監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
相続人以外の方に財産を残したいと思った場合は、どのようにすれば良いでしょうか。
また、遺言書に遺贈と書かれていた場合は、その財産やその他の財産はどのようになるのでしょうか。
そこで、今回は、遺贈について解説をします。
目次
遺贈とは
遺贈(民法964条)とは、被相続人が遺言によって財産を他人に与えることをいいます。
この財産を譲り受けた者のことを、「受遺者」といいます。
遺贈の特徴は、法定相続人だけでなく、法定相続人にあたらない親族や、全くの赤の他人であっても財産を譲り渡すことができるという点にあります。
遺贈と贈与の違い
遺贈は、被相続人の遺言による一方的な意思表示によって行うことができるため、受贈者の遺贈についての同意は不要です。
他方で、贈与は譲る側と受け取る側の合意が必要になります。
すなわち、遺贈は単独で行うことができますが、贈与は単独で行うことができないという点に違いがあります。
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遺贈と相続の違い
上記のとおり、遺贈の場合、受遺者の属性やその範囲に制限がありません。
他方で、相続の場合は、法定相続人しか相続財産を受け取ることができません。
また、受遺者と法廷相続人では、相続財産を受け取った際の相続税にも違いが生じます。
遺贈の種類
遺贈には、大きく分けて、包括遺贈、特定遺贈、負担付遺贈の3種類があります。
そこで、以下では、それぞれの遺贈の特徴について解説をします。
包括遺贈(割合で指定されている場合)
包括遺贈とは、特定の相続財産を指定するのではなく、相続財産のすべてを受遺者に取得させる場合や、相続財産のうちの何割かを受遺者に取得させることをいいます。
そのため、包括遺贈の受遺者は、積極財産(プラスの財産)だけでなく消極財産(マイナスの財産)も取得する点に特徴があります。
また、包括遺贈は、相続させる財産が特定されていないため、包括遺贈を受ける際は、遺産分割協議への参加が必要となります。
特定遺贈(財産が指定されている場合)
特定遺贈とは、包括遺贈とは異なり、特定の財産を指定して遺贈することをいいます。
そのため、消極財産(マイナスの財産)が指定されていない限り、受遺者が借金等の消極財産を背負う心配がありません。
また、財産が特定されているため、原則として受遺者は遺産分割協議に参加する必要がありません。ただし、相続人が特定遺贈を受ける場合には、相続人の立場で遺産分割協議に参加する必要がある点に注意が必要です。
負担付遺贈
負担付贈与とは、受遺者が一定の行為を負担する代わりに相続財産を受け取ることをいいます。
例えば、受遺者が被相続人の介護をすることと引き換えに、受遺者に相続財産を遺贈するといった内容になります。
こうすると、受遺者にとっては、過度な負担となるのではないかとも思えますが、受遺者は受け取る相続財産の価値以上の義務を負担することはないので、安心してください。
遺贈の放棄はできる?
