交通事故の休業補償を受け取る方法

交通事故の休業補償を受け取る方法

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

休業補償とは、被災した労働者が療養のために働くことができずに減少した収入を労災保険から補償してもらうことをいいます。自賠責保険や加害者側の任意保険会社から支払われる休業損害とは異なります。

本記事では、休業補償について解説するとともに、休業損害との違いについても触れていきたいと思います。

交通事故の休業補償とは

休業補償の請求先は労災保険であり、労働者の勤め先の会社を通じて請求を行うのが一般的です。 勤め先に労災事故が起きたことを報告すると、会社が手続を行ってくれることが多いといえます。

労働者が交通事故にあった場合に、必ず休業補償がされるわけではなく、以下の条件を満たす必要があります。

  1. 業務上の事由または通勤時に起こった災害(交通事故など)による傷病の療養をしている
  2. 労働することができない
  3. 賃金を受けていない

そのため、プライベートで事故を起こしてしまったような場合には、たとえ労働ができずに賃金を受けていない場合でも休業補償はされません。

休業補償はいつもらえる?

労働者が、上記①~③の条件を満たすような場合には、休業の初日から第4日目以降については、休業補償の支給を受けることができます。

休業補償の目的が療養等のため労働することができずに賃金を受けないという損失を填補することにあるため、賃金と同様、1か月ごとにまとめて申請することが多いといえます。

なお、初回の申請の際には給付金が振り込まれるまで1か月ほどかかることが多く、それ以降は若干早く振り込まれることが多いといわれています。

休業補償はいつまでもらえる?

休業補償には特に終期等は定められておらず、受給要件さえ満たしていれば、ずっともらうことができます。 具体的には、休業して4日目から、怪我が完治した日または症状固定日のいずれかまではもらうことができます。

なお、症状固定とは、適切な医療に基づいた治療を受けても、改善を見込むことができない状態のことをいいます。

交通事故の休業補償と休業損害の違い

休業補償と似た概念として休業損害というものがあります。両者の違いを下の表で比較してみましょう。

休業補償 休業損害
請求先 労災保険 自賠責保険※不足分を加害者側の任意保険会社に対して請求する
対象となる事故 勤務中または通勤中に起こった交通事故 人身事故全般
貰える金額 給付基礎日額(平均賃金に相当する額)の60%×休業日数
※特に上限なし
原則:6100円×休業日数
※休業日額が6100円を上回ることを証明できた場合には1万9000円を限度とした実際の収入額
※損害全てを含めて120万円
過失割合の影響 過失相殺されない 過失相殺される
有給休暇の取り扱い 補償を受けることができない 補償を受けることができる
待機期間 3日間 なし
いつ貰えるか 請求時 基本的には完治または症状固定後(示談の際)

休業補償と休業損害はどちらを請求する?

休業補償と休業損害は二重に支払いを受けることができないため、どちらかを選択する必要があります。(性質は同一のため、休業補償を受けている部分を休業損害として二重取りはできません)

一般的に、ご自身の過失割合が70%以上の場合や相手方が任意保険に未加入で、治療費などを含めた傷害部分の損害が総額で120万円を超えそうな場合には、休業補償を受けた方が支払ってもらえる金額が多いと考えられています。

他方、専業主婦(夫)や自営業者、無職の方は休業補償を受けることができないことが通常ですので、休業損害を請求することになります。

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交通事故の休業補償の特徴

待機期間がある

上記①~③の条件を満たしたとしても、休業し始めて3日目までは休業補償を受けることができません。この3日間が待機期間と言われます。なお、通算して3日のため、連続して休業しなければ支払ってもらえないというものではありません。

支払いに過失割合の影響・上限はない

休業補償は過失相殺されませんし、支払ってもらえる金額に上限等はありません。他方、休業損害は過失相殺がされますし、支払ってもらうことのできる金額に上限があります。

自営業者や専業主婦(夫)は対象とならない

休業補償は、会社に雇われている労働者であれば請求することができますので、正社員でなくとも、パートやアルバイトでも請求することができます。ただ、自営業者や専業主婦(夫)の方のようにいわゆる雇用関係にある使用者のいない方は休業補償を受け取ることはできません。

ただ、一定の条件を満たすことで労災保険に特別加入することができますので、その場合には休業補償を受け取ることができます。

有給休暇を取得した日は対象外

交通事故の療養のために有給休暇を取得した場合でも、休業補償における休業日数には含まれません。そのため、有給休暇は待機期間にも含まれませんし、休業補償を受け取ることもできません。

他方、休業損害は欠勤であっても、有給休暇であっても支払いが行われることが通常ですので、制度上の違いが生じています。

所定休日は要件を満たせば対象となる

待機期間は通算して3日あれば足りますので、会社の所定の休日であったとしても、待機期間としてカウントされます。そのため、金曜日の業務中にけがをして通院した場合には、当日の金曜日、土曜日(会社の休日)、日曜日(会社の休日)で待機期間は完成することになります。

交通事故における休業補償の計算方法

休業補償は、(給付基礎日額の60%)×休業日数でその金額を算定します。

給付基礎日額は、いわゆる平均賃金に相当する額のことをいい、事故直前3か月間に労働者に対して支払われた賃金の総額(ボーナスや臨時に支払われる賃金を除く)を、その期間の暦日数で割った1日当たりの賃金額になります。

休業補償の請求方法

休業補償の請求方法は以下の流れで行われることが一般的です。

  1. 会社による各種手続き
  2. 労働基準監督署に1の請求書を提出する
  3. 労働基準監督署で審査を行い、支給決定の通知が送られてくる
  4. 登録した口座に給付金が振り込まれる

休業補償の請求は会社が行ってくれることが多いですが、会社が非協力的な場合には自ら行う必要があります。その場合には、請求書を入手して必要事項を記入していただく必要があります。

請求書は厚生労働省のホームページからダウンロードできますが、勤務中の災害と通勤災害とで請求書が異なりますので注意が必要です。また、会社や医師が記入する箇所もあります。

請求の時効に注意

休業補償給付は、療養のため労働することができないために賃金を受けない日ごとに請求権が発生していると考えられています。そのため、療養のため賃金の支払いを受けなかった日の翌日から2年を経過すると、時効により請求権が消滅します。この点には注意を要します。

早く受け取りたい場合は受任者払い制度を利用する

休業補償を請求してから実際に休業補償給付が振り込まれるまでには、おおむね1か月ほどかかるといわれています。場合によっては、1か月以上かかることもあり得るため、一定程度の時間を要することになります。

休業補償に相当する金額を会社に立て替えてもらい、後に労災保険から支給される休業補償を会社の口座に直接振りこまれるようにするという受任者支払い制度といったものもあるため検討してみてもよいかもしれません。

休業補償の請求が認められなかった場合の対処法

会社が休業補償への請求に非協力的な場合がありますが、休業補償の給付をするか否かの判断は労働基準監督署が行いますので、まずは労働基準監督署に相談して、どのように申請手続を進めたらよいかについて確認した方がよいといえます。

勤務中・通勤中の交通事故の休業補償・休業損害請求は弁護士にご相談ください

休業補償と休業損害とは似て非なる制度といえますので、業務中や通勤中に交通事故に遭った際、おいずれを請求すべきか迷うことがあると思います。なお、休業補償と休業損害を二重に受け取ることはできません。そういった場合には、ぜひ、一度弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

内縁関係とは、結婚届を提出しておらず、婚姻関係にはないものの、当事者双方に婚姻の意思があり、実質的には結婚している夫婦と同様の状態にあることをさします。内縁関係であっても、結婚している夫婦と同様の法的保護を受けることができる場合があります。

もっとも、法律婚の場合には、戸籍謄本等の公的資料から、夫婦関係であることをすぐに証明することができますが、内縁関係の場合はそうではありません。

では、内縁関係はどのように証明することになるのでしょうか。以下では、内縁関係の証明に必要な書類や証明方法について解説していきます。

内縁関係の証明が必要となるのはどんな時?

