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相続問題

遺言書が無効となるケース

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕

監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士

遺言書は、相続財産の誰が相続するか、どのような割合で相続させるかなどを決定づける非常に重要な書面となります。
そのため、遺言書は、その効力の大きさゆえに法律上厳格なルールが定められています。
このルールに反する遺言書は、無効と判断される可能性があるため、注意が必要です。

そこで、今回は、遺言書作成にあたりどのようなルールがあるのか、ルールに反した遺言書を無効にするにはどのような手続きをとるべきかという点について解説をします。

遺言書に問題があり、無効になるケース

法律上、遺言書には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類の方式が定められています。この中でも、特に利用される方式として多いのは、自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類です。そこで、以下では、自筆証書遺言と公正証書遺言が無効となる典型的なケースを紹介します。

日付がない、または日付が特定できない形式で書かれている

法律上、自筆証書遺言は、遺言者が、全文・日付・氏名を自署し、これに押印しなければなりません。そのため、日付がない場合は、その遺言書は無効となります。
また、日付は、一般的に年月日の記載まで必要となります。
他方で、具体的な年月日の記載がなくても、「(遺言者の)還暦の日」や「(遺言者の)80歳の誕生日」という記載があれば、具体的な年月日を特定することができるので、有効となる場合があります。また、「令和」を「礼和」と記載してしまったというような、明らかな誤記についても、有効となる場合があります。

遺言者の署名・押印がない

上記のとおり、自筆証書遺言は、遺言者が、全文・日付・氏名を自署し、これに押印しなければなりません。
そのため、署名・押印がない場合は、その遺言書は原則として無効となります。
他方で、署名は誰が遺言を作成したかを明らかにすることが趣旨とされているため、戸籍上の氏名でなくても、通称、芸名、ペンネームなどでも有効となる場合があります。
また、押印も、印鑑による必要はなく、指印や拇印で足りるとされています。

内容が不明確

遺言書の内容が不明確であると、遺言者の真意が分からず、相続手続を行えないため、遺言書は無効となります。
他方で、遺言書の解釈にあたっては、一義的に内容が明確ではなくても、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものと考えられており、最高裁も「単に、遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出し、その文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して、遺言者の真意を探究し、当該条項の趣旨を確定すべきもの」と判示しています(最高裁昭和58.3.18第二小法廷判決)。
そのため、不明確な表現があったとしても、遺言書の他の記載や、作成当時の状況等から解釈ができるのであれば、無効とならない場合があります。

訂正の仕方を間違えている

遺言書は、一度作成した内容の訂正や変更をすることが可能です。
ただし、訂正や変更をする場合は、遺言者が変更箇所を指示し、変更した旨を付記してこれに署名し、さらにその変更箇所に押印する必要があります。
そのため、修正テープや二重線による訂正の場合には、訂正部分が無効となるため注意が必要です。

共同で書かれている

法律上、遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができません。
そのため、複数人が共同で遺言書を作成した場合は、その遺言書は無効となります。
具体的には、同一の遺言書の中に、AさんがBさんに、CさんがDさんにそれぞれ財産を相続させるといった記載がある場合には、遺言書は無効となります。

認知症などで、遺言能力がなかった

法律上、遺言者が遺言をする場合は、遺言能力を有している必要があります。
遺言能力とは、遺言の内容や効果を理解する意思能力のことをいいます。
遺言能力は、当時の年齢、健康状態やその推移、遺言の内容等の様々な要素から判断されることになります。
そのため、例えば、遺言書作成の時点で認知症などにより遺言能力がなかったと判断された場合には遺言は無効となります。

誰かに書かされた可能性がある

遺言書は、遺言者の真意に基づいて作成されなければなりません。
そのため、強迫されて遺言書を作成させられた場合や、騙されて遺言書を作成した場合、認知症などにより遺言内容を理解できないまま作成させられた場合には、その遺言書は無効と判断される可能性があります。

証人不適格者が立ち会っていた

公正証書遺言を作成するためには証人の立会いが必要となります。
法律上、遺言の証人となれない者は、以下のとおりとなっています。
①未成年者
②推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
これらの者が、遺言の証人となった場合には、遺言が無効になる可能性があります。

