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相続問題

遺留分侵害額請求とは|請求の方法と注意点

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

亡くなった方の遺言書を見てみたら、自分には相続財産が分配されないという内容だった――この場合、相続財産は得ることはできないのでしょうか。 このような場面で役に立つのが、「遺留分」という制度です。しかし、遺言などに比べると遺留分はなじみが薄く、どのようなものか分からないという方も多いと思います。
本コラムでは、遺留分に関する遺留分侵害額請求の意味や方法を解説しています。遺留分侵害額請求に関してお悩みの方は、ぜひ本コラムをご覧ください。

遺留分侵害額請求とは

遺留分とは、一定の法定相続人に法律上認められている、最低限度の相続財産の取得分のことです。相続は、相続人の生活を保障するという性質を持っています。相続人の生活が脅かされることのないよう、相続財産を最低限取得できるようにするための制度が遺留分です。この遺留分が侵害された場合、侵害された相続人は、侵害した相続人や遺贈を受けた者(受遺者)に対して、侵害した金額の金銭の支払を求めることができます。この請求を、遺留分侵害額請求と言います。

遺留分侵害額請求の方法

遺留分侵害額請求を行う場合、いくつかの方法が考えられますが、基本的には次のような順序で進めていくことになります。それぞれのプロセスについて、詳しく見ていきましょう。

相手方に遺留分侵害額請求の意思表示を行う

遺留分侵害額請求を行う場合、まずは、相手方に遺留分侵害額請求するという意思表示を行う必要があります。意思表示の方法は限定されていませんが、口頭で意思表示をすると、後で意思表示をしたかについて争われる可能性があります。そのため、きちんと証拠が残る形で意思表示を行うのが望ましいです。具体的には、内容証明郵便で送付することが考えられます。

内容証明郵便について

内容証明郵便で送付すると、送付したものと同内容の書面が郵便局で保管されます。これによって、遺留分侵害額請求の意思表示をしたことの裏付けを用意できることが、内容証明郵便のメリットです。
内容証明郵便を送付する場合には、送付する内容と同一の書面を3通作成して、郵便局に持ち込みます。1通が相手方に郵送され、1通を自身で保管し、残る1通を郵便局で保管することになります。現在は、電子内容証明という制度があるため、これを利用することで自宅から内容証明郵便で送付することもできます。

相手方と話し合う(協議)

相手方との関係から協議が難しいということでなければ、まずは相手方と直接話し合ってみることが考えられます。協議の方法は特に法律で制限されていないので、メールや電話などどのようなものでも構いません。メールなどの記録に残るものを選ぶと、後に証拠として利用できる可能性もあります。
相手方との関係から直接の協議が難しい場合には、弁護士を通じて話し合いをするという選択肢があります。弁護士の専門的知識を活かすことで、協議も円滑に進みやすくなります。

合意できたら和解書を作成し、遺留分を受け取る。

支払金額や支払方法について合意ができた場合は、後のトラブルを避けるために、合意書を作成しておきましょう。後から意見を翻されてしまうこともあるため、合意書は迅速に作成することが望ましいです。合意書の内容が不明確であると、後から争われるリスクが高まります。合意書を作成は弁護士に依頼したり、合意書の内容について弁護士に確認を受けたりしておくと、合意書の内容が明確になってそのようなリスクを低下させられます。

合意できなかったら調停を行う。

当事者同士で話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所へ遺留分侵害額請求調停を申し立てることになります。調停もあくまで話し合いですが、調停委員という中立的な第三者を介して進めることができるため、裁判所外での協議と比較すると合意に至りやすいといえます。
無事に合意がまとまると調停成立となり、合意内容が調停調書という形にまとめられます。一方で、請求する側と請求される側の主張が大きく異なると、調停でも話し合いがまとまらないこともあります。この場合、調停は不成立となります。

調停でも合意できなかったら訴訟する。

調停で合意できず、調停不成立となった場合には、最終手段である訴訟(裁判)を提起することになります。
調停では口頭での説明が中心であり、書面は補助的な役割となることが多いです。他方、訴訟は、書面のやり取りがメインとなります。また、訴訟の場合、最終的には裁判所が証拠に基づいて判断するため、証拠の収集や選別がとても重要となります。しかも、訴訟で請求が認められなかった場合、新しく訴訟を提起することはできないため、負けてしまうと取り返しがつきません。
このような訴訟の特徴から、日常的な仕事や家事をしながら対応することはどうしても難しくなります。訴訟を提起する場合、弁護士への委任は必ず検討しておきましょう。

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特別受益・生前贈与がある場合の遺留分侵害額請求の注意点

特別受益とは、被相続人が相続人に贈与や遺贈をしたことで、相続人が特別に受けた利益のことです。
生前贈与とは、被相続人が亡くなる前に財産を贈与することを言います。生前贈与のうち相続人に対する生前贈与は、特別受益に含まれる場合があります。
遺留分を算定する場合、実際に存在している相続財産に一定の特別受益を加えて、遺留分を計算する基礎財産とします。また、遺留分制度が相続人の生活を保障するために存在していることを踏まえて、自分が生前贈与として受け取っており、特別受益が存在している場合には、遺留分侵害額請求で請求できる金額は特別受益の額だけ減少することになります。
このように自分や他の相続人に特別受益が存在する場合、遺留分侵害額請求の計算が複雑となるため、注意が必要です。

複数の人に対して遺贈や生前贈与を行っている場合

被相続人が、複数の人に対して遺贈や生前贈与を行っている場合、まずは、遺贈を受けた者(受遺者)に先に請求して、生前贈与を受けた者(受贈者)はその後に請求することとされています(民法1047条1項1号)。受遺者が複数いる場合、後に贈与を受けた者から順番に請求をします(3号)。同時に遺贈や生前贈与を受けた者に対して請求する場合は、遺贈や生前贈与の金額に応じて、請求できる金額が定まります(2号)。

税金がかかるケース

相続税の申告・納付の期限は、相続の開始から10か月です。一方で、遺留分侵害額請求は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与等の存在を知った時から1年以内であれば請求が可能です。そのため、相続税の申告・納付の期限後に、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を受けたような場合には、別途、譲渡所得税などの相続税以外の税金を支払うことになる場合があります。
他方、遺留分を侵害している者が、相続税納付後に遺留分侵害額に相当する金銭を支払った場合には、相続税の更正の請求により還付を受けられます。

請求には時効がある

遺留分侵害額請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与等の存在を知った時から1年以内に行使しないと、時効により消滅してしまいます(民法1048条)。1年が経過する前に、遺留分侵害額請求をする内容証明郵便を送る等して、権利行使したことを明確にしておきましょう。
また、相続の開始から10年が経過しても、遺留分侵害額請求権を行使できなくなります。被相続人の死亡をしばらくしてから知った場合には、こちらの制限にも注意が必要です。

遺留分侵害額請求のお悩みは弁護士にご相談ください

特別受益等に該当するかを判断したり、遺留分の金額を算定したりするためには法的な専門的知識が必要となり、専門家の協力なく正確な計算をすることは難しいことが多いです。また、相続手続では、親族間での対立が表面化して、裁判所外での協議による解決が図れず、調停や訴訟に移行することが頻繁にあります。弁護士を利用しておくと、交渉を冷静に進めることで裁判所外での解決の可能性が出てくるだけでなく、調停や訴訟に移行した場合でも手続を円滑に進めることができます。
遺留分についてお悩みの方は、まずは一度、弁護士にご相談ください。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。