監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
自分が亡くなった後、自分の財産を誰にどの程度分配するかを決める方法として、遺言を残すという方法があります。遺言は、遺言書を作成することによって残します。遺言書の種類はいくつかありますが、今回はその中の自筆証書遺言を取り上げたいと思います。自筆証書遺言は、作成や訂正の仕方が法律によって厳格に定められており、法律によって定められた方式に違反すると遺言が無効となってしまうなどの注意点があります。以下では、自筆証書遺言を作成する方法や遺言書作成後の注意点などについて、解説していきたいと思います。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、遺言の方式の一つであり、遺言をする人が遺言の全文、日付及び氏名を自署し、これに印を押すという方式による遺言をいいます。遺言の方式には、自筆証書遺言のほかに公正証書遺言と秘密証書遺言があります。
自筆証書遺言は、自分ひとりで作成することができ、費用がかからないのが特徴です。ただし、作成の際には、法律に定められた厳格な方式を守らなければ、遺言が無効になってしまうなどのリスクもあります。
自筆証書遺言が有効になるための4つの条件
自筆証書遺言が有効となるための条件としては、①自筆で書かれていること、②特定できる日付が書かれていること、③氏名が自書されていること、④捺印されていることの4つです。①の自筆とは、筆跡がわかる方法で、遺言書の用紙に遺言者自身が直接書いたことをいいます。②の日付は、遺言した日が特定できることが必要です。「8月末日」と書けば8月31日であるとわかりますが、「8月吉日」と書くと具体的に何日であるか特定できないため、無効となってしまいます。④の捺印については、三文判を使用しても構いませんし、指印でも大丈夫であるとされています。
以上の4つの条件の1つでも欠けている場合、その遺言は無効となってしまいます。
パソコンで作成してもOKなもの
自筆証書遺言は、全文を自筆する必要がありますが、パソコンで作成しても大丈夫な部分があります。それは、遺産目録と呼ばれる相続財産の一覧表です。遺産目録は、自筆しても、パソコンで作成しても問題ありません。
遺産目録をパソコンで作成した場合には、パソコンで作成した目録のすべてのページに遺言者が署名し、かつ、捺印しなければなりません。
自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言が有効になるためには、以上で解説した条件をすべて満たす必要があります。以下では、具体的にどのように遺言書を書いていけばいいかを解説していきます。
まずは全財産の情報をまとめましょう
遺言書では、誰に何を相続させるかを記載することになります。その前提として、自分の財産にどのような物があるのか確認しておく必要があります。財産は、預貯金、株式、不動産などの他、借金などのマイナス財産についてもまとめておきましょう。
預貯金は、金融機関名や口座番号などについて確認できるようにし、不動産も権利証などを準備しましょう。これらの資料を見ながら遺産目録を作成していきます。
誰に何を渡すのか決めます
財産のまとめが終わったら、今度は具体的に、誰に何を相続させるかを決めます。相続財産の自筆証書遺言を作成する場合には、誰に何を相続させるかについては自筆で書く必要がありますが、下書きはパソコンで行い、清書する段階で自筆にすれば問題ありません。
縦書き・横書きを選ぶ
縦書きか横書きについては、法律上特に決まりはなく、どちらで書いても問題ありません。遺言者の書きやすい方を選べばよいでしょう。
代筆不可、すべて自筆しましょう
自筆証書遺言は、自筆である必要がありますので、代筆はできません。必ず遺言者自身が書く必要があります。自筆部分は、遺産目録を除く全文、日付及び氏名です。文字を書くことができない場合には、他の方式による遺言をする必要があります。例えば、公正証書遺言は、公証人がすべて書きますので、遺言者自身が文字を書くことができない場合でも作成することができます。
遺言書の用紙に決まりはある?
遺言書の用紙に決まりはありません。どのような用紙に書いても法律上は有効です。例えば、コピー用紙や便せん、極端な例だとチラシの裏に書いても構いません。
ただし、遺言書は遺言者の財産を誰にどの程度分配するのかを書く重要な書類ですので、チラシの裏などに書くのはやめましょう。後のトラブルになる可能性が高くなるためです。遺言書キットなども市販されていますので、これを利用するのがいいでしょう。
筆記具に決まりはある?