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遺言書の内容に不満があり、無効にしたい場合

例えば、相続人の一人にすべての相続財産を相続させる旨の遺言書がある場合、遺言書が有効であるとすると、他の相続人は遺留分侵害額請求を行うことになります。他方で、遺言書が無効になれば、相続財産は法定相続分に従って相続されることになります。そのため、他の相続人にとっては、遺言書が無効である方がより多くの相続財産を相続できることになります。

このように、遺言書が無効であることを確認したい場合には、遺言無効確認調停の申立てや、遺言無効確認訴訟を提起することが考えられます。

遺言無効確認調停

遺言無効確認調停とは、遺言が無効であることを確認するための話合いを求める手続きです。遺言無効確認は、最初から訴訟を提起することはできず、まず調停を申し立てる必要があります。これを調停前置主義といいます。
遺言無効確認調停において、話合いが平行線となり、解決が難しい場合に初めて、訴訟を提起することになります。
ただし、最初に訴訟を提起したとしても、裁判所が調停に付することが相当でないと認める場合には、調停が省略されることもあります。

遺言無効確認訴訟

遺言無効確認調停が不成立となった場合には、遺言無効確認訴訟を提起することになります。
遺言無効確認調停は、当事者の話合いが前提となっていましたが、遺言無効確認訴訟は、遺言書が無効であるかについて、裁判官が判断をする手続きとなります。

時効は無いけど申し立ては早いほうが良い

無効は何年経っても、最初から無効であるため、遺言無効確認調停の申立てや遺言無効確認訴訟の提起が時効によって阻まれるということはありません。
しかし、時間の経過に伴って、遺言者が遺言をした当時の状況を説明することが難しくなり、証拠も散逸してしまうおそれが高くなります。
したがって、遺言無効確認調停の申立てや遺言無効確認訴訟の提起を考えられている方は、できるだけ早い段階で行動に移す方が良いでしょう。

遺言書を勝手に開けると無効になるというのは本当?

遺言書を勝手に開けたとしても、遺言書自体が無効になるということはありません。
ただし、法律上、遺言書の保管者または保管者がいない場合で、遺言書を発見した相続人は、遺言書を家庭裁判所に提出して、その検認を請求する必要があります。
また、封印のある遺言書は、家庭裁判所において、相続人(またはその代理人)の立会いがなければ、開封することができません。
このように、法律で定められた手続を定めた遺言書の提出や検認を怠った場合には、5万円以下の過料に処せられることがあるので注意が必要です。

遺言書が無効になった裁判例

公正証書遺言は、以下の方式で行われる必要があります。

①証人二人以上の立会いがあること。
②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
③公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
④遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
⑤公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

このうち、②の遺言者自身が遺言の趣旨を公証人に口授することについて争われた事案で、裁判所は、以下のような判断をしました。
「「遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること」とは、遺言者自らが、自分の言葉で、公証人に対し、遺言者の財産を誰に対してどのように処分するのかを語ることを意味するのであり、用語、言葉遣いは別として、遺言者が上記の点に関し自ら発した言葉自体により、これを聞いた公証人のみならず,立ち会っている証人もが、いずれもその言葉で遺言者の遺言の趣旨を理解することができるものであることを要するのであって、遺言者が公証人に自分の言葉で遺言者の財産を誰に対してどのように処分するのかを語らずに、公証人の質問に対する肯定的な言辞、挙動をしても、これをもって、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授したということはできないものと解するのが相当である。」(東京高裁平成27.8.27判決)

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遺言書が無効かどうか、不安な方は弁護士にご相談ください

遺言書の有効・無効によって、誰が相続財産を相続するか、いくら相続するかなど、その内容が大きく変わってくる可能性があります。
他方で、遺言書の有効・無効の判断は非常に難しいものとなります。
そのため、遺言書が有効であるか判断がつかない場合や、無効である疑いがあるような場合には、せひ一度弁護士に相談されることをおすすめします。

埼玉法律事務所 所長 弁護士 辻 正裕
監修:弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長
保有資格
弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)
埼玉弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。