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相続問題

遺言書とは|遺言書があった場合の対応と効力について

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

相続をめぐる争いは数多く存在します。今回は、その中でも遺言書を巡るトラブルに焦点を当てて解説したいと思います。そもそも遺言書とはどのようなものなのか、遺言書を巡ったトラブルが生じた場合にどのように対処すればよいのか等を、以下、解説していきます。

遺言書とは

遺言とは、人がした意思表示の効力をその人の死後に生じさせる法律行為をいいます。そして、その意思表示の内容が記載されている書面を、俗に遺言書といいます。具体的には、遺言書には、「私の財産をAに相続させる。」「私はBを認知する。」といったことが書かれることになります。

遺書、エンディングノートとの違い

遺書というのは、人が自らの死後のために遺した手紙や文書一般をいいます。また、その人の意思を記載する書面一般をいうことが多いと思われます。エンディングノートも遺書と同じ意味で使用される言葉です。
遺言書は、遺書やエンディングノートと異なるところが多いです。まず、遺言書の記載内容は法律行為であるのに対し、遺書やエンディングノートは記載内容に限定がありません。また、遺言書には法律に定められた方式に則って作成する必要があるのに対し、遺書やエンディングノートにはそのような決まりは特にありません。
遺言書と遺書やエンディングノートとでは、記載内容や作成方法が異なっております。

遺言の種類

遺言には、特別なものを除けば、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つの方式があります。自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文を自書する方式の遺言です。公正証書遺言は、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口頭で伝え、公証人が作成するという方式の遺言です。秘密証書遺言は、遺言者が遺言書に署名・押印してその遺言書を封じ、遺言書に用いた印章で封印し、遺言書が入った封書を公証人に提出して遺言書の筆者が誰であるか等を申述した後、遺言者・公証人・証人が封書に署名・押印することによって作成される遺言のことをいいます。

遺言書の保管場所

遺言書が保管されている可能性がある場所は、主に3つ考えられます。
1つ目は、遺言者の自宅です。当たり前ではありますが、遺言者が遺言書を書いた後、それを自宅に保管しておくことが考えられます。
2つ目は、公証役場です。公正証書遺言の場合、その遺言書は自宅に保管されているということはなく、必ず公証役場に保管されることになっています。
3つ目は、法務局です。自筆証書遺言を法務局に保管するという制度がありますので、遺言者がこれを利用して法務局に遺言書を保管している可能性があります。

遺言書はその場で開封しないようにしましょう

相続人等は、封印のある遺言書を発見した場合であっても、それをその場で開封してはいけません。遺言書は家庭裁判所で開封しなければならないと法律で定められており(民法1004条3項)、これに違反した場合には、5万円以下の過料に処せられる可能性があります。また、必ずというわけではありませんが、勝手に開封したことが遺言書の偽造・改ざんを疑われるきっかけとなる可能性もあります。
以上から、必ず家庭裁判所に検認手続を申し立て、家庭裁判所において遺言書を開封しましょう。

開封には検認の申立てが必要

相続人等が遺言を発見した場合には、開封する前に遺言の検認という手続を家庭裁判所に申し立てる必要があります。これは、遺言書が封書となっていない場合であっても同様です。検認をせずに遺言の執行をした場合には5万円以下の過料が処せられる可能性があります。
ただし、遺言書が公正証書である場合、遺言書が法務局に保管されている場合は例外で、検認手続をする必要はありません。

「勝手に開封すると効果がなくなる」は本当か?

遺言書の検認手続をせずに、勝手に開けてしまった場合であっても、遺言が無効となるということはありません。ただし、遺言を勝手に開封したことによって、他の相続人から偽造などを疑われてしまう可能性はあります。
ですので、余計な争いを避けるためにも、遺言書は必ず家庭裁判所で開封しましょう。

知らずに開けてしまった場合の対処法

遺言を家庭裁判所外で開封してはならないということを知らずに開封してしまった、あるいは、遺言書だと思わずに開けてみたら実は遺言書だった、ということもあるかもしれません。このような場合には、開封してしまった後でも構いませんので、遺言の検認手続を家庭裁判所に申し立てましょう。実際に過料に処せられる可能性はほとんどありませんし、遺言を執行するには検認手続を経なければならないからです。