包括遺贈は、遺贈があったことを知ってから3か月以内であれば放棄することができ、放棄する際は家庭裁判所に申し立てる必要があります。
特定遺贈は、包括遺贈とは異なり、いつでも放棄することができます。具体的には、相続人全員か遺言執行者に放棄の意思表示をすることになります。
負担付遺贈についても、特定遺贈と同様に、いつでも放棄することができます。
遺産の寄付もできる(遺贈寄付)
遺贈は、法人に対して行うこともできます。
そのため、例えば、NPO法人に財産を寄付する等の遺言により財産を寄付することができます。
ただし、寄付をする際は、「NPO法人」や「慈善団体」などの漠然としたものではなく、特定の法人の正式名称を記載する必要がある点に注意が必要です。
また、遺言書に遺贈寄付をする旨の記載がある場合は、相続人が寄付をしたくないと考えても、原則として遺言書の内容のとおりに相続財産を寄付しなければなりません。
遺贈の効力がなくなるケース
遺贈したい相手が先に死亡した場合
受遺者として指定された人が、被相続人より先に亡くなった場合には、遺贈は無効となります。
この場合は受遺者への相続財産を、相続人が取得することになります。
遺贈の対象財産が相続財産にない場合
遺贈する財産を誰かにあげてしまった場合や、処分してしまった場合など、遺贈の対象となる財産が相続財産の中から無くなった場合は、遺贈は無効となります。
また、負担付遺贈の条件が達成できない場合も、遺贈は無効となります。
例えば、介護対象者の介護をする代わりに相続財産の遺贈を受ける条件となっていたにもかかわらず、介護対象者が既に亡くなっていたような場合は、遺贈は無効となります。
遺贈にかかる税金
遺贈には相続税がかかります
受遺者にも、相続の場合と同じく相続税が課されます。
受遺者が遺贈者の配偶者・子ども・父母の場合は相続の場合と同じ割合の相続税が課されますが、それ以外の人が受遺者となった場合には、2割加算された相続税が課されます。
不動産を取得した場合はさらに税金がかかる可能性も
特定遺贈で相続人以外の受遺者が不動産を取得した場合には、不動産取得税がかかります。また、受遺者が不動産の登記手続きを行う際には、登録免許税がかかります。
したがって、不動産を取得する場合には、相続人の方が相続税の負担が少なくなります。
遺贈の注意点
遺留分を侵害している場合は請求可能
遺留分とは、法定相続人のうち配偶者、子、直系尊属(父母)について、法律上最低限保障されている相続の取り分のことをいいます。
遺贈によって遺留分が侵害された場合は、遺留分権利者は侵害された遺留分についての賠償を請求することができます。
そのため、遺贈を行う際には、遺留分の割合を考えた方が、後の紛争に発展せず、スムーズに遺贈を行うことができます。
不動産の遺贈は遺言執行者を指定しておいた方が良い
遺贈された不動産の登記手続を行うには、注意が必要です。
遺言執行者がいない場合には、受遺者と相続人全員で手続を行う必要があります。
他方で、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者と受遺者の2人だけで不動産の登記手続を行うことができます。
したがって、不動産を遺贈する場合には、遺言執行者を指定しておいた方が、手続きが煩雑にならなくて済むといえます。
受遺者が単独で名義変更できないのはなぜ?
不動産の名義変更を行うためには、受遺者と相続人全員または遺言執行者の共同申請が原則となります。
これは、遺贈が贈与(贈与は譲る側と受け取る側の合意が必要)の一種であることが理由となります。
そのため、受遺者が単独で不動産の名義変更手続きを行うことはできません。
ただし、法改正により、令和5年4月1日からは、相続人が不動産の遺贈を受けた場合は、単独で名義変更手続きを行うことができるようになります。
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遺贈登記(遺贈による所有権移転登記)の手続き方法
遺贈による所有権移転登記の手続は、
①遺言書の検認手続
②登記の確認
③登記の申請に必要な書類を集める
④登記の申請
という流れになります。
遺言書の検認
公正証書以外の遺言書は、裁判所での検認の手続が必要です。
検認をしない限り、その遺言書の内容に基づいて手続きを進めることはできません。
登記簿を取りよせて内容を確認する
遺贈する不動産が遺贈者の所有であることを確認するため、不動産の登記簿を取りよせる必要があります。
仮に遺贈者の住所が死亡時と異なる場合は、住所変更をする必要があるので、注意が必要です。
書類を集める
不動産の名義変更に必要な書類としては、遺言書、登記済権利証又は登記識別情報通知書、遺贈者の住民票除票又は戸籍の附票、相続人全員又は遺言執行者の印鑑証明書、受遺者の住民票又は戸籍の附票、固定資産評価証明書などが挙げられます。
申請書を作成して提出する
必要書類を揃え、申請書を作成すれば、移転登記申請をすることができます。
詳しくは、法務局のホームページにテンプレートがありますので、参考にされることをおすすめします。
遺贈についての疑問点は弁護士にご相談ください
遺贈を行おうとする際は、上記のとおり、相続や遺留分との兼ね合いなど、注意すべき点が多岐にわたります。また、受遺者としても、どのような手続きを経れば、財産を受け取ることができるかなど不透明な点が多いかと思います。
そのため、遺贈のことについてお悩みや疑問点などありましたら、ぜひ弁護士に相談されることをおすすめします。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)