内縁関係の証明が必要となるのは、例えば、不当に内縁関係を解消されたとして慰謝料請求を行う場合や、内縁関係の解消を理由として財産分与請求を行う場合などが挙げられます。

内縁関係を証明するには?書類や方法について

内縁関係の成立の有無は、主に、①当事者双方に婚姻の意思があるか否か、②法律婚を営む夫婦と同様の共同生活を行っているかいなかの2点から判断されます。前者については、結婚式の有無、周囲の夫婦としての認識といった客観的事情から、婚姻の意思の有無を推認していくことになります。

これに対して、後者については、同居の有無や期間、家計の同一性などの事情から推認することになります。

住民票

内縁関係を証明するための証拠としては、住民票があげられます。

住民票を同じにしており、かつ同書類の続柄の欄に、「妻(未届)」、「夫(未届)」といった記載があれば、法的保護に値するだけの内縁関係があることを証明する証拠になりえます。

賃貸借契約書

賃貸借契約書も、内縁関係を証明する一資料となりえます。

賃貸借契約書のなかには、同居人欄に、「内縁の妻」、「内縁の夫」、「妻(未婚)」、「夫(未婚)」等の記載があることがあるからです。

健康保険証

健康保険証も、内縁関係を証明するのに役立ちます。

なぜならば、健康保険法の規定上、「事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む」とされており、一定の要件を満たせば、内縁の妻ないしは夫を、健康保険の被扶養者とすることができるからです。

遺族年金証書

遺族年金証書も、内縁関係の証拠となり得ます。

なぜならば、遺族年金は、年金保険の加入者が死亡した場合に、その者に生計を維持されてきた配偶者や子供等の遺族が受け取る年金だからです。

給与明細

給与明細も、内縁関係の証明に役立ちます。

給与明細に、家族手当(扶養手当)の金額が記載されている場合があるからです。

ただし、公的機関が作成したものではなく、一企業が作成したものですので、その証明の度合いはやや劣る可能性があります。

民生委員が作成する内縁関係の証明書

民生委員(生活支援等のボランティア活動を行う非常勤の地方公務員)が作成する内縁関係の証明書も、有力な証拠の一つです。

ただし、民生委員は、法的証拠として取り扱われる予定のものや、事実関係を把握できないものについては、証明書作成に対応してもらえない可能性もありますので、注意が必要です。

長期間の同居

長期間の同居は、内縁関係の存在を証明するための一事情となり得ます。

同居期間が長ければ長いほど、内縁関係を証明しやすくなりますが、一般的には、3年以上の同居期間があれば内縁関係が認められやすい傾向にあります。

ただし、同居の態様等、個別の事情によっても変わり得るものであることにも注意が必要です。

親族や友人たちから夫婦として扱われている

親族や友人たちから夫婦として扱われていることも、内縁関係の証明に役立ちます。

例えば、親族の結婚式や葬式に夫婦として招待されていたりすると、内縁関係にあることが推認されることになります。

結婚式や披露宴を挙げたことがわかる書類や写真

結婚式や披露宴を挙げたことがわかる書類や写真も、内縁関係の証拠となり得ます。

そうした書類や写真があることは、当事者双方に婚姻の意思があることを推認できるからです。

内縁関係の証明に関するQ&A

半同居生活を送っていた場合でも内縁関係を証明することはできますか?

半同居生活を送っていた場合でも、家計が同一であった等の事情があれば、内縁関係を証明できる余地があります。もっとも、完全な同居生活を送っていた場合と比べると、証拠としては劣ることに注意する必要があります。

自分で作成した契約書は内縁関係を証明する証拠になりますか?

自分で作成した契約書も、内縁関係を証明する証拠になり得ます。公的機関が作成した書類よりは劣る可能性がありますが、当事者双方に婚姻の意思があったことを推認する重要な証拠になり得るからです。

自動車保険は内縁関係を証明する証拠になりますか?

内縁の妻ないしは夫が、配偶者として補償を受ける内容になっている自動車保険契約は、内縁関係を証明する証拠になりえます。このような契約を結ぶ場合には、保険会社が、内縁関係にあることを確認することがほとんどだからです。

内縁関係を証明できれば浮気相手から慰謝料をもらうことができますか?

内縁関係を証明できれば、浮気相手から慰謝料をもらうことは可能です。もっとも、法律婚の場合と同様、内縁関係の証明だけではなく、不貞行為の証明も必要になりますので、ご注意ください。

内縁関係を証明できるか不安なときは弁護士にご相談ください

内縁関係の証明の有無を判断するためには、専門的な知見が必要となることがあります。

また、内縁関係を証明しようとする場合には、不定慰謝料の請求や、財産分与の請求など、目的となる法的紛争が絡んでくることが多いかと存じます。

まずは、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめいたします。

どなたかが亡くなった後、遺産をどう分けるのか決めずに長期間経ってしまい、一つの不動産の持ち主が何十人もいる状態になってしまった……といった話を聞いたことはありませんか。

このような状況は、おそらく数次相続によって相続人の数が増えてしまったケースです。

数次相続がどのようなものかを解説します。

数次相続とは

数次相続とは、誰かが亡くなって相続が始まった後、遺産の分け方を決めないうちに、相続人が亡くなってしまい、また次の相続が始まってしまっていることをいいます。

数次相続の具体例

数次相続の具体例としては、以下のようなものがあります。

まず、おじいさんが亡くなりました。

その次に、おじいさんの娘さんが亡くなりました。

その次に、おじいさんの娘さんの夫が亡くなりました。

その次に、おじいさんの娘さんの夫の妹が亡くなりました。

このような例では、相続人になる可能性がある人がとてもたくさん増えてしまいます。

上記の例では、おばあさん、おじいさんの他の子ども、おじいさんの娘さんの兄弟、おじいさんの娘さんの夫の兄弟、おじいさんの娘さんの夫の妹の子どもなど、多くの人が相続人になる可能性があります。

数次相続はどこまで連鎖する?

