監修弁護士 辻 正裕弁護士法人ALG&Associates 埼玉法律事務所 所長 弁護士
夫婦が、離婚する際に決めなければならない事項の代表的なものとして、子供の親権があります。
親権は、一般的に母親が有利であって、父親が親権者となるのが、難しいといわれています。
父親側がなぜ、親権者となるのが、難しいと考えられているのか、父親側が子供の親権者となるためには、どのような要素が必要なのか、その他父親が親権者となるにあたってよくある質問への回答をしてまいります。
目次
父親が親権を取りにくい理由
フルタイムで働いているため子供の世話が難しい
裁判所が「親権者」を父親と母親のいずれが適切であるかを判断するにおいて、重要視しているのが、「主たる監護者」であるかどうかです。
この「主たる監護者」とは、単に、どちらの親が子供に対して愛情があるかといった、主観的な要素ではなく、客観的な以下の要素に基づいて判断がしています。
- これまで、子供の世話をしてきた実績(これを監護実績といいます。)
- 子供と過ごす時間の長さ、コミュニケーションの頻度等
- 仕事と育児の両立の程度
- 休日の子供との過ごし方
現在は、共働きの家庭が増えています。とはいえ、母親がフルタイムで働き、父親が家事・育児を中心として行うという家庭は未だに多くないのが実態です。多くの家庭で父親がフルタイムで働き、母親が家庭で家事育児を行いながら、パートなどで働いていることでしょう。
そのため、父親は母親に比べて家庭にいる時間が少なくなり、子供の世話をすることができません。
したがって、監護実績等の上記項目を重視されると、父親としては、「主たる監護者」として認められることが困難となり、親権者として認められにくい傾向にあるといえます。
子供への負担を考えると母親優先になりがち
裁判所は、離婚後の子供の環境や福祉・成長を考える際に、子供をとりまく現在の監護状況に問題がなければ、子供の精神の安定のために、なるべく子供の生活環境を変化させないようにしようとします(これを、「監護継続性の原則」といいます。)。
上述したとおり、母親は、子供と接する時間が長く、子供の世話をしていて、さらに子供と円滑なコミュニケーションがとれている等の場合が多くあります。
その監護状況に問題がなければ、裁判所は「これまでどおりお母さんが子供の世話をする方が子供に負担をかけず、精神の安定に良い」と判断する可能性があります。
そうなると、どうしても、子の負担の観点からも母親優先となる傾向にあることも指摘できるでしょう。
父親が親権を獲得するためのポイント
上述のとおり、父親が親権者と判断されにくい事情があります。しかし、これらの事情を理解すれば、親権を獲得するために重要なポイントを理解することができることでしょう。
以下では、そのポイントを解説していきます。
これまでの育児に対する姿勢
単に母親であるという理由から親権者が決まるわけではありません。
あくまで、母親が親権者と判断されやすかったのは、母親が子供と接する時間が長く、監護実績を積みやすかったためです。
そのため、母親が子供の世話をすることなく、仕事や趣味などに時間を使う、一方で父親が子供の監護養育をこれまで行ってきた場合には、主たる監護者として父親が判断される可能性が十分あります。
もっとも、裁判所が親権者を判断する際には、主観的な理由ではなく、客観的な資料に基づいて判断されることになるため、これまでの監護実績について、客観的な資料をもって伝える必要があります。
離婚後、子育てに十分な時間が取れること
父親は子供のために、フルタイムで働き、経済的には母親に勝っているケースが多いことが考えられます。しかし、経済力があったとしても、子供の監護実績が積めるわけではありません。経済力は、子供の生活を安定させるために必要な要素ではありますが、親権者は、養育費を請求することで経済的な支援を受けることができるため、あまり重要視されません。
そのため、離婚後に子供のために十分な時間を確保することができるのかが重要になります。
