監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
養育費は、子どもの衣食住のために要する費用、教育費、医療費をも含んだ費用であり、子どもの成長にかかせないものです。子どもを監護する親は、子どもを監護していない親に対して、養育費の支払いを求めることができます。養育費の決め方は、話合いによる方法や家庭裁判所が決める方法がありますが、ここでは、家庭裁判所での話合いである調停について解説していきます。
以下では、子を監護する親を「権利者」と呼び、子を監護していない親を「義務者」と呼んで解説します。
目次
養育費調停でできること
養育費の調停には、養育費請求、養育費増額請求、養育費減額請求の3つの調停があります。それぞれの調停では、具体的にどのようなことができるのでしょうか。以下、解説します。
養育費の請求
養育費請求調停は、養育費の支払いまたは取決めがされていない場合に、権利者が義務者に対して、養育費の支払いを求め、または取り決めるための調停です。離婚する際に養育費の取決めをしなかったために養育費を受け取っていない権利者が義務者に対して養育費の支払いを求める際には、養育費請求調停をします。また、結婚はしていないものの、子どもを産んだ母が子どもを認知した父に対して養育費の支払いを求める場合も、この調停をします。
養育費の増額
養育費増額請求の調停は、養育費の取決めがされているものの、何らかの事情で取り決められた養育費の金額が過少となってしまった場合に、権利者が義務者に対して養育費の増額を求める際に行われる調停です。例えば、子どもが私立学校に進学するために多くの費用がかかる場合、子どもが大きな病気を患ってしまい、多くの医療費がかかる場合などに行われます。
養育費の減額
養育費減額請求の調停は、養育費の取決めがされているものの、何らかの事情で取り決められた養育費の金額が義務者にとって過大となってしまった場合に、義務者が権利者に対して養育費の減額を求める際に行われる調停です。例えば、義務者が失職してしまった(または大幅に減給された)場合、義務者が再婚するなどして扶養すべき家族が増えた場合などに行われます。
養育費調停の申立てに必要な書類
一般的に、調停の申立てに必要な書類は、①調停の申立書とその写し、②事情説明書、③進行に関する照会回答書、④連絡先の届出書などです。養育費の調停の場合、以上のほかに、子どもの戸籍謄本、申立人ご自身の収入資料、過去の養育費の取決めがわかる資料(増額、減額請求の場合)などを提出することになります。養育費に関する調停の申立てに必要な書類は、裁判所のホームページなどで確認することができますので、申立前に必ず確認しましょう。
養育費調停にかかる費用
調停の申立てには、収入印紙代1200円×子どもの数、郵便切手代1000円程度(裁判所によって異なります。)が必要になります。このほかに、裁判所に向かう際の交通費や、養育費の調停を弁護士に依頼する場合には弁護士費用がかかります。
調停の流れ
養育費の調停はどのような流れで進んでいくのでしょうか。以下、解説します。
家庭裁判所へ調停を申し立てる
まずは、養育費の調停を申し立てます。養育費の支払いや増額を求める場合は権利者が、減額を求める場合は義務者が家庭裁判所に調停の申立てをすることによって調停がスタートします。調停の申立先は、原則として、調停の相手方の住所地を管轄する家庭裁判所となります。調停を申し立ててから1,2カ月後に第1回目の調停が行われるのが一般的です。
第1回目養育費調停に出席
第1回目の調停が始まりましたら、調停にはきちんと出席しましょう。調停は、裁判官1人、調停委員2人の合計3人で組織される調停委員会によって進められます。もっとも、裁判官は同時刻に開催される複数の調停委員会を掛け持ちしていることが多いため、主として調停を進めていくのは調停委員2名です。調停では、調停委員に対して自己の主張をし、調停委員を通じて相手方を説得していきます。
第2回目以降の調停
2回目以降の調停も第1回目と同じで、調停委員を通じて話合いをします。1回目の調停で調停委員から準備してほしい資料などを指示された場合には、それを準備して2回目の調停に臨みます。調停は、1,2か月ごとに開催されることが多いので、期日間にだいたいの資料は準備することができます。
調停の成立
調停で話合いを進めていき、合意に至った場合には、調停は成立します。調停が成立した場合には、合意内容が記載された調書が作成されます。
他方、話合いで合意が成立しない場合には、調停は不成立となって終了します。養育費関係の調停が不成立となった場合には、審判に移行して、裁判官が養育費に関する結論を出すことになります。
また、調停が成立・不成立となるほかに、調停は取下げによって終了することもあります。調停を申し立てた者は、いつでも調停を取り下げることができます。
不成立になった時はどうなる?