数次相続は、相続人が亡くなればまた発生してしまいます。

そのため、数次相続には終わりがなく、無限に広がっていく可能性があります。

数次相続を解決するには、基本的には、相続人全員の合意が必要です。

しかし一度相続人の数が増えてしまうと、合意を行うのが更に難しくなってしまい、なかなか解消できないことがあります。

代襲相続と数次相続の違い

数次相続と混乱されやすいものに、代襲相続があります。

代襲相続は、亡くなった方の法定相続人となるはずの人が、今回の相続が始まる前に亡くなってしまっていた場合に発生するものです。

つまり、おじいさんが亡くなるよりも前に、おじいさんの娘さんが亡くなっていたような場合を言います。

相次相続と数次相続の違い

代襲相続によって相続が出来るのは、亡くなった方の直系卑属(孫やひ孫など)か、亡くなった方の兄弟の子ども(甥・姪)のみです。

このように、代襲相続の範囲は限られていますから、代襲相続が起こったとしても相続人が無尽蔵に増えていくことはあまりありません。

数次相続の場合の相続手続き

数次相続が発生し相続人が増えてしまった後は、どのように解決していくのか、ご説明します。

相続人を確定させる

まずは、誰が相続人なのか、はっきりさせる必要があります。

法定相続人は、亡くなった方と戸籍上のつながりがありますので、戸籍を辿ることによって、全ての相続人を見つける必要があります。

遺産分割協議を行う

全ての相続人の間で協議を行い、誰がどの財産を取得するのか、協議を行います。

亡くなった方からあまりにも遠い身分の方の場合、相続放棄、つまり財産を放棄してくれることがあります。

遺産分割協議書を作成する

協議の中で遺産の分け方が決まったら、どのように分けるのか記載した書面を作成します。

相続人全員が合意していることを証明するため、全員の署名と押印をもらうのが安全です。

署名や押印をした人は、書面の写しをもらっておくと、後から内容を確認できます。

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数次相続における登記手続き

所有権が移転した時には、原則、毎回個別に登記の申請を行って所有権が移転したことを登記する必要があります。

しかし、全ての数次相続について個別に登記を行うには、気が遠くなるような回数の登記申請手続きを行わなければならないことがあります。

たとえば、最終的に一人が不動産の持分全てを取得するような場合では、それまでの多数の登記手続きを行わなくても良いと判断されたケースがあります。

数次相続において相続放棄する場合

相続放棄に関しては、一般的な相続と同様に行うことができます。

管理していない財産については、相続放棄してしまえば、それ以上関わることなく過ごせることが多いので、少額しかもらえない相続人は、遺産がもらえることよりも手間を減らすことを選び、相続放棄を選ぶことがあります。

数次相続の注意点

数次相続に関して、勘違いしやすい点についてご説明します。

基礎控除額に変更なし

「相続人が多いと基礎控除額が増える」と認識している方もいますが、必ずしもそうとは言えません。

特に、数次相続の場合は、相続人の数が非常に多く見えるので、基礎控除額がたくさん増えると勘違いしやすいです。

しかし、数次相続は複数の相続が連続して起こったものであって、1つ1つの相続の規模自体が大きくなるわけではありません。

そのため、基礎控除額に変更はありません。

相続税の申告と納税義務が引き継がれる

相続人には、相続税の申告義務、及び納税義務が発生します。

このことは、亡くなった方から遠い身分の方が相続した場合でも、変わりありません。

相続税を申告しなかった場合にはペナルティーがありますので、気を付けましょう。

相続税の申告期限は延長になる

原則、相続税の申告は相続が開始した日の翌日から10ヶ月以内に行う義務があります。

しかし、数次相続が発生したことによって新しく相続人になった人の申告期限は、その人が直接相続する人の死亡日翌日から10ヶ月以内にまで、延長されます。

相次相続控除が受けられる

最初にどなかたが亡くなって相続が開始してから10年以内に数次相続が発生した場合には、相続税が一定程度減らされます。

相続を繰り返すと、財産はどんどん目減りしていまいます。

10年以内の相続の場合にも相続税を満額払わなければならないのは相続人にとって酷だということで、このような制度が存在します。

数次相続は複雑なので弁護士にご相談ください

数次相続が発生すると、相続人の数が増えてしまいます。

しかも、一度数次相続が発生すると、協議すべき相続人が増えたことにより、次の数次相続が発生しやすくなってしまいます。

数次相続の連鎖を止めるために、なるべく早く遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成する必要があります。

弁護士であれば、お客様の戸籍を取得し、相続人を辿っていくことが可能です。

複雑な数次相続が起きてしまった場合には、ぜひ、弁護士へご相談ください。

ニュース等で「懲役●年、執行猶予●年」という表現が使われたところを耳や目にされたことも少なくないかと思われます。

ただ、その具体的な意味についてまで、正確に認識されている方の方が少数かもしれません。

「執行猶予ってことは、刑務所には入らなくていいんだ」くらいの認識の方が多いのではないでしょうか。

そこで、本記事では、「執行猶予とは何か」、「執行猶予の期限が終わったら無罪として取り扱われるのか」等について解説していきます。

執行猶予とは

そもそも、「執行猶予」とは、その名のとおり、刑の執行を猶予されることを意味します(刑法25条)。そして、その執行猶予期間の間、罪を犯すことなく、まじめに生活できれば、その後、刑が執行されることは無くなります。「刑の執行」とは、裁判官による判決に基づいて刑務所に服役することです。

つまり、執行猶予が言い渡された場合、刑務所で服役するのではなく、日常の社会生活の中で、更生の機会が与えられることになります。

執行猶予でも前科は付く

ただ、勘違いしてはいけないのは、執行猶予付判決であったとしても、刑務所に入れられないだけであり、判決自体は有罪判決には変わりありません。有罪判決を受けた以上、前科が付きます。仮に執行猶予期間を満了したとしても、無罪として取り扱われることにはならず、有罪判決を受けた事実が消えることはありません。

なぜ執行猶予という制度ができたのか

被害者やその関係者の感情としては、しっかりと処罰をしてほしいと望むことが多いと思われます。では、なぜ執行猶予という制度ができたのでしょうか。

これは、前記の刑の執行と関連します。すなわち、犯罪者に対し、刑の執行をする趣旨は、犯罪者を刑務所内で服役させることにより、更生をさせる点にあります。

そして、犯罪が軽微かつ、本人も反省しているような場合にまで、一律に刑務所で服役させることとなれば、逆に社会復帰を困難にしてしまうおそれがあります。

そこで、犯罪者が更生し、社会復帰する機会を奪わないために、執行猶予という制度が誕生しました。

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「初犯だから執行猶予がつく」は正しいか

初犯であるからといって、必ずしも執行猶予が付くとは限りません。執行猶予が付くかどうかは、犯行の悪質性(計画性、被害の程度等)、本人の反省の度合い(被害弁償や示談の有無等)、被害者の処罰感情等によって決定されます。

執行猶予がつく犯罪とは

執行猶予が付くがどうかは前記のとおり、事案により異なりますが、どのような犯罪にも執行猶予が付く可能性があるわけではありません。

執行猶予が付くには、以下の条件を満たす必要があります(刑法25条1項)。

①ⅰ禁錮以上の刑に処せられたことがない者、又は、ⅱ禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終えた日から5年以上が経た者に対して

②ⅰ3年以下の懲役・禁錮、又は、ⅱ50万円以下の罰金を言い渡す場合

執行猶予がつかない、一発で実刑になる犯罪にはどんなものがある?

前記のとおり、執行猶予が付く可能性があるのは、「3年以下の懲役・禁錮又は50万円以下の罰金を言い渡す場合」に限られます。

そのため、懲役の下限が3年を超える殺人罪、強盗罪、不同意性交等罪等の犯罪には執行猶予を付けることができないのではないか、とも考えられます。

しかし、裁判官が、犯罪として成立するものの、情状酌量すべき点があるとして、その刑を裁量によって減刑すれば、執行猶予が付く対象となります。

このように、執行猶予は、理論上、ほとんどの犯罪につけることができます。

前科があると執行猶予がつかない?