筆記具にも、特に決まりはありません。ただし、鉛筆や消せるボールペンを利用するのは控えた方がいいでしょう。改ざんされる可能性があるからです。また、トラブルを防ぐために、できるだけ最初から最後まで同じペンを利用するといいでしょう。
誰にどの財産を渡すのか書く
自筆で、「遺産目録①の不動産を妻に相続させる。」や「●●銀行の預金を長男に相続させる。」というように、すべての遺産を誰に相続させるかを書く必要があります。遺産目録に抜けがあった場合に備えて、最後に「遺言書に記載のない遺産はすべて妻に相続させる。」というように書いておくことをお勧めします。
日付を忘れずに書く
最後に遺言書を記入した日付を書きましょう。「●年●月●日」というように、具体的な日付を記入します。和暦でも西暦でも構いませんが、必ず日付を特定できる書き方をしましょう。「私の70歳の誕生日」などの書き方でも法律上有効であるとされておりますが、できるだけ避けた方がよいでしょう。
署名・捺印をする
最後に署名・捺印をします。捺印は、三文判や指印でも有効です。しかし、遺言書は大事な文書ですので、後の争いを防ぐためにも、実印などのハンコを使用するのが望ましいといえます。
遺言書と書かれた封筒に入れて封をする
遺言書が書き終わったら、封筒に入れて、封をして保管しましょう。封筒には、「遺言書」と記載して遺言書であることが分かるようにしましょう。封筒には「裁判所で開封してください。」などの注意書きをしてもいいでしょう。裁判所外で遺言書が入った封筒を開けると5万円以下の過料に処せられる可能性があるので気を付けましょう。
自宅、もしくは法務局で保管する
自筆証書遺言は、自宅または法務局で保管することになります。自宅で保管する場合は、遺言書の所在について、家族と情報を共有していないと気付かれない可能性がありますので注意しましょう。
他方、自宅で保管すると遺言書が改ざんされてしまう可能性もありますので、法務局で遺言書を保管する制度を利用するのがよいでしょう。法務局で遺言の保管を申請する場合の手数料は3900円で、保管期間は遺言者が死亡した日から50年間となります。法務局で遺言書保管の申請手続をした後に保管証を受け取り、保管証の所在を家族と共有していれば、遺言書の改ざんを防ぐことができ、かつ、遺言書が法務局に保管されていることを家族に知らせることができます。
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自筆証書遺言の注意点
遺言書の作成ルールについては、以上に解説したとおりですが、作成する際の注意点と、遺言書作成後に遺言書を訂正する際の注意点がありますので、それらについて解説します。
遺留分に注意・誰がどれくらい相続できるのかを知っておきましょう
例えば、遺言書で、「私の全財産を長男に相続させる。」という指定をした場合、他の相続人が全く相続することができないことになり、長男と感情的な対立を招くことになり、相続人同士で揉めてしまうことになります。
また、このような遺言は、法律上、遺留分という遺言によっても奪うことができない最低限の権利を侵害してしまうことになります。遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害した人に対して、遺留分が侵害された部分に相当する金銭の支払いをすることができます。
このように、誰が、どの程度相続することができるかを知らないで遺言を作成すると、後に争いになる可能性が高くなりますので、注意が必要です。
訂正する場合は決められた方法で行うこと
遺言書を書き間違えてしまった場合や後から内容を付け足したくなってしまった場合には、①遺言者が、②訂正の場所を指示し、③変更した旨を付記して、④署名し、かつ、⑤変更箇所に印を押す方法により訂正します。このように、法律が定める厳格な方式に則って変更をする必要があります。
方式に違背した変更については、その変更は無効となってしまいます。つまり、変更前の遺言のままとなってしまいます。さらに、訂正することによって変更前の遺言書が判読不能になってしまった場合には、遺言書の判読不能部分は無効となってしまいますので、注意しましょう。
自筆証書遺言の疑問点は弁護士にお任せください
以上に解説してきたとおり、自筆証書遺言は、法律に厳格な規定がされており、その法律に定められた方式に則って作成された遺言でなければ無効となってしまう可能性があります。せっかく遺言を書いたにもかかわらず、無効となってしまっては意味が無いので、そのような事態に陥らないように自筆証書遺言の作成を考えている人は、まず、弁護士に相談してみましょう。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)