監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
離婚にあたっては、子どものことやお金のことなどいろいろと決める必要があります。その中の一つが、結婚している間に形成した財産について清算する、財産分与です。
本コラムでは、財産分与の中でも特に車の財産分与に焦点を当てています。車を財産分与する場合の分け方や評価の方法、財産分与に伴う手続等、車の財産分与についてお悩みの方は、ぜひ本コラムをご覧ください。
目次
車を財産分与する方法
財産分与をする場合、基本的には夫婦間の財産を2分の1で分けることになります。預金や現金の場合は金額が2分の1になるように分ければいいのに対して、車の場合は物理的に2分の1に分けるわけにはいきません。そこで、車の財産分与をする場合には、財産分与に適した状態を作るために次の二つの方法が考えられます。
売却する
最も簡単な方法は、車を売却してしまい、売却で得られた利益を分けるという方法です。夫婦のどちらも財産分与の対象となる車を必要としていない場合には、売却も検討してみるのがよいでしょう。
売却で得られた利益は、基本的には2分の1ずつ分けることになりますが、夫婦の一方が婚姻以前の貯蓄から頭金を出していたり、ローンの支払をしていたりする場合には、その点を考慮して分与の割合を変更することもできます。
車の評価額の半分を支払い、片方が乗り続ける
一方で、売却してしまうと車を使い続けることができなくなるので、夫婦の一方が財産分与の対象となる車を必要としている場合には、売却は適切な方法とは言えません。そこで、そのような場合には、夫婦の一方が車を受け取り、車の評価額をベースとした金銭(代償金)を支払う方法を取ることになります。代償金の金額は基本的には評価額の2分の1ですが、売却益を分ける場合と同様に、頭金の支払等を考慮して金額を変えることもできます。
代償金として現金を支払う以外に、宝石や時計等の高価な財産がある場合には、代償金と同額になるようにそれらを渡すという方法を取ることも考えられます。
車の評価額は何を参考にすればいい?
車を財産分与する場合、代償金を支払うときはもちろん、車の売却をするときでも、車の現在の価値が重要となります。
車の評価額を決める方法としては、買取業者等による査定の他に、オートガイド自動車価格月報(通称レッドブック)を使うことが考えられます。レッドブックはメーカー、車種、年式、形式別に中古車の価格を掲載しているので、これを参考にして財産分与の対象となる車の評価額を決定することができます。他にも、現在はインターネット上で中古車の売買が行われているので、インターネット上での売出価格を参考にすることも考えられます。
財産分与の対象にならない車もある
夫婦の一方が所有している車であれば、必ず財産分与の対象になるかというと、必ずしもそうではありません。財産分与は、あくまで夫婦が共同して形成した財産(共有財産)を対象とします。例えば、結婚前から所有していた車や、結婚後に親から譲り受けたり相続したりした車は、共同で形成した財産ではなく夫婦の一方だけの財産(特有財産)なので、財産分与の対象にはなりません。
また、購入から長期間が経過している場合や、車のローン残額が評価額を上回っている場合(オーバーローン)には、車に財産的な価値が認められないので、一般的には財産分与の対象にしません。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
財産分与の対象になるのはどんな車?
「3 財産分与の対象にならない車」を除いた車であれば、基本的には財産分与の対象となります。具体的には、結婚後に貯めた貯蓄で購入した車や、結婚後に自動車ローンの支払をした車は、基本的に財産分与の対象となります。
なお、ローンが残っている場合は、ローン残額が評価額を下回っているとき(アンダーローン)でも、財産分与の対象となるのは評価額からローン残額を差し引いた金額に限られます。
共有財産であれば名義は関係ない
車が共有財産にあたるのであれば、車の名義が夫婦のどちらになっているかに関係なく、財産分与の対象とすることができます。財産分与にあたっては、財産の形成にあたって夫婦の協力関係があったかが重要であり、実際の名義がどうなっているかは重要ではないためです。
特有財産であっても、車の維持費の出どころ次第では財産分与の対象に
車が特有財産にあたる場合でも、車に関する税金や保険料、車検に要する費用等の維持費を夫婦の共有財産から工面している場合には、財産分与の対象となる可能性もあります。維持費がどのように捻出されているかは、できる限り把握しておく方が望ましいと言えます。
財産分与で車をもらったら、名義変更は必ずやりましょう
財産分与によって、元々は相手の名義となっていた車を取得した場合には、必ず自分の名義に変更しておきましょう。手続に相手の協力が必要なことも考えると、名義変更は離婚前に済ませておく方が望ましいです。相手が離婚を望んでおり、車の分与に応じてくれていたような場合には、離婚後には名義変更の手続に協力してくれない可能性もあります。
なお、車にローンが残っている場合、車の所有者はローン会社となっていることが多いです。その場合には、ローン完済前には、基本的には名義変更はできません。
普通自動車を名義変更する場合
普通自動車の場合には、財産分与を受けた人の住所を取り仕切る運輸支局で、名義変更の手続を行うことになります。まず、登録手数料となる500円分の収入印紙を貼付した手数料納付書を用意し、必要となる書類とあわせて運輸支局の窓口に提出します。すると、車検証の交付を受けられます。最後に税金の申告をして、名義変更の手続が完了となります。
場合によっては、自動車取得税の支払が生じることもあります。また、ナンバーを変更する場合には、変更の手続を別途行う必要があります。
軽自動車の場合
軽自動車の場合、申請窓口が軽自動車検査協会となり、必要書類が普通自動車の場合と異なります。もっとも、その他の名義変更の手続の流れは、基本的に普通自動車の場合と同様です。軽自動車の場合、手続自体は無料で行うことができます。
場合によっては、軽自動車税(環境性能割)の支払が生じることがあります。
自動車保険の名義変更は?
車の名義変更をする際に、あわせて自賠責保険や任意保険も名義変更をしておくようにしましょう。
自賠責保険は、人ではなく車にかけられている保険なので、仮に名義変更前に交通事故を起こした場合でも保険金は支払われます。しかし、手続にあたって、名義人である元夫や元妻の協力が必要となってしまいます。
任意保険の場合、夫婦間で引継ぎが生じる場合には、等級が維持されます。新規加入するより保険料が抑えられる可能性があるので、新規加入よりも有利な場合には任意保険も名義変更をしておきましょう。
車自体の名義変更と同様に、保険の名義変更も、相手の協力が得やすい離婚前に行うことが望ましいです。
車の財産分与で分からないことがあったらご相談ください
車の財産分与の場合には、どちらかが自動車を引き取るのか、自動車の評価をどうするか、頭金等を考慮するのか、どのように分与するのかなどなど、一筋縄ではいかない部分が少なくありません。当事者間で話し合っている分与の方法が適正なものと言えるか、悩んでしまうことも多いのではないでしょうか。
専門家である弁護士であれば、どのように財産分与をすべきかについて、法的な知見を踏まえたアドバイスをさせていただくことができます。また、他の事件での経験を活かして、車の査定の取得等も円滑に行うことができます。
車を含めた財産分与でお悩みの際は、まずは一度弁護士にご相談ください。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)