同種の前科が存在すれば、裁判にて不利な情状として扱われるため、初犯のケースと比較すると執行猶予が付きにくいといえます。

結局は、前記の初犯でも実刑になる可能性があることと同様に、犯行の悪質性(計画性、被害の程度等)、本人の反省の度合い(被害弁償や示談の有無等)、被害者の処罰感情等によって、前科がある場合でも執行猶予が付く可能性があります。

前科があっても執行猶予が認められるケース

前科があっても執行猶予が認められるには、当然ながら、前記執行猶予の条件を満たす必要があります。まずは、「禁錮以上の刑に処せられたことがない者」に該当するか否か、つまり刑務所に行ったことがあるか否かを判断します(なお、刑の重さは、死刑>懲役>禁固>罰金>拘留及び科料の順となります。)。

仮に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終えた日から5年以上が経過している場合や、特に情状酌量すべき事情がある場合には、執行猶予付判決を受けることが可能です。

執行猶予期間を終えても前科は前科

繰り返しになりますが、執行猶予期間を終え、刑務所で服役をしなくとも、前科が付くことに変わりはありません。そして、現在の日本では、起訴された場合、その有罪率は99.9%にも及びます。そのため、万が一、刑事事件に発展した場合には、起訴されないことが最優先事項となります。

刑事事件はスピードが命ですので、お一人で抱え込まず、早めに弁護士にご相談ください。

犯罪の刑罰というと、懲役1年執行猶予3年などをよく耳にすることが多いかと思います。そのため、前科と聞くと刑務所に収監されることをイメージすることがあると思います。

一方で、刑罰として罰金の言渡しを受けた場合、刑の執行としては、お金を支払うことで終わります。そのため、罰金が前科となることを意識していないまたは、罰金の場合には前科がつかないと思っている人が多くいます。

以下では、なぜ罰金で前科がつくのか、前科をつけないためにはどうしたらいいのかについて解説します。

罰金刑の判決が下れば前科がつく

前科とは、有罪判決を受けた経歴のことです。

有罪判決が下されると、刑罰が科されることになります。

現在、科される刑罰の種類としては、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料の6種類あります。罰金も有罪判決の際に科されることになる刑罰の一つとなります。

そのため、罰金刑であっても前科がつくことになります。

罰金刑が下される場合には、略式手続という手続きによって判決がくだされることが多いです。この略式手続きも裁判のうちの一つなのですが、法廷が開かれて審理されるのではなく、書面により判断がされることになります。

書面により審査され判断されることになるため、簡易な手続きであるとして前科がつかないと思われるかもしれませんが、迅速な審理をするために設けられた特別手続きであり、前科がつくことには変わりはありません。

罰金 (略式起訴)になる可能性のある犯罪

罰金刑が科される可能性のある犯罪は、刑法では、傷害罪(204条)、脅迫罪(222条)、窃盗罪(235条)などが定められており、他にも罰金刑が定められた犯罪は複数あります。刑法以外でも罰金刑が定められた法律や条例は多数あり、例えば、各都道府県が定めているいわゆる迷惑防止条例においては、痴漢行為や盗撮行為に対し、罰金刑が定められています。

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罰金による前科のデメリット

資格取得のデメリット

前科があることで制限される職業がある。多くの場合は禁錮以上で制限されるが、罰金刑で制限されるものもある。

前科があることで受けるデメリットとして考えられるのが、資格の取得が制限されることです。

まず、免許を必要とされる職業、例えば弁護士、医師、公務員などについては、前科の内容によっては欠格事由に該当し、免許・資格の取得ができないことがあります。また、既に資格を取得していたとしても、前科がつくことで資格がはく奪されることになります。

就職のデメリット

次に、免許が必要ではない職業に就く場合でも、就職活動の際の面接時に聞かれることがあります。仮に、面接時に「前科がない」と答え、後に虚偽の申告であったことが判明した場合には、経歴詐称であるとして懲戒解雇処分を受ける恐れがあります。

勤務している人のデメリット

会社に勤務されている方が逮捕・勾留等される場合の影響としては、長期間会社を休むことになり、会社に逮捕・勾留されている事情を話さなければならない場合が多いと考えられます。

逮捕・勾留がただちに前科となるわけではありませんが、社内規定により、「逮捕されたとき」に懲戒解雇とするとしている企業の場合には、逮捕・勾留されていることが発覚したことで懲戒解雇されることになります。

そのため、まずは、逮捕・勾留を避けることが必要となります。

交通事故でも罰金刑になることがある

道路交通法では、軽微な交通違反の場合、一定期日までに反則金を支払うことで刑事手続きを免除される制度があります。これを交通反則通告制度、いわゆる青切符と言います。この「反則金」は行政罰であり、「刑事罰」である「罰金」とは異なるため前科はつきません。

ただし、悪質なスピード違反や当て逃げ、飲酒・酒気帯び運転、無免許運転、人身事故などの交通事故の場合で罰金刑以上の刑を受ければ前科がつくことになります。

以下では、いかなる場合に罰金刑がつくのかについて解説します。

交通事故で罰金刑が課せられるケース

軽微な交通違反の場合には、「反則金」を納めることで刑事手続きが免除されます。

では、いかなるケースが罰金刑の対象となるのでしょうか。

まず、スピード違反のケースについて解説します。

スピード違反とは、道路標識に書かれた速度を超過した場合、もしくは標識のない道路で法定速度を超過した場合のこと指します。

標識等の速度を超過した場合でも反則金などの行政処分で済む違反と、刑事処分を免れない重大な違反があります。

刑事処分を免れない場合の速度超過とは以下の速度が基準となります。

  • 一般道路で30km~50km未満の超過
  • 高速道路で40km~50km未満の超過

以上の速度超過に至らない場合であっても反則金を支払わない場合には、事件が検察官のもとに送られ、刑事罰の対象となることもあります。

次に、交通事故を起こしてしまった場合は、まず、被害者の救護にあたらなければなりません。これを「救護義務」といいます。

これをせずに、現場から立ち去ってしまうと「救護義務違反」となり、いわゆるひき逃げをしたことになります。

この場合も罰金刑の対象となります。そのため、まずは、現場で被害者の救護にあたり、警察に連絡するようにしましょう。

罰金刑が課せられる前にご相談ください

以上のように、罰金刑の対象は多岐に渡ります。万引き、痴漢など身近な犯罪によって罰金刑が科されるケースや交通事故のように誰にでも起こり得る犯罪もあります。

罰金刑が科されると様々な場面でデメリットが生じます。

弁護士は、日々こういったケースについて多く扱い、幅広い手段を用いて事件を解決しております。

まずは、罰金刑とならないためにどのような対応をするべきか、弁護士に一度ご相談ください。

交通事故に遭った後、交通事故で負った怪我のリハビリを行っている期間についても通院慰謝料を請求できるのか疑問に思った方もいらっしゃるでしょう。リハビリも治療ですので、リハビリの期間についても通院慰謝料を請求はできます。

ただ、場合によっては、慰謝料の減額が行われることもあります。適正な通院慰謝料を支払ってもらうにはどうすればよいのかについて以下に記載していきます。

リハビリ期間の慰謝料は請求できる

交通事故で負った怪我のリハビリにより症状の改善が見込まれるのであれば、そのリハビリ期間も治療期間と考えることができます。そのため、リハビリのための通院期間も、治療のための通院期間といえ、通院慰謝料を請求すべき期間と考えることができます。

