監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
亡くなった方が、相続人の一人に全ての財産を相続する旨の遺言を残していた場合、相続人として相続するはずであった方は不満に感じることもあるかと思います。相続するはずであった相続人の方は何も相続できないかというと、そうではありません。遺留分侵害額請求という形で、自身の遺留分を主張できるのです。以下では、遺留分について詳しく解説していきます。
目次
遺留分とは
遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人(亡くなった方)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことです。遺留分は、被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることはありません。遺留分の趣旨は、相続人の生活保障を図るものとされています。そして、自身の遺留分を請求することを、遺留分侵害額請求といいます。
遺留分の請求が認められている人
遺留分侵害額の請求が認められているのは、配偶者、直系卑属(子、孫等)、直系尊属(父母、祖父母等)です。後述の通り、代襲相続人も遺留分侵害額請求をすることができます。
相続開始時に胎児であっても、出生すれば遺留分を主張することができます。
遺留分の請求が認められていない人
一方で、遺留分の請求が認められない人はどのような人か、以下で説明します。
兄弟・姉妹
民法では、遺留分を主張できる人を「兄弟姉妹以外の相続人」と規定しています(民法1042条1項柱書)。したがって、兄弟姉妹は遺留分を主張することができません。兄弟姉妹が遺留分を主張できないため、兄弟姉妹の子や孫など、兄弟姉妹の代襲相続人も遺留分を主張できません。兄弟姉妹は被相続人との関係で、経済的に独立していることが多いため、生活保障という遺留分の趣旨が妥当しないと考えられているのです。
相続放棄した人
相続放棄をした人も、遺留分を主張することはできません。そもそも相続放棄をした人は、被相続人の財産の一切を放棄しており、そもそも相続人とはなりませんので、遺留分を請求できる「兄弟姉妹以外の相続人」には当たらないのです。
相続欠格者にあたる人
相続欠格者にあたる人も遺留分を主張することはできません。相続欠格者とは、被相続人に対する殺人、殺人未遂で刑に処せられた人や、詐欺・脅迫によって遺言を書かせた人などです(民法891条各号を参照)。
相続廃除された人
相続排除をされた人も遺留分を主張できません。相続排除をされた人は、相続人として扱われなくなるため、遺留分を請求することもできなくなるのです。
遺留分を放棄した人
家庭裁判所の許可を得て、あらかじめ遺留分の放棄をすることができます。遺留分を主張できるにもかかわらず、遺留分を放棄したのですから、遺留分を主張できなくなります。
遺留分侵害額請求権と代襲相続
例えば、被相続人である祖父が亡くなる前に、すでに父が亡くなっている場合、孫が、祖父を相続することとなります。これを代襲相続といいます。
代襲相続があった場合であっても、代襲相続人も相続人ですから、遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分の割合
相続人 | 全員の遺留分の合計割合 | 配偶者 | 子供 | 父母 | 兄弟 |
---|---|---|---|---|---|
配偶者のみ | 1/2 | 1/2 | × | × | × |
配偶者と子供 | 1/2 | 1/4 | 1/4÷人数 | × | × |
配偶者と父母 | 1/2 | 2/6 | × | 1/6÷人数 | × |
配偶者と兄弟 | 1/2 | 1/2 | × | × | × |
子供のみ | 1/2 | × | 1/2÷人数 | × | × |
父母のみ | 1/3 | × | × | 1/3÷人数 | × |
兄弟のみ | × | × | × | × | × |
遺留分割合は、直系尊属の場合のみ相続人になる場合には3分の1×法定相続分、それ以外の遺留分権利者の場合は2分の1×法定相続分の計算式で算出されます。
たとえば、父、母、子(姉)、子(妹)の家族で、父が死亡し、子(姉)に全ての遺産を相続させる旨の遺言が残されていた場合、母の遺留分は、2分の1×2分の1(法定相続分)、子(妹)の遺留分は、2分の1×4分の1(法定相続分)で算出されます。したがって、母は、被相続人の相続財産の4分の1、子(妹)は、8分の1の割合で、遺留分侵害額請求をすることができることになります。
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遺留分の計算方法
遺留分の計算方法は、
(被相続人の相続財産+贈与した財産のうち遺留分算定に含まれる財産−相続債務)×遺留分割合
となります。
ない、財産には不動産や有価証券等、評価をすべきものが含まれる場合、その評価をめぐって争いになることもありますので、注意が必要です。
遺留分を貰うには、遺留分侵害額請求を行う
遺留分をもらうには、遺留分侵害額請求を行う必要があります。
遺留分侵害額請求は、上で述べた遺留分算出の計算を行い、金銭的な請求をしていきます。
遺留分侵害額請求にも時効があり、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しなければなりません。
遺留分を渡したくない場合にできること
遺留分は民法で規定された権利ですから、遺留分を侵害してしまった場合に相続財産を渡さないようにする対処法はほとんどありません。遺留分自体を放棄する旨の合意をすることも考えられますが、遺留分権利者がそれに納得して合意してくれるケースというのは少ないでしょう。
遺留分の権利者が亡くなった場合はどうなる?
遺留分権利者が亡くなった場合、遺留分侵害額請求をする権利自体も相続人に相続されます。そこで、相続人は、亡くなった方の遺留分侵害額請求権を引き継いで行使していくことになります。
遺留分に関するお悩みは弁護士にご相談ください
相談につながるようクロージングをお願いします。
遺留分として相続財産を相続することは、遺言を書いた被相続人の気持ちに反するものと考え、遺留分を主張することに戸惑いを感じる方も少なくないかと思います。また、感情的な対立が見込まれる場合、余計に遺留分侵害額請求をすることを躊躇するでしょう。
しかしながら、遺留分侵害額請求は、民法に規定された権利ですから、主張しても何ら非難されるものではありません。ただ、主張方法や計算方法については、専門的な知識が必要となることもあります。
遺留分について、専門的な判断が可能な弁護士に依頼すれば、スムーズに交渉や調停を進めてくれるでしょう。遺留分侵害額請求について悩んだら、是非弁護士にご相談ください。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)