監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
相続においては、相続するという選択(単純承認)と相続しないという選択(相続放棄)の他に、被相続人が残したマイナスの財産をプラスの財産の限度で弁済する限定承認という方法があります。このページでは、限定承認とは何か、そのメリットやデメリット、手続き方法について解説していきます。
目次
限定承認とは
限定承認とは、被相続人が残したマイナスの財産をプラスの財産の限度で弁済するという条件付きの相続方法です。例えば、被相続人が、預金など100万円のプラスの財産と、借金200万円を残して死亡した場合を考えてみましょう。単純承認だと、相続人は借金200万円を負うことになります。しかし、限定承認であれば、相続人はプラスの財産である100万円を弁済すれば足り、借金200万円を全て負うことにはなりません。
限定承認のメリット
限定承認のメリットとしては、プラスの財産の限度で弁済するため、負債を負うことがないことや、特定の財産を残すことができるというメリットがあります。以下で詳しく解説します。
負債を負うことがない
限定承認は、被相続人が残したマイナスの財産をプラスの財産の限度で弁済することで足りるため、相続人が負担するマイナスの財産には、プラスの財産の財産額という上限があります。そのため、マイナスの財産がプラスの財産より多くても、プラスの財産でまかないきれないマイナスの財産について、相続人は負担する責任を負いません。単純承認の場合はマイナスの財産に上限がないため、この点で限定承認は単純承認より優れています。
連帯保証人の地位は受け継ぐことに注意が必要
連帯保証人とは、主たる債務者の負った債務を連帯して弁済する責任のある保証人をいいます。連帯保証人の場合、基本的には主たる債務者と同様に責任を負うことになります。限定承認の場合でも、相続人は連帯保証人としての地位自体は相続します。もっとも、限定承認であれば、被相続人のプラスの財産の範囲内で弁済をすれば足ります。
特定の財産を残せる
限定承認のもう1つのメリットとしては、特定の財産を残せることにあります。すなわち、限定承認をした場合、相続財産を売却して被相続人の債務を返済するために、原則的には競売の手続を経なければなりません。しかし、例外的に、家庭裁判所が選任した鑑定人が評価した金額を弁済して、優先的に買い取ることができます(先買権)。被相続人の残した財産の中にどうしても残したい物があれば、このような制度を利用して残すことができるのです。
相続放棄の場合、マイナスの財産の相続は防げますが、特定の財産を残すことはできないので、この点で限定承認は相続放棄より優れています。
限定承認のデメリット
限定承認は、負債を負わないというメリットがある一方で、以下のようなデメリットがあることを把握しておきましょう。
相続人全員が限定承認する必要がある
相続人が複数人いる場合、相続人全員で限定承認をする必要があります。単純承認をする相続人と限定承認をする相続人がいると、相続財産に整合性が取れなくなってしまうためです。また、単純承認後に単純承認を撤回して限定承認に切り替えるということもできないので、既に一人でも単純承認をした相続人がいると、限定承認はできなくなってしまいます。
単純承認や相続放棄は一人でも可能であるため、この点は限定承認のデメリットと言えます。
相続放棄した人がいる場合
単純承認した相続人がいる場合と異なり、相続放棄をした人がいる場合でも、それ以外の相続人全員で限定承認をすることは可能です。相続放棄の場合、相続放棄をした人は、初めから相続人とはならなかったものとみなされるためです(民法939条)。
相続財産に手を付けることができない
相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合、単純承認をしたものとして扱われます(民法921条)。なので、限定承認をする場合には、手続きが完了するまで相続財産に手を付けることができません。
限定承認は手続きが浮く雑である関係で、手続きの完了までかなりの時間を必要としますが、その期間は相続財産を活用することはできません。
税金がかかってしまう場合がある
限定承認の場合、相続税と譲渡所得税の2つの税金が課せられます。まず、マイナスの財産を支払って残ったプラスの財産に対して、相続税がかかります。加えて、限定承認では、被相続人から相続人へ財産を売却したとみなされて、譲渡取得税が課せられます。また、譲渡取得税との関係で、相続人は、被相続人に代わって確定申告を行わなければなりません(準確定申告)。準確定申告の期限は、原則として相続開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
申請までに手間や時間が掛かる
限定承認は全ての相続人で行わなければならないことから、早期に相続人を確定する必要が生じます。そのうえで、相続人全員と連絡を取り、限定承認への手続きに協力してもらうことになるため、手間と時間がかかります。
受理された後も、更に手続きがある
限定承認の申述が受理された後、マイナスの財産の債権者等に対して、限定承認をしたこと及び一定の期間内に請求をするべきことを告知します(公告、民法927条1項)。一定の期間の経過後、必要があれば相続財産を競売によって金銭化したうえで、債権者に対して債権の金額の割合に応じて弁済がされます(民法929条)。このように、申述が受理された後も、更に手続きが続きます。
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限定承認の手続き方法
限定承認は、申述によって開始し、公告手続きを経て、財産の換価処分・弁済等によって終了します。以下では、個々の手続きについて詳しく見ていきます。
限定承認に必要な書類
限定承認をする場合、必要となる書類は以下のとおりです。
- 限定承認の申述書
- 財産目録
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍や除籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 財産目録記載の財産に関する証拠書類
- その他、家庭裁判所に提出を求められる書類
限定承認の手続きの流れ
まずは、限定承認の申述書、相続財産の目録を作成します。相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して、申述書、財産目録、必要な書類を提出することで、限定承認する旨の申述をします。
申述が受理された後は、既に述べたとおり、公告、換価、弁済の手続きがとられることになります。
費用
限定承認を場合、裁判所での手続きのためには以下の費用が必要となります。
また、裁判所関係以外でも、戸籍の取得費用等もかかります。
- 裁判所に納める手数料(相続人1人につき800円)
- 予納郵券
- 公告費用
- 財産の換価の際の鑑定人費用や各種手数料
限定承認の期限は3ヶ月
原則的に、相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内でなければ、限定承認は行えません(民法915条)。3ヶ月を経過した場合には、単純承認をしたものとして扱われることになります(民法921条2号)。期限を過ぎてしまいそうな場合には、予め期間を延長するための手続きを取る必要があります。
限定承認についてご不明な点はぜひご相談下さい
限定承認は、単純承認や相続放棄と比べてシステムが複雑です。一人で手続きを進めようとすると、思わぬ失敗をしてしまう可能性もあります。
発生した相続について限定承認をしたいと思ったときや、今後の相続に備えて限定承認について詳しく知りたいときは、まずは一度弁護士にご相談ください。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)