入通院慰謝料がもらえるのは症状固定と判断されるまで

症状固定(適切に治療を行っても、症状の改善が見込めないこと)時期に達すると、その後の通院期間は通院慰謝料を請求することができなくなります。

また、症状固定後の治療費も請求はできません。加害者側の任意保険会社は、支払うべき治療費や通院慰謝料を少なくするために、早期の症状固定を提案してきます。

しかし、症状固定の判断は、医師の診断が尊重される傾向にあり、少なくとも保険会社の判断で決定するものではありません。

また、一度、症状固定に至ったとして治療を終了してしまうと、その後に改善の見込みがあって治療を再開しようとしても自費での通院をせざるを得なくなってしまうことが多いといえます。

リハビリ期間の慰謝料請求が認められないケースもある

適切なリハビリを行わない場合には、慰謝料の請求が認められないケースがあります。いたずらにリハビリを行っていればよいというものではなく、適切な慰謝料を獲得するためには、いくつかのポイントがありますので、以下で確認していきましょう。

交通事故との因果関係がない

まず、交通事故とは別の原因で負った怪我については、いくらリハビリをして症状が改善したとしても通院慰謝料を請求することはできません。

交通事故と怪我との間に「因果関係」がないため、別の原因で負った怪我については、その別の原因に基づいて治療費を請求すべきということになります。交通事故に遭う前から負っていた怪我等がよく問題になります。

過度の通院

交通事故で負った怪我についてのリハビリであったとしても、治療として必要性のあるリハビリでないと慰謝料を請求することはできません。そのため、治療に必要がないにもかかわらず、過度に通院してリハビリを行っているような場合には、通院慰謝料の金額が減額されることがあります。

また、通院慰謝料は、後で説明しますが、適切な通院期間に応じて算定されるものですので、過度に通院したとしても通院慰謝料が増えるという関係にはありません。

漫然としたリハビリ治療

いわゆる「漫然治療」を行っているとされると、治療のためのリハビリと認められない可能性がありますので注意が必要です。

「漫然治療」とは、症状を改善させるために真摯な治療をしているとは考えられないような治療をいいます。マッサージのみのリハビリやビタミン系の薬をもらい続ける、ネックカラー(治療初期に有効と考えられています)を装着したままであるなどといった場合には、漫然治療とされることがあります。

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リハビリ通院中の慰謝料を請求する場合の注意点

転院する場合は事前に連絡する

現在、通院している病院がリハビリに対応していないなどといった理由で、リハビリ通院中やリハビリの開始時期に転院をすることがあります。

転院自体は可能ですが、転院する場合には、事前に加害者側の保険会社に連絡をいれる必要があります。加害者側の保険会社に連絡をしないで転院すると、治療費の支払いを受けられなかったり、慰謝料の金額を減額されることがあります。

整骨院への通院は整形外科医に許可をもらってから

整形外科では月に1回診察を受けて、日々のリハビリを整骨院や接骨院で行うこともあると思います。ただし、整骨院や接骨院は、医師が施術するものではないため、加害者側の保険会社から治療ではないとして慰謝料の減額をしようとする場合があります。

まずは、整形外科の医師に整骨院や接骨院に行くことの許可をもらい、加害者側の保険会社にも連絡をしておくことをお勧めします。

保険会社による治療費の打ち切りに安易に応じない

加害者側の保険会社は、少しでも支払うべき治療費や慰謝料を減額するために早期の段階で治療費の打ち切りを打診してくることがあります。しかし、早期に治療費の打ち切りの打診をされても、安易に承諾すべきではありません。

医師から治療の必要性を認められている場合には、その旨を保険会社に伝えるなどして、治療やリハビリが必要であることを説明しましょう。

また、保険会社により治療費の打ち切りをされても、治療の必要がある場合には、健康保険を用いるなどして、治療を続けることができますので、医師と相談しながら治療の方針を定めると良いでしょう。

健康保険を使う場合は150日ルールに気を付ける

健康保険を用いる場合には、その部位ごとに所定の点数が算定できる日数の限界があります。すなわち、健康保険を用いて治療できる期間に限界があることになります。

交通事故の治療の場合、運動器のリハビリが多いといえますが、その場合には、発症してから150日間が上限となっています。「150日ルール」は上記したような診療報酬算定上のルールになります。

ただし、150日ルールは絶対のルールではなく、治療を継続することによって、症状が改善することが医学的に見込まれる場合には、一定の範囲内で150日を超えてリハビリを行うことができることがあります。

適正な慰謝料を受け取るために必要なこと

リハビリは適切な頻度で通う

通院慰謝料は、基本的に通院期間や実通院日数をもとに算定していくことになります。通院期間が長期にわたる場合でもあまりにも通院が少ない場合には、治療が必要なかったのではないかと指摘され、慰謝料の減額を求められることがあります。

実際に、通院期間が長期でも、通院頻度が不定期の場合には、実際に通院した日数の3倍や3.5倍の通院期間であったとされることがあります。通院慰謝料は通院期間に応じて計算しますので、通院期間が短くなると、それに応じて通院慰謝料も少なくなってしまいますので注意が必要です。

弁護士基準で請求する

加害者側の保険会社は、慰謝料の金額を独自の基準に基づいて計算しています。そのため、本来であれば、もっと高額であったはずが、保険会社の言いなりになってしまうと、慰謝料の金額が低廉のまま示談してしまうことがあります。

なお、一度、示談してしまうと慰謝料の増額を求めることは非常に困難といえます。適正な慰謝料の金額は裁判所基準や弁護士基準などといった基準を用いて計算した上で、保険会社との交渉を行う必要があります。適正な慰謝料を請求するためには弁護士に相談することをお勧めします。

リハビリ期間の慰謝料を適正な金額で受け取るためにも弁護士にご相談ください

今までご説明したように交通事故で負った怪我のリハビリについても、治療である以上は、その治療費や通院慰謝料を請求することができます。しかし、加害者側の保険会社との交渉の中で、知らず知らずのうちに受け取ることのできる慰謝料が少なくなってしまことがあります。

また、適切なリハビリをしていなかったために、通院慰謝料の減額を求められることもあります。適正なリハビリを行い、適正な通院慰謝料の支払いを求めるためには、弁護士によるアドバイスを受けながら通院していくことが重要といえます。

そのため、リハビリを開始しようと考えているときやリハビリ中のときであっても、ぜひ一度弁護士にご相談されることをお勧めします。

背任罪の成立要件と背任行為発覚後の対応について解説します。

背任罪とは

背任罪とは、他人の事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り、又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときに既遂となる犯罪です。

背任罪の保護法益は本人の財産であると解されています。

回収見込みがないにもかかわららずそのことを認識しながら貸付を実行した場合等に背任罪が成立することがあります。

背任罪の刑罰

背任罪の法定刑は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。

背任罪の成立要件

他人のために事務を処理している

背任罪の主体は、他人のためにその事務を処理する者とされています。

他人とは行為者以外の者のことを指し、処理される事務の主体となります。

他人のための他人の事務を処理する者だけが背任罪の主体を構成するもので、単なる給付義務を履行するにすぎない者は、他人のために事務を処理する者にはあたらないと解されています。

任務違背行為

任務違背行為とは、他人の事務を処理する者として法的に期待されているところに反する行為、事務処理の委託の趣旨に反する行為であるとされています。

任務違背行為には、不作為の場合も含まれますし、事実行為も含まれます(例えば、債権の取立てを依頼された者が債権を消滅時効にかかるまで放置した場合等)。

図利加害目的

背任罪は故意犯ですから、任務違背行為と損害の発生の認識が必要ですが、それに加えて、自己又は第三者の利益を図る目的又は本人に損害を加える目的が必要だとされています。