例えば、休日や祝日は休みを取ることができ、子供と出かけたりして、監護養育に時間を確保することができる。または、祖父母等が子供の世話をする環境が整っているなどです。
子供の生活環境を維持できるか
離婚後に、子供の生活環境が大きく変化することは、子供の精神的な負担になります。例えば、学校、近所の友人、習い事等の変化があることで、子供は大きな不安を抱えることになります。そのため、離婚後も子供の生活環境を維持することができるかが重要なポイントとなります。
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父親が親権争いで有利になるケース
父親だから、という理由だけで親権において不利になるわけではなく、父親側でも親権争いにおいて有利な立場に立つことができるケースもあります。以下でご説明していきます。
母親が育児放棄をしている
母親が育児放棄をしている場合には、必然的に父親が子供の監護養育を行うことになり、上述のとおり、監護実績を積むことが十分できており、父親が親権の争いで有利となるケースが多いといえます。
裁判所が母親の育児放棄を判断するためには、父親等からの証言のみでは、判断することが困難であり、客観的な証拠等を残しておくことが重要となります。
例えば、子供を病院に連れて行っていない、食事を与えない等の状況がある場合には、それらをメールの文面や録音機器等で記録しておくことが重要です。
母親が子供を虐待している
母親が子供を虐待している場合も、父親が親権の争いで有利になるケースといえます。
この場合も、母親が子供の虐待をしていることについて、客観的な証拠を残しておくことが重要となります。
母親が子供を虐待している場合、警察や児童相談所へ相談すべきケースもあると思います。
この行政機関への相談記録については、母親が子を虐待していたことを立証する資料となることもりますので、相談しておくことが望ましいです。
子供が父親と暮らすことを望んでいる
子供が自らの意思で父親と暮らしたいと望んでいることは、父親に親権が認められる可能性が高くなる要素の1つであるといえます。
子供の親権者を定めるのは、子供の利益及び福祉のためですので、子供が自らの意思を表明できる場合には、その意思を尊重することは当然のことになります。
なお、裁判所は、子供の親権者の指定をするに当たり、子供の年齢が15歳以上の場合には、その子供の陳述を聴取しなければならない決まりになっています。
また、子供の年齢が15歳未満でも、子供の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を尊重して判断するように求められています。
ただし、特に子供の年齢が15歳未満の場合、子供が他方の親に気を遣ってしまうケースも少なくないため、子供の真意は、発言だけでなく、態度や行動等を総合的に観察して検討されています。
妻の不貞は父親の親権獲得に有利にはならない
妻が不貞をした場合に、不貞行為をする親は、親権者としてふさわしくないと考えて、父親が親権者として認められるために有利な事情だと考えるかもしれません。
しかし、妻が不貞行為をしたこと自体が父親の親権者獲得に有利にはなりません。
あくまで不貞の問題は、慰謝料で解決すべき問題であり、親権者は、あくまで子の利益及び福祉の観点から判断されることになります。そのため、不貞行為があったとしても、ただちに監護能力に問題があるとは判断されていません。
もっとも、不貞相手と過ごすために、長時間家を空けており、子の監護をしていない等の事情があれば、父親の親権獲得に有利な事情になります。
つまり、不貞自体は、基本的に慰謝料で解決すべき問題であり、親権者の適格性の判断に影響しませんが、不貞が子の監護に悪影響を及ぼしている場合には、親権者の適格性の判断に影響を及ぼすことになります。
父親が親権を獲得した場合、母親に養育費を請求することは可能か?