遺言書の内容は何よりも優先されるのか

遺言書の内容に相続人らが不満を持っている場合であっても、遺言書の内容に従わなければならないのでしょうか?
以下、ケース別にみていきます。

遺言書の内容に相続人全員が反対している場合

相続人の全員反対している場合には、遺言の内容に従う必要はありません。相続人が協議して、被相続人の財産を自由に分けることができます。
ただし、遺言によって相続人以外が利益を受けるような場合には、その利益を受ける者の同意も必要です。例えば、「遺産を全て(相続人でない)弟に渡す。」という内容の遺言の場合、その弟は遺産を取得する権利がありますので、その弟が遺産を受けとらないと言わない限り、相続人全員の同意があったとしても、遺言と異なる分割をすることはできません。

遺言書に遺産分割協議を禁止すると書かれていたら

この場合には、遺言執行者が存在する場合と存在しない場合とで考え方が分かれます。
まず、遺言執行者がいる場合には、共同相続人全員が遺産分割協議禁止に反対していたとしても、遺産分割協議をすることはできません。仮に、遺言に反して遺産分割協議をしたとしても、その遺産分割協議は無効となります。
他方、遺言執行者がいない場合には、共同相続人全員の同意によって遺産分割協議をすることができるとの考え方とできないという考え方に分かれています。

遺言書の内容に納得できない場合

遺言書の内容が自分にとって不利益なものである場合も考えられます。しかし、相続人全員の同意がある場合でなければ、その遺言に従わざるを得ないことになります。ただし、相続人には、遺留分がありますので、遺留分が侵害された場合には、他の相続人等に対し、侵害された部分に相当する金員の支払を請求することができます。

遺言書の通りに分割したいけれど、反対する相続人がいる場合

遺言書に分割方法が記載されている場合には、遺言書の分割方法に反対する者がいたとしても、遺言書のとおりに分けられることになります。

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遺言書で指定された財産を受け取りたくない場合

遺言書で指定された財産を受け取りたくない場合には、受け取る必要はありません。遺言によって遺産の取得を義務付けることはできないからです。この場合には、他の相続人と相談して、指定された財産を誰が取得するかについて相談して決めることになります。
なお、財産が全く不要という場合には、相続放棄をすることも考えられます。

遺言書が2通出てきた場合

遺言書が2通発見された場合には、どのようになるかというと、どちらの遺言書も有効ということになります。ただし、遺言の内容が矛盾する部分については、後に作成された遺言書の記載が優先され、前の遺言の矛盾する部分は撤回したものとみなされます。
例えば、先に作成された遺言書①に「甲不動産をAに相続させる。」と記載されており、後で作成された遺言書②に「甲不動産をBに相続させる。」と記載されている場合には、遺言書②記載のとおり、甲不動産はBが取得することになります。

遺言書にない財産が後から出てきた場合

遺言書に記載がない財産が存在する場合には、その財産について、共同相続人間で遺産分割協議をしてその財産を誰が取得するか決める必要があります。これは、遺言書にない財産が後から出てきた場合に限らず、元々あった財産のうち遺言書に記載されていないものについても同様です。

遺産分割協議の後に遺言書が出てきた場合、どうしたらいい?

遺産分割協議を終えた後で遺言書が発見された場合には、原則として、遺言書の記載が優先し、遺言書の記載と矛盾する遺産分割協議は無効となります。この場合も、共同相続人が全員の合意で遺産分割協議を優先することはできますが、遺言によって相続人以外が財産を取得する場合などは、その者の了承を得なければなりません。仮に、共同相続人全員の同意が得られない場合や、遺言によって財産を取得する第三者の了承が得られない場合には、遺言のとおりに財産を分ける必要があります。

遺言書が無効になるケース

遺言が無効となるケースには大きく分けて4つあります。
1つ目は、作成日の記載がない、あるいは遺言者の署名がないといった形式不備のケースです。
2つ目は、遺言者が15歳未満である場合、重度の認知症である場合など、遺言者が遺言するために必要な能力を欠いている場合です。
3つ目は、遺言の内容に問題がある場合です。例えば、全ての財産を愛人に贈与するという内容の遺言の場合、社会的相当性を欠いて無効となる可能性があります。
4つ目は、遺言者が詐欺や強迫によって遺言をした場合です。この場合には遺言書の記載内容が遺言者の意思を反映したものでない可能性があるため、相続人は遺言の取消しをすることができます。遺言が取り消された場合、遺言の効力は無効となります。

遺言書に関するトラブルは弁護士にご相談ください

遺言書は、その内容や成立過程をめぐって多くのトラブルが起こります。したがって、遺言を作成する場合は、後に争いが起こらないように法律の専門家が関与して作成することが望ましいといえます。また、遺言書をめぐるトラブルが起こってしまった場合には、どのように対処すればよいか悩ましいことも多いと思います。
そこで、遺言書について悩みがある場合には、迷わず弁護士に相談することをお勧めします。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。