財産上の損害

背任罪の成立には、任務違背行為の結果、財産上の損害が発生したことが必要です。

この場合の損害は、全体財産の減少を意味するもので、財産上の損害の有無は本人の財産状態を全体として評価することによって判断されます。

背任罪の時効

背任罪の公訴時効は5年です。

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未遂でも処罰される

背任罪には、未遂処罰規程が存在します(250条)。しかし、未遂処罰は、財産上の損害が認定し得る可罰性の明確なものに限って起訴されているようです。

特別背任罪とは

特別背任罪は会社の経営者等が自らの任務に違背する行為を処罰するものです。

会社法や保険業等に規定されています。

法定刑は通常の背任罪よりも重いものとなっています。

背任罪と横領罪の違い

横領罪と背任罪は信義誠実義務違反という意味で共通した性格を有するものです。

横領罪の初犯は執行猶予がつく?背任罪とのちがい

逮捕前後の流れ

会社において背任行為があった場合には、社内で事実調査が行われ、会社や従業員からの通報により刑事事件として捜査が開始されることがあります。その後、他の犯罪と同様に逮捕、勾留期間中に取調べが行われ、起訴、不起訴が決まります。

逮捕された時の流れを図で分かりやすく解説

背任行為をしてしまった場合の対応

刑事事件となり、逮捕されてしまった場合は、被害者との示談等により不起訴処分を目指すこととなります。

背任行為をしてしまったら、早期に弁護士へご相談ください

背任行為をしてしまった場合には、刑事事件となり逮捕、起訴されるおそれがあるだけではなく、会社から損害賠償請求される等民事上の責任を追及される可能性もあります。

刑事、民事、いずれの問題を解決するにあたっても、早期の段階で弁護士にご相談いただくことで、よりよい結果となる可能性が高くなります。早期に弁護士にご相談されることをおすすめします。

ニュース等で「容疑者が書類送検された」という報道に触れる機会は少なくありません。
この「書類送検」という手続が、具体的にどのようなものであり、自身の将来にどのような影響を及ぼし得るのかを正確に理解されている方は、多くはないのではないでしょうか。

書類送検とは、逮捕とは異なるものですが、決して軽微な手続であると断定することはできません。

本稿では、弁護士が、書類送検の法的な意味合いや、しばしば混同されがちな前科との関係性について、分かりやすく解説いたします。

書類送検とは

書類送検とは、法律上の正式な用語ではありませんが、一般に、警察が犯罪の捜査を遂げた事件について、被疑者の身柄を拘束しないまま、関係書類や証拠物のみを検察官に送致する手続を指す報道上の用語です。

刑事訴訟法第246条本文は、司法警察員が犯罪の捜査をしたときは、原則として速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならないと定めており、これを全件送致主義といいます。

被疑者の身柄を拘束した上で送致する「身柄送致」に対し、身柄を拘束せずに行われる送致が、俗に「書類送検」と呼ばれているのです。

このように身柄拘束を伴わない事件は「在宅事件」として扱われ、被疑者は日常生活を送りながら、捜査機関からの呼び出しに応じて取調べを受けることになります。

在宅事件は長期化する可能性も。呼び出しや示談など在宅捜査中の注意事項

書類送検されたら前科がつくのか

書類送検されたという事実のみをもって、直ちに前科がつくことはありません。

あくまで書類送検は、警察から検察官へ事件を引き継ぐための一連の手続に過ぎず、この段階ではいまだ有罪か否かの判断は下されていないからです。

前科とは、刑事裁判において有罪判決が確定した事実を指しますので、書類送検後、検察官が起訴し、裁判を経て有罪が確定して初めて前科がつくことになります。

書類送検されるのはどんな時?

書類送検は、被疑者が逮捕されていない、いわゆる在宅事件において行われます。

逮捕は、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がある場合に加え、刑事訴訟規則第143条の3に規定されるとおり、被疑者が逃亡するおそれや証拠を隠滅するおそれといった「逮捕の必要性」が認められるときに行われる身柄拘束処分です。

したがって、事案が比較的軽微であったり、被疑者の身元が確かで定職に就いていたり、あるいは被害者との間で示談が成立しており、逃亡や証拠隠滅のおそれがないと捜査機関が判断した場合には、逮捕されずに書類送検となる可能性が高まります。

書類送検後の捜査で起訴されると前科がつく

書類送検後、検察官が事件を起訴し、刑事裁判において有罪判決が確定した場合には、前科がつきます。

日本の刑事裁判における有罪率は99.9%以上と極めて高い水準にあり、これは検察官が有罪判決を得られると確信した事件のみを起訴しているためです。

したがって、検察官によって起訴された場合、事実上、極めて高い確率で有罪となり、前科がつくことを覚悟しなければなりません。

不起訴になっても前歴は残る

検察官が起訴しないという判断、すなわち不起訴処分となれば、刑事裁判は開かれないため、前科がつくことはありません。
しかし、前科とは別に「前歴」というものが存在します。

前歴とは、犯罪の被疑者として捜査の対象となった事実そのものを指すため、書類送検された時点で捜査対象となっている以上、たとえ不起訴処分に終わったとしても、捜査機関の記録として前歴は残ることになります。

前歴とは?前歴は消せるのか、回避するには
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逮捕も書類送検もされなければ前科はつかない

警察が捜査した事件は、原則として全て検察官に送致されますが(全件送致主義)、これには例外が存在します。

刑事訴訟法第246条ただし書及び犯罪捜査規範第198条には、検察官があらかじめ指定した極めて軽微な犯罪については、警察限りで事件を終結させることができる「微罪処分」という制度が定められています。

微罪処分となれば、事件は検察官に送致されることなく、つまり書類送検されることなく手続が終了するため、処罰を受けることはなく、前科がつくこともありません。

書類送検を免れるケース

書類送検を免れる、すなわち微罪処分として処理されるのは、犯罪捜査規範第198条に定められた、ごく限られた軽微な事案に限られます。

具体的には、窃盗、詐欺、横領といった財産犯の中でも被害額が極めて僅少であること、犯行の態様が悪質でなく、かつ偶発的であること、被害が回復され、被害者が被疑者の処罰を望んでいないこと、そして被疑者に再犯のおそれがないこと等の条件を総合的に考慮して判断されます。

例えば、店舗で万引きをしたものの、店長に謝罪し、商品の代金を支払い、被害届を出さない旨の合意が得られたようなケースがこれに該当し得ます。

書類送検を免れるには被害者との示談が必須

微罪処分となるための重要な要件の一つに、被害の回復と被害者の宥恕(処罰を望まない意思)があります。
これらを充足するためには、被害者との間で謝罪と賠償を尽くし、示談を成立させることが事実上不可欠です。

事件の極めて早い段階で示談を成立させることができれば、書類送検自体を回避できる可能性が生じます。
そのためには、迅速かつ適切な対応が求められるため、早期に弁護士へ相談し、対応を協議することが肝要です。

書類送検されてしまった場合の対処

既に書類送検されてしまった場合、弁護活動の目標は、検察官による不起訴処分を獲得することにあります。

検察官が起訴・不起訴を判断するにあたっては、刑事訴訟法第248条の規定により、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況といった一切の事情が考慮されます。

中でも、被害者の処罰感情の有無と被害回復の状況は、極めて重要な要素です。
したがって、不起訴処分を得るためには、被害者との間で真摯に示談交渉を行い、宥恕を含む示談を成立させることが最も有効な弁護活動となります。

