監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
結婚生活を送る中で、自宅不動産や自動車を購入する場合、多くの方はローンを組んで購入をすると思います。毎月のローンの返済をする途中で離婚となった場合、財産分与はどうなるのでしょうか。
そこで、今回は、ローンが残っている不動産や自動車などの財産分与について解説をします。
目次
ローンは財産分与の対象になる?
財産分与とは、夫婦が結婚生活の中で互いに協力して取得した財産を、互いの貢献度に応じて分け合う制度のことをいいます。
そのため、不動産ローンや自動車ローンなどのマイナスの財産は、夫婦が協力して取得した財産(プラスの財産)とはいえないので、基本的に財産分与の対象とすることはできません。
しかし、夫婦が二人で財産を築き上げるために組んだローンであるにもかかわらず、離婚後にローンを組んだ夫婦の一方だけが返済を続けていくことは、夫婦の公平を害します。
したがって、離婚時にローンが残っている場合は、その点も考慮した上で財産分与を行うことが通常です。
ローンが残っている家や車を財産分与する方法
マイナスの財産であるローンを財産分与とすることができなくても、ローンが残っている不動産や車は財産分与の対象財産となります。
そもそもの財産分与の方法としては、大きく分けて以下の3通りの方法が考えられます。
①不動産や車を売却した上で、その売却益を分け合う方法
②不動産や車を夫婦の一方が使用し続ける場合、使用する側が使用しない側に対して当該不動産や車の評価額の半額を支払う方法
③不動産や車を夫婦の一方が使用し続ける場合、使用する側が使用しない側に対して当該不動産や車の評価額の半額相当額の資産を渡す方法
もっともローンが残っている場合には、アンダーローンとオーバーローンによって、財産分与の方法が異なります。
そこで、ローンが残っている場合の具体的な財産分与の方法について詳しくみていきましょう。
アンダーローン:財産の評価額のほうが高い場合
アンダーローンとは、ローン残額よりも不動産や車などの評価額が上回る状態のことをいいます。
この場合は、財産の評価額からローン残額を差し引いた金額が財産分与の対象となります。
具体的には、不動産や家を売った代金でローンを完済し、残った現金(売却手数料等も差し引くのが一般的です)を分け合う方法が一般的となります。
また、夫婦の一方が不動産や車を使用し続ける場合は、財産の評価額からローン残額を差し引いた金額を使用しない側に対して支払うという解決方法も考えられます。
オーバーローン:ローン残高のほうが高い場合
オーバーローンとは、ローン残額よりも不動産や車などの評価額が下回る状態のことをいいます。
この場合は、財産の評価額からローン残額を差し引いたとしても債務が残ってしまうため、売却するという方法はあまり取られません。また、債権者(銀行など)の同意を得て任意売却を行うという方法もありますが、この場合も基本的には債務が残るため、債務者(ローンの名義人)が返済を続ける必要があります。
そのため、夫婦の一方が不動産や車などの財産を全て引き受け、ローンを支払うという方法が取られることが多いです。
ローンの残高や財産の評価額を知る方法
適正に財産分与を行うためには、ローンの残高(残額)や財産の評価額を知る必要があります。
ローンの残額は、借入先の金融機関に問い合わせをしたり、ローンの返済予定表などを確認することによって知ることができます。
また、財産の評価額は、以下の方法によって知ることができます。
①不動産の場合
- 固定資産税の納税通知書
- 不動産業者による査定
- 不動産鑑定士による査定
②車の場合
- 買い取り業者による査定
- ウェブサイト上での査定
- オークションサイトやウェブサイト上で同程度の年式、走行距離の車の価格を調べる
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
住宅ローンが残っている家の名義変更について
結婚後に不動産を購入した場合、その名義は夫婦の単独名義となるか、夫婦の共有名義となることが一般的です。
財産分与の際に、住宅ローンが残っている場合には、名義を結婚時のままにしておくとトラブルになりかねません。
そのため、後のトラブルを回避するためにも家に住み続ける側の単独名義にすることをおすすめします。