離婚をしても親は子に対する扶養義務を負います。
父親と母親いずれの親が親権者となったとても、親権者ではない方の親が、子に対して養育費を支払うことになることは変わりがありません。
そのため、父親が親権者となった場合には、母親に対し、養育費を請求することは当然可能です。
ただし、養育費は、双方の収入や子の年齢等の事情によって変動があります。
裁判所のホームページに養育費の算定表が公開されていますので、養育費の金額の目安を知りたい場合には、参考にしてみるのも一つの手段です。
親権を得られなくても子供には会える
仮に父親が親権を得ることができなくても、子供に会うことはできます(「面会交流」といいます。)。
離婚をしても、子供にとっての父親と母親という事実は変わりませんし、子供の利益及び福祉にとって双方の親との交流を持つことは非常に重要と考えられています。
なお、子供は、両親双方と交流することにより人格的成長を遂げると考えられています。
そのため、離婚の際に、親権を母親に譲るかわりに、面会交流を充実させて欲しいと相手に伝えて、具体的な面会交流の条件を定めておく等も子供に会うための方法の1つとなります。
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子供の親権を父親が勝ち取れた事例
弁護士法ALGの埼玉法律事務所にも、父親から親権は譲れないとの離婚相談は数多くあり、子供の親権を父親が勝ち取れた事例がありますので紹介いたします。
母親が一人で別居を開始し、父親と子供が二人で生活を始めることになりました。別居をしてしばらくした後、お子さんは、父親との生活が安定しており、今後も父親と二人で生活していきたいと話し始めました。そのお子さんの意向を母親側に丁寧に時間をかけて説明し、父親側の単独での監護実績も積み上げた上で、親権者を父親とすることに成功した事例があります。
父親の親権に関するQ&A
乳児の親権を父親が取るのは難しいでしょうか?
子供が乳児の場合には、一般的には父親が親権を取るのは極めて困難となります。
乳児の時期にはやはり母親が必要だという考えから、母親に親権が認められる事案がほとんどという現状です。
もっとも、母親が育児放棄や虐待をしているなど、親権者として不適格だと判断される事情があれば、父親が親権を獲得できる可能性もあります。
未婚の父親が親権を取ることは可能ですか?
未婚の父親の場合、血縁上の父親ではあっても、法律上の父親ではありません。
まずは、法律上の父親となるために子の認知をすることが必要となります。
未婚の状態の子供については、母親の単独親権となり、父親が子供を認知しても、父親に親権が発生することはなく、母親の単独親権の状態が続きます。
そのため、まずは、母親との協議を行い、合意することができれば父親を親権者とすることができます。もっとも、協議がまとまらなかった場合には、家庭裁判所に親権者指定あるいは変更の調停・審判を申し立てなければなりません。
ただし、認知前に母親が子を監護養育していたのであれば、母親が育児放棄や虐待をしているなど親権者として不適格な事情がなければ、父親が親権を獲得するのは困難でしょう。
元妻が育児をネグレクトをしています。父親が親権を取り返すことはできますか?
一度決まった親権者を変更するには、当事者間の協議では足りず、裁判所で親権者変更の調停や審判を申し立てる必要があります。
親権者の変更のハードルは一般的に高く、そのほとんどが認められていません。
親権者変更を求めるには、母親が育児放棄、虐待をしている等のそれなりの事情が必要であり、それらの事実を裏付ける証拠を提出することができれば、親権を取り返すことも可能です。
妻は収入が少なく、子供が苦労するのが目に見えています。経済面は父親の親権獲得に有利になりますか?
たしかに、経済力も親権者の考慮要素の1つにはなります。しかし、養育費や母子手当等の公的な援助で一定程度解決できる問題でもあり、親権者を判断するうえで重要な要素とはなりません。上述したとおり、いままで子を監護養育していたのが父親か母親かどちらかという点が重視される傾向にあります。
父親の親権争いは一人で悩まず弁護士に相談しましょう
父親が親権者を獲得することは、一般的には困難と言わざるを得ません。
しかし、父親として「自分が子の親権者になった方が子どもを幸せにできる」、「親権は譲れない」という強い思いがある方もいると思います。
また、そのようなケースでは、父親が子の監護養育をかなり頑張っているケースや母親の監護状況に問題があるケースが多いように思われます。
父親が親権を獲得するハードルが高いのは事実ですが、父親が親権者を獲得するためのポイントを押さて裁判所に説明することで、親権を獲得できる可能性もありますし、親権を獲得できなかった場合にもお子様との面会交流を協議する必要があります。
父親の親権争いは、特に一人で解決することは困難であると思いますので、一人で悩まず離婚問題に詳しい弁護士に相談をしてください。
弁護士法人ALG埼玉律事務所は、離婚問題、親権者問題に精通した弁護士が在籍しておりますので、ぜひご相談ください。
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- 保有資格
- 弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:51059)