
監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
目次
養育費の支払いは法律で義務化されている
「養育費」とは、子どもが経済的に自立し、社会の一員として独り立ちするまでに要する生活全般の費用を指します。
この養育費の支払いは、民法で定められた法的な義務であり、万が一支払いを怠れば、財産を差し押さえられる「強制執行」という事態に至るリスクもあります。
本稿では、養育費という義務の具体的な内容や、支払いが免除される例外的なケースについて詳しく解説いたします。
養育費はいくら支払う義務がある?
民法第766条1項には、「父母が協議上の離婚をするときは…子の監護に要する費用の分担…について必要な事項は、その協議で定める。」との規定があり、これが養育費の支払い義務に関する直接的な法的根拠となります。
この規定に基づき、離婚に際して子どもを監護養育することになった親(権利者)は、子どもと離れて暮らすことになったもう一方の親(義務者)に対し、養育費を請求することができます。
養育費の支払い義務はいつから始まる?
親が子に対して負う扶養の義務は、単に「生活に困っていたら援助する」という程度のものではありません。法的には「自身と同水準の生活を子どもに保障すべき義務(生活保持義務)」とされており、極めて重い責任であると解されています。
したがって、「自身の生活にゆとりがない」といった理由は、養育費の支払いを拒むための正当な事由とはなりません。
養育費の支払い義務はいつまで続く?
養育費を支払う義務は、子どもが「未成熟子」でなくなる時点まで継続します。
ここでいう「未成熟子」とは、経済的、社会的に見て、まだ自分ひとりの力で生活していくことができない状態の子どもを指します。
このため、「未成熟子」でなくなるタイミングと、成年年齢に達する時期は、必ずしも同じではありません。たとえ成人していても、大学などに在学中であったり、心身に障害があるために自立した生活が困難であったりするような場合は、「未成熟子」に該当します。
なお、平成30年の民法改正によって成年年齢は満18歳に引き下げられましたが、上述の通り、「未成熟子」であるか否かは、あくまで子どもの個別の生活状況に応じて判断されます。したがって、この法改正がこれまでの実務上の見解に影響を及ぼすことはないと考えられています。
離婚後、養育費を支払わないとどうなる?
養育費の支払いについて取り決めを交わしたにもかかわらず、正当な理由なく支払いを怠った場合、法的な手続きによって支払いを強制されることがあります。
強制執行される
当事者間の合意内容を記した公正証書や、裁判所の手続きで作成された調停調書などがある場合、養育費の不払いが生じると、権利者は裁判所に申し立てて、義務者の財産を強制的に差し押さえる「強制執行」が可能です。
差し押さえの対象は預貯金や不動産に限らず、給与も含まれます。
給与債権は、一度手続きを行えば、将来分も含めて継続的に、手取り額の最大2分の1まで差し押さえることができ、極めて強力な回収手段です。
財産開示を拒否したり、嘘をついたりすると前科が残る
強制執行を試みても、相手の財産がどこにあるか分からなければ、差し押さえはできません。このような場合、裁判所に「財産開示手続」を申し立てることができます。
これは、裁判所が相手方を呼び出し、自己の財産状況について説明させる制度です。
相手方が正当な理由なく出頭しなかったり、虚偽の説明をしたりした場合は、刑事罰の対象となる可能性があります。
養育費を払わなくていいケースは?支払い義務がなくなるのはどんな時?
原則として必ず支払わなければならない養育費ですが、以下のような特定の状況下においては、支払い義務が免除されたり、減額されたりする場合があります。
相手が養育費を請求しないことに同意した場合
養育費を受け取る権利のある親が、その支払いを求めないことに明確に同意した場合は、支払い義務は生じません。
ただし、その合意はあくまで権利者の自由な意思に基づくものである必要があります。脅迫や偽計によって同意させたような場合は、その合意自体が無効になる可能性があります。
受け取る側が再婚した場合
養育費を受け取る側の親が再婚したという事実のみで、支払い義務が自動的になくなることはありません。しかし、その再婚相手と子どもが「養子縁組」をした場合は、法律上、子どもを扶養する第一次的な義務は養親(再婚相手)に移ります。
その結果、実親であるあなたの支払い義務は、免除されるか、あるいは大幅に減額されるのが一般的です。
養育費の支払い能力がない場合
支払う側の親が、不景気による会社の倒産で失業したり、重い病気やけがで働けなくなったりして、支払い能力を喪失した場合は、その事情が考慮されます。
例えば、生活保護を受給している間は、支払い能力がないとみなされ、事実上、支払いを免除されることがあります。ただし、これは義務自体が消滅するわけではなく、支払い能力が回復した際には、再び支払いを再開する必要があります。
養育費のことでお悩みなら、一度弁護士にご相談ください
養育費は、お子様の健やかな成長と未来のために、極めて重要な意味を持つものです。
支払い条件の取り決めや、万が一の不払いへの対応には、専門的な知識が不可欠な場面が多くあります。
「相手とどのように話し合えば良いか分からない」「約束通りに支払われず困っている」といったお悩みは、決して一人で抱え込まず、まずは法律の専門家である弁護士に相談されることを強くお勧めします。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)