所有名義人の変更
所有名義人とは、不動産の所有者として不動産登記簿に名前が記載されている者のことをいいます。
住宅ローンが残っている不動産の所有名義人を変更する場合には、事前に借入先の金融機関の許可を得る必要があります。許可なく所有名義人を変更すると、ローン残額の一括返済を請求される可能性があるため、注意が必要です。
具体的には、金融機関の許可を得て、必要書類(登記申請書、登記識別情報、印鑑証明書、住民票など)を、当該不動産を管轄する法務局に申請することで所有名義人を変更することができます。
ローン名義人の変更
ローン名義人とは、住宅ローンを組む際にローンの債務者(契約者)となった者のことをいいます。
ローン名義人を変更するためには、貸主である金融機関の審査を受ける必要があります。審査が通ればローン名義人を変更することが可能ですが、変更後のローン名義人に一定の資力がなければ、金融機関の審査が通らないことが一般的です。
金融機関の審査が通らない場合には、以下の方法をとることが考えられます。
①住宅ローンの借り換え
ローン残額を一括返済するために、新たなローンを組む方法です。
②連帯保証人などの交代
資力のある人に新たに連帯保証人などになってもらう方法です。
自動車ローンが残っている車も名義変更できるのか?
自動車ローンが残っている車の名義変更をするには、所有者が誰かによってその方法が異なります。
車の所有者が配偶者の場合
車の所有者が配偶者の場合には、名義変更を行うためには、不動産と同様に事前に借入先の金融機関の許可を得る必要があります。許可なく所有名義人を変更すると、不動産と同様にローン残額の一括返済を請求される可能性があるため、注意が必要です。
具体的には、金融機関の許可を得て、必要書類と手数料を管轄の運輸支局に提出し、車検証の交付を受けた後に自動車税等の申告を行う必要があります。
車の所有者がディーラーやローン会社の場合
車の所有者がディーラーやローン会社の場合は、原則としてローンを完済するまで所有名義人を変更することはできません。
そのため、所有名義人を変更したい場合は、ローンを完済する必要があります。
オーバーローンの状態の場合、相手にローンを負担してもらうことは可能か
オーバーローンの状態の場合、相手にローンを負担してもらうには、①相手の同意を得ること、②借入先の金融機関の許可を得ることが必要です。
そのため、相手方の同意がない場合には、ローンを負担してもらうことは難しく、現実的な財産分与の方法とはいえません。
基本的に財産分与の対象となる財産は、不動産や車そのものであり、ローンなどのマイナスの財産は財産分与の対象とはならず、離婚後もローンの返済を行うのは、ローンの名義人だからです。
したがって、話し合いによって相手の同意を得れば、相手にローンを負担してもらえる可能性もありますが、同意を得られない場合には負担させることは難しいといえます。
連帯債務者、または連帯保証人だった場合は?
相手がローンの連帯債務者または連帯保証人だった場合は、ローン名義人である自分が返済を怠ると、相手が返済を行う必要があります。
離婚をしたとしても、借入先の金融機関との関係性(債務者と連帯保証人など)は変わらないためです。
ただし、自分が返済を怠り、相手も資力不足で返済ができない場合には、不動産や車が金融機関に引き上げられてしまう可能性があります。
したがって、相手の資力に不安がある場合は、連帯保証人を付けない形でローンを組みなおすか、連帯保証人の交代などを行う必要があるでしょう。
ローンの財産分与は弁護士にご相談ください
不動産や車のローンが残った状態で財産分与を行おうとする場合、考え方や処理方法が非常に複雑になります。また、財産分与を行うためには、ローンの名義人、ローン残額、不動産や車の評価額を正確に把握する必要があります。さらに、財産分与には期間制限もあるため、注意が必要です。
加えて、夫婦間で離婚そのものには合意しているものの、財産分与の方法等で揉めている場合も多くあります。
そのため、ローンが残った財産の財産分与を行う場合や財産分与全般で夫婦間の協議が整わない場合には、ぜひ一度弁護士に相談されることをおすすめします。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)