監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
遺言書とは、遺言者が、死後に自分の財産をどのように分けるか、誰に自分の財産を受け継がせるかなどの意思を示した書面のことをいいます。遺言書を残すことによって、原則として記載内容に従った財産の処分をすることができます。もっとも、遺言書の書き方によっては、遺言書が無効になってしまう場合もあるので注意しなければなりません。
そこで、今回は、遺言書の効力や遺言書が無効になる場合などについて解説をします。
目次
遺言書の効力で指定できること
遺言書では、様々な効力を指定することができます。
もっとも無制限に指定をすることができるわけではなく、一定のルールに従う必要があります。
そこで、遺言書でどのような効力を指定することができるのか、従わなければならないルールとはどのようなものがあるかについて解説をします。
遺言執行者の指定
遺言書では、遺言執行者を指定することができます。
遺言執行者とは、遺言書の内容どおりに相続が実現されるよう、必要な手続きを行う人をいいます。
具体的には、不動産を相続した場合の登記変更や、預貯金を相続した場合の名義変更などの事務的な手続きを行います。
誰にいくら相続させるか
遺言書では、誰にいくら相続させるかを指定することができます。
これを相続分の指定といいます。
遺言書がない場合、遺産は民法に定められた法定相続分に従って相続されます。
遺言書では、この法定相続分にかかわらず、遺言者が誰にいくら相続させるかを自由に決めることができます。
ただし、遺言書によっても、相続人の一定の相続分(遺留分)を侵害することができませんので、遺言書では、遺留分を侵害しない範囲で相続分の指定をすることが一般的です。
誰に何を相続させるか
遺言書では、誰に何を相続させるかを指定することができます。
これを遺産分割方法の指定といいます。
例えば、相続財産に自宅マンションと別荘と預貯金があった場合、自宅マンションを妻に、別荘を長男に、預貯金を長女にといった指定をすることができます。
遺産分割の禁止
遺言書では、遺産分割の分割を禁止することができます。
これを遺産分割の禁止といいます。
もっとも、民法上、遺産分割禁止の期間は5年以内と定められていますので、5年の期間を超えて遺産分割を禁止することはできません。ただし、5年後(その期間以下であればその期間まで)に相続人が協議をした場合には、再度5年を超えない範囲で遺産分割の禁止期間を更新することができます。
また、遺産分割の禁止期間を定めない遺言書は、5年間の遺産分割を禁止するものとして効力が認められます。
遺産に問題があった時の処理方法
遺産に問題があった場合、民法上、各共同相続人は他の共同相続人に対して相続分に応じて担保責任を負うとされています。
これを共同相続人間の担保責任といいます。
例えば、自分が相続した土地が、実は他人の土地であった場合や50坪だと思っていたら実は40坪であったという場合には、遺産分割のやり直しを行うのではなく、他の相続人に対して損害賠償(損失の賠償)の請求をすることができます。
ただし、遺産に問題があったことを知った時から1年以内に請求をする必要があるので注意が必要です。
生前贈与していた場合の遺産の処理方法
亡くなった方から、生前に高額の生活費、会社の運転資金、結婚資金などを受け取っていた場合(これを「特別受益」といいます。)には、特別受益を相続財産に加えて具体的な相続分を算定しなおします。
これを持ち戻しといいます。
ただし、特別受益にあたるかは、さまざまな事情によって総合的に判断されるため、亡くなった方から生前お金を受け取っていたからといって、直ちに特別受益にあたるとはいえるわけではありません。
また、亡くなる3年前以内の贈与でなければ特別受益にはあたりません。
さらに、特別受益の持ち戻しを行わないと遺言書に記載することも可能です。この場合は、特別受益を相続財産に加えずに具体的な相続分が算定されます。
生命保険の受取人の変更
保険法上、遺言書によって、生命保険の受取人を変更することも可能です。
もっとも、生命保険の受取人の変更を、保険会社に主張するためには、相続発生後に保険会社に対してその旨を通知する必要があります。
非嫡出子の認知
亡くなった方に婚姻関係にない人との間で生まれた子ども(これを「非嫡出子」といいます。)がいる場合、遺言書によって認知(自分の子どもであると認めることをいいます。)をすることも可能です。
非嫡出子を遺言書によって認知することによって、相続人に加えることができます。
そうすると、他の相続人からしてみると、相続財産に対する自分の取り分が減ってしまうため、見なかったことにしたいと思うこともあるかもしれません。
しかし、遺言書があるにもかかわらず、その遺言書を破棄したり、隠したりした場合には、民法上、相続人の欠格事由に該当することになり、相続する権利がなくなります。
相続人の廃除
相続が開始した場合に相続人となるべき人(これを「推定相続人」といいます。)が、亡くなった人に対して虐待や重大な侮辱を加えていた場合や、推定相続人に著しい非行があった場合には、推定相続人の相続権を消失させることができます。
これを相続人の廃除といいます。
相続人の廃除は、遺言書によっても行うことが可能ですが、亡くなった後に、相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならないため注意が必要です。
未成年後見人の指定
亡くなった方に未成年の子どもがいて、亡くなった後に他の親権者がいなくなるような場合には、遺言書において、第三者を後見人として指定することができます。
これを未成年後見人の指定といいます。
未成年後見人を指定しておくことで、その子どもの財産管理など任せることが可能となります。
遺言書が複数ある場合、効力を発揮するのはどれ?
