成したら相続人調査完了
戸籍の取得後は、戸籍の情報を元に被相続人を中心として、配偶者、子、両親、兄弟などの相続人となりうる者の相関図を作成していきます。相続関係相関図が完成すると、今回の相続において法定相続人となる人が明らかになり、相続人調査は完了です。
相続人調査をしっかり行うことで後々のトラブル回避にもつながります。弁護士へご相談下さい
相続人調査は、適切に行わなければ遺産分割協議の有効性にも影響するため、しっかりと行うことが重要です。
しかし、相続人調査を個人で行うと、次々に戸籍を取得する必要があるため時間や手間がかかり、枚数が増えると確認も大変です。万が一漏れがあった場合には、遺産分割協議がやり直しとなるリスクもあります。
相続人調査についてお悩みの方は、まず一度、弁護士にご相談ください。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)