監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
子どもと離れて暮らす親(「非監護親」といいます。)は、子どもと一緒に暮らす親(「監護親」といいます。)に対して、子どもの養育費を支払う必要があります。ここでは、養育費の金額や支払期間がどのように決まるのか、また、一度決めた養育費の金額等をどのように変更するのかなどについて解説していきたいと思います。
目次
養育費とは
養育費とは、未成熟子の養育に必要な費用のことをいいます。
養育費に含まれるもの
養育費について、民法には、「子の監護に要する費用」(766条1項)と記載されているにとどまり、その具体的な中身は規定されておりません。一般的には、子の衣食住に必要な費用が広く含まれると考えられております。また、子どもの教育に必要な費用や医療費も養育費に含まれます。
養育費の相場は?養育費算定表による支払額の決め方
養育費は、一般的に、算定表と呼ばれる表を用いて算出されます。この算定表は、監護親・非監護親双方の年収を当てはめるによって、簡易・迅速に適切な養育費の金額を算出することができる表です。家庭裁判所においても、原則として、算定表を用いて養育費を算出する運用となっています。
養育費は、主に、子どもの人数や親の年収によって異なるため、相場というものは特にありません。
養育費の支払期間はいつからいつまで?
養育費は、実務上、監護親から非監護親に対する支払いの請求があった時に発生すると考えられております。支払請求の方法について、特に制限があるわけではありませんが、いつ請求したかを明確にするために、弁護士が作成した内容証明郵便で請求する方法や養育費の分担調停の申し立てる方法がいいでしょう。
養育費の終期は、子が未成熟子でなくなった時です。家庭裁判所では、子が20歳に達した時とされることが多いです。また、子が高校卒業する時までとすることや、子が大学卒業する時までとされることもあります。
養育費の始期や終期については、様々な考え方がありますので、詳しくは弁護士にご相談ください。
養育費の請求・支払いに時効はある?
養育費の支払請求には、5年間の消滅時効があります。時効は、養育費の支払いを請求することができることを知った時からスタートし、そこから5年経過した時に完成します。養育費の時効の完成を防ぐためには、5年間が経過する前に、裁判上の請求や強制執行をしなければなりません。
養育費の取り決め・変更の流れ
まずは話し合いを試みる
まずは、当事者で話し合ってみましょう。話し合う内容としては、子一人あたりの養育費の金額だけでなく、支払終期についてもきっちり決めましょう。また、大学の学費や高額な医療費等特別な支出があった場合についてもあらかじめ決めておくのがよいでしょう。
話し合いを拒否された場合、通知書(内容証明郵便)を送る
離婚後に養育費の話合いを拒否されてしまった場合には、内容証明郵便で養育費の支払請求をしておくことも有用です。話合いが拒否されてしまっても、内容証明郵便で請求することによって、養育費分担の始期となるからです。
話し合いで決まらなかったら調停へ
相手方が話合いに応じない場合や、話合いをしてもまとまらなかった場合には、養育費分担調停を申し立てることをお勧めします。調停では、調停委員という裁判所の非常勤職員を通して相手方と話し合うことになります。話合いがまとまった場合には、合意内容が調停調書に記載されます。
調停でも話合いがまとまらない場合には、訴訟や審判という形で決定することになります。
養育費に関する合意書は公正証書で残しておく
当事者間の話合いにより、養育費の合意ができた場合には、合意書を作成します。合意書は、公正証書で作成することを強くお勧めします。公正証書とは、公証役場において公証人という者が作成する書面のことをいいます。公証人は元裁判官や元検察官といった法律の専門家ですので、不備のない合意書を作成することができます。
また、合意書が公正証書である場合、非監護親が支払いを怠ったときには、監護親は、訴訟をすることなく強制執行をすることができるというメリットがあります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
養育費を請求する方(権利者)
以下では、養育費を請求する方(以下、「権利者」といいます。)に向けた解説をしていきます(以下、養育費の請求される方を、「義務者」といいます。)。
公正証書もあるのに、相手が養育費を払わない・払ってくれなくなった
義務者が養育費を支払ってくれない場合には、義務者の財産を強制執行することになります。
強制執行の方法には、義務者の給与を差し押さえる方法があります。この方法は、義務者の勤務先から義務者が受け取る給与を直接権利者に支払わせる方法です。ただし、義務者の給与を差し押さえるためには、義務者の勤務先の情報が必要です。
また、義務者の預金口座や不動産等の財産を差し押さえることもできます。これらについても、義務者の預金口座の情報や不動産の情報がわかることが前提です。
強制執行の手続は、多くの書類を作成し、裁判所に提出する必要がございますので、強制執行したい場合には、弁護士にご相談ください。
一括で請求はできる?