養育費の調停が不成立となった場合には、審判に移行して裁判官が結論を判断することになります。調停が調停委員を通じた話合いであるのに対して、審判は当事者の主張・反論をする場であり、話合いの要素はほとんどありません。審判では、裁判官が当事者の主張や提出された資料を参考に、自らが妥当と考える結論を出すことになります。
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養育費調停を有利に進めるポイント
養育費調停を有利に進めるポイントについて、以下、解説していきます。
養育費の相場
どのような結論を求めるにしても、あらかじめ養育費の相場を知っておくべきです。一般的な家庭裁判所実務では、算定表という表を用いて養育費が算定されます。これは当事者双方の年収を算定表に当てはめると、妥当な養育費を算出することができるものです。算定表によって導き出された養育費が相場となります。例えば、6歳の子どもが1人いる場合で、権利者の給与収入が年150万円、義務者の給与収入が年500万円である場合を例にすると、養育費は4万円から6万円の枠に当たりますので、4万円から6万円の間が養育費の相場となります。
調停委員を味方につける
調停委員は、公正中立な裁判所の職員であるため、当事者のどちらか一方の味方をするということは原則としてありません。しかし、例えば、自分が正当な養育費請求をしているにもかかわらず、相手方が不当な主張をしている場合(養育費を一切支払わないと主張している場合など)には、調停委員は相手方を説得する心強い味方となってくれます。
養育費の請求が正当であることの証明
5-2で解説したように、調停委員は相手方を説得する心強い味方となってくれることもありますが、その前提としては、自己の主張が正当であるということを調停委員に対して理解してもらう必要があります。例えば、権利者が、「義務者の収入はこれくらいあるはずだ」となんの根拠もなく主張しても、調停委員は相手方を説得してはくれません。ですので、調停の当事者は自己の主張が正当であることを証拠をもって証明するように努めることが大切です。
審判を申し立てることを検討しておく
調停で話合いがまとまる可能性が著しく低いと思われる場合などには審判の申立てを検討することもあります。調停は、裁判所を通じての話合いに過ぎないため、仮に相手方が著しく不当な主張をしていたとしても、最終的には相手方の同意がない限り成立することはありません。他方、審判の場合には、相手方の同意と関係なく、裁判官が最終的な結論を判断することになりますので、著しく不当な結論となることはほとんどありません。
弁護士に依頼する
調停を有利に進めるための方法として最も有効なのは弁護士に依頼するという方法です。調停でどのような主張をすればよいか、またはどのような資料を準備すればよいかなどについては、やはり一般の方にはわかりにくいと思います。弁護士であれば、過去の裁判例などを参考に、主張を考え、それを裏付ける資料を集めることもできます。また、調停委員が誤った理解をしているということも、しばしば見受けられますが、法律の専門家でない方がこのような事態に対処するのはかなり難しいと思います。
ですので、弁護士に依頼するというのが調停を有利に進めるために最も有効は方法であるといえます。
よくある質問
養育費調停に相手が来ない場合はどうなりますか?
養育費調停に相手方が出席しない場合には、調停は合意の見込みがないものとして不成立となって終了します。これは、養育費請求、養育費増額請求、養育費減額請求のいずれの場合でも同様です。
養育費調停が不成立となった場合には、事件は自動的に審判に移行します。審判は、当事者の主張と当事者から提出された資料を参考に、裁判官が結論を出す手続です。この手続は、相手方が欠席しても行うことができます。相手方が審判期日を欠席した場合には、申立人側の主張のみを聞いて結論を出すことになりますが、あくまでも裁判官が正当と考える結論を出すことになりますので、申立人の要求が100%認められるとは限りません。
養育費調停で決めたこと金額を払わない場合はなにか罰則などはありますか?
養育費調停で決められて合意内容に違反したとしても、罰金や懲役といった罰則はありません。
しかし、義務者が定められた金額の養育費を定められた期限までに支払わない場合には、権利者は、義務者の財産を差し押さえることができます。差し押さえることができる財産は、義務者所有の不動産、義務者名義の預金口座、義務者が勤務先から受け取る予定の給与などです。差押えの手続を行う場合には、地方裁判所(家庭裁判所ではありません。)に差押命令の申立てをすることによって行います。
なお、養育費の支払いが遅れた場合には、権利者は、義務者に対して遅延損害金の支払いを求めることができます。もっとも、養育費の支払いが滞った場合であっても遅延損害金の支払いを請求するケースはほとんどないというのが実態です。
養育費の調停について弁護士にご相談ください
ここまで記事を読んでいただいた方でも、実際に調停でどのような主張をし、どのような資料を提出すればよいかなど、養育費の調停の進め方についてわからないことも多いと思います。
養育費は、原則として子どもが成人するまでの間ずっと支払われるものですので、長期間の支払いになることが多く、また、一度その金額を決めてしまうと後で変更するのはとても難しくなります。そこで、調停でどのように養育費の取決めをするのかがとても重要になります。また、養育費の取決めを変更する場合には、適切な資料を提出して相手方を説得する必要があります。
そこで、あとで後悔しないためにも、養育費の取決めをする際には、専門の弁護士にぜひご相談ください。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)