民法上、遺言書は1通でなければならないというルールはないため、遺言書を複数作成することも可能です。
では、複数の遺言書に内容的に矛盾がある場合、どの遺言書の効力が認められるのでしょうか。
そもそも、遺言書は、民法上、法律に定める方式に従わなければならないと規定されています。
その方式の1つとして、遺言書には、遺言書を作成した日付を記載しなければなりません。
そして、遺言書が複数ある場合は、最も新しい日付が記載された遺言書の効力が認められることになります。
そのため、例えば、2通の遺言書のうち1通にのみ日付があって、日付がないほうが確実に最新の遺言書であると分かったとしても、遺言書の効力は日付がある方にのみ及ぶことになります。
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遺言書の効力は絶対か
遺言書は、亡くなった方の最後の意思ともいえるので、尊重されるべきものではあります。
しかし、遺言書の内容に従わなかったとしても、法律上、特に罰則などがあるわけではありません。
したがって、遺言書の内容に絶対に従わなければならないというわけではありません。
また、法律の定める方式に従っていない遺言書は、無効となりますので、従う必要がないことになります。
遺言書の内容に納得できない場合
遺言書の内容に納得できない場合は、相続人や受遺者(遺言によって特定の相続財産を受け取る人のことをいいます。)全員の同意があれば、遺言書と異なる内容の遺産分割をすることも可能です。
ただし、全員の同意が必要なので、相続人や受遺者のうち1人でも反対した場合は、遺言書と異なる内容の遺産分割をすることはできません。
また、遺言書に遺産分割の禁止や遺言執行者が定められている場合には、遺言書と異なる内容の遺産分割をすることができない点にも注意が必要です。
勝手に遺言書を開けると効力がなくなるって本当?
自宅で遺言書を発見し、その遺言書が封書になっていた場合、勝手に遺言書を開けてしまうと、5万円以下の過料に処せられる可能性があります。
民法上、遺言書を発見した場合、家庭裁判所において検認という手続きを経なければならないと規定されているためです。
ただし、勝手にまたはうっかり開封してしまったとしても過料に処せられる可能性があるだけで、相続権が消失したり、遺言書が無効になるわけではありませんのでご安心ください。
効力が発生する期間は?
民法上、遺言書は、遺言者が亡くなった時から効力を生じるとされています。
また、遺言書に有効期限はありません。
そのため、何十年前に書かれた遺言書であっても、形式的に有効であれば、その効力は存続することになります。
認知症の親が作成した遺言書の効力は?
遺言者が遺言書を作成する際には、遺言内容を理解するための能力が必要とされます。
これを遺言能力といいます。
認知症の親が作成した遺言書であっても、遺言書作成時に遺言能力があれば、その遺言書は有効となります。
逆に、遺言能力がないと裁判所が判断した場合には、その遺言書は無効となります。
そのため、遺言書を無効にしないために、遺言作成時の医師の診断書などを残しておくことが大切です。
記載されていた相続人が亡くなっている場合でも効力を発揮するの?
遺言書で相続分の指定などの記載をされていた相続人が、遺言者より先に亡くなっていた場合には、代襲相続(亡くなった相続人に代わり、その相続人の相続人が遺言者の財産を相続することをいいます。)は生じず、その部分の記載については、遺言の効力が生じません。
そのため、指定された相続分については、他の相続人に帰属し、改めて遺産分割協議をすることになります。
遺留分を侵害している場合は遺言書が効力を発揮しないことも
遺留分とは、一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分のことをいいます。
そのため、先に述べたとおり、遺言書によっても遺留分の侵害をすることはできません。
ただし、遺留分の侵害が生じていてもその遺言書が無効となったり、自動的に再計算して処理されるわけではありません。
したがって、遺留分を主張する人は、別途、相続人や受遺者に対して遺留分侵害額請求を行う必要があります。
遺言書の効力についての疑問点は弁護士まで
遺言書は、様々な効力を生じさせられる反面、順守すべきルールも多くあります。
また、遺言書の内容は、遺言者によって様々であるため、内容どおりの効力が生じるかなど、判断が難しい場面も多くあります。
そのような場合には、相続の問題に強い弁護士にぜひ一度相談してみましょう。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)