養育費は、通常、月額いくらという形で定められます。しかし、一括での支払合意をすることが禁止されているわけではありませんので、当事者双方が合意すれば養育費の一括払いをすることも可能です。例えば、10歳の子が20歳に達するまでの養育費として500万円を一括で支払うという合意も有効です。
他方、養育費が月いくらという形で定められている場合には、一括請求はできません。
きちんと払ってもらえるか不安なので連帯保証人をつけたい
養育費も債務である以上、連帯保証人をつけることは理論上可能です。連帯保証人をつけるためには、権利者と連帯保証人との間で、書面で保証契約を締結する必要があります。
しかし、養育費は義務者の未成熟子に対する生活保持義務に基づいて支払われるものですので、一般的には、保証の性質に馴染まず、保証人を付けることは相当でないと考えられております。また、仮に連帯保証人を付けたとしても、義務者の収入が激減するなど事情変更があった場合には、権利者は、養育費の減額を防ぐことはできません。
金額を決めた当初と事情が変わったので増額してもらいたい
養育費を決めた時と比べて権利者の収入が減った場合などには、養育費の増額が認められる可能性があります。また、収入の減少以外の理由であっても養育費の増額が認められる可能性がありますので、詳しくは弁護士にご相談ください。
養育費を減額してほしいと言われた
義務者から、収入が減少してしまったため、養育費を減額してほしいと言われることがよくあります。養育費は、主に権利者と義務者の収入によって決まるため、義務者の収入が減った場合には、養育費が減額されることになります。
また、権利者が再婚し、再婚相手と子が養子縁組をした場合、又は義務者が再婚し、再婚相手との間に子が生まれた場合にも、養育費の減額が認められることになります。
妊娠中の離婚でも養育費を受け取れる?
妊娠中に離婚した場合であったとしても、権利者は義務者から養育費の支払いを受けることができます。養育費を受け取りながら生活保護を受けることはできる?
養育費の支払いを受けていたとしても、生活保護の受給要件を満たしていれば生活保護を受給することができます。
養育費はいらないので子供を会わせたくない
非監護親が子と会うことを面会交流といいますが、養育費と面会交流は直接関係ありません。ですので、養育費を受け取らない代わりに子を義務者に会わせないということはできません。逆に、義務者は、面会交流をさせてもらえないことを理由に養育費の支払いを拒むことはできません。
養育費を払う方(義務者)
ここからは、義務者の方に向けた解説をしていきます。
増額請求をされたが、応じなければならない?
応じなければならないということはありません。しかし、権利者の収入が激減しているなどの理由であれば、最終的に審判によって増額が認められてしまう可能性があります。
自分の生活が大変なので減額したい
義務者の収入が減少した場合には、養育費の減額が認められる可能性があります。また、義務者が再婚し、義務者と再婚相手との間に子が生まれた場合、又は権利者が再婚し、再婚相手と子との間で養子縁組をした場合には、養育費の減額が認められる可能性が高いです。
このような場合には、養育費の減額調停を申し立てる必要があります。
養育費を払わず(払えず)にいたら強制執行をされた
基本的には、強制執行されてしまった(権利者に回収されてしまった)養育費については取り戻すことはできません。しかし、上で述べたような養育費の減額事由が存在する場合には、将来の養育費を減額することができます。この場合には、養育費の減額調停を申し立てる必要があります。また、権利者に事情を説明して強制執行を取り下げてもらうことができるかもしれません。
離婚した相手が生活保護を受けているので、養育費を減額してほしい
権利者が生活保護を受けていたとしても、原則として、養育費の減額をすることはできません。生活保護は、他の手段によって生活が維持できない場合に初めて受給することができるもの(生活保護法4条1項、2項)ですので、権利者が生活保護を受給していることをもって養育費を支払う必要性が無くなるものではありません。
養育費は扶養控除できる?
養育費の支払いをもって、扶養控除を受けることはできません。扶養控除を受けるためには、被扶養者と生計を一にしている必要がありますが、親権者でない非監護親は、子と生計を一にしているとはいえないからです。
自己破産したら養育費を支払わなくてもいいですか?
自己破産した場合には、借金等の支払義務は免除されます(「免責」といいます。)。しかし、養育費の支払義務は免責されません(破産法253条1項4号ハ)ので、義務者は破産手続終了後も、養育費を支払いを続ける必要があります。
養育費について困ったことがあったら、弁護士への相談がおすすめ
養育費は、法律に直接書いていないことが多く、以上の解説も一般論を述べたものに過ぎません。ご自身のケースではどのようになるのかなどについては、弁護士に相談してみてください。ALGでは、数多くの養育費に関する案件を扱っており、組織としてのノウハウが集結しておりますので、ぜひ一度ご相談ください。
-
- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)