もっとも、加害者本人が被害者と直接交渉することは、被害者感情を逆撫でしかねず、困難を伴う場合が多いため、専門家である弁護士を介して交渉を進めることが賢明です。

前科がついてしまうと仕事や生活への影響が大きい

万が一、書類送検後に起訴され、有罪判決が確定して前科がついた場合、その影響は社会生活の様々な側面に及びます。
例えば、特定の職業(弁護士、公務員等)においては、前科が欠格事由となり、その職に就くことができなくなります。

また、一般企業への就職活動においても、履歴書の賞罰欄への記載義務が生じ、採用において不利益な判断を受ける可能性があります。

さらに、海外への渡航に際し、ビザの発給が制限される国も存在するなど、その影響は決して軽微なものではありません。

前科が及ぼす影響

書類送検された際に弁護士に依頼するメリット

書類送検される事件は、比較的軽微なものが多いとはいえ、前述のとおり、起訴されれば極めて高い確率で前科がつくことになります。
前科による不利益を回避するためには、不起訴処分を獲得することが最善の道です。

弁護士に依頼することで、被害者との間で適切な内容の示談を迅速に成立させられる可能性が高まるだけでなく、被疑者に有利な事情をまとめた意見書を検察官に提出するなど、不起訴処分に向けた専門的な活動が期待できます。

書類送検された段階で速やかに弁護士に相談することが、将来にわたる不利益を最小限に食い止めるための鍵となります。

交通事故の損害賠償として、大きなウェイトを占めるものの一つが入通院慰謝料です。

この入通院慰謝料は、交通事故により入通院せざるを得なくなったことに対する精神的な慰謝料のことで、入通院費等の治療費とは別で発生する損害です。

本記事では、入通院期間や実通院日数が、慰謝料の額にどのような影響を及ぼすのかについて解説していきます。

6ヶ月の通院期間ではどれくらいの慰謝料がもらえるの?

では、どのくらいの入通院でどの程度の慰謝料が生じるのでしょうか。具体的な相場観を知るために、ここでは6か月の通院(入院でなく通院のみ)がなされた場合の慰謝料を見ていきましょう。

慰謝料の額を算定する基準には、大きく分けて、自賠責基準と弁護士基準の2つがあります。

6か月の通院期間の場合、それぞれの基準に基づき算定される通院慰謝料は以下のとおりです。

自賠責基準 弁護士基準
むちうちで他覚所見がない場合や軽傷の場合 約774000円 約890000円
それ以外の怪我(骨折等の重傷) 約774000円 約1160000円

通院期間とは

通院期間とは、交通事故で最初に治療を開始した日から治療が終了する日(完治しない場合には、症状固定日)までの総日数のことを指します。

実通院日数とは

通院期間に対して、実通院日数とは、通院期間中に実際に病院に通院した日数のことを指します。

通院が少ないと慰謝料が減る

弁護士基準では、入通院期間に応じて、慰謝料の目安の額が定められています。

この目安は、2種類の表になっており、怪我の種類等に応じて使い分けがなされています。

このため、通院期間の長短は、弁護士基準慰謝料の額に影響を及ぼします。

実通院日数が少ない場合の慰謝料はいくら?

弁護士基準の入通院慰謝料は、基本的に入通院期間を基礎に算出されるため、実通院日数が少ないからといって直ちに、慰謝料の額が減少するわけではありません。もっとも、通院が長期にわたる場合には、慰謝料の額の算定において、実通院日数が考慮されることがあります。

弁護士基準の慰謝料(入院無し、通院期間6ヶ月)

月1通院 週1通院 週3通院
むちうちで他覚所見がない場合や軽傷の場合 約130000円 約500000円 約890000円
それ以外の怪我
(骨折等の重傷)
約200000円 約690000円 約1160000円

相手方から治療費打ち切りの話が出た場合の対応

相手方保険会社から治療費打ち切りの話が出た場合には、治療の必要があるかどうかを通院先の医師に確認する必要があります。なぜならば、治療費として請求できる額は、必要かつ相当な範囲内に限られ、治療の必要性を裏付ける根拠となるのは、原則として専門家である担当医師の判断に依存するからです。

まだ通院が必要な場合

医師から通院の必要があると判断された場合には、その旨を相手方保険会社に伝え、一括対応の継続を交渉することになります。場合によっては、通院先の病院に対して医療照会をかけて、医師の意見を文書で明らかにしておくことも検討すべきでしょう。

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6ヶ月の通院後、「症状固定」と診断されたら

症状固定とは

症状固定とは、「医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待し得ない状態であることを前提に、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態」のことを言います。

要するに、適切な治療を適切な期間施しても、これ以上症状が改善する見込みがない状態のことです。

症状固定日がいつかという問題は、治療費や、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料との関係で非常に重要になってきます。

後遺症が残ったら

入通院を行ったにもかかわらず、怪我や症状が完治せず後遺障害が残った場合には、後遺障害慰謝料を請求することができます。後遺障害慰謝料は、後遺障害の等級ごとに、その金額が概ね決まっており、例えば、14級の後遺障害の場合には、弁護士基準で110万円の後遺障害慰謝料を得ることが可能になります(確実に支払われるというわけではなく、弁護士が相手方保険会社と交渉したり、訴訟を提起したりした場合に認められ得る額であることにご留意ください。)。

主婦が6ヶ月通院した場合の慰謝料

専業主婦の場合には、休業損害の計算方法が、働いて給与取得を得ている者とは異なる点に注意が必要です。具体的には、賃金センサス上の統計的数値を基に損害額を算出します。

専業主婦の場合には、休業損害自体が請求できないと思いがちですが、そうではないことに注意しておきましょう。

家事ができなくなって家政婦に来てもらった場合は?

この場合には、家政婦の費用を請求することができます。ただし、家政婦の費用と専業主婦の休業損害とを二重で請求することはできません。また、家政婦の費用や謝礼金等についても、あくまでも相当性が認められる範囲に限られ、その全額が請求できるわけではないことに注意が必要です。

6ヶ月ほど通院し、約800万円の賠償金を獲得した事例

6か月通院した場合でも、被害者ご自身で相手方保険会社と交渉されるケースでは、自賠責基準による慰謝料の額しか支払われないことがほとんどです。しかし、弁護士が入って交渉をすると、弁護士基準の慰謝料が支払われることが多いです。

この他に、12級の後遺障害が認定された場合で、慰謝料だけでなく、他の損害も含めて約800万円の賠償金を獲得したという事例もあります。

6ヶ月通院した場合の慰謝料請求は弁護士にお任せください

以上からもわかるように、入通院慰謝料の請求は、賠償金のうち非常に大きなウェイトを占めるものであり、かつ交渉次第で相手方保険会社から支払われる金額が大きく異なります。このため、入通院慰謝料の請求については、専門家である弁護士にご依頼されることを強くおすすめします。

相続人の内の一人が、亡くなった方に対して援助をしていた場合、相続で貰える遺産の金額を増やすべきだと思いませんか?このようなケースで、相続人が行っていた援助を相続の際に考慮する仕組みのことを、「寄与分」といいます。

相続人が行っていた援助の内容によって、「寄与分」をいくつかの種類に分けることができます。今回は、金銭出資型の寄与分について解説いたします。

金銭出資型の寄与分とはどんなもの?

金銭出資型の寄与分とは、相続人がどのような援助を行っていた場合のことを指すのか、解説します。

金銭出資型の寄与分とは、亡くなった方の事業を援助するために相続人が財産をあげていた場合や、亡くなった方の生活などのために財産上の利益を与えていた場合のことをいいます。

金銭出資型の具体例

金銭出資型の寄与分の具体例として、以下のものがあります。

  • 子が死亡した場合において、子に対して親が生前に不動産を贈与していた場合
  • 妻が死亡した場合において、妻が生前に妻名義の不動産を取得した際に、夫が自らの収入を提供していた場合
  • 父が死亡した場合において、父が生前に父名義の自宅のリフォームを行う際に、子がお金を贈与していた場合

金銭出資型の寄与分が認められるための要件

金銭出資型の寄与分は、亡くなった方に財産をあげていた場合に無条件で認められるものではありません。金銭出資型の寄与分が認められるためには、大きく分けて以下の2つの要件が満たされる必要があると言われています。

  • 亡くなった方と寄与分を主張する相続人との間の身分関係において、通常期待される程度を超えるような、特別の寄与であること
  • 相続人による寄与行為の結果として、亡くなった方の財産が維持されていたり、増加されていること

他の類型と違い、継続性や専従性は必要ない

寄与分の類型の中には、継続性や専従性が必要とされるものがあります。しかし、金銭出資型の寄与分が認められるためには、継続性や専従性は必要ではありません。

つまり、一回だけの贈与でも認められる可能性があります。

金銭出資型の評価方法

金銭出資型の寄与分が発生する場合、相続人が亡くなった方に提供していた利益の内容によって、寄与分の評価が変わってきます。

  • 不動産の贈与の場合

    相続開始時の価額 × 裁量割合

  • 金銭の贈与の場合

    贈与金額 × 貨幣価値変動率 × 裁量割合

出資した分すべてが認められるわけではない?裁量的割合とは

金銭出資型の寄与分が認められる場合でも、相続人が提供していた財産の全額について寄与分が認められるとは限りません。どの程度の割合分の金額が寄与分として認められるかは、個別に判断されることになります。

その個別の判断によって導き出された割合のことを、「裁量的割合」といいます。

裁量的割合は、一切の事情を基に判断されるものです。考慮されることのある事情の例としては、以下のようなものがあります。

  • 亡くなった方と相続人との身分関係
  • 出資した財産の種類や、価値
  • 相続人が財産を提供することになった事情や意図
  • 提供された金銭等の利用方法
  • 財産の提供から、亡くなるまでの期間

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金銭出資型の寄与分に関する判例

寄与分が認められた裁判例

亡くなった方とその妻は、どちらも中学校教諭でした。妻は、仕事を退職して夫と結婚しましたが、結婚後すぐに夫が病気になってしまったため、再び働き始めました。その後夫婦は、夫名義で自宅を購入しましたが、自宅購入費用の内90%程度は、妻が提供したものでした。

裁判所は、妻の寄与分を認める判断をしました。妻の寄与分の割合は、亡くなった方が持っていたプラスの価値のある財産のうち、82%程度とされました。

寄与分が認められなかった裁判例

亡くなった方は、事業を営んでいました。相続人である妻は、被相続人である夫が亡くなる前から代わりに会社の経営を行っていました。妻は、夫の代わりに事業を行っていたので、夫が得た役員報酬は実質妻が贈与したものだと主張し、妻に寄与分があることを主張しました。

しかし、裁判所は、役員報酬はあくまでも会社から支給されるものであって、妻が提供したものではないと判断して、寄与分を認めませんでした。

(東京家裁平成21年1月30日)

金銭出資型の寄与分を主張するためのポイント

金銭出資型の寄与分を主張するにあたっては、以下のポイントが重要です。

  • 財産の提供があったことを証明する
  • 財産の提供が、一般的な親族の助け合いよりも多額のものであったことを説明する
  • 財産の提供があったからこそ、亡くなった方の遺産が今の金額程度に維持された、もしくは増加したのだと説明する

証拠となるものは捨てずにとっておきましょう

そもそも、財産の提供があったことを証明できなければ、寄与分について考える根拠がなくなってしまいます。そのため、財産の提供があることを証明する証拠は非常に大切です。

証拠の例として、以下のようなものが挙げられます。

  • 贈与契約書
  • 銀行の送金履歴
  • 「援助してくれてありがとう」という手紙
  • 亡くなった方の日記

証拠となるものを持っている場合には、大切に取っておきましょう。

金銭出資型の寄与分に関するQ&A

借金を肩代わりしたのですが、金銭出資型の寄与分として認められるでしょうか?

金銭出資型の寄与分として認められる可能性があります。
相続人が多額の借金を肩代わりしたことによって、亡くなった方の財産が維持されていたり、増加されているような場合には、認められる可能性が高いでしょう。
借金の金額が当事者の経済レベルと比べて著しく低額であるような場合には、認められないこともあるでしょう。
また、借金を肩代わりした後に、肩代わり相当額を亡くなった方が相続人に支払っているような場合には、肩代わりのお蔭で亡くなった方の財産が維持されているとは言い切れませんので、認められない可能性が高いことに注意してください。

資産運用のための資金を何度か出しました。寄与分として認められますか?

亡くなった方の財産が、資産運用のための資金の出資によって維持されたり、増加しているような場合には、認められる可能性があります。
投機性の高い投資をしてしまい、援助された資金が失われてしまったような場合には、寄与分が認められる可能性は低いでしょう。

定期的に生活費を送っていたのは寄与分として認められますか?

送金されていた生活費の金額が、亡くなった方と相続人の関係から通常期待される程度を超えるような金額であれば、寄与分として認められる可能性が高いです。

「後で返す」と言われ返済のないまま亡くなってしまいました。あげたものとして寄与分を主張できますか?

亡くなった方と相続人の間で返済の合意があったのであれば、それは「あげたお金」ではありませんから、寄与分を主張することは難しいでしょう。寄与分ではなく、亡くなった方の債務として、返済を求めることができます。

資産運用のお金を出したところ、増えた分の何割かをお礼として受け取りました。これは特別受益になりますか?この場合、寄与分はなくなるのでしょうか。

生活のためのお金の贈与であれば、特別受益にあたるとされていますので、特別受益にあたる可能性は高いです。しかし、お礼としての贈与は、特別受益にあたらない、と判断されているケースもあるので、一概には言い切れません。
提供した金額とお礼として受け取った金額の差額を寄与分として計算することもありますが、事情によっては、お礼の提供により元々の提供した金額全額について寄与分が否定されてしまう可能性もあります。

開業資金を出してくれた人に包括遺贈がされていました。寄与分はこれとは別に渡さなければいけないのでしょうか?

包括遺贈があったことだけでは、寄与分を否定する根拠にはなりません。しかし、その包括遺贈が、寄与行為に対するお礼のために行われたものであれば、寄与分が認められない可能性もあります。

金銭出資型の寄与分について、不明点は弁護士にご相談ください

寄与分の判断にあたっては、一切の事情が考慮されます。そのため、専門家でも、具体的な事情を広く聞かなければ、判断が難しいものです。

また、寄与分の主張にあたっては「この行為があったから寄与分が認められるのか」と考えるだけでなく、「この行為があったことの証明はどのようにするか」という、証明の仕方についても考える必要があります。

寄与行為が行われてから日が経っていればいるほど、証明を行うのは困難になってしまいます。そのため、寄与分の主張について迷っている方は、お早めに弁護士にご相談ください。

法の専門家である弁護士が、寄与分について検討し、調査を行って、お客様の代わりに寄与分の主張を行います。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。